講義資料

市場と経済A
1
第13回
貯蓄、投資と金融システム(教科書第11章)
2015年7月13日(月)
担当:天羽正継(経済学部経済学科准教授)
金融市場と金融仲介機関(1)
2
 金融システム:貸し手(稼ぐよりも少なく消費し、貯蓄をする人)から借り手(稼ぐよりも多く消費する人)
へ資金を移動させる経済制度。金融市場と金融仲介機関からなる。
 貸し手は資金余剰主体、借り手は資金不足主体とも呼ばれる。
 金融市場:貸し手が借り手に対して資金を供給する市場。債券市場と株式市場が代表的。
 債券市場
 債券(bond):借り手が貸し手(債券の保有者)に対して果たさなければならない義務を明示した債務証書。資金の償還時期であ
る満期と、満期を迎えるまでに定期的に支払われる利子率が明記されている。国が発行する国債、地方自治体が発行する地方債、
企業が発行する社債がある。
 債券の購入者は、購入と同時に借り手に資金(元本)を貸し付ける。借り手は満期までの間、債券の保有者に利子を定期的に支払い、満期が到来
すると元本を返済(償還)する。購入者は、満期が到来する前に第三者に販売することも可能。その売買を行う市場が債券市場。
 債券の利子率は、部分的にはその期間に依存する。
 長期債は通常、短期債よりも利子率が高い。
 債券には、借り手が利子の支払いや元本の一部を償還できなくなる(債務不履行、デフォルト)可能性(信用リスク)がある。
 株式市場
 株式(stock):企業の資本に対する所有権。
 企業は利益の中から株主に対して配当を行う。株式の売買が行われる市場が株式市場。
 債券の発行による資金調達はデット・ファイナンス(debt finance)と呼ばれ、株式の発行による資金調達はエクイ
ティ・ファイナンス(equity finance)と呼ばれる。
金融市場と金融仲介機関(2)
3
 金融仲介機関:貸し手が借り手に対して間接的に資金を供給する金融機関。
 銀行
 貯蓄をする人から預金を受け入れ、借り手に対して貸し付けることを主な仕事とする。
 銀行は預金者に利子を支払い、借り手にはそれよりもわずかに高い利子を課す。その差が銀行の諸経費をカバーするとともに、利
益の一部が銀行の株主への配当となる。
 投資信託
 人々から資金を集め、その資金で様々な債券や株式(金融資産)の組み合わせ(ポートフォリオ)を購入する。
 多様な金融資産に投資することで、少ない種類の金融資産に投資することで生じる可能性のあるリスクを回避する。
 直接金融と間接金融
 直接金融:債券や株式などの金融資産の購入によって資金余剰主体から資金不足主体に資金が移動すること。
 間接金融:金融仲介機関を通じて資金余剰主体から資金不足主体に資金が移動すること。
4
国民所得勘定における貯蓄と投資(1)
 金融市場を分析するために、貯蓄と投資の関係を国民所得勘定において定義する。
 国民所得勘定の恒等式は
Y = C + I + G + NX
であるが、ここでは開放経済ではなく閉鎖経済を想定し、
Y=C+I+G
とする。これを変形して
Y -C -G = I
とすると、左辺は国民所得から消費と政府支出を差し引いた残りであり、貯蓄(国民貯蓄)を表している。
そこでS = Y -C -G とおくと、
S=I
となり、貯蓄と投資が等しいことを示している。
5
国民所得勘定における貯蓄と投資(2)
 政府部門が家計から集めた税金(ただし、社会保障や生活扶助などを差し引いた額)をT とすると、貯蓄は
S = Y -C -G = ( Y -T -C ) +( T -G )
となり、貯蓄が民間貯蓄(Y -T -C )と政府貯蓄(T -G )の二つの部分から構成されることが分かる。
 民間貯蓄:所得のうち、税金を支払い、消費をした後に家計部門に残る額。
 政府貯蓄:税収から政府支出を行った後に政府部門に残る額。
 財政黒字の場合はT -G >0 となり、財政赤字の場合はT -G <0 となる。
 S =I という式は、一国の経済全体において、貯蓄と投資が等しくなければならないことを意味している。
 個々の家計や企業において貯蓄と投資が等しいということを意味しない。
 マクロ経済学において投資とは、設備や建造物といった新しい資本を購入することを意味。
 日常用語では、株式や債券を購入することも投資と呼ばれるが、これらの行動はマクロ経済学では、所得が消費を上回
る部分の運用であるので貯蓄と呼ばれる。
貸付資金市場(1)
6
 金融市場が経済全体の貯蓄と投資をどのようにして一致させるのかを、モデルを構築して説明。
 経済には貸付資金市場と呼ばれるただ一つの金融市場しかないと仮定。
 貯蓄をするすべての人(預金者、貸し手)はこの市場に貯蓄(貸付資金)を提供し、すべての借り手はこの市場で資金を
借り入れて投資を行う。
 利子率は1種類しかない。この利子率は貸し手にとっては収益であり、借り手にとっては費用となる。
 すなわち、利子率は貸付の「価格」である。
 貸付資金市場は他の市場と同様に、需要と供給のメカニズムによって機能する。
 貯蓄(S )は貸付資金市場の供給で、投資(I )は貸付資金市場の需要。
 利子率が高い(低い)と、貸付資金に対する需要は減少(増加)し、供給は増加(減少)する。したがって、貸
付資金の需要曲線は右下がりとなり、供給曲線は右上がりとなる。
 貸付資金の需要と供給は、名目利子率ではなく実質利子率によって決まる。したがって、ここでの利子率は実質利子率。

実質利子率は名目利子率よりも、貯蓄による実質的な収益や借入れの実質的な費用をより正確に反映するため。
7
貸付資金市場(2)
 貸付資金市場における利子率と貸付資金の額は、需要曲線と供給曲線の交点(均衡点)で決定される(教科書
p394図11-1)。
 利子率が均衡水準よりも低ければ、貸付資金の需要量が供給量を上回るため、利子率は上昇する。

借り手は少ない貸付資金を得ようと求めるので、貸し手は利子率を容易に引き上げることができる。また、借り手は貸付資金を獲得
するために、より高い利子率を提示する。
 利子率が均衡水準よりも高ければ、貸付資金の供給量が需要量を上回るため、利子率は低下する。

貸付資金の借入額が少ないため、貸し手は利子率を引き下げることによって借り手により多く借りてもらおうとする。
 利子率が調整されることによって、貸付資金市場における需要(投資)と供給(貯蓄)は等しくなる。
8
貸付資金市場(3)
 政府の政策が経済全体の貯蓄と投資に与える影響を分析。
 政策1:貯蓄インセンティブ(教科書p397図11-2、スライド9)
 家計の貯蓄意欲を高めるような政策が行われると、すべての利子率の下で貸付資金の供給量が増加するので、供給曲線が右方にシ
フト。需要曲線はシフトせず。
 その結果、均衡利子率が低下し、需要曲線に沿って貸付資金に対する需要量(投資)が増加。
 政策2:投資インセンティブ(教科書p398頁図11-3、スライド10)
 企業の投資意欲を高めるような政策が行われると、すべての利子率の下で貸付資金に対する需要量が増加するので、需要曲線が右
方にシフト。供給曲線はシフトせず。
 その結果、均衡利子率が上昇し、供給曲線に沿って貸付資金の供給量(貯蓄)が増加。
 政策3:政府の財政赤字と財政黒字(教科書p400図11-4、スライド11)
 貯蓄は民間貯蓄と政府貯蓄から構成される( S = ( Y -T -C ) +( T -G ) )ので、政府の財政が赤字になる(T -G <0 )と貯蓄
(貸付資金の供給量)が減少し、供給曲線が左方にシフト。需要曲線はシフトせず。
 需要曲線ではなく供給曲線がシフトするのは、このモデルが取り扱っている資金が、民間部門が投資の際に利用可能な資金であるため。
 その結果、均衡利子率が上昇し、需要曲線に沿って貸付資金に対する需要量(投資)が減少。
 政府の財政赤字(借入れ)によって民間部門の投資が減少することはクラウディング・アウトと呼ばれる。
貸付資金市場(4)
9
供給1
利子率(%)
供給2
5
①貯蓄意欲を高める税法の変更は
貸付資金の供給を増やし…
4
③均衡貸付資金量が増加する
②均衡利子率が
低下して…
需要
0
1,200
1,600
貸付資金
(10億ドル)
貸付資金市場(5)
10
①投資税額控除は貸付資金の需要
を増やして…
利子率(%)
供給
6
5
需要2
②均衡利子率が
上昇して…
③均衡貸付資金量が増加する
需要1
0
1,200
1,400
貸付資金
(10億ドル)
貸付資金市場(6)
11
供給2
利子率(%)
供給1
6
①財政赤字は貸付資金の供給を
減少させて…
5
③均衡貸付資金量が減少する
②均衡利子率が
上昇して…
需要
0
800
1,200
貸付資金
(10億ドル)