数理モデル解析Ⅰ

2015 年度 数理モデル解析 I シラバス
授業概要 前半は行列の対角化やジョルダン標準形を復習した後,行列の理論を用いた
連立常微分方程式の解法を学習する.後半は2年次までに学んできた解析学の基礎を
なす極限操作に関する定理を中心に,精密に定義された基本概念から厳密に証明する.
全体を通じて,演習問題を自力で解くことにより,論理的思考の訓練と論証能力の習得
をはかる.具体的に以下の能力を身につけることを目標とする:
◆ 行列の対角化やジョルダン標準形を理解し,活用できる.
◆ 行列の理論を用いて,連立線形常微分方程式の一般解を求めることができる.
◆ 2 次元線形自励系の解の相平面図が描ける.
◆ ε – N 論法を用いて,数列の極限に関する命題を証明できる.
◆ ε – δ 論法を用いて,関数の極限に関する命題を証明できる.
連立線形微分方程式
x = A(t)x + b(t)
を考える.ここで x, A(t), b(t) はそれぞれ
⎛ ⎞
⎛
x1
a11 (t) · · ·
⎜ ⎟
⎜
x = ⎝ ... ⎠ , A(t) = ⎝ ...
an1 (t) · · ·
xn
(1)
⎞
a1n (t)
.. ⎟
. ⎠,
ann (t)
⎛
⎞
b1 (t)
⎟
⎜
b(t) = ⎝ ... ⎠
bn (t)
で,aij (t), bi (t) (1 ≤ i, j ≤ n) は区間 I で定義された連続関数とする.
方程式 (1) において b(t) ≡ 0 の場合,同次方程式
x = A(t)x
(2)
になる.次の定理から,(2) の一般解は n 個の任意定数を含むことがいえる.
定理 1. I 上で定義された (2) のすべての解の集合は n 次元ベクトル空間をなす.
n 個の 1 次独立な (2) の解 x1 (t), x2 (t), · · · , xn (t) を (2) の基本解という.定理 1 によ
り,(2) の一般解 x(t) は c1 , c2 , · · · , cn を任意定数とすると
x(t) = c1 x1 (t) + c2 x2 (t) + · · · + cn xn (t)
で与えられる.また,X(t) = x1 (t) x2 (t) · · · xn (t) と定めると,(2) の一般解 x(t) は
⎛ ⎞
c1
⎜ .. ⎟
x(t) = X(t) ⎝ . ⎠ (c1 , · · · , cn は任意定数)
cn
担当教員名:松永秀章 研究室:B8 棟 2 階 210 室 オフィスアワー:火 16:15∼17:45 連絡先:hideaki @ ms.osakafu-u.ac.jp
教科書:
「常微分方程式入門 第 2 版」「イプシロンデルタ論法完全攻略」原・松永著 共立出版
とも表せる.行列 X(t) を (2) の基本行列という.
さて, A(t) ≡ A のとき,正則行列 P を用いて x = P y とおくと,(2) は
y = P −1 AP y
(3)
に変換される.(3) の基本行列を Y (t) とすると,(3) の一般解 y(t) は
⎛ ⎞
c1
⎜ ⎟
y(t) = Y (t) ⎝ ... ⎠ (c1 , · · · , cn は任意定数)
cn
で与えられるので,(2) の一般解 x(t) は
⎛ ⎞
c1
⎜ ⎟
x(t) = P y(t) = P Y (t) ⎝ ... ⎠
cn
(4)
となる.すなわち,係数行列がジョルダン標準形の場合の基本行列が得られると,一般の
定数行列 A に対する (2) の一般解が求まることがわかる.
定理 2. 2 次正方行列 A に対して,正則行列 P で P −1 AP = J を満たすものが存在
する.ここで 2 次正方行列 J は次で与えられる.
(i) A が相異なる実固有値 λ1 , λ2 をもつならば,J =
(ii) A が実固有値 λ1 (2 重)をもつならば,J =
λ1
0
λ1
0 λ2
c
0
λ1
ただし A = λ1 E のとき c = 0, A = λ1 E のとき c = 1 である.
α β
(iii) A が複素固有値 α ± iβ (β = 0) をもつならば,J =
−β α
定理 3. P −1 AP が次で与えられるとき,(3) の基本行列 Y (t) は
λ1 t
λ
e
0
0
1
(i) P −1AP =
ならば,Y (t) =
0 λ2
0 eλ2 t
λ1 t
λ1 t
λ
e
1
te
1
ならば,Y (t) =
(ii) P −1AP =
0
eλ1 t
0 λ1
αt
αt
α
β
e
cos
βt
e
sin
βt
(iii) P −1AP =
ならば,Y (t) =
−β α
−eαt sin βt eαt cos βt
で与えられる.ただし λ1 , λ2 , α, β は実定数で β = 0 とする.