山 本 正 嘉

スポーツトレーニング教育研究センター
やま
氏 名
もと
まさ
よし
山 本 正 嘉(教授)
専門分野
主な研究テーマ
低酸素室を利用したスポーツ選手・登山家に対する新し
い高所トレーニング法の開発
平成17年度の研究内容とその成果
するスピード登山にチャレンジしました。
本学のスポーツトレーニング教育研究セ
ここではその成果を報告します。
ンターには、最新型の低酸素室がありま
高 所 登 山 と は 低 酸 素 と の 戦 い で す。
す。これを利用すると、多くのスポーツ選
5000mの高度では酸素は地上の半分に、ま
手が現在、アメリカや中国の高地で行って
た8000mまで行くと3分の1になります。
いる高地トレーニングが日本でできます。
このような厳しい環境で、登山という激し
またヒマラヤなどの高い山に登る登山家の
い運動をするためには、高所順化といって
トレーニングにも応用できます。
身体を徐々に馴らしていく必要がありま
私たちはこの低酸素室を使って、これま
す。しかしその順化を獲得するためには長
で自転車競技、カヌー、陸上競技、ウイン
い日数がかかります。普通ですと7000mの
ドサーフィン、空手など、様々なスポーツ
山で2週間、7500mの山で3週間、8000m
選手の競技力向上に成功しました。また登
の山では1ヶ月間以上かかります。
山家のアドベンチャーにも寄与してきまし
時間に余裕のない日本人の場合、こんな
た。たとえば、三浦雄一郎さんの70歳での
に長期間の休みを取ることは難しいことで
エベレスト登頂や、彼のお父さんの敬三さ
す。ですからそれがネックとなって、ヒマ
んが、100歳でヨーロッパアルプスの最高
ラヤに行きたくても行けない人はたくさん
峰モンブランの氷河をスキー滑降したとき
います。また、たとえ行けたとしても、日
にも、この低酸素室でトレーニングをしま
数が足りずに断念したり、あるいは無理な
した。
行動をして事故を起こしたり、というケー
平成17年度はこのような研究の一環とし
スもあります。
て、私自身でこの低酸素トレーニングを徹
しかし、低酸素室を使ってあらかじめ日
底的に行い、ヒマラヤの7500m級の山で、
本で高所順化トレーニングをしておけば、
従来は長期間を要していた登山期間を短縮
現地で費やす順化日数を減らして短期間で
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登れるはずです。そこで私自身でこのこと
その結果、ベースキャンプに着いてから
を証明するために、低酸素室でのトレーニ
1週間でこの山に登頂できました。この山
ングを3ヶ月間にわたって行いました(写
では登頂までに3週間程度かかるのが普通
真1)。そして夏休みに、ヒマラヤのムス
なので、その3分の1の期間で登れたこと
ターグアタという7546mの山に出かけ、ど
になります。これは日本人としては過去最
れくらい速く登れるかを試してみました
速の記録です。しかも登山中に深刻な高山
(写真2)。
病に見舞われることもありませんでした。
低酸素トレーニングの効果を自分の身体
で、改めて確認することができました。
これからの研究の展望
現在、民間の登山ツアー会社と連携し
て、一般の登山者が行えるような低酸素ト
レーニングシステムを開発しています。そ
の結果、すでに札幌から沖縄まで全国の大
都市には、私たちが開発したシステムを
写真1.高度6000mにセットした低酸素室で
トレーニングをする筆者。出入りが簡単なの
で、昼休みなどのわずかな空き時間にもトレー
ニングをすることができた。
使って、登山者に低酸素トレーニングサー
ビスを提供する民間の施設ができました。
このようなシステムが広まれば、時間の
ない人でもヒマラヤをこれまで以上に楽し
むことができるようになります。また長期
間の登山をすると、どうしてもたくさんの
物資や人を投入しなければならないので、
ヒマラヤの美しい環境にもダメージを与え
ます。鹿屋体育大学方式の低酸素トレーニ
ングは、安全、快適、そしてスマートな高
所登山に大きく貢献すると思います。
写真2.シルクロードの名峰といわれるムス
タ ー グ ア タ(7546m)
。玄 奘 三 蔵 も こ の 麓 を
通ったという言い伝えがある。事前の低酸素
トレーニングのおかげで、通常は3週間くらい
かかる登山期間を1週間に縮めることができ
た。
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