参考資料 - 水産研究・教育機構

参考資料
【研究の背景】
我が国の水産業は、近年輸入水産物の増加や水産物消費の減少などにより価格が低迷し、経営
が厳しい状況にあります。養殖業においては、ブリ、マダイ、ヒラメなど従来高級魚として位置
付けられていた魚種の価格が低迷していることから、新たな養殖対象魚の開発が要望されていま
す。スジアラ(写真 1)は、熱帯・亜熱帯域に生息するハタ科魚類で、南西諸島はもちろんのこ
と、中国本土、香港、シンガポール、それに台湾等では中華料理の高級食材として高値で取引さ
れ、特に赤色が強いスジアラは、高級中華料理店では 1kg 当たり 20,000 円前後で提供されており、
新たな養殖対象種として注目されてきました。
スジアラの増養殖に関しては、1990 年代から中国市場をターゲットに台湾やオーストラリア、
ベトナムで天然魚を捕獲して商品サイズまで育成する蓄養が行われています。しかし、天然魚を
大量に捕獲するため、天然資源の減少が深刻化しており、我が国においてもスジアラの漁獲量は
減少しています。そこで、水産研究・教育機構 西海区水産研究所 亜熱帯研究センターでは 1985
年にスジアラの増養殖研究を開始しました。そして様々な研究開発の結果、2009 年には過去最高
の 30 万尾以上の種苗の量産に成功し、その後も毎年数万尾の種苗を安定して生産できるようにな
りました。これらの種苗を用いた養殖試験等も行われるようになりましたが、この方法では親魚
となる天然魚が不可欠であるため、天然魚に頼らない養殖手法である「完全養殖」技術の開発が
期待されていました。
【研究の内容・特徴、成果の意義】
これまで、スジアラの種苗生産では、天然魚を捕獲して親魚として養成し、成熟、交配させて、
受精卵を得ていました。今回は、人工飼育下で生まれ育ったスジアラの雄個体(2009 年生産の人
工 7 歳魚)と雌個体(2012 年生産の人工 4 歳魚)を成熟、交配させて、2016 年 6 月 10 日に初め
て受精卵を得ることに成功しました。その受精卵から、同年 7 月 28 日に全長 32.9mm の稚魚 2.9
万尾(生残率 24.2%)を生産することができ(写真2)
、世界で初めて、天然親魚に依存しない
「スジアラの完全養殖」に成功しました(図1)
。
本成果は、天然魚を利用しないスジアラの種苗生産を可能にし、天然のスジアラ資源の保全に
貢献できます。また、養殖世代を重ねることで、市場価値の高い赤い体色や高成長といった有利
な形質を備えた系統を選抜でき、スジアラ養殖の事業化を進める上で他国との差別化が可能とな
ります。さらに、親魚養成や種苗育成等の養殖に関わるすべての工程を人為的に管理できること
から、安全・安心な養殖魚を提供できます。
民間企業による 2013 年の市場調査では、スジアラの中国への供給量は年間 4,000 トンで、全て
天然魚でまかなわれているそうです。仮に卸値が 1kg 当たり 2,500 円とすると 100 億円の市場と
なります。しかし、現在、資源の減少に伴って毎年供給量が不足しています。そのような中、完
全養殖技術を用い、スジアラの需要を天然魚から養殖魚へ転換させることによって、資源にも優
しい 100 億円以上の新たな養殖産業の創出に繋がる可能性があります。
【今後の予定】
今後、この完全養殖スジアラを用い、1 万尾単位で出荷サイズ(500g)までの養殖試験を行う
予定です。養殖試験では、その課程に発生するコストを算出するとともに、試験出荷を行って、
産業として成り立つための条件について検討します。
写真 1 スジアラ
写真2 生産された完全養殖スジアラ種苗
図 1 スジアラ完全養殖のサイクル