機械系数学 「微分方程式で表される自然現象」(担当: 谷戸)

機械系数学 「微分方程式で表される自然現象」(担当: 谷戸)
• 時刻を t とする. (単位は秒)
1. 物体の落下
簡単のため, 空気抵抗は無視する. 実験によれば, 物体が
重力の作用を受けて落下するとき, その加速度は一定であ
ることが分かっている. その値はおよそ
g = 9.8 [m/s2 ]
• 時刻 t における物質量を y = y(t) とする. このとき,
dy
で表せる.
物質量の時間的変化率は
dt
• 比例定数を k とする.
(1)
であり, これを重力加速度と呼ぶ.
この物理法則において, 物体の位置が時間経過とともに
どのように変化していくのかを詳しく知りたい.
上の比例定数 k は, 放射性物質によって定まる負の定数
である. 例えばラジウム 88 Ra226 の場合, およそ
k = −1.4 × 10−11 [s−1 ]
まず, 時刻 t における物体の位置を y = y(t) とする.
となることが知られている.
★問 2-2. 放射性物質の半減期とは, 与えられた量の半分が
y(t)
消えてしまう時間のことである. これは放射性崩壊の過程
t 秒後
を表す重要な量である. そこで, ラジウム 88 Ra226 の半減
期を求めよ. ただし, log 2 = 0.693 とする.
y
時刻 t における瞬間速度 v = v(t) は物体の位置 y の時間
的変化率を表すものなので,
dy
v(t) =
= y ′ (t)
(2)
dt
と書ける. また, 時刻 t における加速度 a = a(t) は瞬間速
度 v の時間的変化率を表すものなので,
a(t) =
dv
= v ′ (t)
dt
(3)
と書ける.
3. 冷却の法則
例題. 83◦ C のお茶を気温 20◦ C の部屋に放置したら, 7 分後
に 62◦ C になった. さらにもう 7 分間放置するとお茶は何度
になるか. (注. 実際の実験による数値ではありません.)
物理的情報 (ニュートンの冷却の法則).
実験によると, 温度 y = y(t) の時間的変化率
dy
dt
は, 温度 y
と周囲の温度 y0 の差に比例する.
★問 1. この物理法則を微分方程式の形に表し, それを解
★問 3. 以下の記号・手順の下で例題を解け.
け. また, この物体が時刻 t = 0 において初期位置 y = y0
・時刻を t (単位: 分) とする.
から初速度 v = v0 で出発するときの解 (特殊解) を求めて
・時刻 t におけるお茶の温度を y = y(t) (◦ C) とする.
みよ.
・お茶を部屋に運び入れた時刻を t = 0 とする.
・比例定数を k とする.
2. 放射能 (指数的崩壊)
放射能とは, 放射線を出す能力のことである.
放射性物質とは, 放射能を持つ物質の総称で, ウラン, プ
このとき, 以下の問いに答えよ.
(1) 微分方程式を立てよ. 境界条件はどうなるか.
(2) 一般解を求めよ.
ルトニウム, トリウムのような放射性元素や, 他の放射線
(3) 境界条件を用いて, お茶の温度を表す関数 y = y(t) を
求めよ (比例定数などを定めよ).
にさらされることにより放射能を持つようになった (放射
(4) お茶の問題に解答を与えよ. (ヒント: 整数になる)
化) 物質をいう. 原子力施設などで発生する放射性廃棄物
などはこれに当たる.
さて, 実験によれば, 放射性物質の崩壊の速さは現在の
物質量に比例する. 物質量が時間経過とともにどのように
変化していくのかを詳しく知りたい.
★問 2-1. この法則を微分方程式の形に表し, それを解け.
ただし, 記号は次のようにせよ.
【解説・解答】(このページは, 自分用の乱雑なメモを少し
一方, y = 0 も解. よって, 条件 A ̸= 0 は外せる.
修正しただけなので, わかりにくいところや変なミスがあ
★問 2-2.
るかもしれません.)
t = 0 とすると, y = Ae0 = A. よって, A は初期の物質
量を表す. 半減期を求めるためには, y = A
2 となる t を求
★問 1.
重要なポイントは, y ′ = y ′ (t) と y ′′ = y ′′ (t) がそれぞれ
めればよい.
時刻 t における速度と加速度を表すということ.
A
= Aekt
2
1
= ekt
2
1
kt = log = − log 2
2
log 2
t=−
k
この物理法則は「加速度が g で一定」なので, これを式
で表すと
y ′′ = g
という微分方程式になる. これを解こう. まず両辺を t で
積分すると y ′ = y ′ (t) が求まる:
∫
y ′ = g dt
= gt + C1
(C1 は任意定数)
今, log 2 = 0.693, k = −1.4 × 10−11 だから,
t=
= 0.495 × 1011 [秒]
これをもう一度積分すると y = y(t) が求まる:
∫
y = (gt + C1 ) dt
1 2
gt + C1 t + C2 (C1 , C2 は任意定数)
2
これが微分方程式「y ′′ = g 」の一般解である.
次に, t = 0 のとき初期位置 y0 , 初速度 v0 ということ
から,
=
y(0) = y0 ,
y (0) = v0
0.495 × 1011
[年 ]
60 × 60 × 24 × 365
= 1569.6347031963470319634703196347 [年]
=
′
0.693
[秒]
1.4 × 10−11
約 1570 年!
★問 3.
(1) dy
dt = k(y − 20), 境界条件 y(0) = 83, y(7) = 62.
(2) 一般解を求める. 変数分離形.
という式が立つ. これが初期条件である. この条件の下で
1
dy
·
=k
y − 20 dt
の特殊解を求めよう. 上の y と y ′ に t = 0 を代入すると,
y = C2 ,
log |y − 20| = kt + C
y ′ = C1
y = Aekt + 20
となるので, 初期条件から C1 = v0 , C2 = y0 となることが
わかる. よって特殊解は
1
y = gt2 + v0 t + y0
2
となる.
(A は任意定数)
(3) 境界条件 y(0) = 83, y(7) = 62 より

83 = A + 20
62 = Ae7k + 20
参考:特に v0 = 0, y0 = 0 のときは
1 2
gt
2
となる. これを自由落下の法則という.
y=
第一式より A = 63. 第二式より 42 = 63e7k ∴ e7k = 23 .
( ) 17
2
e =
,
3
k
★問 2-1.
微分方程式は
dy
= ky となる (変数分離形).
dt
y ̸= 0 のとき,
∫
∫
1 dy
dt = k dt
y dt
∫
∫
1
dy = k dt
y
log |y| = kt + C
|y| = ekt+C = eC ekt
y = ±eC ekt
y = Aekt
(A は任意定数, ただし A ̸= 0)
1
k = log
7
( )
2
3
よって, 特殊解 (お茶の温度を表す関数) は
y = 63e
kt
( ) 7t
2
+ 20 = 63(e ) + 20 = 63
+ 20
3
k t
(4) 部屋に運び入れてから 14 分後のお茶の温度は
y(14) = 63
( )2
2
+ 20 = 48 (度)
3