イペ材から抽出した成分を利用した木材保存剤の開発 ○ 飯 田 孝 彦 * 1)、 瓦 田 研 介 *1)、 小 沼 ル ミ * 1)、 浜 野 智 子 * 1)、 宮 崎 巌 *1) 1.はじめに 樹木が生体防御のため生合成した抗菌性の二次代謝物は,溶媒抽出法により抽出成分と して得られる。抽出成分は木部に沈積した代謝生産物であることから,木材への親和性が 高く,元の樹木が持つ高耐朽性などの機能を他の木材に付加できることが期待される。 近 年,防腐処理を施さずエクステリア材に使用されるイペ材には,腸内細菌などに対し抵抗 性がある抽出成分が含まれることが知られている。一方,イペ材は切削加工が難しく製材 歩止りが低いため端材発生量が多いが,密度が高く木質材料への再利用ができずほとんど が未利用である。本研究では,イペ材の抽出成分を耐朽性の低い木材に注入し,注入材の かさ効果や耐朽性を調べ,イペ材端材の木材保存剤原料への利用の可能性を検討した。 2.実験方法 イ ペ (Tabebuia spp.)材 を 供 試 材 と し た 。 供 試 材 小 片 約 100g を ア セ ト ン を 用 い て , 8 時 間 ソ ッ ク ス レ ー 抽 出 及 び 濃 縮 乾 固 後 ,抽 出 物 濃 度 を ア セ ト ン で 10g/100mL と し た 抽 出 成 分 溶 液 を 調 製 し た 。 耐 朽 性 試 験 片 は , ス ギ (Cryptomeria japonica D.Don)辺 材 の 二 方 柾 木 取 と し , 抽 出 成 分 溶 液 を 減 圧 下 (6.4×10 2 Pa)で 注 入 し た 。 一 部 の 試 験 片 に つ い て , 注 入 前 後 の 放 射 方 向 、接 線 方 向 及 び 繊 維 方 向 寸 法 を ,105℃ で 乾 燥 後 に 全 乾 状 態 で 測 定 し ,か さ 効 果 を 求 め た 。 耐 朽 性 試 験 は , 耐 候 操 作 後 の 試 験 片 に つ い て 「 JIS K 1571 木 材 保 存 剤 の 性 能 試 験 方 法 」を 参 考 に し ,供 試 菌 と し て オ オ ウ ズ ラ タ ケ (Fomitopsis palustris),カ ワ ラ タ ケ (Trametes versicolor)及 び ナ ミ ダ タ ケ (Serpula lacrymans)を 対 象 に , 強 制 腐 朽 試 験 を 行 い 検 討 し た 。 3.0 アセトン処理材 (対照材) 抽出成分溶液 処理材 2.5 2.0 かさ効果 (%) 3.結果と考察 抽出成分注入後のかさ効果を図 1 に,耐候操作 後の抽出物残留率を表 1 に示す。抽出成分注入材 は,放射方向,接線方向及び繊維方向の寸法が増 加 し た こ と ,耐 候 操 作 で も 溶 脱 し に く い こ と か ら , 含浸された抽出成分は木材組織の仮道管内腔に加 えて細胞壁内にも存在していると考えられた。こ れは抽出成分が木材の代謝生産物であり,木材と の親和性が高かったためであると考えられた。次 に,抽出成分注入材の強制腐朽後の質量減少率を 表 1 に示す。無処理試験片は,オオウズラタケ、 カワラタケ及びナミダタケいずれの菌種を用いた 場 合 も 質 量 減 少 率 が 50 % 前 後 で あ っ た の に 対 し て,抽出成分注入材は,すべて質量減少率が 3% 以 下 と な り 供 試 菌 に 対 し 防 腐 性 能 が 認 め ら れ た。この結果は木材保存剤の性能基準で規定され ている注入処理用防腐剤の基準を満たしており, 既存の木材防腐剤の代替品として利用できること が示唆された。 1.5 1.0 0.5 0.0 -0.5 放射方向 接線方向 繊維方向 図1 抽出成分注入によるかさ効果 表1 抽出成分注入スギ材の耐朽性 耐候操作後 平均質量減少率(%) 試験片 抽出物 抽出物 オオウズ カワラタケ ナミダタケ 吸収量 残留率 ラタケ 3 (kg/m ) (%) ス ギ 55.9 82.9 0.0 2.5 0.0 注入 ス ギ ― 55.8 48.7 46.1 ― 無処理 4.まとめ イペ材の抽出成分をスギ材に注入したところ,かさ効果が確認されスギ材との親和性が 高いことがわかった。イペ材の持つ高い耐朽性をスギ材に付加することができた。 *1)資 源 環 境 グ ル ー プ
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