児童が自主的に問題解決できる能力を育む理科指導法の改善 -条件

児童が自主的に問題解決できる能力を育む理科指導法の改善
-条件制御の能力を中心として-
教科・領域教育専攻
自 然 系 コ ー ス (理 科 )
吉
1 はじめに (研究の背景と目的)
小学校学習指導要領解説–理科編-では,第3学
田
裕
省検定済み教科書を取りあげ,掲載されている観
察・実験等の内容を分析し,類型化を行った。
年は比較,第4学年は関係付け,第5学年は条件
(3)類型化された観察・実験群について,教科
制御,第6学年は推論を育成すべき問題解決能力
書に記載されている問いかけを分析し,問いかけ
の目標として重点を置いている。
の形式と各実験群との整合性を検討した。
理科における問題解決の過程において必要とな
(4)変数を制御する能力を育成するための指導
る仮説設定の能力育成において,Cothron ら
法を開発するため,変数への気付を促進すること
(2006)によって提唱された“The Four Question
を目的としたスキルトレーニングを実施した。引
Strategy”の有効性が実践を通して明らかにされ
き続き,
「振り子」と「発芽」の2つの単元におい
つつある。しかし,理科の観察・実験等において
て,変数を制御して実験計画を立てられた児童の
は,どのような問題解決の能力が必要であるのか
割合を比較し,指導の効果を検討した。
を検討しておくことが基本的な課題である。この
課題に応えるために吉山ら(2011)は,1960 年代に
2 Science-A Process Approach(SAPA)の
開発されたプロセス・スキルズに忠実に従って,
プロセス・スキルズの統合と精選
小中学校理科の観察・実験等を類型化した。しか
Science-a process approach commentary for
し,プロセス・スキルズに忠実に従ったため,実
teachers の13 の上位スキルと57 の下位スキルの
際の理科授業への適用を試みた場合,類型に属す
記載内容を検討し,我が国の理科教育の実態に即
る観察・実験等の中に,現状にそぐわないものが
した「探究の技能」の上位技能,下位技能につい
含まれるという問題点が生じた。
て統合・精選を行った。
そこで,本研究は児童が自主的に変数を制御す
その結果,13 の上位スキルを7つの上位技能に
る能力を育成するための有効な指導法を開発する
57 の下位スキルを31 の下位技能に統合・精選し,
手がかりを得ることを最終の目的として,次の 4
現在の我が国の理科教育の実態に即した「探究の
つに取り組んだ。
技能」が開発できた。
(1)吉山らの研究成果に着目し,プロセス・ス
キルズの統合と精選を行い,現在の理科教育の実
3 小学校理科の教科書の観察,実験の類型化と
態に即した「探究の技能」を新たに開発した。
その特徴
(2)新しく開発した「探究の技能」に基づいて,
小学校理科の観察・実験等に含まれる探究の要
採択率の高い3社(T 社,G 社,K 社)の文部科学
素的技法を,新たに開発した「探究の技能」の観
点から類型化し,各類型の探究的特徴を明らかに
することを目的として分析を行った。
分析は,観察・実験等の類型化において対象
とした教科書と同様である。まず,各社の教科
5 変数に気付かせるためのスキルトレーニン
グが児童の条件制御の能力に与える効果につ
いて
条件制御が必要な観察・実験において,児童を
書に掲載されている全観察・実験等を領域(物理,
対象に変数に気付かせるためのスキルトレーニン
化学,生物,地学),学年に区分し,その数を数
グを実施することで,児童の条件制御の能力に与
えた。次に全ての観察・実験等について,開発し
える効果を明らかにすることを目的とし,公立小
た個々の探究の下位を含んでいるか否かを検討し,
学校において実践を行った。
下位技能が含まれていれば1,含まれていなけれ
その結果,
スキルトレーニングを行ったことで,
ば0として集計した。そして,下位技能の得点を
独立変数と従属変数の両方を記述できた児童の割
独立変数として,Ward 法による階層クラスター分
合は,
記述できなかった児童に比べ,
有意水準5%
析を行った。さらに,それぞれのクラスターにお
で有意に高かった。このことから,スキルトレー
いて,どの領域の観察・実験等の占める割合が多
ニングが児童に独立変数と従属変数の2つの変数
いかを検討するために,クラスターを独立変数,
の関係を理解させる方法として有効であったと推
領域(物理・化学・生物・地学),学年を従属変数
察された。また,有効回答数 65 名のうち,
「振り
として,χ2 検定及び残差分析を行った。
子」の実験では 35.4%,
「発芽」の実験では,50.8%
その結果,小学校理科の教科書に掲載されてい
の児童が実験計画を立案することができた。この
る観察・実験は,3社とも探究の技能の観点より
ことから,事前にスキルトレーニングを取り入れ
5つに類型化することができ,それぞれのクラス
た指導法は,変数を制御する能力を向上させるた
ター含まれている観察・実験群には,含有してい
めの指導法を開発する手がかりを得ることができ
る探究の技能に特徴があることが明らかになった。
た。
4 観察・実験における問いかけの形式と観察・
6 おわりに(研究のまとめと今後の課題)
実験の類型との対応関係
本研究において,現在の我が国の理科教育の実
小学校理科教科書に掲載されている観察・実験
態に即した新しい「探究の技能」を開発できた。
等に関わる問いかけ方と,クラスター分析によっ
また,児童が変数を制御して実験計画を開発す
て得られた観察・実験等の各類型の探究的な特徴
との間に整合性が認められるかどうかについて検
討した。
その結果,各クラスターにおける観察・実験等
る手がかりを得ることができた。
今後は,変数の制御が必要な他の観察・実験に
おいても実践を重ね,変数を制御して実験計画を
立てる能力を向上させる指導法を確立したい。
の探究活動と,そのクラスターに含まれる観察・
実験に設定されている問いが求めていることは合
致しており,クラスター分析によって得られた観
察・実験等の各類型の探究的な特徴との間に整合
性が認められた。
指導 小林辰至