iPS 細胞を利用した疾患克服及び創薬研究の加速

資料1-4
ライフサイエンス委員会
幹細胞・再生医学戦略作業部会
平成27年7月15日
iPS細胞を利用した疾患克服及び創薬研究の加速
~バンクの役割~
国立研究開発法人 理化学研究所
バイオリソースセンター
センター長
小幡 裕一
目 次
1. 理研BRCのiPS細胞バンクの現状
2. 利用促進のための付随情報及び発信
3. 疾患iPS細胞バンクに求められる品質管理
4. 品質検査のための分化確認用マーカー発現iPS細胞
5. バンクの機能拡充による将来像
(参考)幹細胞・再生医学戦略作業部会 委員からの
ご意見について
(参考)iPS細胞分化検査:分化誘導・確認方法の例
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1. 理研BRCのiPS細胞バンクの現状
2015.6.30.時点の収集状況
疾患数
試料提供者数
株数
指定難病(306疾患)
61
195
671
指定難病ではないが重要な疾患
29
53
134
-
39
132
コントロール健常人
指定難病306疾患のうち、
61疾患のiPS細胞を収集済。
【参考】「疾患特異的iPS細胞を
活用した難病研究」における
整備目標疾患数:200疾患以上
既に寄託されている疾患特異的iPS細胞の例
指定難病:パーキンソン病、ライソゾーム病、脊髄小脳変性症、筋萎縮性側索硬化症、
網膜色素変性症、筋ジストロフィー、心筋症、原発性免疫不全症候群等
指定難病ではないが重要な疾患:統合失調症、アルツハイマー病、QT延長症候群等
課題:研究開発(スクリーニングを含む)に求められる種類・量・質の整備強化
対象疾患の種類と患者数・株数
ニーズを把握し、応えるため、利用者コミュニティ、医療機関、iPS細胞作製機関の協力
年齢と性別をマッチングさせた、コントロール健常者iPS細胞の整備が必要
分化細胞を大量培養し、安定供給が必要
品質検査と付随情報
iPS細胞必須検査の加速
iPS細胞分化検査(分化能確認、分化細胞の機能確認等)が必要
診療情報、全ゲノム配列情報等、より高度な付随情報が必要
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2. 利用促進のための付随情報及び発信
細胞特性情報
現 状 : 寄託者情報 : 元細胞の種類 、樹立法、維持培養法、論文情報等
品質検査情報 : 汚染検査、誤認検査
ニーズ: 核型検査、未分化マーカー検査
目的細胞への分化能確認、分化細胞の機能確認
細胞提供者(患者)の診療情報
現 状: 疾患名・年齢・性別
ニーズ: 問診内容:家族歴・既往歴等
病歴 :診断年齢、診断からの経過・治療歴等
検査結果 : 血液検査 、画像検査、
内視鏡検査、心電図検査
病理組織学的検査、遺伝子検査等
全ゲノム配列情報
利用者への情報発信・技術移転
課 題
ニーズの把握
試料提供機関の協力
利用者への情報開示方法
匿名化済
しかし、希少疾患においては、情報
の付加により試料提供者が特定さ
れることがないように、配慮が必要
利用者への情報開示の方針の策定
情報管理体制の構築と実施
現 状: iPS細胞培養に関する基本的技術:凍結融解法の研修を実施中
ビデオプロトコール(動画)公開中
ニーズ: 分化誘導法等に関する情報発信および研修
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3. 疾患iPS細胞バンクに求められる品質管理
iPS細胞
必須検査
誤認検査
マイコプラズマ、
真菌、細菌汚染
の検査
Short Tandem Repeat PCR
遺伝子多型解析による
細胞誤認(他の細胞の取り違え、混入)検査
未分化性
染色体異常の検査
各種未分化マーカー
を用いて検査
iPS細胞分化検査:方法の“標準化”が必要、確立されればそれに沿って実施
分化能確認
目的とする細胞に分化できるかを、分化誘導実験*にて確認
分化マーカー発現iPS細胞を用いて確認
*寄託者情報、発表された論文情報等に基づき、至適条件を設定し、実施
分化細胞の機能確認
分化誘導した細胞が、報告されている機能を有するか検査
コントロールとして健常人由来iPS細胞から誘導した分化細胞が必要
全ゲノム配列
情報
要 拡 充
核型検査
既 存
細胞材料
基本品質検査
汚染検査
患者間で異なる
病態や治療反応
性等に関与する
遺伝子要因の研
究に必須
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4. 品質検査のための分化確認用マーカー発現iPS細胞
iPS細胞を用いた疾患研究・創薬を実施するために、目的とする組織、細胞への分化の確認が必要
分化誘導の可否を簡便に判定できる分子マーカーが必要
分化確認用「組織特異的プロモーター」と蛍光タンパク質の融合遺伝子をiPS細胞に導入し、分化誘導後、
蛍光タンパク質の発現を観察することで確認
準備状況
目的とする細胞(例)
(1) 導入用の遺伝子材料
300のヒト「組織特異的プロモーター」を整備済
蛍光タンパク質遺伝子も多数整備
(2) 遺伝子導入技術・ツール
遺伝子導入用のレンチウイルスベクターを整備済
取扱い技術も保有
(3) 細胞の分化確認技術
ES細胞において、神経、上皮、血液細胞等への分化
誘導実験に実績
LTR
Ψ
特異的
プロモーター
GFP等蛍光
タンパク質
pA
運動神経細胞
(モーターニューロン)
MAP2
骨格筋細胞
MyoD1
MCK
心筋細胞
Myosin light chain 2
Nppa, α MHC,
Ryr2
インシュリン産生細胞
(膵ラ氏島β細胞)
INS
NGN3, PDX1
ネフロン構成細胞
(中胚葉+内胚葉)
Osr1
肺
T (brachyury
homolog)
LTR
マーカー発現レンチウイルスベクターの例
遺伝子
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5. バンクの機能拡充による将来像
創薬スクリーニング用iPS細胞バンクを大幅拡充
疾患特異的iPS細胞
整備方針:
・難病を中心に、分化誘導した疾患細胞に
おいて病態が観察可能と想定される疾患
・200 疾患以上
・各疾患 10 患者以上
・患者数が多く、疾患原因も多岐にわたる
ことが判明している疾患(筋委縮性側索
硬化症や統合失調症等)は 100 患者規模
・ 3 株/患者
疾患数200種類以上、患者5,000人に
由来する、15,000株のiPS細胞を整備
健常者iPS細胞:コントロール細胞
整備方針:
・各年代及び性別を考慮して整備
・20, 30, 40, 50, 60歳台の男女別に、
各10人
・既存の健常人コホート等と連携
100人由来、300株の健常者iPS細胞を整備
ゲノム編集技術の活用
・原因遺伝子が特定されている疾患
について、健常者iPS細胞とゲノム
編集技術との組合せにより、人工的
に疾患特異的iPS細胞を創出
iPS細胞の分化能検査を新規に導入
⇒ 品質管理の質の向上
⇒ 分化誘導した分化細胞を大量培養、バンク化
アカデミア:病態解明研究、診断・治療・予防法の開発
企業など:創薬研究、創薬スクリーニング(毒性評価、薬効・薬理評価)など
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以下、参考
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幹細胞・再生医学戦略作業部会 委員からのご意見について
もっとも効率的に目的細胞に分化するのか分らず、使い勝手が悪いので、ノウハウの付加
が必要ではないか
iPS細胞株ごとに培養プロトコール、個別のTipsなどの情報が付与された状態で頒布すべ
きではないか
論文情報を整理・公開するとともに、分化検査を行い、その情報やノウハウ(培養プロト
コール等)を付加して提供(3、4ページ参照)
技術移転のための研修を実施しているが、拡充が必要
コントロールとなるiPS細胞の充実が必要ではないか
病因解明研究や創薬研究のためには、年齢と性別をマッチングした健常者由来コント
ロールiPS細胞の整備が必要(6ページ参照)
理研BRCでは健常者のiPS細胞を整備しているが、不十分(2ページ参照)
企業がサインするだけで利用できるようなiPS細胞バンクにできないか
利用を促進するように、寄託者(寄託機関)には寛大な条件をお願いしている
理研BRCからの提供条件は、国の法令・指針、試料提供者へのインフォームド・コンセン
トの内容及び寄託機関の寄託条件に拘束されている
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iPS細胞分化検査:分化誘導・確認方法の例
目的とする細胞例
対象疾患例
文献:分化誘導法と同定法、機能確認
運動神経細胞
(モーターニューロン)
筋萎縮性側索硬化症
球脊髄性筋委縮症
原発性側索硬化症
Egawa N & Inoue H et al. Sci Transl Med (2012) SB431542の存在下に
て SFEBq 法 で 初 期 分 化 誘 導 。 そ の 後 、 B27, Retinoic Acid, Sonic
Hedgehog, FGF-2存在下で培養して得た細胞集団をマトリゲル上に移し、
neurotrophic factors, NT-3の存在下で培養。MAP2, SMI-32の発現を確認。
骨格筋細胞
筋ジストロフィー
多発性筋炎・皮膚筋炎
封入体筋炎
先天性ミオパチー
Shoji E, Woltjen K, Sakurai H. Methods Mol Biol (2015) iPS細胞にテ
トラサイクリン誘導発現系にてMYOD1を発現するコンストラクトを導入。分化
誘導時にMYOD1を発現状態にする事で、細胞集団の70-90%が筋細胞に分
化。同細胞集団に電気刺激を与えることで、成熟筋細胞の特徴である cell
fusion 及び cell twitching を観察し、確認。
心筋細胞
QT延長症候群
特発性拡張型心筋症
肥大型心筋症
拘束型心筋症
Fuerstenau-Sharp et al. PLoS One (2015) H1152, bFGFの存在下で分
化誘導後、bFGF, Activin A, BMP-4の存在下で分化誘導を行い、心筋の
マーカーcardiac troponin T, alpha-actinin, MLC2Vの発現を確認。電気生
理学的な解析にて、action potential を確認。
糖尿病
Shahjalal HM & Kume S et al. J Mol Cell Biol (2014) 高濃度NOGGIN
存在下でPDX1陽性の膵前駆細胞及びNGN3陽性の膵内分泌細胞前駆細胞
を誘導し、IBMX, exendin-4, nicotinamide の存在下で誘導。細胞内にCpeptideを確認、かつ、高濃度の糖に反応してC-peptideを分泌。
若年性ネフロン癆
多発性嚢胞腎
Taguchi A & Nishinakamura R et al. Cell Stem Cell (2014) Activin,
Bmp4, CHIR, retinoic acid, Fgf2, Fgf9の存在下にて、胚様体と脊髄神経と
の共培養系で3次元組織として分化誘導。組織学的構造確認、及び、免疫組
織染色にてnephrin陽性細胞を確認。
特発性間質性肺炎
Ghaedi M et al. J Clin Invest (2013) Activin A, SB431542, NOGGIN,
EGF, FGF, KGF, WNT3aの存在下で肺胞前駆細胞(AETII)を分化誘導し、
surfactant protein B, surfactant protein C, CD54の発現を確認。
インシュリン産生細胞
(膵ラ氏島β細胞)
ネフロン構成細胞
(中胚葉+内胚葉)
肺
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