“他妈(的)”の文法

Contemporary Research in Modern Chinese No.3 (October 2001), 111-131
第一回修正
2015/11/05
“他妈(的)”の文法
杉村博文
提要
本文对现代汉语詈辞{他妈}——“他妈”及其变体——的分布情况进行尽可能详细的描写,并在此
基础上从语法化和信息结构的角度较为深入地探讨了{他妈}的句法分布和信息功能。文章指出,{他妈}
来源于一个完整的施行句“我×他妈的×!”。从语法化的角度说,这是一种越过句法层次的演变,但其
演变方式和演变结果——由大到小;由自由到粘着;由具体到抽象等——都符合语法化的一般规律。文章
还指出,从生成的角度说,{他妈}在词组层次上被编进句法结构里,除个别情况之外一般都出现在所处最
小词组的左数第二个位置;从信息结构的角度说,{他妈}一般紧跟着刺激源出现并将其衬托出来,但有时
以不出现在词组末尾为条件,也接受一定范围内的次序调整。
关键词
骂人话
语法化
刺激源
衬托 词组
词序调整
〇 はじめに
すさまじい汚言穢語で綴られた一節をまずご覧いただこう。状況は三角関係の修羅場でよくあ
る話だが,表現は豊富な罵語を誇ると言われる中国語の面目躍如たるものがある。
[0-1] “你打算把她怎么样?”
“我要把她开除公职!我要给她判刑!我要杀了她这个小妖精!我要把她的小骚×撕碎!
我要让所有的人都知道,她是个女流氓,是个大破鞋,是一条浪得满街找公狗的母狗……”
(……)
鲍佳芹却更加发起疯来:“我不是什么鸡巴妇联主任,我是个女人!是个被侮辱被
损害的女人!你他妈姜平是什么东西!你不就是从小山沟里爬出来的‘土包子’吗?是
谁让你在天时公司有权有势有地位?是谁让你在社会上混得体体面面?是谁给置的这
个舒舒服服的家?我他妈栽林养虎、虎大吃人!把心都摘下来了,喂的却是一只白眼狼!
你他妈吃老娘喝老娘睡老娘依靠老娘,还背着老娘跟那个小妖精狗连蛋,还把那只骚母
狗的肚子弄大了,你还想让她给你生个野种怎么着?你他妈还有点儿人心没有?老娘咽
不下这口气,老娘要报仇,老娘要跟你算帐,老娘跟你姓姜的拼了……”
鲍佳芹越说越怒,怒不可遏,完全失去了理智。她冲上前去,挥起两只手臂,朝姜
平的脸上噼里啪啦地抽打起来。一边拍打着,一边还像村妇一样扯着嗓子叫骂着:“我
操你妈!我操你奶奶!我操你八辈的祖宗……”(王梓夫《蝉蜕》)
いわゆる“泼妇”の言語であるが,よくもこれだけことばが準備されているものである。この
後にはまだ“你王八蛋对不起我!”と続く。中国人も最後には手を出す。しかしいきなりではな
い。手を出すまでに,思いつく限りの汚言穢語を動員し,これでもかこれでもかと相手を罵倒し
て報復を誓う。そこが,感情の赴くところを言語行為に変える文化をもたず,感情の昂まりと言
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“他妈(的)”の文法(杉村博文)
語表出の量があたかも反比例するかのような日本人とは基本的に異なっている。
本題に戻ると,本稿は語彙論や社会言語学的な角度から中国語の罵語を論じようとするもので
はない①。本稿は中国語の罵語の中でも意味の漂白化が最も激しく,形式的にも機能的にも本来の
姿から著しく逸脱している“他妈”とそのいくつかのバリアント(主に“他妈的”と“他娘的”)
を取り上げ,その使用状況を詳細に記述することを第一の目的とし,あわせてその形式と意味,
及び文法機能について,文法化(grammaticalization)と情報構造の視点から分析と解釈を行おうと
するものである。なお,以下の論述において“他妈”とそのバリアントを区別する必要を特に認
めないときは,{他妈}と表記し諸形式を代表するものとする。
本稿の記述の大半は{他妈}の分布状況を調査し,そこからどのような文法情報が帰納されるか
ということに費やされるが,文法論的視点に立った{他妈}の研究は先例に乏しく,管見ではわず
かに大河内(1997)に次のような指摘が見られるのみである。
“他妈”は文頭に出るだけでなく主語の後,述語動詞の前に挿入される。……“他妈”は
これらの例では一副詞相当と考えられる。……本来の文……に追加されて,文全体を“撒
野”な,乱暴な調子に変えているのである。発音も軽く短くすまされる。文意をとるに
はこの部分を( )にくるんで読めばよい。②
この指摘は“他妈”の分布を文頭および主述の間と認めて,“他妈”を語気副詞に相当する成
分と理解したものである。しかし“他妈”の分布は決してこの二つの位置にとどまるものではな
く,その行動と作用も一副詞相当という理解で捉えきれるものではない。
一 “他妈(的)”の歴史的来源
本論に入る前に簡単に{他妈}の出自と“妈”と“娘”の交替について触れておく。この問題に
関する歴史的・方言的研究は後日を期したい。
胡士云(1997)は“他妈的”の出自を“我×他妈的×!”に求めている(一つ目の×には男性の
性行為をいう動詞が入り〔漢字で表記する際は“操”を当てることが多い〕,二つ目の×は女性
器を表す名詞が入る)。この変化を言語学的に表現すれば,“他妈的”は一次的遂行文(primary
performative sentence)である“我×他妈的×!”から縮小化(reduction)が進行し,最後に動作対象
の所有形のみが残ったものとなる。“他妈”はそこからさらに縮小化が進み“的”まで落として
いる。動作対象の所有者のみが残ったわけである。“他娘的”は“他妈的”ほど頻繁に“的”の
脱落が見られず、[1-3]のような例は珍しい。例[1-1/2]は陈建功(北京作家)の『卷毛』と『耍
叉』から採ったものであるが,“他娘的”と“他妈”が交互に使用されている。
[1-1] 有胆儿你另找个地方,搂着,抱着,亲嘴儿,上床,谁管你啦?干这种没劲的事,还他
娘的忘不了嘴里念叨“革命”,更他妈没劲!
[1-2] 要是连他娘的这么一个结果都没有,这一回“英雄”当的,也他妈太冤啦!
[1-3] 洪生,你他娘大雨天跑来干啥,不怕冲了财气?(刘恒《东西南北风》)
① 悪態・罵語をめぐる日本語と中国語の言語文化的対照研究に関しては,大河内康憲(1997)を参照。
② 大河内(1997:248)。ここの指摘が“他妈的”ではなく,“的”を落とした“他妈”に関するものであるこ
とに注意されたい。以下の記述で言及することになるが,“的”を伴わない“他妈”に「文頭に出る」用法は文
献資料では未見である。
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現代中国語研究(第 3 期 2001.10)
人称が第三人称である点については,
「“他妈”は“你妈”から出る」という見解が大河内(1997)
に示されている。“妈”と“娘”の共存に関しては,北京語では“妈”のほうが優勢であり,北
京人は{他娘}を{他妈}よりもさらに野卑であると言う。また,{他妈}を用いるのは,通常,男性
であり,女性は使用を避けなければならない。日本語の「くそっ!」や「くそ暑い」などにも同
様の制約が課されており,これは罵語の使用に関する汎言語的な傾向であろう。その意味でも,
冒頭に挙げた中国の女性の悪態は,小説の中の話とは言え,まことにすさまじい。
二
{他妈}の自由使用と拘束使用
{他妈}の用法には自由使用と拘束使用の二タイプが観察される。自由(free)と拘束(bound)とい
う分類は,本来,音韻学や形態論において,成分の分布能力の相違を記述するために用いられる
基準であるが,本稿では{他妈}の使用状況を記述するのに援用する。
2.1 自由用法
自由使用には感嘆詞的な用法と形容詞的な用法が含まれ,自由使用の{他妈}は如何なる形式で
あれ“的”を欠くことがない。以下,{他妈的}と表記する。
2.1.1 感嘆詞用法
{他妈的}という粗野を極めた罵言が話者の口から吐かれるには話者の意識をよほど強烈に刺激
する事態が存在しなければならない。このような事態を「引き金」と呼ぶと,感嘆詞的に単独使
用される{他妈的}は引き金に前置されることも,また後置されることもある。使用頻度で見ると,
前置が後置を大きく上回る。
[2-1] 他妈的!啥都涨价儿,就是人不涨价儿!
[2-2] ……现在,这些都过去啦!……就这么轻易地过去啦!他妈的!他妈的!
この用法の{他妈的}を形式面から観察すると,{他妈的}だけでなく,“×他妈的!”のように
性交動作を表す動詞を含んだ形式,“我×!”のように動作主と性交動作だけ残した形式,“我
×你妈!”のような動作対象の所有者が動作対象を代替した形式,さらには“妈的”のような動
作対象の所有者だけの形式など,実にさまざまである。
[2-3] 我操,咱揍冠军一个 3 : 0!
[2-4] 妈的,你还嘴硬!
[2-3]は応援するチームが前回大会の優勝チーム相手に三対ゼロの快勝を収めた後のサッカー
のサポーターの感嘆である――「やったぞ,チャンピオンを三ゼロで叩きのめしたぞ!」
2.1.2 形容詞的用法
{他妈的}には形容詞的な機能が生じており,通常,連体修飾語として実現する③。下例[2-5]は
その典型的な事例で,“他妈的”は下線を加えた形容詞性の語句とパラディグマティックな関係
にあり,程度副詞“最”とシンタグマティックな関係を結んでいる。
③ この問題は形容詞と非形容詞の接点として最も包容力に富むシンタクスは連体修飾という文法操作である
という方向から説明できるかもしれない。例えば日本語の例であるが,「ピンセットを買う金のない人は,OL な
姉貴かルーズソックスな妹に手伝ってもらおう。彼女らのネールアートなツメは,手頃なピンセットの代用品だ」
(『PC fan』99 年 3 月号)下線部は連体修飾以外では実現不可能な表現手段である。「OL な姉貴」と「OL の姉貴」の
違いに注意されたい。
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“他妈(的)”の文法(杉村博文)
[2-5] 他那儿挨过一颗子弹,男人最神圣最值得骄傲也是最罪恶最他妈的那个宝贝在他身上宝
贝不起来。
[2-6] 这他妈的小赵怎么老这德性!
{他妈的}が連体修飾語になると,常に以下のような「同字同音省略」が生じる。
最他妈的+的+那个宝贝 → 最他妈φ+的+那个宝贝
这他妈的+的+小赵 → 这他妈+φ+的+小赵
形容詞的機能の獲得から期待されてしかるべき述語としての用法は未発達で,{他妈的}がその
ように使われた実例はごくわずかである。
[2-7] 徐大花被摸醒了,泥胎似的坐着,梦呓般地喊:“真他妈的!我真他妈的!”
[2-8] 设计师他姥姥的!敢情他自己并不住这简易楼哇!
但し,もし第 4 章で紹介する代名詞に後続する{他妈的}の用法を述語的な用法とみなすことがで
きれば,述語になることを{他妈的}の最も発達した用法の一つとして挙げられるかもしれない。
以上紹介した二種の用法(感嘆詞的な使用と形容詞的な使用)は{他妈的}の実詞的な機能の反
映であり,文中から{他妈的}を除くと,単独使用では文(一語文)そのものが消失し,形容詞的
な使用では,文が非文法的なものになる
[2-9] a. 这他妈的小赵…… → *这的小赵……
b. 设计师他姥姥的! → *设计师!
2.2 拘束用法
ここで言う拘束とは,下例[3-1]における“他妈”のように,文の構造体(constitute)の中に組み
込んでのみ使用可能であり,且つ構文的に必須の成分ではなく,それを欠いても文の成立になん
ら影響を与えない,という意味で理解されたい。
[2-10] 你太他妈不尊重人!~ 你太不尊重人!
拘束用法を形式面から観察すると,“他妈”のように“的”を落とした形式の使用が顕著で,
ちょっと毛色の変わった接辞的な使い方がなされる。この現象は,実質語から機能語へと文法化
が進むにつれ,形式的にはより短く,機能的にはより接辞的になるという文法化の通則に収まっ
ている。{他妈}の文法化は文形式(“我×他妈的×!”)から接辞へと形式レベルを大きく跨い
だものである点に特色がある(注④の“你丫”に対する分析を参照)。また,音声的にも韻母の
開口度や語調の面で字音とは明らかに違っており,“他妈”はネット上ではしばしば“特吗”と表
記される。“他”が“特”と記されるのは“他”の韻母が曖昧母音で発音されるからであり, “妈”
が“吗”と記されるのは声調が語気助詞のように文脈に応じて様々に変化するからであろう。
意味的に見れば,{他妈}の文法化はまだ機能語と呼べるほど進行していないかも知れないが,
機能面での文法化は相当に進行しており,明らかに接辞的に変化してきている。そこで問題であ
る。もし上例[2-10]に対して直接構成素分析を行えと要求されたなら,どのように切ればよいで
あろうか。“他妈”がなければ事は単純で“{你[太(不尊重人)]}!”と切ればいいが,“他妈”
を含むと述部の切り方に 3 通りの可能性が生じる。
[2-10] a.你[太(他妈)不尊重人]!
b.你[(太他妈)不尊重人]!
c.你[太(他妈不尊重人)]!
[2-10a]は[2-10]の直接構成素を“你太不尊重人”と“他妈”の 2 つと見たものである。その場
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現代中国語研究(第 3 期 2001.10)
合は“他妈”を間投詞の一種とみなすことになる。[2-10b]は“太他妈”が一つの構造体を形成し
ていると見たものである。下例の下線部に注目されたい。
[2-11] 这个发言被登在杂志上,不久我便接到读者的电话,很客气地斥了我一顿:“知之为
知之,不知为不知。可甭信口开河!您他妈的怎么就敢一口咬定,说满族的科学家少
呢?我介绍几位不出名的,您敢去采访吗?”甭打听,斥我的人肯定是位旗人或旗人
的后裔,因为他骂人也客客气气,“他妈的”前边还冠以“您”,这是十足的京油子
腔调。(赵大年《艾罗三绝》)
この小説の作者は“您他妈的”を一塊として理解していると読めないだろうか④。但し“您他
妈的”が構成される順序としては,“他妈的”が先にあり,後からそれに“您”を冠したのでは
なく,まず“您”があり,それに“他妈的”を加えたものであると考える。“他妈”を構造体の
先頭に置く[2-10c]の分析法を支持する根拠は今のところ見あたらない。
[2-10]の直接構成素分析に対する答えは,以下の記述において{他妈}の用法の全体像がより明
確になった段階でおのずと明らかになってくると思われるので,ここで強いて答えを出すことは
しないでおき,以下{他妈}の直前に現れる成分を分類基準とし,その拘束使用に対する観察と分
析を始める。
三
{他妈}の拘束用法
本章では先行成分の違いを基準とし,{他妈}の拘束用法を例示しつつ分析を加える。
3.1 人称代名詞+{他妈}……
人称代名詞に後接するのは{他妈}の最も発達した用法の一つであるが,より正確には,主語の
位置にある代名詞に後続するとなる。主語の位置にある代名詞に後続するのは{他妈}の最も使用
頻度の高い用法である。それはおそらくこの位置が先行成分に対する述語の位置でもあるからで,
この位置に出た{他妈}は述語と見ることも「刺激源そばだて成分」(後述)と見ることも可能で
ある。述語と刺激源そばだて成分は文法化の程度の問題であって,文法化の程度を低いと見れば
述語であると分析し,高いと見れば刺激源そばだて成分と分析することになる。
3.1.1 你/你们+{他妈}……
[3-1] 你他妈这才像条汉子!
[3-2] 你他妈想得倒长远,保不准明天地球爆炸了呢!
[3-3] 你们他妈有本事打死我!
3.1.2 我+{他妈}……
[3-4] 我……不算个人了……我他妈还算个人吗!
[3-5] 他,他准瞧不起我。可,我,我他妈爱他,喜欢上他了,他这个丫头养的!
[3-6] 咳,这么简单的点子,我他妈怎么就没有想出来!
④ この分析に対するヒントの一つとして,北京語の“你丫”が挙げられる。“你丫”は“你丫敢再说一遍?”
のように使われ,“你丫”でひとまとまりの構造体をなす。“丫”は“丫头养的”がつづまったもので,“丫挺
的”“丫嗯的”“丫挺”“丫的”のようなバリアントが存在するが,“你丫”は,通常,主語の位置に現れ,目
的語の位置に現れるときは多く“的”を含んだ形式が採用される。例えば,“我这就抽你丫的,你丫信不信?”(刘
恒《贫嘴张大民的幸福生活》)
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“他妈(的)”の文法(杉村博文)
“我们{他妈}……”や“咱(们){他妈}……”は未見であるが,成立を阻害する要因は考えにくい。
3.1.3 他/他们+{他妈}……
[3-7] 他他妈小梁子对自己的错儿还认头?我哪儿说理去!
[3-8] 他他妈不干这种丢人现眼的事谁干呢?!嘿嘿!
[3-9] 他们他妈成心!
第三人称代名詞に{他妈}が後続する用例は大量に存在する。興味深いのは,固有名詞に{他妈}
が後続した用例が書面資料に見つからないことである。[3-7]は固有名詞と{他妈}が共起した唯一
の実例であるが,“小梁子他妈”と作らず,“他他妈小梁子”と作っている。これを単純に考え
れば多義性の回避に関わる問題で,“小梁子他妈”とすると,「小梁子のおふくろさん」を表す
有力な表現形式と衝突することになる。下例の“范小兵他妈”は「范小兵のおふくろさん」を表
す。
[3-10] 我也想起来了。那是范小兵他妈第三次离开家,也是最后一次,此后再也没有回来过,
老范也没再去找过。(徐则臣《伞兵与卖油郎》)
ネイティヴチェックでは“胡小顺他妈躲哪儿去了?”(胡小順め,くそー,どこに隠れやがっ
た)のように成立するが,このように作ると文字の上での多義性は避けられない。“胡小顺他妈
的躲哪儿去了?”とすれば多義性は解消できるが,固有名詞に続く“他妈的”は単なる“骂人话”
にすぎないというネイティヴの内省がある(2.1.2 参照)。「胡小順,あのくそ野郎め,どこに隠
れやがったんだ」くらいの意味であろうか。下例は{他妈}が人を指す名詞句に後続した唯一の実
例である。
[3-11] 杰……杰什么?嗯,杰克·伦敦,这个小子他妈真是饱汉子不知饿汉饥。
3.1.4 谁+{他妈}……
[3-12] 夜班是不去值了,不干了,可谁他妈拦得住老子去找老哥儿们喝酒?
[3-13] 谁他妈也别想跟我这儿装大个的——我是流氓我怕谁呀!
[3-14] 如今我也确实就这么整个儿地完蛋啦,谁他娘的都有资格在我面前摆谱儿。
上例中の“谁”はすべて非疑問用法であるが,文のムードを決定するのに大きく関与しており,
話者の発話時の意識の中で著しく際だった成分であると言える⑤。“谁”に“也、都”が後続す
る場合,{他妈}が“也、都”の後方に退いた語順も観察された。
[3-15] 你们谁也他妈的不知道我们从小就在一起练双人舞在磨擦之中长大的是一种什么感
觉?
[3-16] 今天是星期一,街上的人还是这么多。这儿靠近王府井。谁都他妈比我活得滋润。
主語の位置に出た“什么”に{他妈}が後接した用例は未見で,これは“它{他妈}……”が未見
であることに対応しよう。
以上のように,{他妈}は頻繁に「主語」の位置に在る代名詞に後続するのであるが,「兼語」
⑤
英語の the hell の以下のような使い方は,ここの{他妈}の用法と通じるものがある。
Jesus! What the hell happened to you?
How the hell should I know a stupid thing like that?
この the hell について,小学館『ランダムハウス英語辞典 CD-ROM 版』などは「疑問詞と共に用いて語調を強め,
やや荒っぽい表現」と説明している。いずれ中国語の辞書もこれと似た記述を{他妈}ついて行わなければならな
いであろうが,{他妈}の場合,「疑問詞と共に用いて」と言ってしまうと,分布を過度に限定することになり,
不適切である。
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現代中国語研究(第 3 期 2001.10)
の位置も主語の位置に含めておく。
[3-17] 画就画吧,画家对自己说,谁叫你他妈吃人家的饭拿人家的钱呢?
[3-18] 国家的?国家让你们他妈骂人来着?
目的語の位置や連体修飾語の位置に在る人称代名詞に{他妈}が後続した用例は未見である。述
目構造と{他妈}の関係は次章において詳しく観察するが,{他妈}が連体修飾語の位置に出ない(例
えば“*我砸了你他妈的车!”とは言わない)のは,“你{他妈}”において“你”と{他妈}が主述
の関係に理解しうることの反映であろうか。“我砸了你丫挺的车!”は成立する(注④参照)。
3.2 指示詞+{他妈}……
指示詞の直後にも{他妈}はよく出る。ここまで来ると,{他妈}はすでに“骂人话”から単なる“脏
话”へと変化している。
3.2.1 这+{他妈}……
[3-18] 我三十了,到现在家无隔夜粮,到处蹭饭吃,这他妈也叫为人一世?
[3-19] 这他妈纯粹是误会!
いずれも反語的用法である。どの用例においても{他妈}直前の“这”に話者の意識が集中して
いることを確認されたい。[3-18]であれば「こんなことで〔クソッ〕……」という感じである。
3.2.2 那+{他妈}……
[3-20] 尽管她拉的是意大利名家提琴,尽管它有几百年的历史,我还是不能容忍那些一串串
指法练习、试音、调弦什么的。那他妈太无主题了……
[4-21] 他倒不图当什么英雄,可要是能三天两头地上报纸、上电视,逮个机会就“太平洋商
贸公司”的牌子往外亮亮,那他妈可比花钱做广告强百倍!
この 2 例は{他妈}の直後に“太、可”という非常に強い成分を含んでいる。「強い」というの
は,発話時の話者の意識の中で文中の他の成分より心理的に大きな比重を占める可能性が高いと
いうほどの意味で理解されたい。文脈しだいで“太他妈……”“可他妈……”という語順も成立
するが,上例において{他妈}が“太、可”に先行し“那”の直後に生起しているのは,発話時の
話者の意識の中で“那”の占める比重が“太、可”を上回ったからにほかならない。[3-20]の“那
他妈……”であれば,「あれは,あんなことは〔クソッ〕……」といった感じである。もしこの
とき,話者が“那”の指示対象に対して無反応で黙認の状態にあり,逆に“太无主题了”によっ
て意識を強く突き動かされたならば,語順は{他妈}を“太”の直後に移動させ,“那太他妈无主
题了”となるであろう(6.1.2 参照)。
3.2.3 哪(儿)+{他妈}……
[3-22] 哪他妈有你这小母夜叉乱掺和的!滚一边去!急了我连你一起抽!
[3-23] 这些老外,全他妈夜里欢,整个儿一个夜猫子!不信您听听去,宏远宾馆那儿,舞厅
一宿一宿地开着,哪儿他妈这么大的精气神!
2 例ともに反語文である。“哪(儿)”が文を反語に仕立てる直接的成分として機能し,{他妈}
はその“哪(儿)”の直後に位置して,反語の語気を強調している。
“怎么+{他妈}……”の実例は未見であるが,“你怎么他妈这么不要脸?”のように使える。
3.3 仮説:刺激源そばだて機能
ここで本章の分析,特に指示詞と疑問詞に{他妈}が後続した表現に対する分析から得られた感
触に基づき,拘束使用の{他妈}の生起と分布に関し以下のような仮説を立てておく。
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“他妈(的)”の文法(杉村博文)
話者の心理状態が粗野モードに入ると,{他妈}が随時噴出可能状態にセットされ,話者
の意識を激しく刺激した成分(以下「刺激源」)の直後に生起する。{他妈}は表現を粗
野なものに変える一方で,話者の意識が集中した対象を炙り出しそばだてる。このよう
な{他妈}の表現機能を「刺激源そばだて機能」と呼ぶ⑥。
粗野モードというのは,中川正之先生にお教えいただいた「マグマの噴出」というアイデアに
ヒントを得ている。例えば,昨今の学生たち(特に男子学生)の場合,心理状態が「躊躇モード」
に入ると「やっぱマグマ」が随時噴出可能状態にセットされ,「……やっぱ……やっぱ……やっ
ぱ……」という言語表現が産出される。{他妈}マグマの噴出に関して言えば,どのような形式で
どの位置に噴出し,それを決める条件はなにかが問題となる。
{他妈}は刺激源に反応して噴出するが,刺激源には真性なものと擬似的なものがある。
[3-24] 这他妈还用问!
[3-25] 这年头谁他妈还看电影啊,全缩家里看电视了。
[3-24]の“这”は真性刺激源であり,“他妈”は話者の意識が“这”の指示内容に対して激し
く反応したことを示す。「そんなこと聞く必要がどこにある!」である。一方,[3-25]の“谁”
は具体的な指示対象をもたない擬似刺激源である。[3-25]の真の刺激源は「映画を観る者がいな
くなった」という事態であり,それを「今のご時世,誰が映画なんか観るものか」と強く反語文
で表現したために,反語文の形成に最も大きな役割を果たした“谁”に刺激源が託されたと分析
できる。以下,特に必要のない限り,刺激源の真性と擬似的を分かたずに論述を進めてゆく。
罵語と刺激源そばだて機能の接点は両者に共通する「激しさ」にあり,{他妈}の人の氏素性を
乱す人身侮辱語(“骂人话”)から具体性の乏しい悪口雑言(“脏话”)へという変質が,意味
的に一定の抽象度が求められる機能語への拡張に大きく道を開いたと考えられる。
3.4 述語+{他妈}……
前節において立てた仮説を念頭に置きながら,
〈述語+{他妈}……〉の使用状況を見てみよう。
述語には動詞・形容詞に加えて,前置詞・判断詞・助動詞・接続詞が含まれる。
3.4.1 述語 他動詞+{他妈}+目的語
述目構造と{他妈}が組み合わされると,{他妈}は述語と目的語の間に割ってはいる。目的語の
後に{他妈}が続くこともなければ,目的語が省略されることもない。また実例で見る限り,下例
[3-30]を除くと,述語はすべて単音節動詞である。
[3-26] 你也太不懂事了!轰他妈我哥们儿,我们多少年没见了?
[3-27] 闭你娘的嘴!再叫我打你!
[3-28] 他妈的,打仗,打仗!今天打,明天打,老打,打他妈的什么呢?
⑦
[3-29] 我知道他不是故意寒掺我的,不然我早把彩票的碎片儿摔他娘的脸上啦 。
[3-30] “我的女儿呢?”“死了!”祥子呆呆的在那里立着,不晓得是自己,还是另一个人说
了这两个字。“什么?死了?”“死了!”“落在他妈的你手里,还有个不死?!”
[3-31] 我哭了,我泪流满面,我才不管他妈的丢人不丢人呢,没出息就没出息,干吗要抑制
自己的泪水?
⑥ 日本語の中に「刺激源そばだて機能」の具体的なイメージを求めれば,「もう克子ったら……自分で呼び
出しといて,遅れて来ないでよね」(赤川次郎『聖母たちの殺意』)の「もう~ったら」などが挙げられる。
⑦ この文は本来“……把彩票的碎片儿摔他娘的他脸上啦”となるべきものであろう。
2
現代中国語研究(第 3 期 2001.10)
[3-32] 到了这时候,还说什么志气不志气,谁有志气,有志气顶他妈屁用,管他妈嫁给谁,
咱只管每天有班车坐就是了!
[3-33] 那篇文章的题目好像叫他娘的什么《“师道”小议》……
ここで 3.3 で立てた仮説を少し修正する。3.3 では{他妈}の出現位置を「刺激源の直後」と表
現したが,これを「刺激源を含む最小構造体の左から二番目の位置」とする(出現位置の揺れに
ついては後述)。この出現位置の文法機能は,主述句では主語に対する説明と紛れ,述目句では
目的語に対する説明と紛れる可能性がある。
〈述語+{他妈}+目的語〉と英語の Shut the fucking door! を比較してみよう。この例の fucking
は形態的に見ても構文的に見ても door にかかる attributive であるが,小学館『ランダムハウス英
語辞典』はこの例に「ドアを閉めろ,ちくしょう」という訳語を付し,fucking をドアの属性では
なく,ドアが開いている状態の属性として認知している。そうすると,Shut the fucking door! は
思考と言語形式が齟齬をきたした事例となるのであるが,認知言語学的には,ドアが開いている
状態を「地」,ドアを「図」と見て,顕著性の高い「図」に「地」の属性が託されたというふう
に説明できよう。〈述語+{他妈}+目的語〉の状況も似たようなものと考えてよい。英語でも中国
語でも,述目の間に,構文上,述語とも目的語とも関係を結ばない形で感嘆詞的成分を割り込ま
せるのは困難である。そこを,連体修飾語を装うことによって解決したと考えればよい。“坐了
一天一夜的火车”と比較されたい。
{他妈}の出現する「左から二番目の位置」というのは,言語横断的な研究対象になるかも知れ
ない。次の英語の例と比較されたい。下線部の出現位置もすべて「左から二番目の位置」である。
[3-34] I'll send your fuckin' captain in L.A. a fuckin' commendation. Now in the meantime, you get
the hell out of my office before I have you thrown out of my goddamn airport! (Matsumoto
1997)
3.4.2 述語 前置詞+{他妈}+目的語
前置詞句と{他妈}が組み合わさると,述目句の場合と同じく{他妈}は前置詞と目的語の間に
割ってはいる。これは前置詞の他動詞的性格からして十分に予測の立つことである。
[3-35] 你当年到广州倒过东西,到他妈公安局检举你去!
[3-36] 滚!永远别再叫我瞧见你,上他妈的这儿找便宜来啦,啊?
[3-37] 你卖你的,我卖我的,有本事就卖,没本事就滚,还拿他妈派出所镇唬谁呀!
[3-38] 没错儿!把我给搁进去啦?跟他妈棺材似的,严丝合缝儿!
[3-39] 你瞧瞧人家这胸怀,我以前还真没看出来,比他妈你强多了!
[3-40] 明说了吧,你们男人知道我们娘儿们的苦处吗?当初你们乔家把我娶过来的时候,白
天,得给我婆婆干活儿,晚上,得给他妈你干活儿,熬我的鹰……⑧
⑧ 以下の例では“他妈”が“给”の目的語“你”の後に出ているが,これは“(给你)(他妈买……)”ではな
く“((给(你他妈))买……)”と切るのが,つまり“你他妈”が一つの構造体を成し,前置詞“给”の目的語になっ
ていると分析するのが正しいと思われる(前置詞句における{他妈}の生起位置の揺れについては後述)。もし“他
妈”が後続の述目構造に含まれる成分であれば,“买他妈两条上吊绳儿”となる。
甲:哎,对了,你帮我买两条烟怎么样?
乙:呸!给你他妈买两条上吊绳儿!(徐星《无主题变奏》)
次の例も“(和)(那(谁他妈))”と切るべきであろう。
让你的美梦和那谁他妈见鬼去吧!(王朔《我是你爸爸》)
5
“他妈(的)”の文法(杉村博文)
前置詞句においては,構成要素の一方である前置詞の文法化が進み語彙的意味が漂白化してい
るため,{他妈}は構造上のみならず意味的にも目的語に依附する比重が強まり,2.1.2 で紹介した
{他妈}の形容詞的用法との区別が困難になる。この点を文法化の進行が顕著な“让”と“把”で
確認しておこう。
[3-41] 会的,会的,他会觉得,自己的命的一半都让他妈的这推土机给推了。
[3-42] 我刚买的一辆崭新的“凤凰 18”,就让他娘的这帮乌龟王八蛋给偷了。
[3-43] 哈哈哈哈!老子那天不只把市里震了,把省里震了,把他妈的全国都震了!
[3-44] 说实在的,我要是告诉他我是副总编的儿子,他得再高八度把他娘的“书、香、门、
第”说上八遍。
“叫”“被”“给”を使った被動文に{他妈}が出た例は未見である。“被”に関して言うと,書
⑨
面語であるという点が{他妈}との相性を悪くしているのであろう 。〈“把”+{他妈}+目的語〉
の用例も珍しく,[3-44/45]の二例を数えるのみである。
3.4.3 述語 判断詞+{他妈}+目的語
⑩
[3-45] 他们是什么?是他妈不懂人事的狗,有娘生没娘教的东西!
[3-46] “嗯——”她拖长声音,又是他妈老一套,“我挺忙的,不过——”
[3-47] 这是他妈的什么意思?她说喜欢我生气的样子是什么意思?
構造主義的分析では,判断詞“是”とその後続の成分とは〈述語+目的語〉の関係にあるとさ
れるが,この解釈は{他妈}が通常の述目句と同じく“是”とその後続成分からなる構造体に割っ
てはいる現象により支持される。上例[3-47]と下例を比較されたい。
[3-48] 我回到家来才发现我的桌子上有1000块钱,这他妈是什么意思?想救济我还是怎么
的?
[3-47]では“什么意思”に刺激源が認められ,「それはどういう〔クソッ〕意味だ……」という
感じで(“是什么意思?”が繰り返されていることに注意されたい),[3-48]では“这”が刺激
源となり,「これは一体〔クソッ〕……」という感じである。
3.4.4 述語 助動詞+{他妈}+目的語
[3-49] 这年头儿,老头儿们说的事儿,能他妈让人家当回事儿,这就不易。
[3-50] 他们敢他妈欺负您,不“炒”他们“炒”谁?
助動詞に{他妈}が後続した用例は,現在のところこの二例のみである。[3-49]だと「まともに
相手にしてもらえるとは〔クソッ〕」という感じであろうか。ここでも,構造主義的分析を踏襲
し,助動詞とその後続成分は述目の関係にあるとみなしておく。下例の“该”は“我”を目的語
とする動詞(ローテーションで~に[…する]番が回ってくる)と判定すべきものであろう。
[3-51] 哦,我的心被这歌声揉碎了,这歌儿该他妈的我唱,该让我用男人的肩膀去挡那世界
的风雨。
3.4.5 述語 接続詞+{他妈}+目的語
⑨ インフォーマントの一人は「“被”を使うような人が“他妈的”を使いますかねえ?」と反応した。つい
でまでに言うと,“被字句”は書面語ではなく,書生語と言った方がよい。学校教育を受けた者の言語には,文
章語のみならず口語にも“被字句”が占める比重は非常に大きく,スポーツ番組の実況中継などにも頻出する。
⑩ 確認強調を表す“是”の後にも{他妈}が出ることがある。例えば:
上回路过你们家,你妈还非给我吃了一个哪,是他妈好吃!(陈建功《前科》)
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現代中国語研究(第 3 期 2001.10)
[3-52] 我说,我要是他妈的知道还找你干什么?
[3-53] 你要是猴急的不行就到山丘上去找一条野狗吧,找不到野狗就找一条野猪,只要他妈
的是一条公的就可以……
接続詞に{他妈}が後続した用例も少ない。このパターンも接続詞を前置詞などと同じく動詞に
準じるものと見て,述目句ふうの理解をするのが,すなわち{他妈}の刺激源を接続詞の目的語に
求めるのが,ネイティヴの語感とも一致する。[3-52]だと「俺がもしもだ〔クソッ〕知っていれ
ばおまえに聞いたりするか」という感じである。
3.4.6 述語 自動詞+{他妈}(+語気助詞)
このパターンの述語は,ほぼ“去”“走”“跑”に限られ,意味特性として[+消失]をもつ。
また“的”を落とすこともない。よって,「来やがれ!」を“*来他妈的!”と言うことはできず,
“他妈(的)”を“你”で導き“你他妈(的)来呀!”とでもするほかない。また,“他”部には“你”
が多く使われる。このパターンは慣用表現として辞書にエントリーされるべきものであろう。
[3-54] 虚假的新美人,虚假的情感出卖者,我愤恨地想,去你妈的吧这个世界!
[3-55] 只有两条路,要么老老实实给人家干,要么去他妈的。
[3-56] “……我以后……一定还你。”“去你妈的!谁让你还了?”
[3-57] 那就干脆,维持会长不干了,先走他娘的再说。
[3-58] 不跑?到村里还有我的命啊,等走到村边的树林子里,冷不防我就跑他娘的。
“去他妈的!”は“去”が本来の意味を保持して「うせやがれ,くそったれ!」という意味を表
す場合と([3-54/55]),“去”が本来の意味を喪失して「バカも休み休みに言え!」と相手の意
⑪
見や申し出を頭ごなしに否定する場合がある([3-56]) 。前者の場合,“去”と同じ意味で“滚
蛋”を使うことができるが,{他妈}を後に従えるのではなく,中に割り込ませることになる。
[3-59] 革命的站过来,不革命的滚他妈的蛋!
[3-60] 谁瞧得起我就在这儿好好儿地呆会儿,瞧不起我就滚他娘的蛋!
後者には,“妈”を落とした“去你的(吧)”という形式も存在する。
[3-61] 去你的吧,哪有时间稿对象呀,一个案子接一个案子的发。
3.5 述語 形容詞+{他妈}……
3.5.1 述語 単音節形容詞+{他妈}
[3-62] 用了六十多年的嘴很奇怪,软软的白薯肉竟然咽不下去。食道像根麻绳,在脖子深处
打了一个结,灌了半飘冷水,水漏下去了,却顶翻了一嘴白薯,噎得他直翻白眼儿,
心想:坏他娘的了!确实坏他娘的了。
このパターンの用例も稀で,上例は収集し得た唯一の用例である。“坏他娘的了!”は“*坏了
他娘的!”とはならない。“坏他娘的了!”という語順が前節で見た“去他妈的吧!”と平行し
ている点に注意しておきたい。
3.5.2 述語 双音節形容詞+{他妈}
[3-63] 嫦娥正手持剪刀修剪花枝,只见她笑着把剪刀往柜台上一拍说:“哼,奇他妈的怪!”
⑪ 本稿とは直接の関係はないが,“去”を“操”として使うことがある。ネイティヴは表現の露骨さを嫌っ
た結果だと言う。
宝康在家里拿着话筒涨红脸大声骂:“去你妈!”林蓓惊诧地从桌前回过头:“你在骂谁?”“去你舅舅,
去你姥姥,去你们家祖宗八代!”(王朔《玩主》)
5
“他妈(的)”の文法(杉村博文)
(……)柳太太话音没落,麻太太就急了,这一急,便莫名其妙地将嫦娥的语言原封搬
了出来。只听她音量很大地叫道:“哼,奇他妈的怪!”
麻太太的粗话让众人十分意外,谁都听出,在麻太太这非同寻常的句式里,饱含
着非同寻常的愤慨。(铁凝《寂寞嫦娥》)
これも収集し得た唯一の用例である。“奇他妈的怪!”の作りは“滚他妈的蛋!”と平行して
いる。
3.6 以上のまとめ
自動詞と形容詞に{他妈}が後続する例は存在しないと言えるほど乏しい。その理由はどこに求
められるであろうか。形容詞の場合を考えてみよう。形容詞の表す事態が{他妈}を呼び起こす刺
激源になりえないということではない。実際,例[3-62/63]が存在する。一般的に言って,形容詞
の表す事態において話者の注意を強く喚起するのは程度と変化,とりわけ程度である([3-62]は
変化の例)。この点は中国語に限って言っても,“真、太、够…的、很、非常、特别……”等,
数多くの程度副詞を有するだけでなく,さらに“~极了、~死了、~得很、~得不得了……”等,
程度を誇張する補語形式を豊富に発達させていることによって裏づけられる。形容詞の表す事態
に突出した程度が観察され,それが話者の意識を激しく突き動かす震源となったとき,〈形容詞
+{他妈}〉ではなく〈程度副詞+{他妈}+形容詞〉という表現が生まれる。中国語の性質形容詞
に課せられた,裸の形では特定対象の特定時における絶対評価を表すことができないという制限
がここに絡んでいる。この制限が存在することによって,例えば「くそ暑い!」なら,“*热!”
ではなく“真热!”や“太热了!”がベースとなり,“真”や“太”を刺激減として“真他妈热!”
“太他妈热了!”ができあがるのである。2.2 で“你太他妈不尊重人!”の直接構成素分析を問
題にしたが,以上の分析に基づき“你((太他妈)(不尊重人))!”をとりあえずの回答としておき
たい。
動詞の表す事件についてもよく似た事情が成立し,動詞の表す動作行為それ自体は決して刺激
源とはならず,刺激源が存在するための舞台あるいは背景として働くにすぎない。目的語を欠い
た〈*他動詞+{他妈}+Φ〉が成立せず,また〈自動詞+{他妈}〉にもイディオム化した〈消失動
詞+{他妈}〉が存在するにすぎない理由はここにある。
3.7
“连”+{他妈}+目的語|“没有什么+{他妈}+……”
“连”も前置詞なので,〈“连”+目的語〉と{他妈}が組み合わされると〈“连”+{他妈}+目
的語〉という語順になる。
[3-64] 我连他妈“茅台”都喝过了,还用这玩意儿来糊弄我?
[3-65] 连他妈造儿子都是个麻烦,这地球上还有什么劲?你说,有什么劲?
“连”を用いた構文は,“连”の目的語として最もありうべからざる選択肢を取り立て,事態の
極端さを強調することが多いが,この構文の本質は事態の極端さの認定それ自体にある。例えば
以下の例は“没敲门”および“没有回头”という行為を極端な事態と認定した結果生まれた表現
であり,“门”や“头”を特に取り立てて強調することを目的としたものではない。
[3-66] 此后,老花农又送过两次花,却没有露面,连门也没敲,而是悄悄把花儿放在门口,
悄悄去了。
[3-67] 女儿走到爹床前,说了声:“爹!我走啦!您保重!”陶虎臣脸对墙躺着,连头都没
有回,他的眼泪哗哗地往下淌。
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現代中国語研究(第 3 期 2001.10)
“门”は“敲”にとって,“头”は“回”にとって,それぞれ唯一可能な目的語であり,決して
他の選択肢との対立から極端な事例として取り立てられたものではない。ここから推して,
“连”
の目的語が極端な事例であるかどうかは述語との組合せによって決まることが分かる。よって,
〈“连”+{他妈}+目的語〉においては,事態の極端さの認定(“连”構文の採用として実現)
こそが真の刺激源であり,“连”の目的語は擬似刺激源であるとみなせる。
“连”構文とは逆に,下例[3-68]に見られる“没有什么……”は「特には大して……ない」と評
価のレベルを落とす表現であり,一見{他妈}の刺激源として相応しくないように思われるが,評
価レベルを落とすという心理過程と,{他妈}が本来的にもつ否定的な意味が呼応しあうのであろ
う,それほど珍しい用法ではない。「特に何も〔クソッ〕大したことはない」くらいのニュアン
スであろう。
[3-68] 算了,没有什么他妈的了不起,不就是让人睡了吗?睡了就睡了,早晚也得让人睡。
3.8 副詞+{他妈}……
{他妈}は多様な副詞に後続する。3.6 で述べた分析を承けて,程度副詞の状況から見てみよう。
3.8.1 程度副詞+{他妈}……
⑫
3.8.1.1 真(是)+{他妈}……
[3-69] 我操!真他妈不易,咱们中国的哥们儿还跑了个第三名。
[3-70] 嘿,你这一套真他妈棒!就冲你这一套嘿,我没白来,我来得不冤!
[3-71] 你还别说,我这个脑袋还真他娘的挺值钱。
3.8.1.2 太+{他妈}……
[3-72] 这可太他妈不把人当人啦!
[3-73] 我算知道愚公怎么移山了,太他妈伟大了!兄弟,咱们走!
[3-74] 我服了费雯丽了,摸电门找感觉,太他妈的专业啦!
〈程度副詞+{他妈}……〉では“真+{他妈}……”と“太+{他妈}……”が群を抜いて多い。“真
(是)……”と“太……”と“他妈的……”の三者が同時に生起すると,“真(是)+{他妈}+太…
…”という語順になるが,これは唯一可能な語順である。
[3-75] 真是巧,真他妈的太巧了!
[3-76] 这件事真是他妈的太糟心啦!
3.6 で{他妈}と程度の接点について認知的角度からの分析を試みたが,大量の“真/太+{他妈}
……”の存在はその分析を支持する根拠となるであろう。それをここでもう一度繰り返せば,形
容詞(的語句)の表す状況と{他妈}が結びつくには,刺激源となるべき分析的に表現された激しい
程度の仲介が必要であるということである。
3.8.1.3 挺+{他妈}……(的)
[3-77] 夜很深了,餐厅里飘着一支外国名曲,好像是《一路平安》吧,挺他妈的催人泪下的。
“挺……(的)”が表す程度は{他妈}の刺激源となるほど強くなく,用例は少ない。
3.8.1.4 够+{他妈}+……+的
[3-78] 他这个德性已经够他妈流氓的了。
[3-79] 我还不至于把脑袋扎进胳肢窝儿里去对奖号,可就这副德性……,这也够他娘的恶心
⑫ 成立に障害があるとは思えないのだが,“(还)真有点儿”が{他妈}の刺激源となり,“(还)真他妈有点儿
……”となった例は未見である。
5
“他妈(的)”の文法(杉村博文)
的啦!
“够……的”と“真……”と{他妈}が一つにまとまると,“真+{他妈}+够……的”という語順
になる。
[3-80] 一阵小风透着阴劲吹来,真他妈够冷的。
3.8.1.5 多+{他妈}……
[3-81] 让这么大的官越过好几层,找一个治安民警替你出气?没劲没劲,多他妈小人啊!
3.8.1.6 更+{他妈}……
[3-82] 所以,比起昨天来,更他娘的觉出了一种实实在在的耻辱啦。
絶対程度副詞のうち“很、非常、特别、十分、相当”に{他妈}が後続した用例は未見である。
これらが書面語であるということに加えて,“很”以外は二音節語であることも{他妈}との相性
を悪くしている原因であろう。“很”に関しては,虚化が激しく必ずしも高い程度を表すもので
はないという指摘と暗合する現象であるかもしれないが, “挺”と{他妈}が共起した用例がある
ので,やはりフォーマルな“很”と徹底的に口語的な{他妈}はミスマッチなのだろう。
相対程度副詞では“最{他妈}……”と“顶{他妈}……”が未見である。
3.8.2 連接副詞+{他妈}……
ちょっと意外な感じがするかも知れないが,“就、才、再、又、也、都、还”など単音節の接
続副詞もしばしば{他妈}の刺激源となる。それは,接続副詞が叙述を論理的に展開するための強
力な手段であり,事態の発展に対する話者の主観的な認識を直接的に反映できる成分だからであ
ろう。
3.8.2.1 就+{他妈}……
⑬
[3-83] 没出息就他妈没出息吧,我哭了。
[3-84] 纯粹为虚荣撒谎就他妈不大值得了,也许这是出于她的天性?
3.8.2.2 才+{他妈}……
[3-85] 他可是有前科的主儿,干这么一档子,不逮进去才他妈怪了!
[3-86] 我的手臂和大腿变幻出各种不可思议的奇妙动作,我才他妈的不是跳舞呢,我是宣泄
生命。
“才不是……”と{他妈}は相性がよく,[3-86]のようにしばしば共起する。
3.8.2.3 再+{他妈}……
[3-87] 操,兴许我还靠您壮了胆儿,出去再逮俩持枪抢劫的回来,再他妈当一回英雄呢!
[3-88] 再他娘的没人管,过不了一分钟,那女的说不定还真得让起哄的人给劈啦。
下例の“他娘的”は“再花这冤钱”ではなく“我”を刺激源としている。
[3-89] 我他娘的再花这冤钱,都不是人!
3.8.2.4 又+{他妈}……
[3-90] 天呐,又他妈来了。
⑬ “就”には“就你眼尖!”のように直後の成分をピンポイント的に限定指示する用法があり,前置詞とみな
す処理方法も考えられる。また,“就你眼尖!”に{他妈}が絡むと,“就他妈你眼尖!”とも“就你他妈眼尖!”
とも言えるが,両者の意味的な違いを把握することはネイティヴにとっても困難である。
就他妈你眼尖!不就跟一个老黑过去了吗?(陈建功《耍叉》)
就你他妈的能,你知道让女的去干什么吗?(刘庆邦《屠妇老塘》)
2
現代中国語研究(第 3 期 2001.10)
[3-91] 听听,又他妈的开炮了!你闹,闹!明天开得了张才怪!
3.8.2.5 也+{他妈}……
[3-92] 外国人?火星人也他妈照样排队!
[3-93] 你当是咱们低贱呢?闯开脸儿干呀,咱们也他妈的坐几天汽车!
3.8.2.6 都+{他妈}……/全+{他妈}……
[3-94] 都他妈滚!
[3-95] 男人在这方面都很坏,男人在这方面都他妈的不是东西。
[3-96] 这些老外,全他妈夜里欢,整个儿一个夜猫子!
[3-97] 我说,要那么着,倒简单啦,把作家全他娘的逮起来,世界就干净啦!
[3-98] 都他妈恋爱两年啦,还要我离远点儿,太残酷了吧。
“都、全”に{他妈}が後続する用例は非常に多く注目に値する。[3-97]において,もし作家とい
う存在が刺激源となり作家を罵るのであれば,“把他娘的作家全……”となるが,この文におけ
る刺激源は“全(逮起来)”にある。「作家をな,ぜーんぶ〔クソッ〕しょっ引いてしまえば……」
という感じである。
3.8.2.7 还+{他妈}……
[3-99] 这帮小子,怎么还他妈不跑回来?
[3-100] 操,是你妈的馅儿饼好吃还是大牢里的窝窝头好吃啊,说!上回还他妈没吃够啊?
[3-101] 哟!还他妈的带鸡蛋来了呢!
事態の展開に対する認識,すなわち事件と事件の間に存在する関係をいかに認識したか,以上
の諸例においてはそれが話者の意識における真の刺激源であり,それを標的として,擬似刺激源
となった接続副詞に{他妈的}が付加されたことはほとんど直観的に理解できる。[3-83]だと「根
性なしだと,それならばだ〔クソッ〕根性なしでいい」,[3-85]だと「ブタ箱に放り込まれなけ
れば,それこそだ〔クソッ〕おかしなことになる」,[3-92]だと「火星人でもだ〔クソッ〕並ぶ
のは同じだ」といった感じである。
刺激源として,事件における「参与者」,状態における「程度」に対応して,二つの事件にお
ける「関係」が存在し,焙り出される。実例で示せば以下のようになる。
ⅰ.事件〈参与者〉:{这他妈}纯粹是误会! /
呸!我{给他妈你}买两条上吊绳儿!
ⅱ.状態〈程度〉:嘿,你这一套{真他妈}棒!
ⅲ.二つの事件〈関係〉:没出息{就他妈}没出息吧,我哭了。
なお,実例で見る限り{他妈}の使用は一文につき一個に限られるようである(後述)。
3.8.3 禁止副詞
禁止副詞,中でも口語的な“别”にはよく{他妈}が続く。“不要+{他妈}……”は未見である。
3.8.3.1 别+{他妈}……
[3-102] 别他妈叫我爸爸,我烦了!我腻了!我累了!
[3-103] 别他妈给我装蒜!你当我不知道呐?
以上二例ではいずれも“别”が“他妈”の刺激源となっているが,下例[3-103]では文頭の“你”
が“他妈”の刺激源となっており,「おまえなァ〔クソッ〕……」という感じである。
[3-104] 你他妈别胡扯!
3.8.3.2 甭+{他妈}……
5
“他妈(的)”の文法(杉村博文)
[3-105] 滚蛋,你以后甭他妈再来找我们!
[3-106] 今儿这事,你们若是谁给抖搂出去,就甭他妈在这儿摇煤球了。
3.8.3.3 少+{他妈}……
[3-107] “停手!”我一声喝,吓了她一跳,缩回手,“少他妈动我!……”
[3-108] 少他娘的说废话,去拉大炮!
下例と刺激源の違いを比較されたい。
[3-109] 你他妈的少跟我废话!
3.8.4 否定副詞
否定というのはすぐれて強い意識の作用であり,刺激源となる理由に欠けるとは思えないのだ
が,禁止命令以外の状況で,否定が刺激源となる状況は存在しにくいようである。否定副詞に“他
妈的”が後続した用例はきわめて乏しく,特に“不他妈的…”の用例は次の一例のみである。未
然の事態の否定には刺激源が見いだしにくいということなのであろうか。
[3-110] 有个不知憋的什么邪火儿的小子在人圈中跳着脚地骂:“怎么不他妈再搞文化大革
命!”
3.8.4.1 没+{他妈}……
[3-111] 我想知道你叫我出来说的那件好事是什么,我怎么没他妈瞧出有什么好事!
[3-112] 她骂了我一顿,为你。我还没他妈叫人这么侮辱过呢。
3.8.4.2 差点儿(没)+{他妈}……
[3-113] 蓦然,我像被一股强大电流击身一样哆嗦了一下,手中的盘子差点儿他妈的翻在地上。
[3-114] 我心里难过得要命,就差点儿没他妈的哭出来啦,真是倒霉透顶。
3.8.5 その他の副詞
以下,収集しえた他の〈副詞+{他妈}……〉を列挙し,簡単なコメント付す。
3.8.5.1 快+{他妈}……;早+{他妈}……
[3-115] 快他妈走哇,去晚了可没座儿啦!
[3-116] 我一走进剧场,眼泪差点掉出来,快他妈的半年没登台了吧,我突然感觉到血液里好
像注入了新的生命。
下例と比較すれば,上二例では“他妈”が直前の“快”を刺激源としていることが鮮明に読み
とれる。
[3-117] 郭普云,你他妈快划拉一个配偶吧!
3.8.5.2 准+{他妈}……
[3-118] 我心里说,谁要是娶了罗丹,准他妈幸福。
[3-119] 这年头兴这个,不是大秃瓢就是长头发。平时活得挺压抑,谁要是跳点糙舞、唱点野
调,准他妈的火起来。
“准”よりもフォーマルな“一定”に{他妈}が続いた例は未見である。
3.8.5.3 可+{他妈}……
[3-120] 现在可他妈好,别说出操,就连吃饭人们也爱搭不理的。
“可…”と“真…”と{他妈}が一つにまとまると,“可+真+{他妈}……”という語順になる。
[3-121] 这倒还在其次。要命的是,我又一次在老爷子面前“栽”了,“栽”得可真他妈惨!
3.8.5.4 非+{他妈}……(不可)
2
現代中国語研究(第 3 期 2001.10)
[3-122] 她一边照镜子,一边拍打自己的脸,心想明天我非他妈跳绳不可!
[3-123] 我也想把霹雳这玩艺和民间舞摇滚到一块儿,可我们团那帮子鸟人非他妈的说我不尊
重传统艺术……
比較されたい。
[3-124] 你他妈的非让老娘动手呀!
3.8.5.5 到底+{他妈}……
[3-125] 到底他妈有没有电视呀?
3.8.5.6 整个儿一个+{他妈}……
[3-124] 我爱塔不理的,整个儿一个他妈的假深沉。
3.8.5.7 乱+{他妈}……/瞎+{他妈}……
[3-125] 你不好好儿骑你的车,乱他妈拐什么?
[3-126] 你也是瞎他妈折腾,怎么搂不着钱,憋那份坏,媳妇也没了。
[3-125]では“不好好儿……”をうけて“乱……”が使われており,刺激源が“乱”にあること
がわかる。比較されたい。
[3-127] 你他妈乱撞什么,瞎了?
3.8.5.8 尽+{他妈}……;净+{他妈}……
[3-128] 尽他妈瞎、瞎、瞎胡闹!
[3-129] 你说这人,放着好好的人行道不走,跟走他们家菜地似的,净他妈瞎掰,这车,有法
儿开吗?
3.8.5.9 早+{他妈}……
[3-130] 我不跟你废话。我知道,废话对你早他妈没用啦。
[3-131] 咱们在明处,人家在暗处,远远地看到咱们,还不早他妈的跑了?
3.8.5.10 已经+{他妈}……
[3-132] 兔崽子嘴角倒还咧着,颧骨上的肉已经他娘的冻住啦。
3.8.5.11 老+{他妈}……
[3-133] 她非问我你是干什么的,操!老他妈信不过我,老想管着我,逼急了老子蹬了她!
[3-134] 或许也能坚持些日子,可管着诺贝尔那笔钱的那帮家伙们,老他娘的不把余光扫过来,
你还能坚持多久?
3.8.5.12 总是+{他妈}……
[3-135] 他总是他妈帮倒忙!
3.8.5.13 先+{他妈}……
[3-136] 我早想了,我要是发了财,先他娘的把我们家房给换了,就他妈这狗地方,是人呆的
吗!
3.9 メタ言語述語+{他妈}……
直前の文脈に現れた特定の成分に対して否定的感情を爆発させるとき,当該成分をそのまま繰
り返して{他妈}を続けることがある。この場合,当該成分はメタ言語的に使用されており,成分
本来の品詞性は問題にならない。
[3-137] 这时,电话筒里传出了“喂,喂”的声音,他才想起自己没挂话筒,冲着电话大喝一
声:“喂他娘的!”啪地把话筒挂上了。
5
“他妈(的)”の文法(杉村博文)
[3-138] “你还没见乡长、书记们吧?”李云突然转身冒了一句。我点点头,说大概他们很忙。
“忙?忙他妈!这下你就知道了,像你们这样的干部来了,不但不用换橱窗,头头们也
不待见你。”
[3-137]は「なにがもしもしだ(くそったれ!)」,[3-138]は「忙しい?なにが忙しいだ(く
そったれ!)」という意味である。[3-138]は“他妈的”が“的”を落として文末に現れた珍しい
例で,現時点で収集できたのはこの一例のみである。
四
結び
われわれの思考がいきなり文(sentence)という形に組織されることはない。意識の中で「なにか」
が明滅を開始したとき,われわれの思考はまずこの「なにか」を構成する成分(通常,複数)を
語彙のレベルで捕捉し概念化(言語化)しようと努める。そして,それに成功した時点で「なに
か」は明確な形を取り始め,同時進行的に各構成成分の肉付けへと進む。句(phrase)形成のレベ
ルである。
句は文を構成する基本的モジュールであり,構文範疇(syntactic category)として心理的に実在す
ること(psychologically realistic)も明らかにされている。口語における発話は断片的であることが
常態であるが,それぞれの断片は句レベルの成分で構成されている⑭。句を生成する規則はきわめ
て単純である反面,固定的でほとんど変化の余地をもたない。句生成規則からの逸脱はそのまま
非文法的な表現となる。
構造的観点から言えば,われわれが文と呼ぶ単位は,順不同に生じたいくつかの句を語用論の
要求に適合させつつ組織しなおしたものにすぎない⑮。Pinker(1995)は「非文法的な文の割合が最
も高かったのは学術会議の議事録だった」という Labov の調査を紹介しているが,これを好意的
に解釈すれば,研究者たちの思考の複雑さと表出を待つ情報量の多さに,文法的整形が追いつけ
なかった結果だと言えるかもしれない。
本稿が取り上げた拘束用法の{他妈}は句のレベルで文構造に組み込まれる⑯。{他妈}が組み込
まれる句には話者の意識を強烈に刺激する成分(刺激源)が存在する。通常,刺激源は句の先頭
(左端)に立ち,{他妈}はその直後,即ち句の左から二番目の成分として現れる。刺激源の存在
と{他妈}の生起は原因と結果の関係にあるため,刺激源が先行して現れ{他妈}がそれに続くのは
認知言語学で言う iconic sequencing に合致している。また,刺激源が構造体の先頭に現れがちな
のも,顕著性の序列から見れば iconic であると言えるだろう。
本稿における刺激源の認定は感覚的で,妥当性を主張する客観的手続きが示されておらず,今
後の課題として残るが,現時点ではそれよりも{他妈}の句中に割り込むという動きのほうが重要
であろう⑰。この現象は,もし{他妈}が句頭や句末に出れば,句のより大きな展開の障害になる
⑭ 句の上位単位である文に一語文(one word sentence)が認められている以上,当然のことながら,句も一語か
ら構成され得る。
⑮ 杉村博文(1998),第 5 章参照。
⑯ {他妈}が句レベルで文構造に組み込まれるということは,もし文が複数の句から構成されていれば,一文
中に複数の{他妈}を含み得る可能性を示唆する。例えば“我他妈给他妈你买他妈两条上吊绳儿!”このような表
現について,複数の中国語話者からその“可接受性”を確認しているが,実例は未見である。
⑰ 勿論,主語の後も主述句という大きな尺度を採れば句中であり,主語に後接する{他妈}が自由使用である
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現代中国語研究(第 3 期 2001.10)
可能性が生じ,また{他妈}の感嘆詞用法と紛れる可能性が生じることから,構文システム全体を
うまく同調させるため,語順の調整が行われた結果であると考えられる。前置詞句,“谁也/都…
…”,“还没……”等には{他妈}の位置の不確定性が見られるが,不確定性はいずれも句末が文
末にならない条件下で生じている(例えば“给他妈你买……”と“给你他妈买……”)。自動詞
や形容詞の後方は句末即ち文末となるため,句のより大きな展開の障害になるといった制限は存
在しないが,それでも“去你妈的吧”“坏他娘的了”“奇他妈的怪”“滚他妈的蛋”などでは,句
の左から二番目の位置に現れていると見ることも可能である。
Fraser(1971)によると,意外性と極端性を表す英語の even はその作用域となる構成素の直前に
生起するのが基本であるが,文全体が作用域となる場合は,直前(即ち文頭)にではなく,主述
の間に置かれる。そして,文頭に置かれた even は後続する文全体ではなく,直後に生起する主語
のみをその作用域とする。これは強制的な狭義の文法(即ち syntax)に属する語順の調整である。
また,目的語(前置詞の目的語を含む)を作用域とする even は,目的語あるいは前置詞句の直前
に生起することもあれば,左方に移動し述語の直前に生起することもある。これは任意的な広義
の文法(即ち pragmatics)に属する語順の調整である。おそらくどの言語においても,構文レベ
ルではシステム全体の同調維持のために,語用レベルでは情報供給方略のために,綜合的に語順
の調整を行うメカニズムが存在するものと思われる。
*本稿は京都中国語学サークル(2000 年 9 月 30 日),日本中国語学会第 50 回大会(2000 年 10 月 28-29 日)にお
ける口頭発表に加筆訂正を施したものである。発表に対し貴重な意見を頂戴した諸賢に謝意を表したい。
主要参考文献
Bruce Fraser 1971, An analysis of ‘even’ in English, Studies in Linguistic Semantics, Holt, Rinehart and Winston,
Inc.
Stephen R. Anderson 1972, HOW TO GET even,LANGUAGE 48.
John Lyons 1977, Semantics 2, Cambridge University Press.
Steven Pinker 1994, Language Instinct, William Morrow and Company, New York.
Emiko Matsumoto 1996, A Contrastive Study of Japanese and English Ironical Expressions, KANSAI
LINGUISTIC SOCIETY, 16: 100-110.
陆俭明(1980),汉语口语句法里的易位现象,《中国语文》1980 年第第 1 期。
朱德熙(1982),语法讲义,商务印书馆,北京。
袁毓林(1993),语言学范畴的心理现实性,《汉语学习》1993 年第 4 期。
胡士云(1997),汉语骂人话简论,《中国語学論文集》,東方書店,東京。
大河内康憲(1997),中国語の悪態・罵語,《中国語の諸相》,白帝社,東京。
杉村博文(1998),文法―データ・分析・記述・生成,《現代中国語学への視座》,東方書店,東京。
か,それとも拘束使用であるのか慎重に見極めなくてはならないが,韻律的特徴を基準に取れば判定はそれほど
難しくないと思われる。
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