賦課期日間際の建物の完成と課税について - JIAM 全国市町村国際文化

平成 27 年度政策・実務研修(JAMP 共同実施研修)レポート優秀作
固定資産税課税事務(家屋)
賦課期日間際の建物の完成と課税について
長崎県佐世保市財務部資産税課
生駒
祐人
家屋の課税において、その家屋がいつ完成し課税の対象となるか判断することは非常
に重要だ。固定資産税においては、賦課期日(1月1日)に固定資産を所有することによ
り、固定資産税の納税義務が成立することになる。
家屋の完成の判断が賦課期日前か後かの判断で、1年課税が早まるかが決まるため、
納税義務者も家屋の完成の判断については神経質になるものだろう。
課税側としては、納税義務者が納得する形、若しくは説得できるだけの根拠をもって
家屋の完成を判断しなければならない。
今回は賦課期日付近の家屋の完成と納税義務者の判断について考えていきたい。
佐世保市では、建築確認申請の家屋の完成予定日を確認し、賦課期日前に完成するか
どうかわからない家屋については、年末に工事の進捗状態を確認することによって家屋
の完成を判断している。家屋の完成の判断については、実際に入居し使用を始めていれ
ば判断がしやすいが、外構工事が未了ながらも内装工事が完成している場合は課税の対
象としてよいか判断が難しい。
一般的な判断の基準として、その家屋が登記物件であれば、登記原因日とされた新築
の年月日が完成時期と推定されるが、まれに完成していないのにも関わらず新築登記を
する例もあるということで、この日付は必ずしも信用できるわけではない。
実務上家屋の完成時期の認定については、昭和 59 年の最高裁判決を参考に取り扱う
こととされている。その内容は、「固定資産税は、家屋等の資産価値に着目し、その所
有という事実に担税力を認めて課する一種の財産税であるところ、新築の場合は、一連
の新築工事が完了した段階においてはじめて家屋としての資産価値が定まり、その正確
な評価が可能となるべきものであるから、新築の家屋は、一連の新築工事が完了したと
きに、固定資産税の課税客体となると解するのが相当である。」というものである。
今回の研修で他市町村に賦課期日間際の建物の完成の判断について聞いてみたとこ
ろ、年末に外構や内装の工事まで完了していても、業者から購入者への引き渡しが完了
していなければ、次年度での課税を行わないという市町村がいくつか見られた。
そのような市町村の判断としては、建物自体が完了していても、建物の引き渡しがさ
れていなければ、住居としての用途性を認めないため次年度での課税はしないというこ
とだった。
しかし、上記の一連の工事が完了したときに課税客体となるということであれば、12
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月 31 日までに外構や内装工事が完了していれば、引き渡しが完了していなくても課税
客体となってしかるべきだと思われる。一連の工事が完了していれば、住居としての利
用は可能になるということであり、入居していないというだけで住居としての用途性は
備えていると言えるだろう。
年末時点で工事は完了していて、引き渡しがすんでいない家屋を次年度で課税すると
して、問題となることはその家屋の納税義務者が誰になるかということである。
その家屋が登記済みの家屋であれば登記の名義人に課税して差し支えないだろうが、
未登記家屋だった場合その判断は難しいだろう。引き渡しが住んでいないのであれば、
引き渡しをうける予定の人を賦課期日時点の所有者として納税義務者とするのは疑問
が生じる。引き渡しがすんでいないのであれば、賦課期日時点での所有者は施工業者と
いうことになり、納税義務者も施工業者になると解釈するべきだと思われる。
今回の研修資料によると、建物新築工事請負契約と所有者認定については以下のとお
りである。
請負により完成した建物の所有権の帰属先は、特約がない限り、基本的には請負人と
注文主のどちらかが材料を提供したかによって決まる。
注文主が材料の全部又は主要な材料を使って完成した場合は、完成したときから注文
主の所有となる。
請負人が自己の材料の全部または主要な材料を使って完成した場合は、ひとまず請負
人が所有権を取得し、引き渡しによって注文主に所有権が移転する。
ただし、この場合でも、工事完成前に注文主が請負代金を請負人に支払ったときは、
完成時から注文主の所有とする合意があったものとすると推定される。
上記を根拠とすれば、通常の専用住宅の新築時においては、請負契約の形態にもよる
が、多くの場合は代金の支払いは建物が完成し、引き渡しを受けてから支払いがされる
と思われるので、納税義務者となるのは施工業者ということになる。
以上のことをまとめると、家屋の完成の判断としては、一連の工事が完了したときで
あり、外構工事が多少完了していなくても、居住が可能な状態であれば課税の対象とな
りうる。
また、納税義務者の判断としては、物件が登記されていれば登記の名義人であり、未
登記家屋であれば、賦課期日時点で引き渡しが終わっていなければ基本的に施工業者が
納税義務者となるべきだろう。
上記にまして大事なことは、そのような家屋があれば確実に把握し、賦課期日を過ぎ
る前に業者等に完成の時期を確認して年内に工事が完了していれば引き渡しがすんで
いなくても課税の対象となりうることを伝えることだろう。
賦課期日を過ぎてしまってからそのことを伝えても後出しのような感じを受け納税
義務者としても抵抗感が強まってしまうだろう。賦課期日前に次年度課税される事実を
事前に説明しておいた方が納得はしやすいと思われる。
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税金を賦課する立場としてスムーズに業務を進めていくために、納税義務者とのトラ
ブルは極力避けていきたいものである。課税される立場になり、どのようなことが相手
に不快感を与えるのか考えながら、慎重に対応できるよう心がけていきたい。
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