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「資料6」
世界金融市場の不安定性:
ギリシャ悲劇第3部をどう理解するか?
国際金融経済分析会合
2016年3月17日
日本経済研究センター理事長
岩田一政
Ⅰ.世界の4大リスク
1.2015年半ばから世界の株式時価総額が15兆ドルも減少する
「ギリシャ悲劇第3部」が開始されたのは、4つのリスクが世界経済
を覆っているからだ。
(1)アメリカの利上げプロセス(長期にわたる超緩和政策の巻き
戻し)と景気後退リスクの浮上。
(2)中国を中心とする新興国の成長減速と人民元大幅切り下
げおよび企業の累積債務による破綻リスクの浮上(アジア通貨
危機の記憶)。
(3)原油を中心とする一次産品価格の急落とハイイールド債価
格急落リスクの浮上(ロシア通貨危機の記憶)。
(4)ユーロ圏における銀行部門の不良債権処理の遅れやアメリ
カの自動車サブプライムローンや学生ローンの延滞率上昇によ
る金融リスクの浮上(ユーロ危機の記憶)。
1
図1.世界の株式時価総額
80
(兆ドル)
2015年5月末に過去最大
(約71兆ドル)を記録
アジア太平洋
欧州・アフリカ・中東
70
世界
世界
68
50
66
40
64
30
62
20
60
10
58
0
06/01
(兆ドル)
70
北米・中南米
60
72
(月次)
08/01
10/01
12/01
14/01
56
16/01
16/01 15/04
(月次)
15/1016/01
(資料)国際取引所連合
2
図2.新興国の企業債務
14
【中国】
(兆ドル)
14
企業債務残高
株式時価総額
企業債務残高
12
12
10
10
8
8
6
6
4
4
2
2
(暦年)
0
06
07
08
09
10
11
【その他新興国】
(兆ドル)
12
13
14
株式時価総額
(暦年)
0
06
07
08
09
10
11
12
13
14
(資料)IMF, Global Financial Stability Report, Oct. 2015
3
Ⅱ.長期停滞と
マイナスの「自然利子率」
1.ギリシャ悲劇第3部は、世界経済の弱い回復力、潜在成長率の
低下(人口減少と低い労働生産性の伸び)、低いインフレ率、そし
てマイナス領域が拡大しつつある低金利を背景として進行している。
‐ 先進国の長期実質金利は、長期的な低下傾向が持続し、ゼロ
近傍にある。先行きの成長率低下を示唆している。
‐ 日本のみならずアメリカ、イギリスにおいても、貯蓄 ‐ 投資バラン
スを望ましい形で回復させる実質金利(「自然利子率」)は、マイ
ナスの領域まで低下している。
2.名目金利がゼロ%まで低下した場合には、中央銀行は「インフ
レ期待」を高めるか、または「マイナス金利政策」を採用し、実質金
利を「自然利子率」以下にする必要がある。
4
図3.世界の長期実質金利は低下
7.0
(%)
日本
6.0
米・英・独・仏(単純平均)
5.0
4.0
3.0
2.0
1.0
0.0
(暦年)
-1.0
85
90
95
(注)日本は消費税率引き上げの影響除く。
(資料)財務省、日本銀行、OECD
00
05
10
15
15
5
図4.労働生産性の国際比較
10
(前年比、%)
5
【日本】 0
-5
1995-99年平均: 1.1%
2001-10年平均: 1.0%
2011年以降平均: 0.4%
-10
5
(前年比、%)
【米国】 0
1995-99年平均: 2.2%
2001-10年平均: 1.5%
2011年以降平均: 0.7%
-5
5
(前年比、%)
【英国】 0
-5
1996-99年平均: 1.9%
2001-10年平均: 1.0%
2011年以降平均: 0.9%
95:1
97:1
99:1
01:1
03:1
05:1
07:1
09:1
11:1
13:1
(資料)内閣府、総務省、米商務省、米労働省、Office for National Statistics (UK); Eurostat
15:115:4
(四半期)
6
図5.日本の「自然利子率」
と実質金利
6.0
(%)
5.0
自然利子率
4.0
実質金利
3.0
2.0
1.0
0.0
-1.0
-2.0
(四半期)
-3.0
85:1
90:1
95:1
00:1
(資料)日本経済研究センター金融研究班による推計
05:1
10:1
15:3
15:1
7
Ⅲ.日本の政策対応
1.デフレ克服と長期停滞打破を目指す日本の望ましい政策対応は、
(1)金融政策においては「マイナス金利政策」の採用と(2)「自然利子
率」をプラスの領域に引き上げることである。
2.「自然利子率」をプラスの領域に引き上げるためには、(1)人口減
少に歯止めをかけ、出生率を1.8まで高める(子育て費用は8兆円
必要)。(2)(IoT+Big Data+AI)などの技術革新を通じて労働生産
性水準(=交易条件が変化しなければ実質賃金水準)を倍増すること
が求められる。
3.フィンテックなど新たな技術革新の象徴として、東京オリンピックを
控え「キャッシュレス社会」構築を目指すこととする。
4.財政政策については、「質の高いインフラパートナーシップ」(110
0億ドル)をG7の協調行動として位置付け実施する。
‐ OECD試算では、「インフラ投資協調行動」として実施した場合に
は、政府債務・名目GDP比率は低下する。
8
Ⅳ.キャッシュレス社会構築で
技術革新の加速を
1.キャッシュレス化は、国民の誰もが実感できる利便性・安全性
を実現。膨大な消費データは産業界や地域経済への新たな刺激
になる(ビッグデータ分析)。
2.政府も、クレジットカードの利便性向上、仮想通貨関連の法整
備、訪日外国人向けのサービス高度化等、取り組みを開始。
3.北欧はさらに積極的。デンマークは小売店等が現金受け取りを
拒める新制度を施行準備中。日本もキャッシュレス化を。
4.ICTの活用が鍵。ビッグデータ・仮想通貨・スマートコントラクト
等の技術革新で、世界で新ビジネス(ユニコーン企業)が誕生。技
術革新を支えるソフトウェア投資の拡大は経済成長に寄与(2030
年度には実質GDPが70兆円増加、同年までに500万人強の雇
用創出)。
9
図6.ソフトウェア投資の拡大による
実質GDPの押し上げ効果
650
(兆円)
636
標準シナリオ
ICT投資加速シナリオ(15~30年度にICTへの投資を60兆円追加、
うちソフトへの投資が50兆円)
600
2030年度には
GDPが70兆円増加
予測
565
550
(年度)
500
2010 11
12
13
14
15
16
(資料)日本経済研究センターによる試算
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
10
Ⅴ.OECDインフラ投資協調行動
アジア太平洋における「質の高いインフラパートナーシップ」
 「今後5年間に1100億ドル(約13兆円)」(安倍首相)
 2015年5月の「アジアの未来」(日経新聞・JCER主催)で発表
 これを、OECD提案の「国際的インフラ投資」の一環として位置付け
【図7.全OECD諸国がGDP0.5%分の公共投資を追加したときの効果】
【GDPへの効果】
1.0
(GDP比、%)
【公的債務への効果】
0.0
0.8
-0.5
0.6
-1.0
0.4
-1.5
0.2
-2.0
0.0
-2.5
日本
米国
欧州 カナダ 英国
世界
(資料)経済協力開発機構(OECD)『経済見通し(2015年11月)』
(GDP比、%)
日本
米国
欧州
カナダ
英国
11
(参考)「影の利子率」
1.実質金利がマイナスとなる場合には、現金保有によりマイ
ナス金利を回避できる「オプション価値」が発生する。
‐ この「オプション価値」を測定することにより「影の利子率」
を測定できる(「影の利子率」=名目金利-現金の「オプ
ション価値」)。
‐ 日本は、ゼロ金利に直面した1990年代半ば以降「影の利
子率」はマイナス領域に陥り、足元ではマイナス1%程度で
ある。
2.「影の利子率」を貯蓄-投資バランスを望ましい形で回復
させる金利と解釈する場合、デフレを克服するためには政策
金利を足元の「影の利子率」の水準まで下げる必要がある。
12
図8.日本の「影の利子率」とインフレ率
2.5
(%)
影の利子率
2.0
コアCPI(生鮮食品を除く総合)
1.5
1.0
0.5
0.0
-0.5
-1.0
-1.5
-2.0
(月次)
-2.5
01/01
03/01
05/01
07/01
09/01
11/01
13/01
15/0116/01
(注) 消費税率引き上げの影響除く。
(資料)日本銀行、Bauer and Rudebusch(2016)に基づき、日本経済研究センター金融研究班推計
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