建物・部位・建材のエネルギー性能 首都大学東京 教授 永田 明寛 エネルギー性能評価に係る厄介な問題のひとつに表示方法に関する問題が ある。建物のエネルギー使用量は規模による違いが大きいため床面積当たり の値にしたエネルギー強度(原単位)が広く使用されている。一般的には得ら れる便益に対するエネルギー使用量の比(エネルギー効率)であり,人数,生 産高など分母は種々有り得る。建設地や建物用途によってもバイアスが生じ るがこれを解決する手法として参照建築(レファレンス・ビルディング)法が あり建築の省エネルギー基準で採用されている。標準気象条件,標準使用条 件のもとで,標準建物仕様と対象建物仕様のエネルギー使用を算出し,その 比で評価するというものであるが, 「標準」決定に際し公正性をいかに確保す るかが課題となる。 これまで建材ではこのような問題は顕在化しておらず,例えば熱性能であ れば断熱性能や遮熱性能などの物理的な性能指標を独立に評価しておけば基 本的に良かった。しかしながら,現在,部位や建材に対してもエネルギー性能 表示のニーズが高まりつつある。建材試験センターが実証機関を務めている 環境省環境技術実証事業ヒートアイランド対策技術分野(建築物外皮による 空調負荷低減等技術)では,対象技術(窓フィルムなど)を標準建物に適用し たときの効果をみている。また,日本建材・住宅設備産業協会で策定中の窓 のエネルギー性能評価法 JIS 原案でも同様に標準建物を設定して評価しよう としている。部位や建材のエネルギー性能を定義しようとすると対象以外の 部分について標準仕様を定めざるをえないのである。また,建設地や建物用 途のほか適用位置によっても効果が異なってしまうという問題もある。評価 の仕組みとしては,エネルギー性能の良い建材を使えばエネルギー性能の良 い建物になってほしいが,必ずしもこれは成り立たない。標準仕様以外で あった場合は交互作用により逆効果になる可能性があるからである。今後は, 環境応答性のあるスマート建材や創エネルギー(太陽光発電等)も含めた評 価も必要になってくる。悩ましさは尽きない。 建材試験情報 2016 年 3 月号 1
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