ヴォイニッチの科学書 Chapter-593 最新科学情報ポッドキャスト番組 ヴォイニッチの科学書 2016 年 3 月 19 日 毛 包 を大 量 生 産 配付資料 Chapter-593 http://www.febe.jp/ http://obio.c-studio.net/science/ ▼毛包を大量生産 コラーゲンの分解を防ぐ物質で毛が薄くなること を予防できるかもしれません。 毛包は毛を生やす器官です。毛包がうまく働か マウスの実験では歳をとると幹細胞の DNA に蓄 ないと、脱毛しやすくなったり、薄毛になったり 積した傷が原因でコラーゲンを分解する酵素が多 することが分かっています。 く出るようになっていました。特に 17 型コラーゲ 横浜国立大学の研究者らは、毛包を大量に再生 ンが分解されて減少すると、毛包が小さくなるこ する実験にマウスの細胞で成功しました。毛の生 とも突き止められました。人間の場合も 20 代から え替わりにかかわる2種類の幹細胞を混ぜて毛包 30 代の人の毛包は大きいのですが、その後小さく に似た器官に育て、マウスの皮膚に植え付けると、 なり、同時に 17 型コラーゲンの量も減っているこ 毛が生えました。幹細胞から毛包細胞を作ること とがわかりましたので、人間においてもマウスと はすでに成功していますが、これまでの方法は細 同様の仕組みが働いていると考えられます。マウ 胞 1 個ずつを育てるので、移植に非常に手間がか スを使った実験で効果が確認できれば、その物質 かる点が問題でした。今回の方法はシリコーンゴ は人間でも効果があることが期待でき、この方法 ム製のシートに直径1ミリメートルのくぼみを多 はがん治療による脱毛にも効果がある可能性があ 数作り、それぞれのくぼみの中で幹細胞から毛包 ります。 細胞に育てます。今回の実験では毛包細胞をくぼ みから注射器で吸い取って移植しましたが、この ▼がん細胞 1 個ずつを焼き殺すナノコイル シートは酸素透過性がありますので、今後は毛包 をシートごと皮下に移植する治療法も検討されま 産業技術総合研究所が高い効率で光を熱に変え す。脱毛症の再生医療に応用できそうで、3 年以内 るナノコイル状の新素材を開発しました。この素 の臨床研究開始を目指しています。現在すでに脱 材に近赤外線レーザーを照射すると発熱します。 毛症の再生治療は行われていますが、自分自身の 培養したがん細胞に少量添加し、レーザー照射す 毛包を移植する方法で移植後の定着率が低いこと ると、60 %以上の細胞が死滅しました。近赤外線 が問題でした。 は皮膚を透過できるので近赤外レーザーを利用し た生体深部のがん治療用材料への応用が可能です。 ところで、歳をとるとどうして毛が薄くなるの この治療方法はがんの第四の治療方法と呼ばれ か、ということなのですが東京医科歯科大学の最 る温熱療法のあたらしい手法となります。なお、 近の研究でコラーゲンの減少で毛包が小さくなっ がんの三大療法は手術療法、化学療法、放射線療 てしまうためであるらしいことがわかりました。 法です。第四の温熱療法は正常細胞に比べて、が 1/5 ヴォイニッチの科学書 Chapter-593 ん細胞は相対的に熱に弱いことを利用します。温 は含まれていますので、がん治療以外に、太陽電 熱療法は近赤外線を熱に変換できる安全な材料の 池などのエネルギー分野への応用も検討されます。 開発がカギで、これまでにカーボンナノチューブ、 金ナノロッド、インドシアニングリーン、ポルフ ▼植物の雄と雌が出会うための受容体を発見 ィリン誘導体、ポリドーパミン(PDA)などが開発 されてきました。ポリドーパミンは神経伝達物質 おしべ、めしべという呼び方でわかるとおり、 としても知られているドーパミンが自然発生的に 植物にも雄と雌の概念があります。動物であれば 互いに結合した高分子で、生体適合性が高く、生 動き回って雄と雌が結合することができますが、 産が簡単であるため次世代の光熱療法のい有力材 身動き取れない植物の雄と雌が上手に受粉する仕 料と考えられています。 組みはこれまでよくわかっていませんでした。名 ポリドーパミンには他の材料に比べて発熱効果 古屋大学などの研究チームが植物の雄の花粉管が が低い欠点がありましたが、今回の研究でポリド 雌の卵細胞を探す仕組みを発見しました。雄は今 ーパミンの形状を粒子状からコイル状へ変更する 回発見された仕組みで雌の存在を感知して、雌の ことによって、光を熱に変える効果を高めること 方向に花粉管を伸ばしているようです。 に成功しました。 植物の受粉では雄の花粉管が伸びて雌しべの中 有機ナノチューブの直径は 190 nm、 長さは 800 nm を進み、めしべの奥深くにある卵細胞のある目的 ~0.004mm で電気的にはマイナスになっており、こ 地まで精細胞を運びます。この時に「ルアー」と れに太さ 100nm で電気的にはプラスのポリドーパ 名付けられた植物の種類ごとに異なる成分の分泌 ミンがからみついています。 物が放出されていることがわかっていました。今 水を入れた試験管にポリドーパミンナノコイル 回の実験で、シロイヌナズナの花粉管の先端部分 を添加し、波長 785 nm の近赤外レーザーを 10 分 で、ルアーを感知する受容体が発見されました。 間照射したところ、50 度以上に温度が上昇しまし この受容体は、雌のさまざまな信号を受け取るこ た。次に、ポリドーパミンナノコイルを、培養し とで、正確に花粉管を伸ばし、花粉管が雌しべの たヒト子宮頸部(けいぶ)がん細胞(HeLa)に添 中を目的地まで迷わずに進んでいることがわかり 加し近赤外レーザーを照射すると、約 65 %の細胞 ました。 が死滅しました。 今後、さらなるがん細胞死滅率の向上のための改 善と、正常細胞に対しては安全であることの確認 実験が続けられます。また、太陽光にも近赤外線 2/5 ヴォイニッチの科学書 Chapter-593 ▼新たな骨カルシウム溶解メカニズムを発見 ため、フラーレンの中に閉じ込められた水分子は 非常に珍しい存在形態です。 骨も新陳代謝しています。常に古い骨は溶かさ 京都大学ではフラーレンC70に水分子が通過で れて、その部分に新しい骨が形成されています。 きる大きさの穴を開け、水分子を中に押し込んだ また、血液中のカルシウム濃度が低下した時にも 後に穴を塞ぐという方法を開発し、水分子 1 個、 骨が溶かされて血液中にカルシウムが供給されて あるいは 2 個の水分子が結合した分子を封入する います。これまでは、このような骨の新陳代謝や ことに成功しました。 カルシウムの利用は破骨細胞と骨芽細胞という 2 種類の細胞が行っているとされていました。 この目的としては、水分子 1 個の挙動、2 個が結 合したときに挙動がほとんどわかっていないので、 ところが、北海道大学を中心とした研究チーム 水分子の性質を研究することが主な目的ですが、 が高感度三次元X線顕微鏡による観察で骨を溶か 今回の封入観察によって、1個の水分子が内包さ す作用はそれだけではなく、骨の中に無数に存在 れた場合では、フラーレンの内部で上下に素早く する骨細胞も骨内部からカルシウムを溶解して、 動く性質が見えました。C70 は内部の空間が広いた 血中に放出する働きを持っていることを明らかに めにこれまで観察されていなかったこのような水 しました。 分子の動きが初めて見えました。また、水分子 2 骨からカルシウムを取り出しているのが破骨細 個からなる二量体では、2つの水分子間に水素結 胞だけではなかったことが初めて発見されたわけ 合が存在し、その水素結合は、切断と再生を素早 ですが、現在の骨粗鬆症薬は破骨細胞が骨を溶か く繰り返していることがわかりました。この結果 すことを前提として研究が進んでいます。今後は も世界で初めて観察されたものです。 骨細胞がカルシウムを溶かし出す部分も骨粗鬆症 薬のターゲットになるものと思われます。 ▼フラーレン C70 に水分子を閉じ込めることに成 功 炭素原子がボール状に結合して内部が空洞にな っているフラーレンは空洞部分に金属やその他の 分子を入れることができます。そのようなフラー レンを「内包フラーレン」と呼びますが、中に入 れるものを工夫すると思いも寄らない新たな性質 が表れるため、電池・電子材料や生理活性物質と して大きな注目を集めています。 京都大学の研究グループがフラーレンの中に初 めて水分子を入れることに成功しました。水分子 は電子的な偏りが大きいため、1 個の水分子として 単独に存在することはほとんどありません。その 3/5 ヴォイニッチの科学書 Chapter-593 冒頭の初ガツオとは、日本近海に回遊してきた カツオが、その年、その地域で最初に水揚げされ たもの。九州では 3 月、本州沖では 4 月から水揚 げが始まり、5 月から初夏にかけて最盛期を迎えま す。 「質に入れてでも」という言い方からわかる通り、 中西貴之「化学に恋するアピシウス」. 冷凍や輸送の技術が発達していなかった江戸時代 驚愕のカツオ節の効能が判明! の初ガツオは、とても高価なもので、庶民にとっ http://biz-journal.jp/2016/03/post_14289.html ては高嶺の花でした。そのため 「目と耳は タダだが口は 銭がいり」 と、皮肉混じりに返句されるほどの存在だったの です。 カツオ節は世界一硬い食べ物だった? カツオの調理方法として人気の高い「たたき」 は、低脂肪・高たんぱくということもあり、初ガ ツオを味わうにはぴったりです。骨の新陳代謝を 改善するビタミン D、エネルギーを生み出すビタミ ン B、血圧と血中のコレステロールを下げるタウリ 暖かい地域では 3 月から「初ガツオ」として食 ンなどを、効率的に摂取することができます。 卓に上るカツオは、古くから世界中で食されてき 秋に水揚げされるカツオは、初ガツオに比べて た栄養豊富な魚です。日本では 4~5 世紀の大和政 脂肪が約 12 倍に増えており、食欲をそそる旨みが 権時代から、干物が高級食材として献上されてい 増しています。一方、その他のビタミンやミネラ た記録が残っており、東ティモールのジェリマラ ルはほぼ同じか減っているため、健康志向の人は、 イ遺跡では約 4 万年前の地層から、カツオの骨が 秋よりも初ガツオのほうがおすすめです。 貝でつくられた釣り針と共に出土しています。 また、最近はカツオ節も、高機能食品として世 界的に注目を集めています。カツオ節は「世界一 「目には青葉 山ほととぎす 初鰹」 硬い食べ物」といわれていますが、金づちの代わ りに釘が打てる食べ物は、世界広しといえどもカ これは、江戸時代の有名な俳人・山口素堂が、 ツオ節ぐらいではないでしょうか。 春から初夏にかけて江戸の人たちが好んだものを カツオ節のおいしさと硬さの秘密は、水分を搾 詠んだ句です。江戸時代、カツオは「家族を質に り出す製法にあります。3 カ月以上をかけて伝統的 入れてでも食べろ」といわれるほどの大ブームを な製法で加工され、最終的に水分は魚肉の十数% 巻き起こしました。 になるまで搾り取られます。残ったわずかな水分 4/5 ヴォイニッチの科学書 Chapter-593 の中に、カツオ節の旨味成分であるイノシン酸と アセトアルデヒドは悪酔いの原因物質でもあり グルタミン酸がギュッと濃縮されているのです。 ますが、この分解にナイアシンが関係しており、 お酒を大量に飲むと、肝臓は大量のナイアシンを ナイアシンの意外な効能 要求します。 さて、カツオ節に含まれる機能性成分として、 例えば「とうもろこしばかり食べている」など、 ここ数年注目されているのがナイアシンです。こ 極端に偏った食生活をしている人が、大量飲酒で れは、ビタミン B3 と呼ばれることもあります。 肝臓のナイアシン不足に陥ってしまうと、ペラグ ナイアシンは米や肉に多く含まれていますが、 ラという病気になってしまいます。 圧倒的に含有量が高いのがカツオ節です。レバー これは皮膚の炎症に始まり、嘔吐や下痢など消 もナイアシンを豊富に含んでおり、 「鉄分を摂取で 化器系疾患の症状が表れ、やがて脳が壊れて死に きて貧血に効果がある」といわれますが、実はカ 至る病気です。日本でも、米やカツオを食べない ツオ節の 3 分の 1 程度しか含まれていません。 アルコール中毒患者にペラグラを発症するケース が見られます。 春はヘルシーな高機能食品、秋には「食欲の秋」 にぴったりの高脂肪食品と、季節によって姿を変 えるカツオ。約 4 万年前の人たちが、沿岸に簡単 に捕まえられる魚がいたにもかかわらず、困難な 漁を行ってでもカツオを食べていたのは、きっと、 その有効性に気付いていたからなのでしょうね。 ナイアシンの構造式 【参考資料】 ナイアシンは全身でいろいろな役目を担ってい 『食べ物はこうして血となり肉となる~ちょっと意外な ますが、主な役割は酸化還元という化学反応の促 体の中の食物動態~』 (技術評論社/中西貴之) 進です。私たちの体内は「酸化還元の化学工場」 「ナショナル ジオグラフィック 日本版 2014 年 12 月号」 といってもいいほど、食べ物からのエネルギーの (日経ナショナル ジオグラフィック) 取り出しや、呼吸、解毒など、あらゆるところで 「文部科学省 五訂増補日本食品標準成分表」 酸化還元反応が起きています。 一般的な化学工場では、高い圧力や温度で酸化 還元反応を行っていますが、私たちの体が自然な ヴォイニッチの科学書 600 回記念ライブ(予定) 状態で酸化還元反応を適切に行うことができるの 「阿佐ヶ谷ダイナーヴォイニッチ600」 は、酵素とナイアシンが細胞内でペアになって、 2016 年 5 月 7 日(土曜日)18 時開場、19 時開演 化学反応を加速する役目を担っているからです。 会場:阿佐ヶ谷 LoftA また、アルコールの分解も酸化還元反応の一種 (東京:中央総武線阿佐ヶ谷駅近く) です。お酒を飲むと、解毒反応として肝臓でアル イベント内容詳細、前売りチケット情報は 3 月~4 コールが分解されますが、その過程でアセトアル 月頃に発表します。 デヒドという有害成分ができてしまいます。 5/5
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