[427]「金がなければ」――お金の話(二) 成語・ことわざ雑記

上野先生と歩こう 中国語遊歩道 『中国のことばと文化Ⅱ』
[427]「金がなければ」――お金の話(二)
成語・ことわざ雑記(25)
(97)金さえあればどこでも天国
“上有天堂,下有苏杭”(shàng yǒu tiāntáng,xià yǒu Sū-Háng),空に天国があり,地上に蘇州と
め い び
杭州があるといわれるように,この二つの都市は物資が豊かなうえに風光明媚で,古来中国で最も住
みごこちのよい所とされている。そこから
〇“有钱到处是杭州”yǒu qián dàochù shì Hángzhōu
ということわざが生まれた。当然“有钱到处是苏州”というのもありそうだが,こちらはまだ出合っ
たことがない。代わりに
〇“有钱到处是扬州”yǒu qián dàochù shì Yángzhōu
を挙げておこう。長江北岸の揚州も商業が栄え,多くの文人を生んでいる。美人が多いことでも有名。
(98)金がなければ極楽も地獄
杭州や揚州ほど住みやすいかどうかは知らないが,もう一つ
〇“有钱是兰州,没钱是难州”yǒu qián shì Lánzhōu,méi qián shì Nánzhōu
というのがあって,蘭州もまた金持ちには極楽であるとされる。
ちょっと解説が要りそうだ。もちろん難州などという都市はない。蘭州との語呂合わせで言ったま
でである。住みやすい蘭州に対して住みにくい難州。お金があってこその蘭州で,お金がなければそ
の蘭州も難儀の多い難州と化してしまうというのである。
なお,よく知られているように,中国のかなり多くの地方でエル(l)とエヌ(n)の発音は混同
されるので,Lánzhōu と Nánzhōu の区別も紛らわしい。このことがこのことわざを面白くしている。
(99)極楽も素通りするしか……
〇“有钱南宁,没钱难停”yǒu qián Nánníng,méi qián nán tíng
このことわざもことばあそびに近い。南寧は広西壮族自治区の政府所在地。さほど繁華な都市とは
思えないが,一帯では遊興に適した土地として知られているのであろうか。小説から拾ったが,作者
と作品名は失念。お金があれば南寧で面白おかしく遊ぶことができるが,お金がなければ素通りする
しかない。“南宁”の“南”に“难停”の“难”を掛けたところがミソ。
〇“有钱男子汉,无钱汉子难”yǒu qián nánzǐhàn,wú qián hànzi nán
お金があれば堂々たる男子として威張っていられるが,なければしょぼくれているしかない。“男
子”の“男”に“难”を掛けたうえに語順を入れ替えるなど,手が込んでいる。
(100)西日の部屋でがまんするしか……
〇“有钱不住东南方”yǒu qián bù zhù dōng nán fáng
“嫌冬不暖,夏不凉”(xián dōng bù nuǎn,xià bù liáng)と続けて使われることが多い。
四合院と称される中庭を囲んで東西南北に建物を配した伝統的な家屋では,東側すなわち西向きの
部屋は夏は暑苦しく,南側すなわち北向きの部屋は冬の寒さが厳しいので,どちらも嫌われるという
のである。若い頃,西日の射し込む安アパートに住んだ経験のある私にはよくわかる。
〇“有钱常记无钱日”yǒu qián cháng jì wú qián rì
節約のすすめ。いつまでもあると思うな親と金。
2015/11/13
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