[426]「金さえあれば」――お金の話(一)

上野先生と歩こう 中国語遊歩道 『中国のことばと文化Ⅱ』
[426]「金さえあれば」――お金の話(一)
成語・ことわざ雑記(24)
(93)“有钱能使鬼推磨”
しばらくお金の話をする。といっても,小生には無縁のお金もうけや財テクの話ではない。「金さ
えあれば……」,「金があっても……」,「金がなくても……」,「金では……」と続くことわざや
格言の類の話である。
先の“有钱有势”(財力もあり権勢もある)は四字成語であるが,“有钱”で始まる成語はこの一
語くらいで,他はいずれも四字を超えることわざ・格言の類である。
たいていの辞書に載っているのが,“有钱能使鬼推磨”(yǒu qián néng shǐ guǐ tuī mó)である。
ひ
金があれば鬼に碾き臼をひかせることができる。金さえあれば何事でも思うままであるというたとえ。
さ
た
地獄の沙汰も金次第。
(94)“有钱高三辈,无钱低三辈”
「地獄の沙汰も金次第」は日本も中国も,或いは世界のどこの国においても変わりはないが,いか
にも中国らしいのが,
〇“有钱高三辈,无钱低三辈”yǒu qián gāo sān bèi,wú qián dī sān bèi
金があれば三世代上,金
がなければ三世代下。
“你是我孙子”(おまえはわしから見れば孫みたいなもんだ)の罵りことばに見られるように,中
国では世代の差が大きな意味をもつ。金さえあれば三世代も上にふんぞり返ってもいられるし,なけ
れば縮こまっていなければならないというのであるから,まことに金の威力は絶大である。
(95)詰めが甘い『中国語大辞典』
“有钱高三辈”の後半は,“低三辈”の代わりに“公变孙”と言うこともある。ここでの“公”は
祖父の意で,世代が上の祖父が逆に孫扱いされるというのである。
なお,“有钱高三辈”の後半“无钱低三辈”を角川書店の『中国語大辞典』が“无钱三辈低”とす
るが,基づくところを知らない。或いは誤植か。中国語としては“高三辈”と“低三辈”が対をなし
ていなければならない。
さらに同辞典はこのことわざを
「銭をもっていると格が三段上がるが,銭がないと三段下げになる」
と解説するが,やはりここは原文の“辈”を活かして,「三段」ではなく「三世代」と解すべきであ
ろう。この辞典,私も編集委員の一人だが,大きいだけあって(?),詰めの甘さが目立つ。
(96)“有钱万事足”
「地獄の沙汰も金次第」に相当する語は,“有钱能使鬼推磨”のほかにもいくつもある。
〇“有钱能叫鬼上树”yǒu qián néng jiào guǐ shàng shù
金さえあれば鬼も木に登らせることがで
きる。万事金の世の中,人間に指図する鬼を逆に思いのままに操ることができるというのである。
〇“有钱就是一切” yǒu qián jiù shì yīqiè 金がすべて。
〇“有钱钱挡,无钱命挡” yǒu qián qián dǎng,wú qián mìng dǎng
金があれば金が命をあがなっ
てくれるが,金がなければ命を差し出すしかない。医者に掛かる金がなければ死を待つしかない。
〇“有钱万事足” yǒu qián wànshì zú 金さえあれば何事も思いのまま。“有钱万事休”(yǒu qián
wànshì xiū)とも。金で解決できないものはない。本当にそうかなあ?かどうかは次回に。
2015/11/6
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