医師の過重労働と過労死・人権

ドクターズ・ユニオン
ニュース
NO11 2014年12月25日
ドクターズ・ユニオン ニュース NO11 2014年12月25日
2014年12月25日 第11号
発行所 全国医師ユニオン
〒東京都千代田区神田佐久間町2丁目
七番地第6東ビル605
TEL03-5825-6138 FAX03-5825-6139
URL http://union.or.jp
mail [email protected]
発行人 植山直人
これまで数回にわたり日乗連の歴史や考え方を紹介し
てきましたが、今回は現在取り組んでいる問題のうち重
大なものをいくつかご紹介します。
【特定秘密保護法に対する取り組み】
日乗連は民間航空の安全を守る立場から、民間航空の
軍事利用に反対し、有事立法や自衛隊・米軍チャーター
運航等に反対する運動を、航空の仲間や多くの国民・労
全国医師ユニオンは11月16日に総会を開き勤務医の過
働者とともに進めてきました。
2014年12月10日、特定秘密保護法が施行されましたが、
重労働をなくすこと、医師の過労死裁判を支援すること
などを中心とする運動方針を採択しました。
同法は特定秘密が恣意的に指定される危険性を除去する
総会終了後にはシンポジウム「医師の過重労働と過労
実効的な方策規定をしておらず、日乗連はその危険性を
指摘しています。また成立過程において同法案の採決が
を訴えてきました。民間航空運送事業の分野においてはI
死・人権」が開催され、植山直人代表が全国医師ユニオ
ンの活動や今回シンポの目的・意義を報告し、全国過労
強行されたことは、国民主権・民主主義の理念を踏みに
CAOを中心とした60年以上にわたる安全向上の研究と取り
死弁護団連絡会議事務局次長の岩城譲弁護士が基調講演
じるものであり、到底容認されるものではないと考えて
組みの結果、正確な事実認定に基づく事故調査こそが、
を行いました。また、東京過労死家族会代表で小児科医
います。さらにこの法律によって、航空労働者は機密に
接する労働者と見做され、適性評価の対象として人権侵
同種事故の再発防止策につながるという認識が世界標準
となっています。そのためには物的証拠や記録されたデー
師中原裁判の原告である中原のり子さんが実体験に基づ
く講演を行いました。さらにシンポジウムの後半では、
害にさらされることとなります。日乗連は民間航空の安
タなどとともに、事故当事者、関係者の率直な証言が必
パワハラ裁判で、公立病院から異例の和解を勝ち取った
全確保と労働者の権利を守る立場から、今後も秘密保護
須となります。そしてその証言は、証言者や関係者の利
医師からの報告があり、現在過労死裁判を闘っている2つ
法に反対し、航空の仲間や多くの国民・労働者と共に、
力を合わせて闘っていきます。
害関係を離れて真実を忌憚なく語っていることが重要で
す。航空分野におけるこのような事故調査の理念は、広
の裁判遺族からのメッセージが読みあげられました。
(シンポジストの講演の要約はP2-6に掲載)
【JAL不当解雇問題への取り組み】
く社会一般の事故調査や安全の取り組みにも適用できる
植山代表は、医師の過重労働の原因に触れ、医学の進
2010年12月31日、当時の日乗連議長や役員を含む81 名
の日本航空乗員が整理解雇されました。それ以来、日乗
ものと私たちは考えます。
去る2014 年9月11日、福島第一原子力発電所の事故調
歩や高齢化、患者の権利の高揚などがあるが、外的な要
因として医療費抑制策に基づく医師数抑制政策があるこ
岩城譲弁護士(過労死弁護団事務局次長)の基調講演
そして、一般的に①要求度が高く②裁量度が狭く③支援
度が低いと労働の過重性が高くなり、医師労働はこれに
当てはまるとの見解を示しました。
過労死裁判の判例の紹介では、現在公開されている8つ
の医師の過労死裁判について、それぞれの特徴を具体的
連はIFALPA(International Federation of Air Line Pil
査における吉田所長(当時)の証言調書の原本が公開さ
と、また、医師の労働組合がなかったために勤務医が自
に報告しました。一番古い判決は昭和38年ですが、二番
ots' Associations)と共に、解雇された日本航空の乗員
れました。今般の措置に対し、日乗連は将来の事故調査
ら声を上げ闘ってこれなかった点を指摘しました。
目は平成17年で、過労死の裁判のほとんどは90年代の後
に対し全面的な支援を続けてきました。解雇当時、日本
航空は史上最高の営業利益を上げ、更生計画での人員削
に及ぼす悪影響について重大な懸念を持っています。今
回の吉田調書の原本公開は、将来の事故調査において
また、医師の労働実態に関して、いわゆる当直の多く
は時間外労働であるが宿直(ほとんど労働をしなくてよ
半から起きています。判例の最後は、現在高裁で係争中
の裁判で、過失相殺の問題点などについて詳細な報告が
減目標数を超過達成していたにもかかわらず、第一審の
「忌憚のない真実の証言」を得るうえでの大きな悪影響
い勤務)扱いされていること、また残業代の不払いが横
ありました。
東京地裁は解雇を容認する判決を下しました。それを受
け2013年10月21~24日、東京においてIFALPA のIND 委員
となり、公正で科学的な事故調査を阻害する懸念があり
ます。関係者から率直な証言を得られなければ、事故調
行しているため、経営者に残業を減らしたり交代制勤務
を進めるインセンティブがないことを批判しました。さ
また、いくつかの論点として①宿直・待機時間につい
て②パワハラ問題について③過失相殺について、現状の
会(労働問題)、LEG 委員会(法務)が開催され、そこ
査報告書自体の信頼性が損なわれ、正確な事実に基づい
らに現場の医師が考える医療過誤の主な原因は過重労働
報告とあるべき方向性が示されました。
で「TOKYO DECLARATION」を採択し、記者会見や国土交通
た事故調査は望めません。それでは事故の再発防止や安
やスッタフ不足に関係すること、約半数の医師が健康に
最後に過労死防止法の内容の説明と、この法律を今後
省への要請行動を行いました。
その後、第二審においても最後まで日本航空側は解雇
全性の向上に資することはなく、事故調査の本来の目的
である「事故原因の解明と再発防止」という重要な価値
不安を持っており、6割以上がやめたいと思っている実態
を報告しました。
どのように活用していくかについての見解が述べられま
した。岩城弁護士は過労死防止法に基づき結成された過
の必要性について立証する事はなく、東京高裁も日本航
の実現が、調書の公開によって阻害されることを憂慮せ
医療安全に関しては、日本でも自動車輸送関係やパイ
労死防止センターの事務局長に就任しています。来年6月
空経営にその立証を求めず、2014年6月5日の判決におい
ざるを得ません。事故調査の出発点は「何が起こったか
ロットには安全性の確保のために労働時間の規制があり、 に創立される過労死研究学会には医師をはじめとしてあ
て日本航空側主張を一方的に採用し、解雇の必要性を肯
定してしまいました。さらには世界標準から逸脱した
可能な限り正確に知る」ことであり、その正確な事実認
定に基づいた事故の推定原因があってこそ、今後取るべ
欧米先進国では医療安全の点から医師の労働時間の規制
がありますが、日本では医師のみが安全性を無視した長
らゆる人に参加して欲しいと訴えました。
中原さんは、夫の自死に関して家族としての思いや当
「高年齢と病気履歴」の解雇基準についても、裁判所は
き方策を導き出すことが出来るのです。正確で十分な証
時間労働を強いられていることを強調しました。
時の夫とのやり取りなどを具体的に語りました。そして
その根拠を何ら示す事が出来ない被告主張を容認し、原
告敗訴の判決を下しました。日乗連は社会正義から見て
言や情報によって事故調査が行われてこそ、社会の安全
性の向上と事故の真相を知ることにつながり、国民の
一方で、過労死裁判を機に医師を守る運動も始まり、
その流れにより全国医師ユニオンが結成されたこと、今
夫が死ぬほどつらかった現状を変えることが自分の使命
であると考え、労災認定裁判を8年、民事裁判を11年間闘っ
も東京高裁の判決が到底容認できるものではない事を確
「知る権利」とも両立すると私たちは確信しています。
年は過労死防止法も制定されたことを高く評価しました。 てきたことを報告しました。民事では「予見可能性がな
今回の吉田調書の原本公開は、事故関係者が委縮する
今後は医師ユニオンとしてILO提訴なども視野に入
かった」との理由で地裁・高裁ともに敗訴しましたが、
ことなく率直に証言できる環境を阻害し、公正で科学的
な事故調査の実現に大きな障害となる可能性があります。
れることが求められているとの思いを語りました。
岩城弁護士は基調講演で、まず医師の資格と労働者性
負けるわけにはいかないと最高裁に臨み、不当な高裁判
決を残さないために納得のいかない中で和解に踏み切っ
日乗連は長年にわたり、国際民間航空条約(ICAO 条約)
私たちはこれからも、あらゆる分野における公正で科学
は分けて考える必要があると述べ、勤務医に労働者であ
たとの告白もありました。最後に、過労死防止センター
第13付属書の定めに則った「事故調査と責任追及の分離」
的な事故調査の実現に向けて取り組みを続けていきます。
るという自覚がないことが問題であると指摘しました。
への参加を訴え講演を終えました。
認し、解雇された日本航空の乗員が勝利するまで全面的
な支援を継続していきます。
【公正で科学的な事故調査の実現に向けての取り組み】
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