過労死の温床、勤務医の労働環境改善を急げ(前編

ドクターズ・ユニオン
ニュース NO9
2014年7月7日
全国医師ユニオン事務局長
ドクターズ・ユニオン
洞ノ口佳充
ニュース
NO9
2014年7月7日
過労死の温床、勤務医の労働環境改善を急げ(前編)
勤務医の理不尽な労働環境を直視せよ
埼玉県済生会栗橋病院 院長補佐、医療制度研究会副理事長
本田 宏
4月19日、20日B市、C市へ行ってまいりました。過労死
呂にも電話を持ち込んでいました」「電話がかかってき
自死された産婦人科医はAさんとおっしゃいます。現在、
て、ちょっと行ってくると言って病院へ出かけていまし
奥様と娘さんが住んでおられるのがB市で、勤務先がC総
合病院でした。亡くなられたのが5年前で51歳でした。
た。でも内線電話の記録は残っていないといわれてしま
いました」奥様の後を病院への短い坂を降ります。近い!
はじめに
2004年4月に新臨床研修制度がスタートした直後から、
アシスタント等の医師補助職導入の必要性について述べ
たい。
これは、当直室から病棟までの距離です。
一部の人気大学を除いて大学病院の医局に入局する研修
過酷な労働時間と女性医師の増加
B市は人口25万人の地方都市です。C市は日本海に面し
た街です。B市から車で1時間半の道のり、山地を越えてC
裁判の資料を読んでくれた産婦人科医がこういったの
医が減少した。その結果大学病院の医師派遣機能は低下
医療費亡国論で医師養成が抑制され、先進国最少の人
市へ至ります。一家は、勤務地のC市の宿舎に住んでおら
れましたが、途中から奥様と娘さんはB市でした。宿舎の
を思いだしました。「この規模の病院では産婦人科医の
当直を置かないはずないです」、そうかこの宿舎は、
し、関連病院から中堅医師を引き上げる状況となり、医
師不足が全国で大問題となった。
口当り医師数となった日本。東京大学医科学研究所附属
病院内科助教の湯地晃一郎氏は、「勤務医の過重労働:
居住環境が悪く娘さんが心身を病み、引っ越しました。A
「当直室」だったのです。ここでの宅直は当直業務その
当時は栗橋病院もご多分に漏れず、それまで3名いた常
酷使される勤務医の実態とその解消策」で日本の医師の
先生はC市で単身赴任しながら、多忙な中を車でC市とB市
を往復されていました。
ものだったのです。そして、内線というのは、病棟、外
来の看護師からは、当直室に掛ける感覚だったと思いま
勤麻酔科医がいなくなり、他のいくつかの診療科でも常 過酷な労働実態について問題を提起している。
この中でも特に注目すべきは日本の医師が、男性は59
勤医の減少や不在になるという由々しき事態が発生した。
した。
それから8年後の昨年3月には全国で、「埼玉で35回たら
歳まで女性は49歳まで過労死認定基準を上回る労働を余
今回、医師ユニオン事務員の方と、まず、はじめにB市
に伺いました。土曜日仕事を終えて、東京駅午後4時半の
A先生は、フットワークが軽く、スタッフへの丁寧な教
い回し25病院」という事例がセンセーショナルに報道さ
儀なくされていることだ。それ以外にも日本の男性医師
新幹線で発ちました。B市には10時半に着きました。日曜
日の朝、遺族の方とホテルでお会いすることになりまし
育をされ、スタッフからは聞き易い、頼み易い方だった
ようです。
れた。大変残念ながら、亡くなった患者は栗橋病院で過
去に治療歴のある方だった。たらい回しの実態は医師不
は70歳以上になっても週に55時間以上労働をしていると
いう実態は見逃せない(図1)。
ここでの、産婦人科医一人当たりの手術件数、分娩数
足や受け入れベッドが満床等による受入れ不能で、その
日本の医師のブラックとも言える理不尽な労働時間に
娘さんもお元気な様子、体調を回復されていました。
は、派遣元の大学医局の関連病院の中でも最も多く、A先
解決には大幅な医師増員が必要であることを、全国一医
比して、欧州の医師の平均労働時間は20代から週に60時
B市から奥様の運転で、C市へ向かいました。1時間半の
道のりです。かなりの距離を感じました。この道のりをA
生は部長として仕事されていました。地域の病診連携・
ネットワークづくりにも尽力されていたこともお聞きし
師不足の埼玉から10年以上訴えてきた私の努力が間に合
わなかった大変残念な出来事だった。
間をこえていない。さらに欧州の医師の労働時間データ
が55歳以上までしかないことを考えると、欧州では65歳
先生は、疲れ切った身体で、安らぎを求めて、深夜車を
ました。産婦人科医の話ですが、C総合病院のお産は、救
全国で医師不足は解決されないまま、この期に及んで
以上の医師は引退していることが推察される。逆に日本
走らせていたんですね。
奥様は車中、「主人は疲れ果てて、帰ってきてくれた
急搬送がとても少ないとのことでした。それは、A先生が
臨床的に非常に優秀であったこととネットワークを地道
も厚労省や日本医師会は医師不足の原因を研修制度の導
入や医師偏在が問題とし、医学部長会にいたっては「百
は高齢医師まで長時間働き続けることによって、医師不
足を補っている実態が見えてくる(図2)。
んだと思いますが、そのころ私も一杯一杯で、娘の体調
に作ってこられたことを意味しますとのことです。
た。そこで迎えていただいたのは、奥様と娘さんでした。
害あって一利なし」と医学部新設・医師増員に猛反対し
日本の今後の医師需給を論じるうえで決して忘れてな
が悪くて、夫を全力でサポートすることができませんで
亡くなられた直後にはスタッフの方たちは「先生は絶
ている。今年の5月7日に医療介護総合法案を審議する衆
らないことは、女性医師の割合が増加していることであ
した」と悔やんで折られました。先生のみならず、ご家
族もまたつらい思いをされていたんですね。
対労災ですね」と言ってくれました。初盆にはスタッフ
の方から大きなお花のお供えが寄せられ、事務長と事務
議院厚生労働委員会で参考人として、日本の低医療費政
策と医師不足問題を訴えたが、法律を作る側の政治家も
る。日本より労働環境が整っていると思われる欧州を見
ても、女性医師の労働時間は男性医師に比して短い。現
山間部を走って、辺りが開けてきたなと思うと、C市で
の方がお線香を上げに来てくださいました。しかし、労
日本の医療の実態を正確に把握していないことを肌で感
在医学部定員は増加されたが、女性医師の割合も増加し
した。「潮の香りがしますね」同乗のHさん。
病院に着きました。病院は4階建て、小高い山を背にし
災申請をするとわかると、皆様口を閉ざして何もいって
下さらなくなりました「残念です」と奥様は無念を口に
じた。
本当に日本は抜本的医師増員を行わずに、迫りくる未
ており、医師を実働数でカウントするという視点がなけ
れば、日本の医師不足解決は困難である。
て立っており、この地で只一つの総合病院、職員たちに
しました。
曽有の超高齢化社会を乗り切れるのか。残された時間は
患者さんのために、ひいては病院のために自分の時間
余りにも少ないが、今一度日本の医師不足問題とその改
「勤務医の過重労働:酷使される勤務医の実態とその解
「C市は閉鎖空間で、封建的な土地柄です」後で弁護士
さんからお聞きしました。(これらのことが、現場の方
を削り、自分の健康を害してまで診療してきたA先生。な
にせ、C地区では、C総合病院以外にお産を扱う病院はな
善策について考えてみたい。前編では医師の過酷な勤務
実態について、後編では米国等で活躍するフィジシャン
消策」http://m.huffpost.com/jp/entry/3363253?utm_hp
_ref=fb&src=sp&comm_ref=false
からの証言が得られにくい理由でしょうか)
く、助産院もありません。地域のお産を一手に引き受け
とっての数少ない働き場所とのことです。
宿舎は、病院とは10メートルと離れていない場所でし
ておられたのでした。そういうA先生に病院がとった態度
た。というのは住んでおられた長屋のような建物、山肌
に接していて、蛇が入ってきたり、ムカデが出たという
は、あまりに冷たく、全くひどいと感じました。
A先生が残しておられた病院への労働環境改善、人員増
建物は、取り壊されて駐車場になっていました。少し離
を求める手紙、医局や県への懸命に訴える手紙、これら
れて、真新しい宿舎が並んでいます。「あれだけ改善、
修繕をお願いしたのに聞いてもらえませんでした。でも
を私は思い出しました。また、体調を壊し入院された後
だったでしょうか「こんな激務じゃなくて、非常勤で・・」
主人が亡くなったら、病院はすぐに建て替えたんですよ」
こんなつぶやきも残しておられました。
「ちょうどこの場所が、亡くなったガレージのあったと
自宅待機の年130日余りのうち4分の3は病院へ呼ばれて
ころです」とその跡地で奥様がお話しされました。かつ
ての宿舎のお話を伺うと、娘さんが体調を崩されたわけ
いたことが、記録されていました。しかし、先生の労働
環境は改善されることなく、先生はガレージで命を絶た
がわかる気がしました。
れてしまいました。すでにこの地で、10年間地域医療に
尽くされていました。
「本当にしょっちゅう内線電話がかかってきて、お風
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