1/3 No11 第3の居場所=サードプレイス の提案 屋根と庇の下に拡がるアクティビティ これからのコミュニティ施設には、目的を持った何かの活動に応えるだけではなく、地域の人々にとって、自宅と学校や職場と並ぶもう一つ 空間に明確なエッジをつくる壁の建築に対して、屋根と庇の建築では縁側や庇下などの半屋外 の「第3の居場所=サードプレイス」となることが求められます。「えんぱーく」の利用状況を観察する中でも、パブリックスペース(多く に、自然なコミュニケーションが生まれ、人々の活動が建物から溢れ出し、街路や街に活動領 の人が集う空間)の中のパーソナルスペース(自分たちだけの居場所)という一見矛盾するようにも見える、現代のコミュニケーションの特 域が拡がります。連なる屋根の景観は、北アルプスの山並とも重なり、深い庇は日射をコント 徴が浮かびあがります。自宅でもない、学校でもない、職場でもない、気のおけない仲間と集う素敵な居場所が欲しい。そして、常に様々な ロールし、自然の風を建物によびこみ、環境と一体の建築をつくります。 人達と係わっていたい。その様な、これからのコミュニケーションに応える塩尻市北部地域拠点施設のデザインを提案します。 一坪のパーソナルグリッド 拠り所を仕掛ける 1.8m×1.8mの1坪をパーソナルグリッドに 2階のパブリックな共用部に会議室をランダ 設定し、1.8mで壁をずらし、1.8mで開口と壁 ムに点在させ、回遊動線の中に建物のコーナ のリズムを刻みながら空間をデザインしま ーや、空間に寄り添う壁、明るい窓辺などの す。可動壁をグリッドに従って移動してスペ 様々な拠り所を仕掛けて、見え隠れしながら ースを変化させ、様々な活動に応えます。 連続する空間に居場所をつくります。 。 街と連続しながら変化するスケール 土地の記憶につなげる 広丘駅前ロータリーから小路を通り、緑のプ 石置き板葺き屋根がルーツで、緩い屋根勾配 ロムナードを抜けると、図書館棟と多目的ホ と深い庇を持つ本棟造り。木曽平沢の道なり ールと回廊に囲まれたみんなの広場に行きあ のカーブに雁行しながら出梁造りの軒が連な たります。更にみんなの広場が短歌の道の起 る風景。これら、塩尻のメタファーを地域の 点になって、地域の回遊性をつくります。 資産として織り交ぜながら、屋根の建築をデ 緑のプロムナードは、並木と図書館棟の建物 ザインします。 に挟まれ、ヒューマンスケールの中に、パー ソナルグリッドで雁行する図書館棟が心地良 いリズムをつくります。 多目的ホールはみんなの広場や駐車場のオー プンスペースと一体になってダイナミックな 空間をつくり、大きな切妻の屋根が、街のシ ンボルとなります。 2/3 No11 確かな生活の支え 豊かなくらしの場所 「第3の居場所=サードプレイス」が展開する建物と敷地の中に、人々の確かな生活を支える地域の核としての拠点機能、安全安心の子育て 支援センターや、ふと立ち寄りたくなる図書館、立ち話をしたくなる緑のプロムナードなど、豊かなくらしの場所をデザインします。 また、建物の外観は、パーソナルグリッドの 1.8mごとにカラマツの板壁と開口部が交互に連続し、存在感のある壁の印象を和らげ、明るく 開かれたコミュニティ施設をめざします。 ふと立ち寄りたくなる森の図書館 子供の広場と子育て支援センター 図書館は、人々が本と親しむ為に気軽に立ち 子育て支援センターは、屋上のこどもの広場 寄る事の出来る1階に計画します。活発に利 につながり、親子で屋外遊びを楽しめます。 用される2階の会議室とは切り離して、静か 他の機能空間と距離を置きセキュリティに配 な雰囲気の中に、柱が林立し書架に囲まれた 慮しながら、受付カウンター脇にはこども図 森の図書館をデザインします。 書館を計画し、シニア世代との読み聞かせな 図書館中央には光の庭をつくり、自然光が降 ど異世代交流の接点とします。また、調理室 建物の襞(ひだ) 市民サービスと災害への対応 みんなの広場と多目的ホール り注ぐ森の中の陽だまりの広場をイメージし を活用した食育プログラムも、機能が複合し 緑のプロムナードに面した図書館棟は雁行し 市民サービスを提供する支所は、北部地域拠 この多目的ホールは、引き込みの開口で、み ます。 たこの施設ならではの活動になります。 ながら建物の襞をつくり、2階の張り出しと 点施設の要に位置するみんなの広場に面し、 んなの広場と駐車場の3つの大きなスペース 庇の下の奥行1間半の縁側の様な半屋外空間 情報の見える化を意識しながら、市民が気軽 が一体となる構成が最大の特徴です。 には、ちょっと立ち話をしたくなるたまり場 に立ち寄れるスペースとします。 ホールが半屋外になり広場や駐車場のスペー 所が生まれます。プロムナードの並木は西日 また、災害時には支所が情報拠点となり、み スと連携するこの施設では、フリーマーケッ を和らげ、半屋外空間でのコミュニケーショ んなの広場に面した多目的ホール・調理室・ トや屋外コンサートの開催も可能です。 ンは人々の心をひらきます。 公衆トイレと一体となり、避難所として有効 また、ホール南側の約 10mの長い壁面は、 に機能します。 情報の壁として、市民の発表や市民サービス 多目的ホールの大屋根に載せる太陽光発電パ の掲示板に活用します。 明るい建築 自然を取り込む 害時にはライフラインに依存しない自家発電 パーソナルグリッドの1間幅のリズムで、壁 深い庇や外壁の襞が、春の南寄りの風、秋の 設備として、安定した電力を供給します。 と開口の繰り返しながら構成する外壁は、全 西寄りの風を捕まえるウィンドキャッチャー 体に均質に外光が入り、明るく照明負荷が少 となり、室内に自然の風を呼び込みます。 ない建物となります。また、図書館の中央部 冬は室内へ差し込む日射しを鉄平石などの熱 分には吹き抜けの光の庭を計画し、空間と光 容量の大きい床に蓄熱して、暖房費の軽減に の変化を演出します。 貢献します。 ネルは、通常の省エネルギー対応と共に、災 3/3 No11 地域のみんなでつむぐ物語 地域の木材・地域の手 がつくる建物 公共施設の計画に、ワークショップで市民が参画する事は当然のプロセスになりましたが、 この木造建築は、大断面の構造材を極力使わずに、地域の材料を主として小径木トラスや合わせ梁 それがステークホルダーの綱引きにならない事が大切です。「私がこの施設を拠点にして出 で計画し、木造住宅の延長にあるスケールを地元の大工の手で建設する建物を目指します。 来ること、やってみたい活動」という設問をしながら、主体的な意識付けでワークショップ を展開し、既存の枠組みに捉われず多くの人と「まちの物語」をつむぎます。 開かれたワークショップ ネットワークでの設計 耐火・準耐火・木造 木造主体としつつも、屋上庭園下部の東側駐 車場・図書館棟と子育て支援センターの離隔 ワークショップは、設計チームの大学研究室 統括責任者が中心となり、ワークショップ運 部分・多目的ホールのコアは、耐火性と剛性 が加わりながら、各市民団体の枠を超え高校 営の大学研究室、柔軟な発想の構造設計者、 に優れた鉄筋コンクリート造で計画します。 生や子育て世代を含めた開かれたメンバーで 自然エネルギー活用に取り組む設備設計者、 図書館は、耐火の制限、内装制限が無く、木 構成し、ワールドカフェ方式などで、主体的 幼児施設のオーソリティー、CG モデラーな 造の柱梁をインテリアに表現します。 に工夫しながらの活動を引き出します。そし ど、様々な要求に対応できる専門家とネット 子育て支援センターは、耐火構造を挟んで図 て、ワークショップの様子は SNS などを活 ワークでデザインを進めます。 書館棟と別棟とし、準耐火構造で計画します。 木造トラス 地域資源カラマツの活用 用しながらリアルタイムで公開します。 将来的には、ランドスケープデザイナーや家 また、多目的ホールは鉄骨造の回廊を介して 14.4mのスパンを持つ多目的ホールの大屋根 塩尻・松本・木曽地方の里山で、土木用材と また、設計の過程も、わかりやすい資料や模 具デザイナーとのコラボレーションも視野に 別棟とし、安全避難検証法により内装制限を は、地域の大工が扱い慣れた木材のスケール して大規模に植林されたカラマツは、60 年 型などを使いながら、地域の方と共有します。 入れています。 除外し、木造の小屋組みがシンボリックな空 から考え、小径木を組み合わせて引張材を用 以上の樹齢となり、建築用材としての利用に 間をデザインします。 いたトラスによりデザインし、コストパフォ も十分に対応できるまでに育っています。 ーマンスに優れた構造で木組みの美しさを表 但し、梁成 300 ㎜を超える木材では、捻じ 現します。 れの弊害が大きいため、小径木のトラスや、 図書館の屋根架構も同様に、斜材を適宜に入 合わせ梁でカラマツの短所を克服しながら、 れたトラスと母屋で 1.8mグリッドの屋根構 地域の木材を主体にして、構造体フレームを 面を構成しリズミカルな空間をつくります。 デザインします。 建築工事費概算 1間幅の壁と開口のリズム 外壁は長く連続させることなく、幅1間で交 工事現場を楽しむ 現場サロン・コミュニティクラブ室 互に耐力壁と開口部の繰り返しでデザインし ます。外壁の主な仕上げは、カラマツ板を用 たくさんの人達が働き、クレーンや特殊機械 建設現場にワークショップ参加者が集う現場 いて、気軽に立ち寄るコミュニティ施設の雰 を使って建物が出来上がっていく様子は、見 サロンを仮設し、工事が進む傍らでワークシ 囲気を外装素材でも表現します。 ているだけでもワクワクします。 ョップでのモチベーションを維持し、コミュ 1.8mのパーソナルグリッドを構造の基本単 職人さん達が講師になってものづくりワーク ニティ活動の担い手を「広丘コミュニティク 位とし、全体で網の目の様に地震力に対抗す ショップを行い、地域の人達の北部地域拠点 ラブ」へと育てます。現場サロンはクラブ室 る市松状の耐力壁で、バランスの良い構造体 施設への関心を高めます。 として完成後の建物へと引き継ぎます。 を計画します。 建築積算事務所の大規模木造施設、類似用途施設の資料より、工事費概算を算出します。 想定されている事業費で、この計画を実現することは可能だと考えます。 ●建物全体面積/2,700 ㎡ ●図書館(木造)/1,530 ㎡ ●コミュニティ施設/2,100 ㎡ ●駐車場(RC 造)/600 ㎡ ●子育てセンター(RC 造)/80 ㎡ (木造)/180 ㎡ ●多目的ホール(RC 造)/100 ㎡ (木造)/210 ㎡
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