ゆらぎをもつ細胞内ダイナミクスと運命決定の数理解析 飯田 渓太(東北大学病院) 木村 芳孝(東北大学大学院医学系研究科) 武藤 晢彦(東北大学大学院医学系研究科) 本講演では,細胞内分子ネットワークの数理モデルとその応用について考える.はじめに, 生物ノイズと呼ばれる非決定論的現象を遺伝子発現の数理モデルに組み込むための仮説と 確率論的手法について述べ,或る普遍的な方程式系が自然に導出されることを示す(未発表). 我々の仮説によれば,多くの細胞集団に見られる mRNA 量のばらつきは Poission-beta 分 布と呼ばれる確率分布を基本としており [1],たとえ細胞集団が外的刺激を受けて成長する 場合であっても,基本的にはこの分布で説明がつく.さらに,或る条件では,発現量の時間 的ゆらぎがカオスと(不変測度の意味で)等価になることも理論的に予測できるため,がん 細胞などの遺伝子発現マーカーとしての応用も期待できる.また,これと同等の方程式をセ ルオートマトンに“乗せる”ことによって細胞内分子ネットワークのダイナミクスを高速 に計算することが可能である.講演前半では,先行研究に触れながらいくつかの計算結果に ついて紹介したい. 後半では,より具体的な生物学的問題について考える.特に,共同演者の武藤晢彦氏が取 り組んでいる B 細胞分化の問題についても取り上げ [2],細胞集団のヘテロな振る舞いから どのような分子ネットワークが推定できるかについて,理論的側面からのアプローチを試み る.最後に,今後の 1 細胞解析が拓く新たなシステム生物学について,我々応用数学者の展 望を述べることが出来れば幸いである. 参考文献 [1] K. Iida and Y. Kimura, Mathematical theory to compute stochastic cellular processes, Applications + Practical Conceptualization + Mathematics = fruitful Innovation, Mathematics for Industry 11, Springer, 2016 (in press). [2] A. Muto, K. Ochitai, Y. Kimura, A. Itoh-Nakadai, K. L. Calame, D. Ikebe, S. Tashiro and K. Igarashi, EMBO J. 29, 2010.
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