西海水研ニュース 94 号 ’ 98.7 研究室紹介 亜熱帯生態系研究室 澁 野 拓 郎 石垣支所のある石垣島は沖縄本島からさらに南西に 用する海岸は限られている。ウミガメ類の産卵の実態 400 km,亜熱帯域に属し,周りをサンゴ礁に囲まれた 把握のため八重山諸島の主要な産卵場で地道な産卵痕 緑豊かな島である。すぐ隣に台湾がある。亜熱帯地域 跡の調査を行なっている。また,同時に孵化後の稚ガ の水産研究の拠点として平成6年6月に石垣支所が設 メの行動も調査している。最後に,サンゴ礁における 置されたと同時に,この亜熱帯生態系研究室も設置さ 魚類の種組成と分布様式にも関係する着底稚仔魚の生 れた。当研究室は,亜熱帯域のサンゴ礁の生態系研究及 態解明のため,礁池内の海草藻場に出現する稚仔魚の びウミガメなどの希少生物の保全に関する研究を目的 摂餌生態調査及び日本栽培漁業協会,沖縄県水産試験 としており,大きく分けると次の4つのテーマについ 場と共同で人工種苗を用いた着底行動調査を行ってい て研究を行なっている。 る。さらに,沖縄で重要課題となっている赤土の問題 サンゴ礁を形成しているサ ンゴの生理・生態に関する研究(主担当:橋本和正), サンゴ礁における生物多様性維持機構の解明に関す る研究(主担当:高田宜武), について,河川より海洋へ流入した細粒赤土が魚類・ サンゴの生理面に与える影響も調査している。 ウミガメなどの希少 生態系研究というと閉鎖された系の中の物質やエネ 生物の保全のための生態解明に関する研究(主担当: ルギー循環をモデル化する研究を指すことが多いが, 阿部 寧), サンゴ礁に生息する多様な生物の行動 亜熱帯サンゴ礁域においては基礎となる生物の生態学 生態の解明と生態系の利用技術開発に関する研究(主 的知見が十分に蓄積されていないのが実態である。現 担当:澁野拓郎)。現在,研究室のこれら4名のメン 在の仕事はこれら生態系解明を目指した基礎的研究に バーに加え,STAフェローとしてオーストラリアのグ 向けられている。 レート・バリアー・リーフで研究実績のある Jill St John 世界で最も豊かなサンゴ礁が広がっている東アジア さん,実験補助員の小林都さんと高知大学大学院の 地域において,近年,開発にともなう海洋汚染や違法 佐々木智史君の総勢7名の大所帯となっている。 な漁業によるサンゴ礁の破壊が深刻な国際問題となっ 現在行っている仕事をもう少し詳しく説明すると, ている。我々は,サンゴ礁生態系を研究することでこ まず,地球温暖化問題で何かと注目されるサンゴでは, れらのサンゴ礁を保全し,さらに水産生物資源の持続 野外調査によってサンゴ群集構造と生息環境との関係 的利用に貢献できるよう努力したい。 について,特に底質とサンゴの形状,成長速度,幼生 (亜熱帯生態系研究室長) の加入数に着目して調査している。また,農業生物資 源研究所と共同で分子生物学的手法を用いてサンゴ研 究の基礎となるサンゴの分類を行なっている。次に, サンゴ礁はよく海のオアシスに例えられるが,貧栄養 な熱帯・亜熱帯域にあって実に多様な生物が生息して いる。石垣支所周辺のサンゴ礁でも定期的に魚類の種 組成と分布調査を行なっており,今まで約 400 種程の 魚類を確認している。また,礁池内にみられる海草藻 場で,海草の種組成・株密度,葉長や葉幅組成などの 地点間変異を調査するとともに,そこに生息する魚類 の餌となる底生生物についても調査している。石垣島 のある八重山諸島は,我が国のウミガメ類産卵場とし て重要な場所であるが,ウミガメ類が産卵のために利 −3− 石垣支所前に広がるサンゴ礁
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