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第 35 回勉強会「英語の教え方教室」簡易報告
平成 27 年1月 31 日(土)
報告:中井弘一
「中学校と高等学校の英語授業を通して見えてきたこと」
滋賀県立守山中学校
戸田行彦
教諭
今回は寒い一日にも関わらず、滋賀県はもとより三重、和歌山、兵庫、京都、大阪の各府県の現職の中・
高の先生と他学の大学院生・学生(残念ながら本学の学生は参加せず)と 28 名が集い、「中学校と高等学
校の英語授業を通して見えてきたこと」について非常に熱心な話し合いを行った。
昨今、小学校に英語教育が正式科目として導入されようとする動きがある。中学校で行われる英語授業
内容を小学校5・6 年で行い、高等学校の英語授業内容が中学校で行われるようであるが、そうした校種の
違いを超えた変更改革はうまくいくのだろうか。実のところ、中学校教員と高等学校教員との交わりは少
なく、英語教育においても、お互いがどのような指導理念や指導方法で授業を実践しているのか知らない。
生徒にとっては継続的な英語学習であるべきなのに、ぶつ切れの状況である。そうした現状で新しい教育
改革は成果を生み出すのだろうか。本来、緊密な連携の基に授業改善が行われるべきである。
2014 年 4 月、戸田先生は高等学校勤務から中学校へ異動された。英語授業において中高の連携の在り
方を考える必要があると常々思っていたので、戸田先生に発表をお願いした。中学校では英語授業におい
て何を一番大切にどのような指導を拠り所にしているのか、高等学校の英語教育とはどう異なるのかなど
の話題提供していただき、中学校と高等学校との英語教育の橋渡しはどうあるべきかを参加者で話し合っ
た。
最初に、戸田先生はご自身のこれまでの勤務歴を紹介された。高等学校 6 年間、そして本年度より中学
校勤務の 1 年間。この 7 年間の中で、
¡
英語を使いたい!と思う生徒たち(最近増えた)
¡
なんで英語するの?という生徒たち(最近減った)
¡
でもどう勉強したらいいかわからない。
¡
和訳を求める生徒が減った(和訳は与えているから?)
¡
文法説明を求められなくなった(読めばわかるから?)
¡
英語授業=実技の授業(使わせないと意味がない)ですねという。
¡
発音がよくなった。英語を話すと聞くようになった。
(小学校英語、中学校英語授業のおかげ!?)
と、受け持ってきた生徒の状況の感想を述べられた。
引き続き、冒頭にこの 1 年間で取り組んでこられた実践活動のビデオを見せていただいた。プロモーシ
ョン・ビデオのような作品仕上げで、中学 2 年生の対話プレゼンテーション、ショートスピーチ、ディベ
ート、iPad を使った授業などの特別授業の様子がBGMと共に映し出された。映像プレゼン技術が豊かで
あるとまず感じた。こうした特別授業・プロジェクト活動を行うには相当の準備が必要である。そのよう
1
なことが授業でこなせるかの問いに、英語の授業は週 5 時間で、教科書を使った授業を 4 時間、こうした
特別授業を 1 時間で構成し行っているとのことであった。この活動を軸とした英語授業が生徒の実際の成
長を見ることのできるパフォーマンスであり、到達目標であるということであった。テストの成績で見る
到達度でなく、パフォーマンスで見る到達度は評価細目で点数化するのは難しいかもしれないが、出来映
えとして実際の感覚で見ることができ、生徒自身も成就感を味わえ、教員自身も具体的な行動・活動の到
達度を感じることのできるものである。そうであるなら、授業は複線シラバスがいいのかもしれない。週 4
時間なら、3 時間を教科書を使った英語の基礎の定着を図る、1 時間を実際に英語を使うパフォーマンス活
動の時間とし、学習したことが実際に活かせるかフィードバックしながら行う。ユニットやレッスン終了
時にプロジェクトとして行うより、毎週継続的に目標を持ったプロジェクト活動の時間を設けることによ
り、より完成度の高いパフォーマンスを生み出すことができ、その方が成就感を生み出すのではないかと
思われた。
次に、中高一貫校の特徴やメリットと思われるところをまずフロアーに話し合ってもらった。「6 年間の
グランド・デザインで教育を見通せることができる」
「人間関係がうまくいかないと 6 年間は厳しい環境に
なる」などの意見が出た。戸田先生は、
¡
中学生は中学・高校の先生方の双方の授業が受けられ異なる観点を知ることできうる。
¡
身近にいる高校生の姿を観て、理想自己を描ける。
¡
高校入試がない!
¡
6年間の仲間。
¡
部活動も集中!
¡
高校に入っても中学の先生に相談できる!
教員にとっても、「中学校でめざすべきゴールがわかりやすい」「高校卒業時の到達目標から逆算して指導
計画が立てられる」「6 年間を見据えて指導できる」と話された。
ただ、6 年間という長いスパンを小学校教育に捉えられるだろうかと思う。小学校は 6 年間を 2 年間ず
つ区切って目標を設定しているように考える。1・2年生は「何、なぜという ? に対し ! そうなのか」
という気づきを大切にし、3・4 年生では「自分でやってみる・考えてみる」体験型を大切にし、5・6年
生ではグループで「調べ学習」をしたりするプロジェクト活動を通して思考力表現力を育むという目標を
もち、担任が様々な教科を一人で 6 年間見据えて持ち上がる。こうしたシステムでないと 6 年間を見通し
た教育を行うことができるのだろうかと思う。中学校から教科は専科科目で異なる先生が個別に授業を行
って行く。延べ人数でも相当数の先生が 3 年間で関わっていく。3 年間でも一貫した指導理念を共有する
ことは難しい。それが 6 年間になるとどうなるのだろう。ただ教科担任は持ち上がりが原則で 6 年間を通
して指導するなら、また新たな事が生まれるかも知れない。私学の中高一貫校でも、中学校教員と高等学
校教員は担当講習を分けているように思う。そうしたことも考える必要がある。
中高の職務の違いについて、まず、学校の職員構成は、
¡
学年団3 3名=9名(中学籍)
¡
教務団
担任2人+主任=3名
2名(高校籍)
2
¡
教頭・保健1名=2名(中学籍)
¡
合計13名
と話され、職務は、高校在職時は主に、英語の教科指導、担任業務、分掌、部活動(卓球・英語部)、中学
校ではまず英語の教科指導が、
¡ ··· 中2英語(4) 2 クラス
¡ ··· 中2英語ディベート(1)
¡ ··· 中3英語(4)
主担当
2 クラス
主担当
2 クラス
¡ ··· 中3英語ディベート(1)
副担当
2 クラス
副担当
¡ ··· 道徳(1)
1クラス
主担当
¡ ··· 読書(1)
1クラス
主担当
¡ ··· 総合的な学習の時間(3)
1クラス
主担当
であり、時間割表にすると以下のようになり 27 コマが埋まる。そのうえに、バスケット部顧問や特別支援
推進リーダー、学校と地域を結ぶコーディネーター、スクールカウンセリング委員会、SGH 推進委員会な
どの分掌業務があるとのことで、業務量が格段に増えたとのことであった。これには高校教員が改めて中
学校教員の職務の多さに驚きを禁じ得なかったようである。
学校と地域を結ぶコーディネーターは、地域や小学校との関わりが多く、小学校での英語教育の支援も
この中に含まれているとのことであった。義務教育は市長村の管理下にあるのでそうした連携は行いやす
い。そこでフロアーに中学校の教員は小学校か高等学校か普段はどちらの方に視野が置かれているかと尋
ねると、小学校との関わりが多いということであった。高校との関わりはほとんどないとのことであった。
休憩を入れて、後半を再開した。まず、中学校・高等学校の教科書をグループ内で見て、どう異なるか
フロアーに話し合ってもらった。そこで、中学校の教科書への気づきとして、
¡ ··· 対話形式の文章が多い
¡ ··· ページにイラストや絵が多い
¡ ··· 活字が高校と比べ大きい
¡ ··· 文法の説明・解説が少ないのではないか
¡ ··· Grammar based、Grammar oriented のユニット構造になっている
¡ ··· 英語の基礎を教える事に主眼があり、基本的な英文で構成されている
¡ ··· 外国と日本との違いをいしきさせる内容がおおいのではないか
¡ ··· 教科書の各ページのページ数にも数字と共に英語表記されている
¡ ··· 新出単語の意味が巻末にあり辞書的名ものが付いている
¡ ··· 発音記号は中2の教科書からあるのでは
¡ ··· Section ごとに Speaking task が設けられている
¡ ··· Can-do statement が付記されていて、何を目標としているのか明示している
¡ ··· Target grammar で文法の学習ができるようになっている
¡ ··· Project 活動が章末にあり、実際に英語を使ったタスク活動が用意されている
3
高等学校の教科書への気づきとしては、
¡ ··· 中学校の教科書と比べて情報量が多い(英文の量)3倍くらい
¡ ··· 文法の説明が多い
¡ ··· 各レッスンの内容にメッセージ性がある
¡ ··· Topic based、Content based である構成である
¡ ··· 教科書のサイズが小さい
¡ ··· 高等学校の教科書には発音がカタカナ表記のものもある
¡ ··· 言語活動はあるが、章末に小さくあるだけで、スキップしても構わないような構成になっている
¡ ··· 本課の内容に対して Additional reading(double reading)が用意されていて話題に対して異なった
観点で考えさせたり、より深い理解をさせたりするようにしている
と意見が出された。
つぎに各指導領域について中高で指導の違いがあるかどうか話し合ってもらった。まず語彙指導である。
中学校の語彙指導は、
¡
教科書の単語のみを扱う
¡
フラッシュカードを多用して指導する
¡
声を出して読めないと始まらない。音声が大事で、単語を発音できることに注意する
¡
語彙指導に、フォニックス(cate: silent e など)などを取り入れて綴りと発音の指導を入れている
高等学校の語彙指導は、
¡
教科書とは別の単語集を買わせ、その単語集からの単語定着テストを行う
¡
そうした単語集には、ユメタン、音読英単語、速読英単語がある
¡
(難しい単語の指導のとき)フラッシュカードを使うこともあるが、通常使わない
¡
本文ベース→語彙指導を行うこともある
中高どちらにおいても、日英、英日の意味変換が多いようであった。中学校でも発音はさせるが、テスト
自体は単語を書かせることがおおいということであった。どちらにおいてもスペルを重視した指導を行っ
ている。
次に発音・音読指導について中高に違いがあるかについて話してもらった。中学校では、
¡
すべての文章を音読できるように指導する
¡
1 時間の授業で、最大20回(覚えるくらい)は音読指導を行う
¡
高校の教科書と比べて内容が日常の対話が多いので、音読は非常に大切である
¡
生きた英語として対話から入る教科書構成であるので、音読は非常に重要である
¡
コミュニケーションを支える文法としての音読表現を大切にしている
¡
英語を話すことができると言う素地・基本の育成・楽しさを大切に考えている
高等学校では、
¡
1 時間に音読させたとしても最大5回∼10回までである。
¡
サマリーや Retelling を英語でさせる場合、音読を多く行っている方が英文の定着力がよく、部分
4
的になっても音読活動を行っている
¡
評論文(抽象思考が必要)では余り音読をやらない。内容理解に重点を置く
などが述べられた。
読解活動における中高の指導の違いについては、中学校では、
¡
和訳は通常行わないが参加者の中で半数いた。平易な時は配らない教員もいた
高等学校では、授業中に和訳をする教員が多い。授業で行わず、事前に訳を配っているということも多い
ようであった。どちらにしろ、高等学校は内容の難しさゆえか、和訳を与えることを通して、本文の理解
をさせたり、一助となるようにしたりしている。これは生徒の要望が非常に強いとのことで、そうせざる
を得ないことがあるとのことであった。日本語で英文を理解することは、英語の理解に繋がらず、アウト
プットの段階で日本語的な発想や構造の英文を話したり書いたりすることになる。そこが課題である。和
訳ではなく、英文が何をどのようにつたえいのか、なぜそれを伝えたいのかを理解させることの方が大切
ではないだろうか。
¡
高等学校で100字の日本語要約活動を取り入れている。訳読より本歌の内容を的確に捉えている
かどうか判断しやすい。
¡
この単元で一番言いたいことは何かを見つける活動が大切ではないか
¡
どんな読解活動を行うにしても、なぜそれをするのか、伝えることがたいせつである
¡
中学校では 10 行程度の文章なので、なぜそうした文のつながりになっているのかを理解させるこ
とが肝要ではないか。
(文と文のつながり:cohesion. 段落と段落のつながり coherence)英語そ
のものに目を向けることが必要ではないか
と話し合った。
時間がなく、アウトプット活動の中高の違いについては非常に短い時間で話し合ってもらった。中学校
では、project 型が多いようである。教科書にもそうした活動が附属している。高等学校の場合、教員の判
断で、写真を説明させたりする show & tell やグループで教科書の retelling を行っているとのことであっ
た。
最後に、戸田先生からアウトプット活動を視野に入れながら、中学校での観点別評価活動の大切さと大
変さについて話された。中学校では、通知表には観点別評価を行い、観点①関心
観点③理解
ABC、観点④知識
ABC、観点②表現
ABC、
ABC ですべて A で5と表記するとのことである。
観点①コミュニケーションへの関心をもち、意欲的に取り組むことができる。
観点②自分の考えや気持ちを話したり、書いたり評価できる。
観点③聞いたり、読んだりして相手が伝えたいことを理解できる。
観点④言語やその運用の知識を身につけ、その背景にある文化などを理解している。
観点別評価を観て、どこをどう復習すればよいかわかる。また、指導と評価の一体化を目指すためにも、
Can do は必要とかんがえるとのことであった。高等学校にはその観点が欠けているのでないかとの指摘で
あった。
3 時間の勉強会は、あっという間に終わり、まだまだ話題提供をもとに参加者で話し合いたいことは山ほ
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どあった。準備をしていただいた戸田先生には感謝である。また、グループでの意見を即座にその場でパ
ワ­ポイントに筆記タイプしていただき、参加者にとって分かりやすい勉強会になった。タイプされた意見
のスライドを多くの人が写メで記録されていた。本学の学生もときどき ipad で写真として板書をや ppt の
スクリーンを撮影する。時代は変わったものだ。
非常に熱心に話し合っていただいた。閉会してもその場で話し合いを続けている人が多く見られた。本
年度最後の勉強会は充実したものになった。
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