第4章 貨幣とインフレーション 第4章のテーマ(1/2)

第4章
貨幣とインフレーション
初級マクロ経済学1(2015年度) 担当:中川竜一
関西大学初級マクロ経済学1(担当:中川竜一)
2
第4章のテーマ(1/2)

価格: 貨幣が財・サービスと交換される比率。

インフレーション:


言い換えれば、
。
インフレーション: 激しいインフレ。
:逆の現象。


。
インフレの原因、影響、社会的コストを学ぶ。

古典派の理論(価格伸縮的な長期の経済)。
関西大学初級マクロ経済学1(担当:中川竜一)
3
日本のインフレーション
25
年率(%)
20
15
10
5
0
-5
1970
1975
1980
1985
1990
1995
2000
関西大学初級マクロ経済学1(担当:中川竜一)
4
ハイパー・インフレーション(1920年代)
(a) オーストリア
(b) ハンガリー
指数
(1921年1月 = 100)
指数
(1921年7月 = 100)
100,000
100,000
物価水準
物価水準
10,000
10,000
1,000
100
1,000
1921
1922
1923
1924
1925
100
1921
1922
(c) ドイツ
1924
1925
(d) ポーランド
指数
(1921年1月 = 100)
100,000,000,000,000
1,000,000,000,000
10,000,000,000
100,000,000
1,000,000
10,000
100
1
1923
指数
(1921年1月 = 100)
10,000,000
物価水準
物価水準
1,000,000
100,000
10,000
1,000
1921
1922
1923
1924
1925
100
1921
1922
1923
1924
1925
関西大学初級マクロ経済学1(担当:中川竜一)
5
例)ドイツのハイパーインフレーション
1000億マルク紙幣
500万マルク
切手
ゴミ同然
の紙幣
関西大学初級マクロ経済学1(担当:中川竜一)
6
第4章のテーマ(2/2)

4-1 貨幣とは何か。

4-2 貨幣数量説:貨幣量とインフレとの関係。

4-3 インフレ税。

4-4 インフレと名目利子率。

4-5 名目利子率と貨幣需要。

4-6 インフレーションの社会的コスト。

4-7 ハイパーインフレーション。
関西大学初級マクロ経済学1(担当:中川竜一)
7
4-1 貨幣とは何か

貨幣:取引に即座に使用できる資産ストック。
機能
効果
.
.
「
財・サービスを
.
(
)
. 財・サービスの
」が不要に
⇒取引き活発に
財の
.
.
.
⇒情報収集コスト↓
.
を購入
. できる(注意:
.
.
.
手段
)
関西大学初級マクロ経済学1(担当:中川竜一)
8
貨幣の種類
:内在的価値をもつ。



金融制度が未発達な社会で流通する。
:金(or兌換紙幣)が貨幣となる貨幣制度。

:金との交換可能な紙幣。
:


金融制度が発達した社会で流通する。



。
:政府の宣言によって貨幣となった証書。
。
。
関西大学初級マクロ経済学1(担当:中川竜一)
9
貨幣量はどうコントロールされるか
.
:

。
: 日本の中央銀行。




「日本銀行券」を発行。
政策委員会: 金融政策の最高意志決定機関。
金融政策決定会合:月2回、開催。
:


中央銀行が民間との
間で
。

例)国債。
関西大学初級マクロ経済学1(担当:中川竜一)
図3-1
10
経済における貨幣のフロー循環図
所得
生産要素
市場
労働
家計
企業
租税
政府
政府購入
消費
財・サービス
市場
投資
財
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11
貨幣量の測定

貨幣:取引・決済に使用できる資産のストック。

日本の場合:
: 政府発行の紙幣と硬貨。
: 即座に引き出せる預金。
:即座に引き出せないが、流動性の高



い預金。

貨幣に含まれる資産は時代とともに変遷する。
関西大学初級マクロ経済学1(担当:中川竜一)
12
日本の貨幣残高
(2011年2月、日本銀行データ)
広義流動性
1440兆
M3
1082兆
M2
782兆
定期性預金
M1
499兆
要求払い
預金
(424兆)
75兆
0
現金通貨
(283兆)
その他
預金
(300兆)
金銭信託
私募投信
・・・
(358兆)
関西大学初級マクロ経済学1(担当:中川竜一)
4-2

13
貨幣数量説
疑問:中央銀行の
?
:


デビット・ヒューム(1711~1776年)。
「
。」
.
「
。」
関西大学初級マクロ経済学1(担当:中川竜一)
14
取引と数量方程式


(貨幣)
:
を生産量(=所得) で置き換えると:
関西大学初級マクロ経済学1(担当:中川竜一)
15
貨幣需要関数と数量方程式

数量方程式は、


から導かれる。
人々がどれだけ貨幣を必要とするか。
ௗ
均衡では、貨幣需要
。

は
。
関西大学初級マクロ経済学1(担当:中川竜一)
16
流通速度一定の仮定

仮定「


数量方程式は、
意味:

一定」 ⇒ 「
」。
を表す。
.
貨幣数量説における名目GDP決定理論。
「
。」
関西大学初級マクロ経済学1(担当:中川竜一)
「
17
一定( )」は現実的? (日本)
関西大学初級マクロ経済学1(担当:中川竜一)
18
貨幣、物価とインフレーション(1/2)

貨幣数量説の疑問:

3つの結果:
一定( )。
1.


(第3章の結論)
‫ ܯ‬から独立。
。
2.
3.
?
(貨幣数量説)
௉௒
。
௒
貨幣数量説の結論:
「
。」
。
関西大学初級マクロ経済学1(担当:中川竜一)
19
貨幣、物価とインフレーション(2/2)

疑問: 貨幣量と

「

貨幣数量説では:



との関係は?
」を「変化率」で表すと、
ܻの変化率 ൌ
ܸの変化率 ൌ
。 (第3章)
。 (仮定) より、
貨幣数量説の結論:
「
.
。」
関西大学初級マクロ経済学1(担当:中川竜一)
図4-1’ 日本のインフレーションと貨幣成長
20
関西大学初級マクロ経済学1(担当:中川竜一)
21
図4-2 インフレーションと貨幣成長率
関西大学初級マクロ経済学1(担当:中川竜一)
22
4-3 貨幣発行収入(特権)

なぜ、
を稼げるから。


。
貨幣を発行すると:
⇒ 政府はコストゼロで何でも買うことができる。
⇒ インフレーションが起こる。
⇒
。

インフレーション:

ハイパーインフレーションの主な原因。
。
関西大学初級マクロ経済学1(担当:中川竜一)
4-4 インフレーションと利子率
2種類の利子率:実質と名目

インフレは、


23
。
利子率: おカネの貸し借りに対する見返り。
利子率には、2種類ある。
: 銀行などが支払う利子率。


例)

の銀行預金。
100円預金すると、
。
.
:

。

例)
ならば…
関西大学初級マクロ経済学1(担当:中川竜一)
24
なぜ「実質的」と言えるのか?

例1)





100円のパンは、
。
預金100円の実質的な利子(率)は、
例2)

ならば…
ならば…
100円のパンは、
。
預金100円の実質的な利子(率)は、
重要なのは、
。
。
。
関西大学初級マクロ経済学1(担当:中川竜一)
25
フィッシャー効果

インフレは、「名目」利子率に悪影響を及ぼす。
:


アーヴィング・フィッシャー(1867~1947)

「名目利子率は、
。」
.
:


成長率
.
関西大学初級マクロ経済学1(担当:中川竜一)
図4-3’ 日本のインフレーションと名目利子率
26
関西大学初級マクロ経済学1(担当:中川竜一)
図4-4
27
インフレーションと名目利子率
関西大学初級マクロ経済学1(担当:中川竜一)
28
2種類の実質利子率:事前と事後

今後1年間のインフレ率には、



2つの実質利子率:



.
.
現在予想するインフレ率:
1年後に実現する 〃 :
「
「
」実質利子率:
」
〃
:
名目利子率を決めるのは「


」実質利子率。
おカネを貸し借りするのは「今」なので。
:
関西大学初級マクロ経済学1(担当:中川竜一)
4-5 名目利子率と貨幣需要
貨幣保有のコスト
29
を

考えよう。

名目利子率=「

貨幣需要関数:

」。
.
関西大学初級マクロ経済学1(担当:中川竜一)
30
将来の貨幣と現在の物価

名目利子率と貨幣需要の関係があると、イン
フレーションに新しい要因が生まれる。
(図4-5)
貨幣供給
物価水準
貨幣需要
インフレ率
関西大学初級マクロ経済学1(担当:中川竜一)
31
将来のマネーサプライの影響

金融市場の均衡(
ௗ
)では、



実質貨幣残高は、
期待インフレ率は、
。
。
.
現在のインフレーションは、現在のマネーサプ
ライのみならず、
.
。
関西大学初級マクロ経済学1(担当:中川竜一)
4-6

32
インフレーションの社会的コスト
私たちは、直感的に「インフレーションは悪」と
考えている。

モノの値段が上がって生活費が上がるから…?
… しかし、給料も同時に増えれば問題なし…?

貨幣数量説では、実質GDPはインフレーショ
ンから影響されない。

なぜ「

6つの社会的コストを考える。
」
?
関西大学初級マクロ経済学1(担当:中川竜一)
33
予想されたインフレのコスト:靴底コスト

インフレ税の弊害:


貨幣価値の低下 ⇒
人々が
。
。
:現金保有量の減少に伴う

.
。


銀行に行かなければならない。
⇒
。
金融技術↑ ⇒ 靴底コスト
。
関西大学初級マクロ経済学1(担当:中川竜一)
予想されたインフレのコスト:メニューコスト

:企業が生産物の価格を変更
するときに費用が発生。


新しい価格の決定、価格表、カタログ印刷、…
⇒
!!
インフレーション ⇒ メニューコストが頻発。
34
関西大学初級マクロ経済学1(担当:中川竜一)
予想されたインフレのコスト:
資源配分のゆがみ

企業が価格を変えない間もインフレーションは
進んでいる。


!!
財・サービスの
インフレーション ⇒ 「


」
市場機能の低下。
!!
経済は

消費者の決定を歪める。
関西大学初級マクロ経済学1(担当:中川竜一)
予想されたインフレのコスト:
課税システムのゆがみ

例: キャピタルゲイン課税。


株の売買益に対する課税。
インフレ率0%のとき、


35
株100円で購入、
=
⇒ 課税なし。
。
。
インフレ率10%のとき、

株100円で購入、
=
⇒
。
。
。
36
関西大学初級マクロ経済学1(担当:中川竜一)
予想されたインフレのコスト:
計算単位の喪失
37
。



貨幣の計算尺度として役立たない。
個人の支出計画を複雑にする。

どれだけ貯蓄すればいいのか?
関西大学初級マクロ経済学1(担当:中川竜一)
38
予想外のインフレのコスト

予想外のインフレーション…
⇒ 人々の間で

とくに、貸借契約において。
1万円
貸し付け
家計
1万円+
金利
企業
返済
。
関西大学初級マクロ経済学1(担当:中川竜一)
39
インフレーションの1つの利点

「

理由:インフレは





インフレは望ましい…」という意見。
に有効。
労働者:
に強い抵抗。
インフレ: 実質賃金を引き下げる。
「穏やか」: 労働者は
。
企業: 名目賃金を下げずに、実質賃金を引き下
げることができる。
穏やかなインフレ ⇒
。(6章)
関西大学初級マクロ経済学1(担当:中川竜一)
4-7

を超えるインフレ。
1年で物価は
。
インフレのコスト①~⑤は極端に。



ハイパーインフレーション
定義:


40
貨幣の機能を上回る。 ⇒
。
or より価値の安定したものが貨幣に。
原因:
。
1.
2.

解決方法:

。
。
。
関西大学初級マクロ経済学1(担当:中川竜一)
41
ハイパー・インフレーション
(a) オーストリア
(b) ハンガリー
指数
(1921年1月 = 100)
指数
(1921年7月 = 100)
100,000
100,000
物価水準
物価水準
10,000
10,000
貨幣供給
1,000
100
貨幣供給
1,000
1921
1922
1923
1924
100
1925
1921
1922
(c) ドイツ
1924
指数
(1921年1月 = 100)
10,000,000
物価水準
物価水準
1,000,000
貨幣供給
貨幣供給
100,000
10,000
1,000
1921
1922
1923
1924
100
1925
1921
1922
1923
1924
関西大学初級マクロ経済学1(担当:中川竜一)
4-8

古典派の二分法
」で測られる変数。
4章の変数。
:「


1925
42
:「

1925
(d) ポーランド
指数
(1921年1月 = 100)
100,000,000,000,000
1,000,000,000,000
10,000,000,000
100,000,000
1,000,000
10,000
100
1
1923
」で測られる変数。
3章の変数。
:



名目変数を無視して、
分析。
「
」が成立すれば許される分析。

中立性: 貨幣は実質変数に影響しない。

長期の分析で成立。
関西大学初級マクロ経済学1(担当:中川竜一)
43
まとめ(1/2)

貨幣とは(4-1):



交換手段、計算単位、価値貯蔵手段。
金融政策:中央銀行がコントロール。
貨幣数量説(4-2):


物価水準は貨幣量に比例。
マネーサプライ↑ ⇒ インフレーション。

インフレ税(4-3):政府のインフレ動機。

インフレと名目利子率(4-4):


名目利子率と実質利子率。
フィッシャー効果: 期待インフレ率↑⇒ 名目利子率↑。
関西大学初級マクロ経済学1(担当:中川竜一)
44
まとめ(2/2)

名目利子率と貨幣需要(4-5):



インフレの社会的コスト(4-6):


期待インフレ ⇒ 名目利子率↑ ⇒ 貨幣需要↓。
将来のマネー予想↑ ⇒ 現在のインフレ↑。
靴底コスト、メニューコスト、資源配分の歪み、課
税の歪み、計算単位の喪失、富の再分配。
ハイパーインフレ(4-7):


原因: 財政赤字の膨張。
解決策: 財政改革。