20150528 信号処理システム特論 本日の内容 ○ 適応フィルタ(時間領域) ・ 適応アルゴリズム (LMS,NLMS,RLS) ○ 適応フィルタの応用例 適応処理 非適応処理 : 状況によらずいつでも同じ処理 適応処理 : 状況に応じた適切な処理 【高度な適応処理の例】 雑音抑圧,音響エコーキャンセラ,騒音制御など 時間領域の適応フィルタ 与えられた手順に従ってフィルタ係数を更新し、 自動的に所望の信号を得るフィルタ。 誤差信号 ek が小さくなるようにフィルタ係数を更新 所望信号 xk 適応フィルタ yk + - + dk 誤差信号 ek 適応フィルタの内部構成 xk yk フィルタ部 フィルタ係数 適応アルゴリズム ek フィルタ部(FIRフィルタの場合) xk a2 a1 a0 + + aM + + フィルタ係数 {a0 , a1 , a2 ,..., aM }は時間によって変化 yk 最適性基準 誤差パワー の最小化 J = E[e ] = E[{d k − yk } ] 2 k E[⋅ ] :期待値 2 所望信号 適応フィルタ の出力信号 出力信号のベクトル表記 yk = a Tk x k a Tk = [a0 a1 a2 ... aM ] T x k = [ xk xk −1 xk − 2 ... xk − M +1 ] 誤差パワーJ は係数に関する2次関数 評価関数J (誤差パワー) J = E[ek2 ] = E[{d k − yk }2 ] yk = a Tk x k M+1次元空間 J a1 â1 â0 評価関数 J のイメージ ・ 唯一の最適解が存在 ・ 解析的に求めることが可能 a0 Wiener解 J = E[ | ek |2 ] = E[(d k − a Tk x k )(d k − a Tk x k )T ] = E[ d k d kT ] − a Tk E[ x k d kT ] − E[ d k x Tk ]a k + a Tk E[ x k x Tk ]a k σ d2 := E[d k d kT ], Rxx := E[ x k x Tk ], 入力の自己相関行列 rdx := E[d k x Tk ], rxd := E[ x k d kT ] 入力と所望信号の相互相関ベクトル J = σ d2 − a Tk rxd − rdx a k + a kH Rxx a k ∂J = −rxd + Rxx a k = 0 ∂a k a k = Rxx−1rxd 正規方程式を解くことで解を得ることが可能 反復近似解法 正規方程式を解く方法: 自己相関行列を解くのは演算量大⇒計算資源の問題 定常性の仮定も必要⇒通常の用途では非定常信号を扱う 解決策 反復近似=係数を少しづつ更新して,最適解を得る 代表的なもの: LMSアルゴリズム(Least Mean Square) NLMSアルゴリズム(Normalized LMS) RLSアルゴリズム(Recursive Least Square) 最急降下アルゴリズム a k = a k −1 + ∆a 更新量 J 【更新量の決定法】 ∂J (a k −1 ) 勾配ベクトル: = − rxd + Rxx a k −1 ∂a k −1 a1 â1 a0 â0 更新は勾配と逆方向 評価関数 J のイメージ ∆a = − µ (− rxd + Rxx a k −1 ) µ:ステップサイズ 係数更新式 傾きの符号と逆 の方向に更新 J a k = a k −1 + µ (rxd − Rxx a k −1 ) a k = a k −1 + µE[ x k (d k − x Tk a k −1 )] ek = d k − a x k T k-1 a k = a k −1 + µE[ x k ek ] â0 a <m > 0 a0 更新の方向 係数更新のイメージ LMSとNLMSアルゴリズム ○ LMSアルゴリズム:期待値の代わりに瞬時値を利用 係数更新式 a k = a k −1 + µx k ek 0 < µ < 2 / λmax λmax:入力の自己相関行列 Rxx の最大固有値 ○ NLMSアルゴリズム:LMSを入力信号の平均電力で正規化 1 a k = a k −1 + µ ' x k ek 2 ( M + 1)σ 0 < µ'< 2 σ 2:入力信号の分散 ⇒ステップサイズの設定がLMSより簡単 RLSアルゴリズム ○ 現在までの入力サンプルの情報を用いて, 逆行列計算を逐時的に行う ○ ステップサイズが自動的に決まる 初期値: P0 = α −1 I α : 任意の大きな整数 係数ベクトルの更新: a k = a k −1 + g k ek T −1 g = P x ( 1 + x P x ) ゲインベクトル: k k −1 k k k −1 k T = − e d a 事前推定誤差: k k k-1 x k 自己相関行列の逆行列の更新: Pk = ( I − g k xkT ) Pk −1 各種適応アルゴリズムの特徴 アルゴリズム 特徴 演算量 (タップ数:N=M+1) LMS •演算量は少ない •ステップサイズに収束特性が大きく影響 2N NLMS •有色信号で収束速度が低下 •LMSよりもパラメータの設定が簡単 3N RLS法 •有色信号に対して白色雑音と同等の収 束速度 •演算量の関係から高次のタップ数が必 要な音響用途の応用が困難 2N2 適応フィルタの参考書) Ali H. Sayed, Adaptive Filters, Wiley. その他の代表的な適応アルゴリズムの特徴 アルゴリズム 特徴 J-FHF •収束速度が速い (J-ユニタリアレイ •有色信号で収束性能が高い 形式を導入したJ•並列化可能なアルゴリズム 高速H∞フィルタ) FDAF (周波数領域 LMS) 演算量 (タップ数:N) 7N 有色信号を擬似的に白色化し収束性能を向 上 2N + N log2N 連続的な動作と収束の安定性が両立しにくい FFTと逆FFTの演算量(N log2N)が必要 高次の射影次数に対する演算量を削減 FAP 従来のAP法の特性を保持 (高速アフィン射 誤差累積による性能劣化防止など安定性の 影法) 改善が課題 2N + 20Np (Np:射影次数) 適応フィルタの応用例 応用1) システム同定 特性の分かっていない伝達系に既知の信号を入力し, その入力信号に対する出力信号から その伝達系がどのような特性であるかを推定する技術。 Unknown System dk ek xk Adaptive filter yk xk : 入力 yk :フィルタ出力 d:システム出力 ek : 誤差信号 k システム同定のシミュレーション Unknown System dk xk δk ek Adaptive filter yk δ k : 外乱 シミュレーション結果 MSE 各種法の収束特性 Time k 応用2) 音響エコーキャンセラへの応用 音響エコーキャンセラ 携帯電話や固定電話のハンズフリー使用やインターネットによ るWeb会議システムで使われているスピーカとマイクロホンを 利用した双方向通信では音響エコーを抑制、除去する機能 マイク マイク もしも~し・・・ 音響エコー もしも~し・・・ もしも~し・・・ もしも~し・・・ 伝送路 応用2) 音響エコーキャンセラへの応用 伝送路 マイク 音響エコー マイク もしも~し・・・ はいは~い・・・ もしも~し・・・ はいは~い・・・ もしも~し・・・ xk 入力信号 適応フィルタ ek yk - + 所望信号 + dk エコーキャンセラのシミュレーション結果 応用3) 胎児心電図の信号分離への応用 所望信号 (母体心電信号) 腹部からの測定信号 (母体+胎児の心電) xk 適応フィルタ yk + - dk 誤差信号 ek 抽出できるか? 胎児の心電信号の抽出結果 応用4) マイクロホン・アレー技術 複数のマイクロホンを用いて,特定方向の 音を選択的に取り出し たり(目的音抽出),特定方向の音源の音を抑圧したり (雑音除去), 音源の方向を推定(音源定位)する技術。 目的音 観測音 目的音 (雑音含む) 抽出音 雑音のみ (目的音なし) 応用5) アクティブノイズコントロールへの応用 アクティブノイズコントロール(Active Noise Control, ANC) ノイズの逆位相の音を予測,生成して制御用スピーカから 発生させ,ノイズをキャンセル消音する技術 *ただし、スピーカーから誤差検出マイクまでの伝達特性は既知である必要がある ANCの基本構成例 ノイズ dk (未知経路) C (z ) 騒音検出 xk マイク Cˆ ( z ) 適応フィルタ 適応 アルゴリズム yk 誤差検出 マイク ek = d k + yk まとめ 適応フィルタ:状況の変化に応じて適切な処理を実現 ⇒ ・システムの高性能化に不可欠 ・さまざまな分野で期待大 【適応フィルタに要求される性能・課題】 良好な収束性能: 動作開始後、短時間での性能発揮 高速サンプリングレート: 広帯域信号処理への対応 短い出力滞在時間: 出力を得るまでの時間・応答性 小規模化: 小規模LSIで実装可能(低コスト化) 低消費電力: スマホ・携帯電話など小型端末でも長時間使用が可能
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