財政学 @埼玉大学経済学部 1 第12回 公債と財政赤字(1)日本の財政赤字と国債 2015年1月6日(火) 担当:天羽正継(高崎経済大学経済学部経済学科専任講師) 2 日本の財政赤字の現状(1) 財政赤字:租税等の歳入が歳出を下回っており、政府が国債等の公債を発行して借入れを行っている状態。 日本の財政赤字の現状 国・地方ともに、ほぼ毎年財政赤字を記録(スライド3)。 特に国が大きく、近年は東日本大震災等の影響により、対名目GDP比で10%近くの財政赤字。 国の財政(一般会計)は1990年代以降、歳出が増加する一方で税収が減少し、拡大する財政赤字を賄うために、毎年 度の国債発行額が増加(スライド4)。 特に2000年代以降は特例(赤字)国債(後述)の発行が増加。 国債発行額の増加により、国債残高も増加(スライド5)。 残高:過去に行った借入れのうち、まだ償還(返済)していない分の合計額。 国債残高の対GDP比は2014年度末で156%。その他の長期債務と地方の長期債務を合わせた額の対GDP比は202%に も及ぶ(スライド6)。 財政赤字と政府債務残高の国際比較 2014年現在、財政赤字、債務残高ともに、日本は先進国中で最悪(スライド7、8)。 ユーロ危機の発端となったギリシャをも上回る。 3 日本の財政赤字の現状(2) 国と地方の財政収支の推移 2001 2002 2003 2004 2005 2006 年度 実額 ▲ 26.5 ▲ 30.5 ▲ 31.2 ▲ 24.8 ▲ 19.7 ▲ 16.4 国 対名目GDP比 ▲ 5.3 ▲ 6.1 ▲ 6.2 ▲ 4.9 ▲ 3.9 ▲ 3.2 実額 ▲ 6.9 ▲ 8.8 ▲ 7.4 ▲ 4.3 ▲ 1.8 0.5 地方 対名目GDP比 ▲ 1.4 ▲ 1.8 ▲ 1.5 ▲ 0.9 ▲ 0.4 0.1 注1:2012年度および2013年度については内閣府推計値。 注2:2011年度から2013年度については、復旧・復興対策の経費および財源の金額を含む。 出所:内閣府「国・地方のプライマリー・バランス等の推移」2013年2月28日。 2007 ▲ 12.5 ▲ 2.4 ▲ 0.0 ▲ 0.0 2008 ▲ 23.2 ▲ 4.7 1.3 0.3 (単位:実額は兆円程度、対名目GDP比は%程度) 2009 2010 2011 2012 2013 ▲ 43.0 ▲ 37.3 ▲ 41.5 ▲ 47.3 ▲ 47.1 ▲ 9.1 ▲ 7.8 ▲ 8.8 ▲ 10.0 ▲ 9.7 ▲ 1.1 ▲ 2.7 0.6 0.3 ▲ 0.5 ▲ 0.2 ▲ 0.6 0.1 0.1 ▲ 0.1 4 日本の財政赤字の現状(3) (兆円) 国の一般会計における歳入・歳出、国債発行額の推移 120.0 101.0 100.0 89.0 一般会計歳出 84.4 80.0 70.5 69.3 70.5 65.9 75.1 73.6 78.8 78.5 75.9 89.3 84.883.7 84.9 85.5 82.4 81.4 84.7 95.3 100.7 98.1 95.9 97.1 81.8 一般会計税収 61.5 60.1 59.8 57.7 54.9 54.4 54.1 53.9 53.053.6 51.9 52.1 51.0 50.7 50.0 50.8 50.6 51.5 49.4 49.1 49.1 47.9 47.2 46.8 43.9 45.4 46.9 45.6 44.3 43.8 42.8 51.0 41.9 43.4 15.0 41.5 47.2 38.2 11.4 38.8 40.0 43.3 7.0 6.0 34.9 7.6 8.4 34.1 32.4 38.7 30.5 29.0 建設(4条)国債発行額 6.7 8.7 29.1 26.9 13.2 9.1 7.0 24.5 23.7 11.1 7.8 9.1 17.0 21.9 20.9 6.4 特例(赤字)国債発行額 6.0 17.3 20.0 15.7 36.934.734.436.035.835.2 13.8 10.7 9.9 28.7 26.8 26.2 25.8 24.321.9 23.521.1 20.9 16.4 7.1 7.0 7.0 7.0 6.8 6.4 6.3 19.3 16.9 6.2 16.2 5.0 6.3 12.3 6.9 3.7 9.2 8.5 6.2 6.4 6.3 6.7 9.5 3.2 7.2 7.0 6.7 6.4 6.3 6.0 5.9 5.0 3.5 4.5 4.3 2.5 1.0 0.2 0.8 2.0 0.0 2.1 60.0 注1:2012年度までは決算、2013年度は補正後予算、2014年度は政府案による。 注2:国債発行額は、1990年度は湾岸地域における平和回復活動を支援する財源を調達するための臨時特別公債、1994~96年度は消費税率3%から5%への引上げに先行して行った減税 による租税収入の減少を補うための減税特例公債、2011年度は東日本大震災からの復興のために実施する施策の財源を調達するための復興債、2012年度、2013年度は基礎年金国庫 負担2分の1を実現する財源を調達するための年金特例公債を除いている。 出所:財務省資料 日本の財政赤字の現状(4) 国債残高の推移 (兆円) 900 800 11 復興債残高 700 10 9 260 258 11 250 246 600 248 238 247 243 500 237 225 509 241 226 400 建設(4条)国債残高 222 216 356 197 187 200 100 0 56 0 1 2 2 2 3 4 6 63 69 75 81 102 108 87 91 97 116 131 142 158 168 280 288 258 175 49 77 83 42 67 59 64 65 65 64 65 64 63 61 64 28 35 53 47 8 10 22 40 13 17 10 15 21 28 33 2 5 445 411 390 209 300 477 305 321 231 108 134 158 176 199 特例(赤字)国債残高 1965 1966 1967 1968 1969 1970 1971 1972 1973 1974 1975 1976 1977 1978 1979 1980 1981 1982 1983 1984 1985 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 5 (年度末) 注1:国債残高は各年度の3月末現在額。ただし、2014年度末は政府案に基づく見込み。 注2:特例国債残高は、国鉄長期債務、国有林野累積債務等の一般会計承継による借換国債、臨時特別公債、減税特例公債および年金特例公債を含む。 出所:財務省資料 6 日本の財政赤字の現状(5) 国および地方の長期債務残高 (単位:兆円程度) 1998年度末 2003年度末 2008年度末 2009年度末 2010年度末 2011年度末 2012年度末 2013年度末 2014年度末 〈実績〉 〈実績見込〉 〈予算〉 〈実績〉 〈実績〉 〈実績〉 〈実績〉 〈実績〉 〈実績〉 国 731 779 811 621 662 694 390 493 573 670 705 751 780 普通国債残高 295 457 546 594 636 155% 156% 91% 112% 125% 133% 141% 149% 対GDP比 58% 200 201 201 200 地方 163 198 197 199 200 41% 40% 40% 40% 42% 42% 42% 43% 対GDP比 32% 932 980 1,010 国・地方合計 553 692 770 820 862 895 173% 179% 189% 197% 202% 202% 対GDP比 108% 138% 157% 注1:GDPは、2012年度までは実績値、2013年度は実績見込み、2014年度は政府見通しによる。 注2:東日本大震災からの復興のために実施する施策に必要な財源として発行される復興債及び、基礎年金国庫負担2分の1を実現する財源を調達するための年金特例 公債を普通国債残高に含めている。 注3:交付税及び譲与税配付金特別会計の借入金については、その償還の負担分に応じて、国と地方に分割して計上している。 注4:2013年度以降は、地方は地方債計画等に基づく見込み。 注5:このほか、2014年度末の財政融資特別会計国債残高は101兆円程度。 出所:財務省資料 7 日本の財政赤字の現状(6) 財政収支の国際比較(一般政府、対GDP比) (単位:%) 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年 2015年 オーストラリア -0.91 -1.65 -4.58 -1.80 -1.67 -0.99 -1.01 -4.14 -4.50 -2.44 -2.58 -1.52 -2.82 -1.29 カナダ 0.03 0.06 1.01 1.67 1.80 1.46 -0.30 -4.52 -4.93 -3.72 -3.37 -3.02 -2.10 -1.23 デンマーク 0.26 -0.09 1.89 5.02 5.04 4.80 3.28 -2.77 -2.72 -2.04 -3.94 -0.93 -1.48 -2.98 フィンランド 4.17 2.50 2.27 2.69 4.08 5.34 4.35 -2.72 -2.81 -1.04 -2.22 -2.46 -2.21 -0.94 フランス -3.3 -4.1 -3.6 -3.0 -2.4 -2.8 -3.3 -7.5 -7.0 -5.2 -4.9 -4.3 -3.8 -3.1 ドイツ -3.8 -4.1 -3.8 -3.3 -1.7 0.2 -0.1 -3.1 -4.2 -0.8 0.1 0.0 -0.2 0.2 ギリシャ -5.1 -6.0 -7.8 -5.6 -6.2 -6.8 -9.9 -15.6 -11.0 -9.6 -8.9 -12.7 -2.5 -1.4 イタリア -3.16 -3.64 -3.57 -4.49 -3.41 -1.59 -2.67 -5.42 -4.38 -3.62 -2.90 -2.83 -2.74 -2.07 日本 -7.71 -7.67 -5.95 -4.81 -1.28 -2.09 -1.86 -8.84 -8.31 -8.81 -8.71 -9.29 -8.35 -6.69 韓国 5.42 0.97 3.03 3.69 4.29 4.90 2.93 -1.00 0.97 0.98 1.01 -0.44 0.14 0.54 ノルウェー 9.21 7.37 11.11 15.04 18.30 17.31 18.79 10.53 11.10 13.60 13.90 11.14 10.71 10.22 スペイン -0.34 -0.33 -0.07 1.28 2.36 1.97 -4.51 -11.12 -9.62 -9.56 -10.62 -7.08 -5.54 -4.50 スウェーデン -1.48 -1.26 0.42 1.95 2.22 3.58 2.17 -0.98 -0.01 -0.01 -0.74 -1.35 -1.54 -0.79 イギリス -2.16 -3.48 -3.53 -3.44 -2.86 -2.97 -5.06 -11.24 -9.97 -7.91 -6.29 -5.88 -5.33 -4.14 アメリカ -4.77 -5.95 -5.47 -4.20 -3.11 -3.70 -7.17 -12.82 -12.17 -10.72 -9.28 -6.37 -5.84 -4.65 注:一般政府とは、中央政府、地方政府、社会保障基金を合わせたもの。 出所:OECD「Economic Outlook No95」より作成。 8 日本の財政赤字の現状(7) 債務残高の国際比較(一般政府、対GDP比) (単位:%) 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年 2015年 オーストラリア 20.1 18.6 16.8 16.4 15.6 14.6 13.9 19.4 23.6 27.0 32.1 33.1 35.2 35.9 カナダ 84.8 80.3 76.5 75.8 74.9 70.4 74.7 87.4 89.5 93.6 96.1 93.6 94.2 93.6 デンマーク 58.2 56.6 54.0 45.9 41.2 34.3 41.4 49.3 53.1 59.9 59.3 55.2 56.5 59.3 フィンランド 49.5 51.4 51.5 48.4 45.6 41.4 40.3 51.8 57.9 58.2 64.0 66.4 69.3 70.1 フランス 70.7 75.2 77.2 79.0 73.9 73.0 79.3 91.4 95.7 99.3 109.3 112.6 115.1 116.1 ドイツ 62.5 65.9 69.3 71.8 69.8 65.6 69.9 77.5 86.2 85.8 88.5 85.9 83.9 79.8 ギリシャ 117.9 112.6 115.1 115.6 121.6 119.3 122.5 138.3 157.3 179.9 167.5 186.0 188.7 188.2 イタリア 118.8 116.3 116.8 119.4 121.2 116.5 118.9 132.4 131.1 124.0 142.2 145.5 147.2 147.4 日本 153.5 158.3 166.3 169.5 166.8 162.4 171.1 188.7 193.3 209.5 216.5 224.6 229.6 232.5 韓国 18.1 18.7 22.0 24.0 26.9 26.9 28.3 31.0 31.8 33.3 34.8 36.5 37.9 39.0 ノルウェー 39.4 48.8 50.7 47.6 58.7 56.6 55.2 49.0 49.3 33.9 34.7 35.6 36.7 39.6 スペイン 60.6 55.5 53.5 50.9 46.3 42.5 48.0 63.3 68.4 78.8 92.6 104.0 108.5 111.5 スウェーデン 61.7 60.6 59.3 60.1 52.9 48.2 48.3 50.2 47.3 47.6 46.7 47.1 48.5 48.3 イギリス 41.7 42.0 44.2 46.4 46.0 46.9 57.3 72.1 81.7 97.1 101.6 99.3 101.7 103.1 アメリカ 55.1 58.3 65.2 64.6 63.4 63.8 72.6 85.8 94.6 98.8 102.1 104.3 106.2 106.5 注:一般政府とは、中央政府、地方政府、社会保障基金を合わせたもの。 出所:OECD「Economic Outlook No95」より作成。 9 公債とは何か(1) 公債:政府が借入れのために発行する債券。 財政赤字を賄うために発行される。 ただし、将来世代にも便益を及ぼす事業のために発行される公債は、財政赤字(財源不足)を賄うための公債とは区別される場合 がある(後述)。 中央政府が発行する公債は国債、地方政府が発行する公債は地方債と呼ばれる。 債券は有価証券であり、株式と同様に転売する(市場で流通させる)ことが可能。 企業が発行する債券は社債と呼ばれる。 債券は元本と利子からなる。債券を保有する主体に対して利子を支払うことは利払いと呼ばれ、利子と元本を支払うこ とは元利償還と呼ばれる。 元本を支払うことで返済(償還)となる。 日本では以上のほかに、債券の形式をとらない借入金、一時的な資金不足を賄うための政府短期証券、独立行政法人等の資 金調達に保証を付与する政府保証債務があり、これらと国債・地方債、さらに独立行政法人等の債務を合わせたものが公的 債務と呼ばれる(スライド10)。 10 公債とは何か(2) 日本における公的債務の概念 ( ) 広 義 の 公 的 債 務 財 政 活 動 に よ る 資 金 調 達 に 伴 う 債 務 建設国債 国 の 資 金 調 達 に 伴 う 債 務 特例国債 普通国債 復興債 国債 借換債 財投債 (その他の国債(注)) 政府短期証券 借入金 政府保証債務 の そ 地方債 債 公の 務 的 他 独立行政法人等の債務 注:「その他の国債」には交付国債、出資・拠出国債、株式会社日本政策投資 銀行危機対応業務国債、原子力損害賠償支援機構国債、日本高速道路保 有・債務返済機構債券承継国債が含まれる。 出所:財務省理財局『債務管理リポート2014―国の債務管理と公的債務の現 状』5ページより作成。 11 日本の国債(1) 日本の国債は大きく普通国債と財政投融資特別会計国債(財投債)からなる。 普通国債は建設国債、特例国債、復興債、借換債からなる。 建設(4条)国債:橋や道路の建設など、主として公共事業費を賄うために、財政法第4条に基づいて発行される。 財政法第4条「国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない。但し、公共事業費、出資金及び貸付金の財源 については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことができる」 特例(赤字)国債:建設国債を発行してもなお歳入が不足すると見込まれる場合に、公共事業費以外の歳出のために発行される。 財政法は公共事業費以外のために国債を発行することを禁止しているため、特例法を毎年度制定し、これに基いて発行される。 借換債:普通国債の償還額の一部を借り換えるために発行される。 財政投融資特別会計国債(財投債) 国の財政投融資特別会計が発行する国債。発行して得られた資金(財政融資資金)は、政府関係機関や独立行政法人等に融資さ れる。 元利償還の財源は、財政投融資の貸付回収金。 租税が元利償還の財源とされている普通国債との違い。 公共事業費のためであれば公債発行が認められる理由 橋や道路などの資産(見合いの資産)は将来の世代にも便益を及ぼすが、こうした資産を作るための費用をすべて租税で賄おうとする と、現在の世代がその負担をすべて負い、将来の世代は負わないこととなり、世代間で不公平が生じる。 一方、公債発行によって資産を作り、その償還のための費用を将来世代に対する租税で賄えば、将来世代も便益に応じて費用を負担す ることとなり(スライド12)、世代間の公平が達成可能となる。 12 日本の国債(2) 租税により償還 公債残高 公債発行 世代
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