修士論文要旨論文タイトル：「キャッシュ・フロー計算書と企業価値評価に関する研究―財務戦略の相違から見た『中国と日本を代表する家電メーカーの経営戦略の相違』」学籍番号：AM12004 氏名：劉丹指導教授：大島正克教授【論文の構成】はじめに第1章キャッシュ・フロー計算書の重要性第 2 章日中のキャッシュ・フロー計算書の仕組みの比較検討第3章キャッシュ・フローから見た「中国と日本を代表する家電メーカーの経営戦略の相違」―パナソニック、日立、ハイアール、ハイセンス― 第4章キャッシュ・フロー情報による企業価値評価おわりに【論文の内容】 1. 研究目的 1990 年代、日本の不動産バブル崩壊後、黒字倒産という言葉がよく聞かれた。企業が生存するための必須条件は利益が生まれることではなく、必要なキャッシュが必要な時に手元にあることを認識する。また、2008 年、米国のリーマンショックの影響で、黒字倒産がまた多発した。したがって、企業の資金繰りを表すキャッシュ・フロー重視の思考が勢いを増している。最近、中国のシャドーバンキングの問題の影響で、特に金融機関からの借金を主な原資としている企業は、資金調達のリスクが高くなるので、黒字倒産を防止するため、キャッシュ・フローの重視度はまた高くなる。また、キャッシュ・フロー情報は将来キャッシュ・フローを用いた企業価値評価を行う上で基礎データとして用いることができる。中国では株式市場が急速拡大しつつあるとともに、投資者の企業分析と企業価値評価についての注目度が高まっている。企業価値の評価という作業の本質的に理解するうえで、企業価値の最大化の方法を検討する。 2. 研究方法キャッシュ・フローそのものに対する知識の説明から、家電産業を事例として、日本企業パナソニックと日立と中国企業ハイアールとハイセンスのキャッシュ・フローを分析して、日本企業と中国企業の財務戦略の相違点を見つけて経営戦略の相違を検討する。また、フリー・キャッシュ・フローの意義と国際企業に適用可能な計算方法を明らかにして、企業価値を評価する方法、DCF 法を説明して、企業価値の向上策を検討する。 3. 研究意義いつも重視する貸借対照表と損益計算書についての分析と違う視点で、企業が営業活動からどのくらいのキャッシュを生み出して、その結果、成長するためどのくらい投資を行うのか、どのくらいの資金調達が必要かないし債務の返済が可能かを評価するのに有用な情報を提供するキャッシュ・フロー計算書の視点から日本企業の競争相手となる中国企業と比較して、両国の企業に潜在するリスクや戦略的な機会を的確に把握し，企業の現金創出力を表す企業価値の最大化方法を検討することを含める。 4. 研究結果分析により、日本企業は積極的に投資活動を行っていることが分かった。成長・競争するために技術研究開発などの投資が重要であるが、しかし、営業活動によるキャッシュ・フローで投資活動を賄なえない程度で投資するのは手元資金を取り崩すリスクがあるので、財務の安全性も考慮しなければならない。そして、日本企業は投資面だけではなく、ほかの競争源泉、例えば、販売力、コストなどに力を入れたほうがよい。一方、中国企業の場合は、現金蓄積能力が非常に高いが、投資の程度がまだ小さい。今の変化が激しい時代において、新製品の研究開発、技術革新は中国の企業にとって競争に打ち勝つには、重要なポイントである。したがって、中国企業は投資を強化する必要があると思われる。成長性に関する指標として、自社の過去からのトレンドを分析した「売上高成長率」や「総資産成長率」がよく知られているが、キャッシュ・フローで見る場合、「回収した営業キャッシュ・フローからどれだけの投資を行っているのか」、という観点から潜在的な成長性を評価する。過大な投資は財務安定性を崩す一方で、投資を抑制しすぎると成長の芽を摘んでしまうことにもなりかねない。経営者や CFO にとっては、自社の成長ステージに合わせて、投資と財務安定性のバランスを取っていくことが重要な課題といえる。今後は、「総資産に対する投資キャッシュ・フローの比率とマーケット・シェアとの相関関係」を課題として、研究を継続していく。【主要な参考文献】 1 本合暁詩（2012）『図解ビジネスファイナンス第 2 版』中央経済社． 2 平松一夫, 井上浩一, 山地範明（ 2009）『事例でわかる企業分析』東京経済情報出版． 3 西山茂（2006）『企業分析シナリオ 4 岡部勝成（2010）『キャッシュ・フロー会計情報と企業価値評価 : 九州地区の中小企業をめぐる実証分第 2 版』東洋経済新報社．析』税務経理協会． 5 桜井久勝, 百合草裕康, 蜂谷豊彦（2006）『キャッシュ・フロー会計と企業評価 6 桜井久勝（2012）『財務諸表分析第 5 版』中央経済社．第 2 版』中央経済社．