は じ め に - 北海道立衛生研究所

は じ め に
本報は平成10年度の道立衛生研究所の調査研究事業をまとめたもので、今年が開設50
周年の年に当たることから一段と意義深いものといえる。第49集は調査報告、ノート、
他誌への発表などが大幅に増え内容の濃いものとなっている。特に国内外の学術誌掲載
論文の増加は当所の研究活動が大きく広がり活性化していることを裏付けるもので喜ば
しく思う。この数年の前所長を始め所員各位のご努力に心から敬意を表したい。所報に
学問的水準を問うことは勿論であるが、一方「情報公開、情報提供」の大きな役割を担
っているのも事実といえる。所報の掲載内容が年々豊かになり他誌への発表、解説的な
記事などが大幅に増えてきているのはこの意味で新たな評価に連なると考えられる。一
層の頑張りを期待したい。
今年は新興再興感染症対策の要として「感染症新法」が制定され、また環境ホルモン
が大きくクローズアップされるなど、これらに対して研究所が適切に対応できる調査研
究体制が求められている。わが国には大学、国公立さらに民間研究機関と研究の場所は
少なくない。大学の研究者はどちらかと言えば自分の興味ある研究に忙しく感染症、環
境ホルモンなど因果関係の見え難い課題には消極的といわざるを得ない。例えば毒性が
あるのを証明するのは比較的容易であるが、ないことを証明するのは至難の業と言われ
るからだ。様々なデータについて慎重な研究者は、方法論の違いや研究条件が異なるこ
とを問題にし声だかに議論している。このことが一般市民を一層不安にかき立てるとい
える。しかし地方衛生研究所における調査研究はまずは住民や行政のニーズに答えるも
のであって、必ずしも大学の延長線上である必要はない(連携協力は望ましいが)。ま
た方法論の議論や研究者の満足に終始することであってほならないし、ライフワークの
テーマに固執し過ぎることなく様々な課題に柔軟に取り組む姿勢が求められる。時には
確立した方法論、アイデア(秘かな)がなくとも調査研究に着手する勇気をもたなけれ
ばならない。この数年、研究所においても厚生省などの研究費補助、道の共同研究予算
など充実の傾向にあり喜ばしい限りである。考えてみると研究者にとっては税金からの
研究費で研究しておればそれで済むかもしれないが、一般納税者はいつまでも社会的な
不安の中に取り残されることになる。従って私どもの研究所ではいたずらに調査研究の
学問的熱度を問題にするのではなく、その過程においても役に立つ情報を積極的に公開
し、少しでも早くその不安解消に努めるのが使命であり、このことがこれからの研究所
を担保するものと信ずる。 「より一層道民の役に立つ研究を! 」を銘記し職員一丸となっ
て次代を拓く研究所を目指したいと念願している。
終わりに私どもの所報に皆様の忌憚のないご助言ご批判を戴ければ無上の幸いである。
平成11年8月
北海道立衛生研究所長 田 村 正 秀