第2講 量子の世界:解答

問 7 2 つの粒子の状態 |ψ1 ! と |ψ2 ! をかけあわせて EPR 状態をつくることは不可能であるこ
とを示せ。
方針:|ψ1 ! = a |0! + b |1! , |ψ2 ! = c |0! + d |1! とおいて,この 2 つをかけあわせればよい。
解答 以下のようにおいて計算をする。
|ψ1 ! = a |0! + b |1! ,
|ψ1 ! = c |0! + d |1! .
すると,|ψ1 ! と |ψ2 ! をかけあわせた状態は,次のように計算できる。
|ψ1 ! |ψ2 ! = (a |0! + b |1!) (c |0! + d |1!)
= ac |0! |0! + ad |0! |1! + bc |1! |0! + bd |1! |1! .
(3)
一方,EPR 状態は以下の状態である。
1
1
|ψE ! = √ |0! |1! − √ |1! |0! .
2
2
(4)
(3) と (4) が等しいと仮定して矛盾を導くことにより,問 7 を証明してみる(背理法)。それぞれ
のケットは異なるベクトルのようなものであり,それ以上足したりできない,つまり一次独立であ
る。従って,(3) と (4) が等しいという条件は,それぞれのケットの係数を等しいとおいた,次の
式で表される。
ac = 0,
1
ad = √ ,
2
1
bc = − √ ,
2
bd = 0.
(5)
(6)
(7)
(8)
(5) と (8) の右辺が 0 になっていることに注目する。(5) が成立するためには a または c が 0 でな
くてはいけない。a = 0 の場合,これを (6) 代入すると左辺が 0 となってしまい等式が成り立たな
い。c = 0 の場合は,これを (7) 代入すると左辺が 0 となってしまい等式が成り立たない。よって,
(5), (6), (7), (8) は解をもたないことが分かる。したがって,EPR 状態は 2 つの状態の組み合わ
せ(テンソル積)から作ることができないことがわかった。[証明終]
2 つの状態を組み合わせても作ることのできない状態があるということはとても奇妙であり,
「重
ねあわせ」の許される量子の世界ならではの現象である。EPR 状態のように,組み合わせで作れ
ない状態を,「もつれ状態 = エンタングル状態」と呼ぶ。エンタングル状態は,量子通信,量子コ
ンピューターなどの量子情報技術や,ひも理論のブラックホールの追究などにおいて,決定的な役
割を果たす。