6: 失業とインフレーション/デフレーション インフレーションとデフレーション インフレーション(inflation):「一般物価水準」の持続的な上昇のことを意味する。 デフレーション(deflation):「一般物価水準」の持続的な下落のことを意味する。 「一般物価水準」は全ての財・サービスの価格を指すが,「全て」の財・サービス の価格を調べることはできないから,実際には代表的な財・サービスの価格を集 計した価格指数(price index)によって,「一般物価水準」の変化を測っている。 代表的な価格指数 卸売物価指数(wholesale price index: WPI):工業製品,農水産物,鉱産物など 「企業間で取引される全ての物的商品の価格を集約的に捉える」ことを目 的とする価格指数であり,サービスは含まず,製造業の製品(中間投入財 を含む)・原材料の比重が大きい。 卸売物価指数は日本銀行が作成されていたが,2002年12月から名称を 変更して,企業物価指数(corporate price index : CGPI) に移行した。 (詳細は日本銀行のホームページを参照,WPI,CGPI) マクロ経済学(Ⅱ) 1 6: 失業とインフレーション/デフレーション インフレーションとデフレーション 代表的な価格指数 卸売物価指数(wholesale price index: WPI):工業製品,農水産物,鉱産物など 「企業間で取引される全ての物的商品の価格を集約的に捉える」ことを目 的とする価格指数であり,サービスは含まず,製造業の製品(中間投入財 を含む)・原材料の比重が大きい。 卸売物価指数は日本銀行が作成されていたが,2002年12月から名称を 変更して,企業物価指数(corporate price index : CGPI) に移行した。 (詳細は日本銀行のホームページを参照,WPI,CGPI) 消費者物価指数(consumer price index):消費者が購入する多数の商品・サー ビスの価格を代表する指数である。約3分の1が食料(外食も含む),その 他に家賃,光熱費,医療費,交通・通信費,教育費,娯楽費などサービス の価格が半分のシェアを占めている。 (詳細は総務省のホームページを参照,CPI) WPI,CPIは共にラスパイレス指数である。含まれる財・サービスの構成を基準 時点で固定され,それをバスケットとして集計に利用される。 マクロ経済学(Ⅱ) 2 6: 失業とインフレーション/デフレーション インフレーションとデフレーション 代表的な価格指数 企業物価指数 CGPI 消費者物価指数 CPI 200 100 マクロ経済学(Ⅱ) 2005 2000 1995 1990 CPI 25 20 CGPI 15 10 5 0 2005 2000 1995 -5 1990 (3) 90年代以降デフレ傾 向が続いていた。 30 1985 (2) 73-74年と79-80年の 2回のオイル・ショック を 受 け , CPI と CGPI は急上昇した。 1985 (1) CPIの上昇は大きい。 1980 50 1980 0 i 150 100 1975 0 i 1975 0 i CGPI 250 1970 i CPI 300 1970 P q P q t 350 〔資料〕 総務省 「消費者物価接続指数総覧」,「消費者物価指数月報」 3 日本銀行ホームページ 「統計 物価関連統計 企業物価指数(時系列データ)」 6: 失業とインフレーション/デフレーション インフレーションとデフレーション 代表的な価格指数 GDPデフレーター(GDP deflator): (パーシェ指数) t t P i qi 100 GDPデフレーター = 名目GDP / 実質GDP = Pi 0 qit GDPデフレーターとCPIの違い: ① GDPデフレーターは国内で生産されたすべての財・サービスの価格を反映 するのに対して,CPIは消費者が購入された財・サービスの価格を反映する。 それゆえ,企業や政府によって購入された財・サービスの価格はGDPデフ レーターに含まれるが,CPIには反映されない。逆に,海外からの輸入され た財の価格はGDPデフレーターに含まれないが,CPIに反映される。 ② GDPデフレーターの算出に用いられる財・サービスのグループは時間を通じ て自動的に変化するに対して,CPIの算出に用いられる消費財バスケットは あまり変化しない。 (詳細は内閣府のホームページを参照,GDPデフレーター時系列) マクロ経済学(Ⅱ) 4 6: 失業とインフレーション/デフレーション インフレーションのもたらす「害悪」 ハイパー・インフレーション(hyper-inflation):物価上昇率は天文 学的な水準に達するような超悪性インフレーションのことをいう。 この背後には「財政破綻」があることが多い。経済システムへ の重大な脅威である。 緩やかなインフレーション:全ての財・サービスの価格が同率で上 昇するのであれば,インフレーションの「害悪」はそれほど大き なものにはならない。現実には全ての財・サービスの価格が同 率で上昇することは不可能である。これによって,「得する人/企 業」と「損する人/企業」を必ず生み出す。実質資産を債権者か ら奪い,債務者へと再分配する。(例えば,年金の受給者はイ ンフレーションにより損失を被る。) 緩やかなインフレーションやデフレーションのもたらす害悪 は,正当化することのできない所得/資産の再分配にある。 マクロ経済学(Ⅱ) 5 6: 失業とインフレーション/デフレーション インフレーションのもたらす「害悪」 名目利子率と実質利子率 名目利子率(nominal interest rate):「お金の利子率」である。現在の100円が1 年後に103円になるのであれば,名目利子率は3%である。「お金とお金の 間の収益率」を表す。 実質利子率(real interest rate):「物と物の間の利子率」,即ち「今日の財(現在 財)と明日の財(将来財)の間の相対価格(交換比率)である。 数値例: 年始のリンゴ価格 P0=100円/個,年末のリンゴ価格 P1=105円/個, 債券の名目利子率 i=10% ,年始に1個のリンゴを持つ投資家がリンゴを 100円に換金して債券で運営すると,年末に何個のリンゴが手に入るか。 リンゴ 1個 1個+1個×r =1+r 換金:P0=100円/個 債券 マクロ経済学(Ⅱ) 100円 年初 110円/105円/個=1.05個 リンゴ購入:P1=105円/個 100+100×10%=110円 年末 6 6: 失業とインフレーション/デフレーション インフレーションのもたらす「害悪」 名目利子率と実質利子率 数値例: 年始のリンゴ価格 P0=100円/個,年末のリンゴ価格 P1=105円/個, 債券の名目利子率 i=10% ,年始に1個のリンゴを持つ投資家がリンゴを 100円に換金して債券で運営すると,年末に何個のリンゴが手に入るか。 1+r=1.05=110/105=(100+100×10%)/105 1+r=100×(1+10%)/105 1+r=P0(1+i )/P1 実質利子率 リンゴ 1個 1個+1個×r =1+r 換金:P0=100円/個 債券 マクロ経済学(Ⅱ) 100円 年初 110円/105円/個=1.05個 リンゴ購入:P1=105円/個 100+100×10%=110円 年末 7 6: 失業とインフレーション/デフレーション インフレーションのもたらす「害悪」 名目利子率と実質利子率 数値例: 年始のリンゴ価格 P0=100円/個,年末のリンゴ価格 P1=105円/個 債券の名目利子率 i=10% ,年始に1個のリンゴを持つ投資家がリンゴを 100円に換金して債券で運営すると,年末に何個のリンゴが手に入るか。 1+r=1.05=110/105=(100+100×10%)/105 1+r=100×(1+10%)/105 1+r=P0(1+i )/P1 P0 (1 i ) 1 i 1 i 1 i 1 i 1 r P P P P P P1 1 1 0 1 1 0 1 1 P0 P0 P0 P0 1 i 1 r 1 非常に小さい マクロ経済学(Ⅱ) (1 r )(1 ) 1 i 1 r r 1 i r i r i 物価上昇率 実質利子率=名目利子率-物価変化率 8 6: 失業とインフレーション/デフレーション インフレーションの原因 不完全競争の下で,(独占)企業は限界費用が限界収入に等しくなるような生 産水準と価格を決定する。 P=「マークアップ」×「製品1単位当りのコスト」 「製品1単位当りのコスト」=平均費用=(WL+PRR)/Y W:賃金 L:雇用量 PR:原材料価格 R:原材料投入量 マークアップ:企業が製品1単位を 価格,費用 個別需要 つくり出すのに要するコストの何 最適 曲線1 倍に価格を設定するかを表す比 価格 率であり,需要の価格弾力性に 依存する。 規模に関して収穫一定の場合, 限界費用MC=平均費用AC 1 P AC マークアップ 1 1 ed マクロ経済学(Ⅱ) Y:生産量 個別需要 曲線2 限界費用曲線 限界収入1 限界収入2 需要の価格弾力性 0 最適生産水準1 最適生産水準2 生産量 9 6: 失業とインフレーション/デフレーション インフレーションの原因 不完全競争の下で,(独占)企業は限界費用が限界収入に等しくなるような生 産水準と価格を決定する。 P=「マークアップ」×「製品1単位当りのコスト」 「製品1単位当りのコスト」=平均費用=(WL+PRR)/Y W:賃金 L:雇用量 PR:原材料価格 R:原材料投入量 Y:生産量 原材料が輸入品である場合,PR=ePR* となる。(PR*:ドル建原材料価格) P 「マークアップ」 W L ePR* R 「マークアップ」 Y P 「マークアップ」 W L ePR* R Y Y W ePR* Y L Y R 労働生産性 原材料生産性 マークアップを一定と仮定すると, マクロ経済学(Ⅱ) W↑→P↑,PR*↑→P↑,e↑(円安)→P↑,(Y/L)↑→P↓,(Y/R)↑→P↓ 10 6: 失業とインフレーション/デフレーション インフレーションの原因 不完全競争の下で,(独占)企業は限界費用が限界収入に等しくなるような生 産水準と価格を決定する。 W:賃金 L:雇用量 PR:原材料価格 R:原材料投入量 Y:生産量 原材料が輸入品である場合,PR=ePR* となる。(PR*:ドル建原材料価格) マークアップを一定と仮定すると, W↑→P↑,PR*↑→P↑,e↑(円安)→P↑,(Y/L)↑→P↓,(Y/R)↑→P↓ P 「マークアップ」 W ePR* Y L Y R p a(w g L ) (1 a)( x p*R g R ) p:物価の変化率 w:賃金の上昇率 pR*:国際市場ドル建原材料価格の上昇率 x:為替レートeの減価率 gL:労働生産性の上昇率 gR:原材料生産性の上昇率 a:総費用に占める人件費のシェア 1-a:総費用に占める原材料費のシェア マクロ経済学(Ⅱ) 11 a:総費用に占める人件費(WL)のシェア 1-a:総費用に占める原材料費(ePR*R)のシェア W a WL Y L * 1 a ePR R ePR* Y R 1 a a W a Y L a a * 1 a ePR Y R a ePR* W Y R Y L a a 1 a P 「マークアップ」 P 「マークアップ」 1 a a 1 a a 1 a W Y L W Y L 1 a * ePR Y R 1 a ePR* Y R ePR* W W Y L Y R Y L 1 a a 1 a W ePR* Y L Y R 1 a 1 a a 1 a W Y L a ePR* Y R W Y L a ePR* Y R a 1 a 1 a W Y L 1 a a 1 a W Y L 1 a a 1 a ePR* Y R a 1 a ePR* Y R a W a Y L 1 a a 1 a ePR* Y R a 1 a a a 1 a 1 a ePR* W W Y L Y R Y L a 1 a ePR* Y R 1 1 a a 1 a a ePR* Y R 1 alnW lnY L (1 a) ln e ln PR* lnY R ln P ln「マークアップ」 1 a a a 1 a e PR* Y R W Y L P a (1 a) * P W Y L Y R PR* Y R P W Y L e e PR * 但し, p , w , g L , x , pR * , g R * P W Y L e PR Y R12 p a(w g L ) (1 a)( x pR g R )
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