環境に優しい無機顔料 鳥取大学大学院工学研究科 〒 680-8552 鳥 取 市 湖 山 町 南 4-101 教授 増井敏行 E-mail: [email protected] 1.はじめに 無機顔料は、セラミックス、ガラス、プラスチック、塗料等の着色用材として利用され ている。しかしながら、既存の無機顔料には、強い毒性を示す金属(カドミウム、六価ク ロム、鉛、アンチモン等)を含んでいるものが少なくなく、人体や環境に対する悪影響を 懸念し、国際的に規制が厳格化する状況にあることから、これらの無機顔料にとって代わ るような環境に優しい新しい顔料の開発が必要である。 事実、図 1 の報道記事に見られるように、食器や玩具の塗料中に鉛が含まれていたため に、メーカーが自主回収を行っている。有機顔料の使用も検討されているが、紫外線や熱 に対する耐久性が無機顔料より劣るため、本質的にその用途が制限されてしまう。 図 1 鉛やカドミウムが含まれていた食器や玩具の自主回収に関する報道記事 本稿では、色の三原色である、黄、赤、及び青、及び青の派生色である緑について、人 体に有害な元素及び環境に対する負荷の大きい元素を含まない無機顔料について、筆者ら の成果を中心に紹介する。 2.色の評価 得られた試料の色彩を評価するために試料の反射色 を色彩色差計によって測定した。所定のセルに試料粉 末 を 詰 め 、標 準 の C 光 源( 色 温 度 約 6774 K)を 用 い て 測 定 を 行 っ た 。色 彩 は L*a*b*C*h 表 色 系 に 基 づ い て 表 し た 。 こ の 表 色 系 で は 、 図 2 に 示 す よ う に 、 L*は 明 度 を 、a*( 正 方 向:赤 色 、負 方 向:緑 色 )、b*( 正 方 向 : 黄色、負方向:青色)はそれぞれ色調を表す。また、 色 の 鮮 や か さ を 示 す 彩 度 C*お よ び 色 純 度 を 表 す 色 相 1 図 2 L*a*b*表 色 系 角 h はそれぞれ以下の式で定義される。 C* = [(a*) 2 + (b*) 2 ] ½ h = tan − 1 (b*/a*) 3 . 1 . Ce 1-x-y Zr x Bi y O 2-y/2 複 合 酸 化 物 系 黄 色 顔 料 基 本 的 な 構 成 元 素 と し て 、無 害 な 元 素 で あ る Ce, Zr, Bi, O を 選 択 し た 。母 体 材 料 と し て 、 Ce 4f -O 2p 軌 道 間 に 基 づ く 電 荷 移 動 吸 収 を 示 し 、 高 温 で も 非 常 に 安 定 な 酸 化 物 で あ る ( 0.35 CeO 2 -ZrO 2 複 合 酸 化 物 を 選 択 し 、そ の 格 子 内 に ビ ス マ ス を 固 溶 さ せ た Ce 1-x-y Zr x Bi y O 2-y/2 ≤ x ≤ 0.44, 0 ≤ y ≤ 0.23) 複 合 酸 化 物 を 合 成 す る こ と に よ り 、 O 2p 軌 道 と Bi 6s 軌 道 と の 混 成 軌 道 形 成 に よ る バ ン ド ギ ャ ッ プ の 低 減 、及 び 、組 成 の 最 適 化 に よ る 黄 色 度 の 増 大 を 目 指 し た 。 組 成 を 最 適 化 し た と こ ろ 、Ce 0.43 Zr 0.37 Bi 0.20 O 1.90 が 合 成 し た 試 料 の 中 で 最 も 鮮 や か な 黄 色( b* = +68.9) を 呈 す る こ と が 分 か っ た 1, 2) 。 さ ら に 、佐 賀 県 窯 業 技 術 セ ン タ ー の 協 力 を 得 て 、開 発 し た Ce 0.43 Zr 0.37 Bi 0.20 O 1.90 が 、有 田 焼の伝統黄色上絵具である濃黄及び中黄(鉛-鉄-アンチモン系)を代替可能かどうか検 討した。作製した上絵発色試験の試料を図 3 に、色差測定結果を表 1 に示す。色差測定の 結 果 か ら 、Ce 0.44 Zr 0.35 Bi 0.21 O 1.895 顔 料 を 用 い た 試 料( 盛 用 上 絵 )は 、市 販 の プ ラ セ オ ジ ム 黄 顔料を用いた試料に比べ、やや赤みのある鮮やかな黄色を呈し、有鉛の中黄に近い色合い であることがわかった。また、上絵の専門家による目視での評価も同様であった。これら の 結 果 か ら 、Ce 0.44 Zr 0.35 Bi 0.21 O 1.895 顔 料 を 用 い た 試 料 は 、有 鉛 の「 中 黄 」に 近 い 色 合 い を 無 鉛で再現できることがわかった 3) 。 図 3 上絵発色試験結果 上 段 左 : 濃 黄 (有 鉛 ) 上 段 右 : Ce 0. 44 Zr 0 .3 5 Bi 0 .2 1 O 1. 89 5 顔 料 20%(無 鉛 ) 下 段 左 : 中 黄 (有 鉛 ) 下 段 右 : Ce 0. 44 Zr 0 .3 5 Bi 0 .2 1 O 1. 89 5 顔 料 3%(無 鉛 ) 3 . 2 . Bi 1-x M x VO 4- δ 複 合 酸 化 物 ( M = La, Ca, Zn) 系 黄 色 顔 料 優 環 境 型 顔 料 と し て す で に 実 用 化 さ れ て い る BiVO 4 は 、正 方 晶 、単 斜 晶 お よ び 斜 方 晶 の 三 つ の 結 晶 構 造 を と る こ と が 知 ら れ て い る 。こ れ ら の 中 で 、単 斜 晶 の BiVO 4 が 最 も 熱 安 定 性 に 優 れ て い る う え 、 鮮 や か な 黄 色 を 呈 す る 。 単 斜 晶 の BiVO 4 は 、 Bi 6s 軌 道 と O 2p 軌 道 の 混 成 軌 道 か ら な る 価 電 子 帯 と 、 V 3d 軌 道 か ら な る 伝 導 帯 の 間 で 起 こ る 電 荷 移 動 の 吸 収 に よ 2 っ て 黄 色 に 呈 色 す る 。Bi 6s -V 3d 間 の バ ン ド ギ ャ ッ プ は 、価 電 子 帯 を な す Bi 6s 軌 道 と O 2p 軌 道 の 混 成 の 割 合 に 依 存 す る た め 、 格 子 内 に 他 の 元 素 を 導 入 し 、 格 子 サ イ ズ を 変 化 さ せ 、 Bi-O 結合距離を変えることにより、色の調節が可能であると考えられる。そこで本研究では、 BiVO 4 に Bi 3+ よ り も イ オ ン 半 径 の 小 さ い イ オ ン を 固 溶 さ せ 、 格 子 を 収 縮 さ せ れ ば 、 Bi 6s 軌 道 と O 2p 軌 道 の 混 成 効 果 が 大 き く 表 2 な り 、 Bi 6s -V 3d 軌 道 間 の バ ン ド ギ 各試料の色座標 ャップエネルギーが低減し、黄色 度の向上が期待できると考えた 4) 。 BiVO 4 に 固 溶 さ せ る イ オ ン と し て Ca 2+ 、 Zn 2+ を 選 択 し 、 組 成 の 最 適化を行った。表 2 に各試料の L*a*b*C*h 表 色 系 に お け る 色 座 標 を 示 す 。 Ca 2+ と Zn 2+ を 同 時 に 固 溶 させることにより、試料の黄色度 ( b*値 ) が 向 上 し 、 合 成 し た 試 料 の 中 で 、Bi 0.90 Ca 0.08 Zn 0.02 VO 3.950 が 最 大 の 黄 色 度 ( b*値 = +91.6) を 示した 5) 。 さ ら な る 黄 色 度( b*値 )の 向 上 を 目 指 し 、Bi 0.90 Ca 0.08 Zn 0.02 VO 3.950 の Bi 3+( 0.117 nm 6) )サ イ ト を よ り イ オ ン 半 径 の 小 さ い La 3+( 0.116 nm 6) )で 部 分 置 換 し 、格 子 を さ ら に 収 縮 さ せ た Bi 0.90 − z Ca 0.08 Zn 0.02 La z VO 3.95 を 合 成 表 3 Bi 0 . 9 0 − z Ca 0 . 0 8 Zn 0 . 0 2 La z VO 3 . 9 5 の 色 座 標 L* a* b* C* h Bi 0 . 9 0 Ca 0 . 0 8 Zn 0 . 0 2 VO 3 . 9 5 0 87.7 −4.36 +91.6 91.7 87.3 Bi 0 . 8 9 Ca 0 . 0 8 Zn 0 . 0 2 La 0 . 0 1 VO 3 . 9 5 0 89.2 −7.27 +92.4 92.7 85.5 中 で も Bi 0.85 Ca 0.08 Zn 0.02 La 0.05 VO 3.95 Bi 0 . 8 5 Ca 0 . 0 8 Zn 0 . 0 2 La 0 . 0 5 VO 3 . 9 5 0 89.0 −6.82 +93.5 93.8 85.8 が 最 大 の 黄 色 度 ( b*値 = +93.5) Bi 0 . 8 3 Ca 0 . 0 8 Zn 0 . 0 2 La 0 . 0 7 VO 3 . 9 5 0 90.1 −8.80 +91.0 91.4 84.5 Bi 0 . 8 0 Ca 0 . 0 8 Zn 0 . 0 2 La 0 . 1 0 VO 3 . 9 5 0 92.0 −12.7 +89.2 90.1 81.9 し、その色彩の評価を行った。表 3 に示すように黄色度が向上し、 を示すことがわかった。 試料 図 4 は 、Bi 0.85 Ca 0.08 Zn 0.02 La 0.05 VO 3.95 顔 料 及 び Bi 0.90 Ca 0.08 Zn 0.02 VO 3.95 顔 料 の 色 彩 を 、市 販 のバナジン酸ビスマス顔料、並びに有害な黄鉛と比較したものである。開発顔料は鮮やか な 黄 色 を 実 現 し て い る こ と が 分 か る 。 ま た 、 Bi 0.85 Ca 0.08 Zn 0.02 La 0.05 VO 3.95 顔 料 、 及 び Bi 0.90 Ca 0.08 Zn 0.02 VO 3.95 の b*値 は 有 害 顔 料 で あ る 黄 鉛 の 黄 色 度 ( b*値 = +96.5) に は 及 ば な い も の の 、 環 境 調 和 型 顔 料 で b*値 が +90 を 越 え る 黄 色 顔 料 を 世 界 で 初 め て 実 現 し た 7) 。ま た 、 こ の 顔 料 の 彩 度 C*は 93.8 と い う 極 め て 高 い 値 を 示 し た 。 図 4 Bi 0. 85 Ca 0. 08 Zn 0 .0 2 La 0. 05 VO 3 . 9 5 0 、 Bi 0 .9 0 Ca 0 .0 8 Zn 0 . 0 2 VO 3 . 9 5 0 、 市 販 バ ナ ジ ン 酸 ビ ス マ ス 、 及 び 市 販 黄 鉛 の 写 真 3 3 . 3 . (Bi,M) 4 V 2 O 11 複 合 酸 化 物 ( M = Zr, Al) 系 赤 色 顔 料 新 し い 赤 色 顔 料 の 開 発 を 目 的 と し て 、Bi、V お よ び O か ら 構 成 さ れ る 斜 方 晶 の Bi 4 V 2 O 11 ( Bi 2 VO 5.5 ) 8,9) に 着 目 し た 。 Bi 4 V 2 O 11 は 、 環 境 調 和 型 黄 色 顔 料 と し て 実 用 化 さ れ て い る 単 斜 晶 の BiVO 4 と 同 様 、Bi 6s と O 2p の 混 成 軌 道 か ら な る 価 電 子 帯 と 、V 3d 軌 道 か ら な る 伝 導 帯 の間で起こるバンドギャップ間遷移に基づく光吸収により呈色する Bi 4 V 2 O 11 中 の Bi−O 平 均 結 合 距 離 ( 0.2300 nm) 11) 10) 。また、斜方晶の は 、 単 斜 晶 の BiVO 4 中 ( 0.2467 nm) 12) よ り も 短 く な っ て い る こ と か ら 、 Bi 4 V 2 O 11 の 価 電 子 帯 を 形 成 す る Bi 6s 軌 道 と O 2p 軌 道 の 重 なりがより大きくなり、混成効果の増大によって価電子帯の幅が広くなる。そこで、 Bi 4 V 2 O 11 及 び そ の Bi 3+ イ オ ン サ イ ト を 他 の イ オ ン で 部 分 置 換 し た (Bi 1-x M x ) 2 VO 5.5 ± δ (M = Zr, Al)の 合 成 を 行 い 、 そ れ ら の 色 彩 を 評 価 し た 。 合 成 し た 試 料 の 中 で 、高 い 赤 色 度 を 示 し た 試 料 の L*a*b*C*h 表 色 系 に お け る 色 座 標 を 表 4 に ま と め る 。母 体 で あ る Bi 4 V 2 O 11 に お い て 、a* = +37.1 と い う 赤 色 度 が 得 ら れ た 。ま た 、 Zr や Al を 加 え る と 赤 色 度 ( a* 値 ) が 増 大 し 、 中 で も 、 Zr と Al を 共 に 固 溶 さ せ た (Bi 0.92 Zr 0.07 Al 0.01 ) 4 V 2 O 11.34 に お い て 最 大 の 赤 色 度 ( a* = +41.9) が 得 ら れ た 。 こ の 値 は カ ド ミ ウ ム レ ッ ド( CdS∙CdSe)や バ ー ミ リ オ ン( HgS)に は 及 ば な い も の の 、市 販 の 酸 化 鉄( ベ ン ガ ラ 、a* = +29.5)を 大 き く 上 回 っ た 。図 5 に (Bi 0.92 Zr 0.07 Al 0.01 ) 4 V 2 O 11.34 、市 販 の カ ド ミ ウ ムレッド、市販のバーミリオン、および市販酸化鉄の写真を示す。 表 4 図 5 (Bi 1 − x − y Zr x Al y ) 4 V 2 O 11 + δ (0 ≤ x ≤ 0.07; 0 ≤ y ≤ 0.07) 試 料 の 色 座 標 、 彩 度 、 及 び 色 相 角 試料 L* a* b* C* h Bi 4 V 2 O 11 .1 7 47.3 +37.1 +36.6 52.1 44.6 (Bi 0 . 92 Zr 0 . 08 ) 4 V 2 O 11. 4 1 49.6 +40.5 +41.1 57.7 45.4 (Bi 0 . 97 Al 0. 0 3 ) 4 V 2 O 11. 1 4 47.7 +41.6 +38.0 56.3 42.4 (Bi 0 . 92 Zr 0 . 07 Al 0. 0 1 ) 4 V 2 O 11 . 3 4 49.6 +41.9 +34.0 53.9 39.0 市販酸化鉄(ベンガラ) 38.4 +29.5 +23.0 37.4 38.0 市販カドミウムレッド 51.9 +63.7 +55.8 84.7 41.2 市販バーミリオン 52.0 +56.5 +40.5 69.5 35.6 (Bi 0 .9 2 Zr 0 .0 7 Al 0 .0 1 ) 4 V 2 O 11 . 3 4 、 市 販 カ ド ミ ウ ム レ ッ ド 、 市 販 バ ー ミ リ オ ン 、 及 び 市 販 酸 化 鉄 の 写 真 3 . 4 . Ca 3 Sc 2 Si 3 O 12 を 母 体 と す る 新 規 青 色 顔 料 新しい青色顔料の探索を目的として、人体や環境に対して無害であることが知られてい る Ca、 Sc、 Si お よ び O か ら 構 成 さ れ る ガ ー ネ ッ ト 型 の カ ル シ ウ ム ス カ ン ジ ウ ム ケ イ 酸 塩 ( Ca 3 Sc 2 Si 3 O 12 )に 着 目 し 、こ れ に Eu 2+/3+ を 固 溶 さ せ た (Ca 1 − x Eu x ) 3 Sc 2 Si 3 O 12+ δ( 0 ≤ x ≤ 0.10) 4 試料を合成した。空気中で焼成して得られた試料は白色であったが、還元雰囲気 ( 2%H 2 −98%Ar 流 通 下 ) で 合 成 し た 試 料 に お い て 、 青 色 の 着 色 が 認 め ら れ た 。 表 5 に 2%H 2 −98%Ar 流 通 下 、 1350°C で 4 時 間 焼 成 す る こ と に よ り 合 成 し た (Ca 1−x Eu x ) 3 Sc 2 Si 3 O 12+δ ( 0 ≤ x ≤ 0.10) 試 料 の L*a*b*C*h 表 色 系 に お け る 色 座 標 を 示 す 。 得 ら れ た 試 料 の 中 で 、 (Ca 0.94 Eu 0.06 ) 3 Sc 2 Si 3 O 12+δ が 最 大 の 青 色 度 ( b* = −30.1) を 示 し た 表 5 13) 。 2%H 2 −98%Ar 流 通 下 、 1350 °C で 4 時 間 焼 成 し て 得 た (Ca 1 − x Eu x ) 3 Sc 2 Si 3 O 12 + δ ( 0 ≤ x ≤ 0.10) の 色 座 標 こ の 試 料 の 焼 成 温 度 、焼 成 時 間 、及 び 洗 浄 方 法 を 最 適 化 し た 結 果 、2%H 2 −98%Ar 流 通 下 、 1375°C で 6 時 間 焼 成 後 、2%塩 酸 で 洗 浄 し た 試 料 に お い て 最 も 青 色 度 が 高 く な り 、b*= −36.3 と な っ た 。 表 6 に 合 成 条 件 を 最 適 化 し て 得 た (Ca 0.94 Eu 0.06 ) 3 Sc 2 Si 3 O 12+ δ 、 市 販 の 紺 青 及 び コ バ ル ト ブ ル ー ( CoAl 2 O 4 ) の L*a*b*C*h 表 色 系 に お け る 色 座 標 を 示 す 。 (Ca 0.94 Eu 0.06 ) 3 Sc 2 Si 3 O 12+ δ の 青 色 度( b*= −36.3)は コ バ ル ト ブ ル ー に は 及 ば な い も の の 、市 販 の 紺 青( b* = −15.6)を 大 き く 上 回 っ た 。図 6 に (Ca 0.94 Eu 0.06 ) 3 Sc 2 Si 3 O 12+ δ 、市 販 紺 青 及 び 市販コバルトブルーの写真を示す。 表 6 図 6 (Ca 0 .9 4 Eu 0 .0 6 ) 3 Sc 2 Si 3 O 1 2 + δ( 合 成 条 件 最 適 化 試 料 )、市 販 の 紺 青 及びコバルトブルーの色座標 (Ca 0 .9 4 Eu 0 .0 6 ) 3 Sc 2 Si 3 O 1 2 + δ 、 市 販 紺 青 、 及 び 市 販 コ バ ル ト ブ ル ー の 写 真 3 . 5 . Y 2 BaCuO 5 を 母 体 と す る 新 規 緑 色 顔 料 また、青色の派生色である緑色に関し、既存のクロムグリーン及びコバルトグリーンに 代 わ る 新 し い 緑 色 顔 料 の 開 発 を 行 っ た 。 開 発 に あ た り 、 Cr 3+ や Co 2+ の に 代 わ る イ オ ン と し て Cu 2+ に 着 目 し た 。Cu 2+ は d 9 の 電 子 配 置 を と り 、ス ピ ン 許 容 の d-d 遷 移 に よ っ て 赤 ~ 赤 紫 領 域 に 相 当 す る 可 視 光 を 吸 収 す る こ と で 青 緑 ~ 緑 色 を 呈 す る こ と が 知 ら れ て い る 。そ こ で 、 5 Cu 2+ を 含 ん だ 無 害 な 固 体 化 合 物 で あ る Y 2 BaCuO 5 を 母 結 晶 に 選 択 し た 。Y 2 BaCuO 5 は 斜 方 晶 (空 間 群 : Pbnm)の 結 晶 構 造 で あ り 、Y 2 O 11 、BaO 11 の 多 面 体 及 び ピ ラ ミ ッ ド 型 配 位 し た CuO 5 によって構成されている 14) 。Y 2 BaCuO 5 に お い て 、Y 3+ サ イ ト を 他 の 希 土 類 イ オ ン で 部 分 置 換 し 、格 子 サ イ ズ の 変 化 に 伴 っ て 発 色 源 で あ る Cu 2+ を 含 む CuO 5 ユ ニ ッ ト の 構 造 や Cu-O 間 距 離 を 変 化 さ せ る こ と に よ り 、 Cu 2+ の d-d 遷 移 確 率 を 制 御 し 、 可 視 光 の 吸 収 率 や 吸 収 波 長 を自在に調節することが可能であると考えられる。そこで本研究では、新規な環境調和型 の 緑 色 無 機 顔 料 の 開 発 を 目 的 と し 、 Y 2 BaCuO 5 の Y 3+ サ イ ト を Y 3+ (0.0900 nm) 6) よ り イ オ ン 半 径 が 小 さ い Lu 3+ (0.0861 nm) 6) で 部 分 置 換 し た (Y 1 − x Lu x ) 2 BaCuO 5 (0 ≤ x ≤ 0.31)複 合 酸 化 物 を合成し、その色彩を評価した。 表 7 に 得 ら れ た (Y 1-x Lu x ) 2 BaCuO 5 試 料 の L*a*b*C*h 表 色 系 に お け る 色 座 標 を 示 す 。 得 ら れ た 試 料 の 中 で 、 (Y 0.9 Lu 0.1 ) 2 BaCuO 5 が 最 大 の 緑 色 度 ( a* = −48.6) を 示 し た 。 表 7 (Y 1 - x Lu x ) 2 BaCuO 5 ( 0 ≤ x ≤ 0.3) 試 料 の 色 座 標 試料 Y 2 BaCuO 5 (Y 0. 9 5 Lu 0. 0 5 ) 2 BaCuO 5 (Y 0. 9 Lu 0. 1 ) 2 BaCuO 5 (Y 0. 8 Lu 0. 2 ) 2 BaCuO 5 (Y 0. 7 Lu 0. 3 ) 2 BaCuO 5 L* 54.5 53.9 53.4 50.7 50.6 a* −46.7 −47.2 −48.6 −46.9 −44.5 b* 23.8 24.6 24.9 23.5 22.7 C* 52.4 53.2 54.6 52.5 50.0 h 153 152 153 153 153 さらに、開発した顔料と市販顔料の色彩の比較を行った。本研究で開発した (Y 0.9 Lu 0.1 ) 2 BaCuO 5 と 市 販 緑 色 無 機 顔 料 で あ る ク ロ ム グ リ ー ン ( Cr 2 O 3 )、 及 び コ バ ル ト グ リ ー ン( Zn 0.97 Co 0.03 O)の 色 座 標 と 写 真 を 表 8 と 図 7 に そ れ ぞ れ 示 す 。表 8 よ り 、本 研 究 で 合 成 し た 顔 料 は 、市 販 緑 色 顔 料 よ り も 高 い 緑 色 度( −a * )を 有 す る こ と が 明 ら か と な っ た 。ま た 、 図 7 か ら 、 本 研 究 で 開 発 し た (Y 0.9 Lu 0.1 ) 2 BaCuO 5 は 、 市 販 緑 色 無 機 顔 料 よ り も 鮮 や か な緑色を呈することがわかる。 表 8 各緑色無機顔料の色座標 試料 L* a* b* C* h (Y 0. 9 Lu 0 .1 ) 2 BaCuO 5 53.4 −48.6 24.9 54.6 153 市 販 ク ロ ム グ リ ー ン ( Cr 2 O 3 ) 49.7 −18.2 18.5 26.0 135 市 販 コ バ ル ト グ リ ー ン ( Zn 0 .9 7 Co 0 . 0 3 O) 62.5 −25.3 5.3 25.8 168 (Y 0 . 9 Lu 0 . 1 ) 2 BaCuO 5 図 7 市販クロムグリーン 市販コバルトグリーン (Y 0 .9 Lu 0. 1 ) 2 BaCuO 5 、 市 販 ク ロ ム グ リ ー ン 、 及 び 市 販 コ バ ル ト グ リ ー ン の 写 真 6 さ ら に 、 Y 2 BaCuO 5 及 び (Y 0.9 Lu 0.1 ) 2 BaCuO 5 緑 色 顔 料 を佐賀県協業技術センターに提供し、有田焼の上絵用 顔料としての評価を受けた。作製した上絵試料の写真 を図 8 に、色差測定結果を表 9 に示す。上絵の透明性 及び発色の均質性ともに良好であった。色合いも良好 で陶磁器用上絵(和絵具)への応用が期待できる。 そこで、上絵の専門家(上絵具製造業者)に発色試 験片を直接見てもらい、専門家の見地から評価しても ら っ た 。そ の 結 果 、見 た 目 の 色 合 い は 非 常 に き れ い( 鮮 やか)であり、従来の伝統的な有田上絵には無い色で 透明感もあることから、新しい有田の色として期待で きるという評価を受けた。 表 9 試料名 (Y 0. 9 Lu 0 .1 ) 2 BaCuO 5 5% Y 2 BaCuO 5 5% (Y 0. 9 Lu 0 .1 ) 2 BaCuO 5 7% Y 2 BaCuO 5 7% 図 8 Y 2 BaCuO 5 及 び (Y 0 . 9 Lu 0 . 1 ) 2 BaCuO 5 の上絵発色試験 上 段 : 5% 添 加 品 , 下 段 : 7% 添 加 品 上絵の色座標測定結果 L* a* b* C* h 58.8 60.1 52.7 52.7 −45.2 −47.0 −43.7 −43.8 17.3 18.5 17.5 17.7 48.4 50.5 47.1 47.2 159 159 158 158 4.おわりに 以上、紹介してきたように、人体や環境に有害な元素を含まない無機顔料を開発してき た 。 い く つ か の 顔 料 は 非 常 に 鮮 や か な 色 を 呈 し て お り 、 な か で も 、 Bi 0.90 Ca 0.08 Zn 0.02 VO 3.95 黄 色 顔 料 、 及 び Y 2 BaCuO 5 緑 色 顔 料 に つ い て は 事 業 化 の 話 も い た だ い て い る 。 し か し な が ら 、元 来 、色 を 発 現 す る 遷 移 金 属 元 素 の ほ と ん ど は 、人 体 や 環 境 に と っ て 有 害 で あ る た め 、 環境調和型顔料に使用できる元素の種類は極めて限られている。その結果、既存の無機顔 料の性能に匹敵する環境調和型顔料は、まだまだ少ないのが実情であり、特に酸化物系で 良い発色を示す赤色顔料が未だ得られていないことが大きな課題となっている。環境意識 が高まっている時代の情勢とともに、早急な新規材料の開発が待たれている。 参考文献 1) T. 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