プロジェクト名 研究背景 研究目的 及び目標 有機 EL 電極・保護膜形成用新型低温スパッタ装置の開発(17S6014) (研究背景) より軽量化,薄型化を目指す表示ディスプレイの中で,本命技術とし て期待されている有機 EL ディスプレイであるが,有機 EL が湿気に弱い という性質から,補強物及び光を透過させる役割を持つガラス基板と, 湿気を防ぐための封止缶で封止する構造のため,他の方式に比べ十分薄 いものの,より薄型化には限度があった。 そこで,より薄型化とフレキシブルなディスプレイの実現を目指し, 封止缶に替わる有機薄膜と無機薄膜の積層構造による封止膜と,基板を 更に薄く軽いプラスティック基板にするために,熱的ダメージに非常に デリケートな有機薄膜や,薄く軽く柔軟性のあるプラスティック基板に ダメージを与えることなく無機薄膜を均一に堆積する技術の開発が求め られている。 (研究目的及び目標) 山口大学が持つ技術シーズを基に,長州産業株式会社,株式会社薄膜 ソフト,株式会社日本ビーテック(17 年度のみ参加)がそれぞれ有する技 術を組み合わせ,コンパクト・省エネ・安価で,かつ,ダメージフリー・ 高速堆積・高品質の多層薄膜作製が可能な新型低温スパッタ装置を開発 し,次世代フラット・ディスプレイ技術と有望視されている有機 EL 素子 の電極・保護膜作製を行い,有機 EL 素子の高機能化・高性能化を可能に することが,本研究開発の目的である。 成果概要 平成17年度,技術シーズ:特願2002-207263(本研究開発代表者山口大 学諸橋信一考案)を基に作製した新型低温スパッタ装置に,平成18年度グ ローブボックス付試料交換室を接続,また,実験の進捗にあわせ各種の 改造を加え,有機EL素子作製用にグローブボックス付き試料交換室+酸 化室+6元スパッタ製膜室から構成される新型低温スパッタ装置を開発 した(図1参照) 。得られた成果は次の通りである。 1)装置性能として (a)マグネトロンの高機能な配置によるマルチターゲット化で高プラ ズマ密度化を実現 (b)従来型対向ターゲットスパッタに比べて,高プラズマ密度化により 同じ堆積速度を得るのに小さな印加電力でスパッタできより低い温 度(基板温度∼50度以下)での堆積(低温スパッタ)を実現 (c)マルチターゲット化で,カソード容積・ランニングコストが従来型 対向ターゲットスパッタの約1/2以下となり,コンパクト化・省エネ 化を実現 2)装置を用いた薄膜及び有機EL素子の作製において (d)表面平坦性の優れた高導電性のITO薄膜が作製 (e)新型低温スパッタ装置で作製したITO薄膜並びにAl薄膜を電極とす る有機EL素子は,有機EL素子として発光 (f)新型低温スパッタ装置で作製したITO薄膜を電極とする有機EL素 子は,市販ITOを電極とする素子よりも電流効率及び電力効率の優れ た性能を実現 酸化室 酸化室 6元スパッタ製膜室 6元スパッタ製膜室 グローブボックス付き試料交換室 グローブボックス付き試料交換室 図1 完成した新型低温スパッタ装置 連絡窓口 今後,本研究成果を基に次のような市場展開を狙う。薄膜を作製す る手法としてスパッタは,他の製膜方法に比べて薄膜の基板への付着 力の強さ,薄膜及び基板の種類を問わずに作製できるという点から, 半導体プロセス,光学関係など,種々の用途に広範囲に使用されてい る。しかも,ダメージを与えない低温スパッタを必要としている分野 は,有機 EL 素子のみならず,同じディスプレイに属し,しかも熱に弱 いためにダメージを与えることなく透明電極 ITO を堆積する必要があ る液晶,厚さが 1 nm(10 億分の1メートル)のトンネルバリアを真ん 中に両側を強磁性薄膜で挟み込む原子オーダーの界面制御を必要とす る強磁性トンネル接合,70 nm ルール(64 GbitDRAM)以降の半導体リ ソグラフイ技術として位置づけられている軟 X 線縮小投影リソグラフ イ,或いは物性評価の X 線顕微鏡に必要な X 線ミラー多層膜,発光ダ イオード分野など広範囲な分野がある。 2006年産業分野別真空機器売上高統計リポートによると,2006暦年 のフラットパネルディスプレイ(FPD)関連売上高の1875億円+半導体 関係で装置売上高3305億円中で,蒸着・スパッタ・CVD関係の薄膜 作製装置関係は30 %,およそ1500億円程度を占めていると考えられて いる。蒸着・スパッタ・CVDが均等として,スパッタ関係で500億円 程度ではないかと推定される。 今回開発した新型低温スパッタ装置の特徴から,製品の差別化を明 確に主張できる特徴をもった高性能・高機能薄膜作製装置であると考 えられる。 真空機器市場の動向・ニーズを反映させて用途に応じた製 品構成をラインナップして,国内外の半導体・電子部品メーカー・国 公立研究機関へ,製品の差別化を明確に主張できるコストパフォーマ ンスの高い高性能・高機能省エネ・コンパクトな薄膜作製装置として 製造・販売を行う。 財団法人やまぐち産業振興財団(担当:上村・片山) 連絡先 TEL:083922−9927(技術振興部直通) FAX:083−9212013
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