2015年11月号掲載

企業広報研究
グローバルCCOの条件とは
ゲーリー・シェファー
アーサーペイジ協会 理事長
ロジャー・ボルトン
アーサーペイジ協会 専務理事
経済広報センターは9月17日、米国の企業広報幹部の団体であるアーサーペイジ協会(Arthur W. Page
Society)の、ゲーリー ・シェファー理事長とロジャー ・ボルトン専務理事による企業広報講演会
「グローバル
CCO(チーフ・コミュニケーションズ・オフィサー)の条件とは」を開催し、会員企業・団体の広報担当役員
など約60名が参加した。
グローバルCCOの将来
ペイジ氏は
「広報は行動が90%、語りは10%だ」と
言っていた。3点目は「お客さまの言葉に耳を傾け
る」で、声を聞くことが自社を変えていくことに繋
ロジャー・ボルトン
アーサーペイジ協会 専務理事
総合医療保険会社
エトナで社内外のコ
ミュニケーションを
統括。同社入社以前
はIBM社、米国大
統領行政府などでメ
デ ィ ア・リ レ ー シ ョ
ンズ、パブリック・
アフェアーズの豊富
な経験を持つ。2011
年より現職。
●ペイジ・プリンシパル
CCOには広い意味があり、企業広報の最上級職
がる。現代は変われなければ取り残されてしまうか
らだ。4点目は「明日、将来のことを考えてマネジ
メントをしていく」
こと。5点目は
「社員によって企
業本来の姿が明かされることを知る」こと。6点目
は、
「広報に会社全体が依存していると思って実施す
る」で、透明性が求められ、情報が飛び交う今日に
おいて、会社の命運は広報活動にかかっている。ペ
イジ氏は「民主的社会におけるすべてのビジネスは
公共の許可から始まり、公共の承認によって存在で
きる」
と言っている。最後は、
「常に落ち着いて、忍
耐強く、ユーモアを持つ」
である。
●広報は今後、どうあるべきか
当協会には現在フォーチュン・グローバル500企
で、必ずしも役職名、肩書きではないが、米国でも
業や政府機関のCCOなど624名が加盟しており、
他国でもCCOと名乗る人が増えている。
うち66名が米国以外、そのうち5名が日本企業の
アーサー・W・ペイジは実在した人の名前で、
メンバーだ。我々のミッションは、CCOのリー
1927年に米大手通信社AT&Tの役員に就任した、
ダーシップを強化していくことである。強いCCO
広報担当として初めて大手企業のボードメンバーと
が存在する企業は、社会に対して、より責任を持
なった人である。人名を団体名に使っているところ
ち、より多くの価値を生む良い組織になっていく。
に我々の思いが込められている。人というのは個性
我々は、広報活動が今後どうあるべきかを考え、
を持ち、信念を持ち、何を表現するかで信頼を得る
ここ数年、様々なレポートを発行した。2007年の
ことができるが、企業もまた同じである。この原則
レポート
『The Authentic Enterprise』
では、
「グロー
を貫き実践したのが同氏である。当会が大切にして
バリゼーション」
「ソーシャルメディア革命」
「ステー
いる
「ペイジ・プリンシパル」という原則をご紹介し
クホルダーの影響力拡大」
という3つのトレンドが、
たい。
企業ブランドを守り社会からの信頼を得ていくため
まずは、「真実を伝える」ということである。PR
の課題だと報告した。企業の各拠点が世界各地で社
というのは、外部から良く思われることだけを伝
会との関係を持ち、世界中のステークホルダーが常
えることではない。次に「行動と共に示す」ことだ。
に企業活動を監視し、ソーシャルメディアによって
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企業広報研究
企業広報研究
自分のような人同士で会話し、我々が気付かないと
になってもらう。こうしたことを続けることによっ
イジ協会モデル」を私がGEでどう実践しようとし
り良くなる」という式だ。これを掲げて世界中で広
ころで影響力のある情報発信をする時代である。そ
て、真の支持を受ける企業となることができる。記
たか、お話ししたい。GEは現在175カ国に約36万
報キャンペーンを展開し、技術者に焦点を当てた広
んな社会で信頼を得るには、企業の個性を定義し、
者やメディアでなくても誰もがインフルエンサーに
人の従業員がいて、これはアイスランドの人口より
告や様々なイベントを開催した。結果、GEに対す
日々の行動によって表現し、一貫して追求していか
なる時代なのだから。
多い。私が1999年にジャック・ウェルチ氏によっ
る好感度は80%にまで向上した。
なければならない。
来年発表予定のレポート
『Future of the CCO』で
て採用された当時、米国外からの売り上げは全体の
「ペイジ協会モデル」の中心にある、自社を自ら定
2009年のレポート『Public Trust in Business』で
は、未来のCCOのパターンを予測している。1つ
30%にすぎなかったが、現在は70%まで高まって
義するということは非常に重要だ。ソーシャルメ
は、法規制、NGOなどへの対応の重要性に加え、
目は、ソーシャルメディア、オウンドメディアなど
いる。創業者のトーマス・エジソンは、発明家とし
ディア上でGEに関するコメントが、1日に8000
「信頼」とは人と人が同じようなことを考え何かを共
への投資の優先順位が高まること、2つ目は、「企
て知られているが、発明をビジネスにする事業家と
件も投稿され、その中には多くのネガティブなコメ
有したときに生まれるもので、企業も社会と共有す
業文化指導者」
「インフルエンサー・エンゲージメン
しても有名だ。エジソンは
「世界が必要としている
ントも含む現在、自ら自社を定義しなければ、ほか
る価値や信念などを見いだすことで「信頼」を得るこ
ト・リーダー」
「行動科学者」
など新たな役職が生まれ
ものを見つけ、それを発明する」と言った。創業後
の誰かにされてしまうのだ。
とができる、と訴えた。
ること、3つ目は、機動性などを意識した社内組織
130年、GEが生き残ってこられたのは、変わるこ
●オンラインマガジン「GEレポート」
2012年の『Building Belief』で掲げた「企業広報の
の再構築が行われること、4つ目は、新しい業績評
とを恐れなかったからだろう。製品もビジネスもマ
ペイジ協会モデル」について説明したい。このモ
価指標、測定指標が使われること、5つ目は、CIO
ネジメントも常に変化してきた。
デルは二重の円で図解しており、内円に「企業の個
などのC-Suite(Cで始まる上級責任者)
との連携が増
PR会社エデルマンの信頼度調査「2015 エデルマ
12言語で発信しているオンラインマガジン
「GEレ
性」
、外円に
「ステークホルダーとの関係」を示して
えるなど社内外でのパートナーが多様化することだ。
ン・トラストバロメーター」によると、企業を「大
ポート」である。ジャーナリストを採用し会社の取
いる。
●CCOの役割
いに信頼している」と回答したのは、世界全体では
材を経て、技術、現場、社員などをレポートしても
最後に、未来のCCOの役割について3つ申し上
16%、日本では8%だ。企業への信頼が損なわれ、
らっている。我々のストーリーを謙虚に事実に基づ
げる。1つ目は、企業の信頼を高め、ステークホル
そこで働くには困難な環境である。そんな今、企業
いて伝える広報ができれば、あらゆる場面で奏功す
ダーとの関係を構築するという根本的な役割の重要
広報は従来のままでいいのだろうか。どのように価
る。社員満足度向上などの効果もある。
性が一層高まる。2つ目は、人事、財務など社内の
値観を共有する支持者を増やしていけばよいのだろ
様々な部署と連携して、企業活動の生産性を高めて
うか。
化、戦略、ビジネスモデル、ブランドなどである。
これらをどう定義し、実践するのか。CCOは、こ
の活動において大きな力を発揮しなければならな
い。企業の個性を全社員が理解し行動できるよう、
ベストの手段を講じることが大切である。
そして、その「個性」を「信念、行動、自信、訴求」
のサイクルで取り囲むことで、ステークホルダー
と良好な関係を構築するのだ。対話を通じて共通
の
「信念」を見いだし、商品や株を買うといった「行
動」を起こし、それを積み重ねその企業との関わり
に
「自信」を感じ、「訴求」できる影響力のある支持者
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に加え、企業の規模と複雑さの拡大は逆風となる。
GEも数年前から「ペイジ協会モデル」のプロセス
GEの文化は、常に進化し続けることだ。日夜、人
ひとりが広報パーソンとして行動できる仕組みをつ
に取り組み始めた。これは当社の文化、個性を変え
事やほかの部門と共同で、その浸透を図り、社員た
くる役割だ。社員個々人を理解し、繋がり、発信す
る出来事だった。リーマン・ショックのとき、株価
ちがなぜ働いているのか、何を求めているのかを知
るコンテンツをつくり、情報提供し、教育し、彼ら
は数週間で41ドルから6ドルに下がった。2011年
り、その達成を支援しようと努めている。我々は、
の考えと行動を形成し、全員を「ブランド・アンバ
は福島第一原発の事故もありプラントメーカーとし
自社のストーリーを戦略的に語り、我々がなんなの
サダー」
にしてほしい。
ても大変困難な時期で、メディアの取り上げ方も厳
かを定義し、社員一人ひとりにスポークスパーソン
しかった。GEに好印象を持っている人々はたった
になってもらわなければならない。
の50%だった。社員たちは悪いニュースを耳にし
●企業文化を創る仕事
ゲーリー・シェファー
目的、存在理由、信じるもの、生み出す価値、文
世界が以前よりも速いスピードで動いていること
いくインテグレーターの役割。3つ目が、社員一人
コミュニケーションと企業文化
企業の個性、本質を定義するのは、ミッション、
GEは様々なソーシャルメディア、オウンドメ
ディアを活用しているが、最も重視しているのが
アーサーペイジ協会 理事長
ゼネラル・エレクトリック
(GE)
戦略コミュニ
ケーション担当 バイス・プレジデント
1 9 9 9 年GE入 社。
2009年の役員就任以
来、社内外のコミュ
ニケーションを統括
してきた。GE入社
以前は、記者や編集
者、ニューヨーク州
知事の報道官を務め
るなど豊富な経験を
持つ。
●GEの
「ペイジ協会モデル」
への取り組み
企業の本質が人々によって体現されるという「ペ
ながらも日々の仕事に取り組んでいた。
企業の文化を皆さんがリードすべきだ。広報には
そのころ、ジェフ・イメルトCEOが広報にやっ
インテグレーターとしての役割や、企業の個性を定
てきて、
「GEという会社は一体何か、どうあるべき
義し文化を創り実行に移す、人間が意思決定に至る
なのか、考え、定義していこう」と言ったのだ。そ
過程や行動科学を理解し説得力のある対話をする、
れから1年をかけて、
「なぜGEで仕事をしているの
といったことが求められる。私は何百回も経験した
か」「GEを表すものは何か」など、世界中の社員に
が、企業への批判に対して、事実はこうだと反論す
聞いて回った。私は彼らとの対話から、社員の行動
るだけでは、相手を説得などできない。
のモチベーションとなっているのは利益や株価など
広報の仕事は、他部署から情報を受けてプレスリ
ではなく、
「よりクリーンで効率的な発電技術を構築
リースを書くだけではなく、ビジネス戦略や、企業
したい」「もっと安全な航空機をつくりたい」「癌の
文化の醸成に関与したり、自分たちは何者なのかを
人を治したい」といった思いなのだということが分
体現する立場になってきた。このチャンスを捉えな
かった。
ければならない。皆さんには社内の戦略アドバイ
その調査が元となって、我々を定義する「GE
ワークス方程式」というものが生まれた。
「何が世界
ザー、C-Suiteのパートナーとしての役割も果たし
ていってもらいたい。
k
で必要とされているか×
(もっと良い方法があると
いう信念 + 発明への絶え間ない努力)= 世界がよ
(文責:国際広報部主任研究員 伊藤貴範)
2015年11月号〔経済広報〕
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