パリ通信 最新号

ト
ピ
ア
Bestopia
< 2015 年 2 月 >
古賀 順子
フィルハーモニー・ド・パリ
年明け早々のパリ・テロ事件、日本人人質殺害と
非常に重い事態が起こり、個人の日常生活について
も考えさせられる 2 月を過ごしています。不安な思
いの中で、音楽を聴くことは、ほっと一息つける心
の安らぎになります。
1 月中旬、パリ北東 19 区に位置するラ・ヴィレッ
ト公園内に、
「フィルハーモニー・ド・パリ」が誕生
しました。2.400 人を収容できる大ホール、講演会
場、メデイアテック、音楽教室スペースなどを含む
文化会館です。
パリ市内ではケ・ブランリー美術館、
アラブ世界研究所、カルチエ財団、海外ではバルセ
ロナのアグバル・タワー、東京の電通ビルなど、世
界にその名を知られるジャン・ヌーヴェル(1945 年
フランス南西部ロ・エ・ガロンヌ県生まれ、69 歳)
の建築です。2009 年秋から建設工事が始まり、予算
面で中断し、今年 1 月 14 日ようやくオープンに漕
ぎ着けましたが、一ヶ月を過ぎた今もなお、外壁や
金属パネルの取付け工事が続いています。クレーン
車を見ながらコンサートホールに入り、内部も配線
が見えたりで、工事中なのか、現代建築のデザイン
なのか、と首を傾げます。フランスならではのオー
プニングと言えます。
パリ管弦楽団指揮者パーヴォ・ヤルヴィ、エレー
ヌ・グリモー(ピアノ)、ルノー・カピュソン(ヴァイ
オリン)がオープニング・コンサートを勤め、週末は
無料で一般公開されました。家族で音楽を楽しむイ
ベントも多く企画され、より広く音楽の魅力を伝え
る目的で、安い料金設定 (10€-40€) のコンサート
が多いです。ステージと客席の一体感があり、大き
さの割に威圧感はありません。オーケストラの音響
は良く、細部までよく聴こえます。17 区ワグラム通
りのプレイエル・ホールに代わり、パリのクラシッ
ク音楽の発信地となる期待を担っています。
そのフィルハーモニー・ド・パリに比べれば、規
「 パリ通信 38 号 」
http://jkoga.com/
平成二十七年二月
ス
第三十八号
ベ
模は小さいですが、昨年 10 月 27 日、ルイ・ヴィト
ン財団が一般公開されています。
こちらも展示会場、
オーディトリアムを含む複合文化会館です。ブーロ
ーニュの森北端、アクリマタション公園内にあるフ
ランク・ゲーリー(1929 年トロント生まれ、85 歳)
の現代建築です。
船が大好きなフランク・ゲーリー、
ヨットの帆をイメージし、木材とメタルの構造体を
ガラスのパネルで覆った面白い形です。オープニン
グとして、ゲーリーの回顧展が 2 月中旬まで行なわ
れています。オーディトリアムでは、フランスのチ
ェロ奏者として人気の高いゴチエ・カピュソン(ヴァ
イオリン奏者ルノー・カピュソンの弟)のマスターク
ラスが一般公開されています。
さらにもう一ヶ所、現代建築の大家レンゾ・ピア
ノ(1937 年ジェノヴァ生まれ、77 歳)が、フランス
の映画製作会社パテのために設計した「パテ財団」
は、昨年 9 月 10 日に一般公開されました。レンゾ・
ピアノは、1977 年ポンピドゥー・センター、2005
年スイス・ベルンのポール・クレー・センターを建
設しています。
「パテ財団」は、パリ 13 区の区役所
に近いゴブラン通りにあり、ロダンの彫刻のある入
口を抜けると、既存の建物を覆うように、接ぎ木し
たようなユニークな現代建築が共存しています。小
さな映画館もあり、生ピアノ演奏で 20 世紀前半の
サイレント映画を上映しています。天井が印象的な
図書館では、映画関連資料を閲覧することもできま
す。
この半年間に出来上がったパリの現代建築を見る
と、ジャン・ヌーヴェル、フランク・ゲーリー、レ
ンゾ・ピアノと言った建築家の息の長さに驚かされ
ます。と同時に、パリがとりわけクリエーションの
地であることも証明していると思います。古い建造
物を尊重しながら新しい建築が生まれ、その中で音
楽に代表される芸術もまた進化していく豊かな土壌、
尽きることのないパリの魅力を育んでいると感じま
す。何を大切に守っていくべきか、パリの街を歩い
ていると教えてもらえる気がします。
―― 平成 27 年 2 月 パリ通信 38 号 ――
ルイ・ヴィトン財団
―― 平成 27 年 2 月 パリ通信 38 号 ――