文部科学省 橋渡し研究加速ネットワークプログラム B15:NMJ形成増強治療の創出 プロジェクト責任者:東京大学医科学研究所 山梨裕司 プロジェクト概要 神経筋シナプス(NMJ: neuromuscular junction、神経筋接合部)は運動神経の 軸索末端と骨格筋の基本単位である筋管(筋線維)を結ぶ唯一のシナプスであり、 その喪失は我々の呼吸を含めた運動機能の喪失を意味する(図1)。事実、NMJの 異常は遺伝性疾患である先天性筋無力症候群(CMS: congenital myasthenic syndromes)や自己免疫疾患である重症筋無力症などを惹起する。そこで本プロ ジェクトにおいては、このような運動機能障害に対し、独自の知見を基盤とする新規 治療技術の創出を目指し、PMDAの助言に基づく非臨床試験を推進する。 図1:神経筋シナプスの概念図 シーズの概要 NMJの形成は筋特異的な受容体型チロシンキナーゼMuSKによって制御 されるが、我々は独自に単離したDok-7がMuSKの細胞内からの活性化因 子であり、Dok-7によるMuSKの活性化がNMJ形成シグナルの駆動に必須 であることや、その異常がNMJの形成不全を伴う肢帯型の先天性筋無力 症(DOK7型筋無力症)の原因であることを発見した(図2)。そこで、このよ うな独自の知見を基盤として、「NMJの形成不全による運動機能障害に対 する新規治療技術の創出」を着想した。本シーズは、この着想を基礎として 独自に開発中の、全く新しい分子基盤に基づく治療技術である。 図2:NMJ形成シグナルの概念図 現在の進捗 上記の経緯を踏まえ、本研究ではアデノ随伴ウイルス(AAV) を用いたヒトDOK7遺伝子発現ベクター(AAV-D7)を作出し、NMJ 形成シグナルの人為的な増強によるNMJ形成増強治療のPOC の取得を目指す。これまでの研究により、DOK7型筋無力症と、 LMNA遺伝子の異常によって発症する常染色体優性エメリー・ ドレフュス型筋ジストロフィーに対する2種のモデルマウスにつ いて、AAV-D7の発症後の投与によるNMJの拡張、運動機能の 改善、生存期間延長の各治療効果を実証した(図3)。 今後の研究計画 図3:NMJ形成増強治療の概念図 これまでの研究によって、その直接の病因は互いに異なるにも関わらず、NMJ形成不全を呈する点では共通するDOK7型 筋無力症のモデルマウスと常染色体優性エメリー・ドレフュス型筋ジストロフィーのモデルマウスにおいて、AAV-D7を用いた NMJ形成増強治療の有効性を明らかにすることができた。そこで、PMDAの助言に基づく本治療技術の有効性や安全性に 関わるPOCの取得を進めて行く。さらに、本治療技術のNMJ形成不全に対する運動機能の改善効果について、幅広い疾 患モデルマウスを用いた解析を推進する。
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