四国地盤情報データベースの構築と活用

第 41 回地盤工学研究発表会 ,2006.7(鹿児島)
四国地盤情報データベースの構築と活用
地盤情報データベース
防災
地震
愛媛大学工学部
国際会員
○矢田部龍一
香川大学工学部
国際会員
長谷川修一
徳島大学工学部
国際会員
望月秋利
高知大学理学部
正会員
岡村
眞
四国地方整備局四国技術事務所
七條敏郎・松山芳士
地域地盤環境研究所
山本浩司・高田敏江
国際会員
1. はじめに
造山帯に位置する四国は,急峻な地形と脆弱な地質からなっている。沖積平野は狭く溺れ谷等の地質構造を呈し,人口
も集中しているので,地震や洪水などの自然災害のリスクが高い。南海地震が襲来する時も迫ってきている。そのような
背景から,建設工事を安全に,より経済的に進めることや,災害復旧のような緊急時の対応や南海地震のような巨大地震
への対応を目的として四国地盤情報データベース(DB)の構築に着手した。この活動は,四国地方整備局が中心となっ
て平成 15 年に「四国地盤情報活用協議会」を設立し,推進している 1)。
2. 四国地盤情報活用の構想
様々な課題を抱える中でも,四国地域の緊急の課題は南海トラフ長周期地震への備えである。ほぼ 30 年といわれる限
られた時間の中で,人命と生活圏を守るための対策を着実に進めていかなければならない。その目的を第1に,四国地盤
情報活用の構想が検討された。 四国地域においては,数機関が独自に DB を構築して各々が地盤研究や防災検討等に地
盤情報を活用している状況にあった。また,4県で数万本に及ぶと推定されるボーリング調査データも報告書(アナログ
データ)の形で保存されていた。これらの情報を活かし,広域的に整備して情報の共有化を図り,様々な目的に有効活用
できる体制を速やかに構築することが必要とされた。 このような視点に立ち,平成 15 年度に四国地盤情報活用検討委
員会において以下の事項を起案した 2)。
◇ 四国地域地盤情報の統一的整備と共有化(四国地盤情報データベースの構築)
◇ 地盤情報データベースの活用による地域の地震防災検討と地盤特性研究
◇ 既存地盤情報の新たな建設事業への再利用(工事の適切な施工・高品質化)
◇ 以上を円滑にかつ継続的に実施するための協力体制の構築
そして,具体的な方策として以下の目標を設定し,その円滑な実施のために産官学 14 機関(四国地方整備局ならびに
四国4県,四国4大学,運輸・ライフライン関連企業)よりなる「四国地盤情報活用協議会」を設立した(図-1 参照)。
①DB 構築:地盤情報活用の土台となる四国地盤情報 DB とデータ収集・入力・管理の体制・システムを構築する。
②DB 活用:地盤情報 DB が地震防災検討・地域地盤研究等へ有効活用されるように,円滑な情報提供と新たな知見
(研究成果等)の集積が行える仕組みを構築する。
③DB 拡張:地盤情報 DB が様々な目的に活用されるシステム(公開用 DB,空間情報 GIS 等)を拡張的に構築する。
④地域運営:四国地域の産学官が連携して,四国地盤情報 DB を四国地域の共有財産として構築・管理し,将来にわ
たって円滑に地盤情報活用を行うための運営体制を構築する。
3. 四国地盤情報データベースの構築
各機関で実施されたボーリングデータを収集・統合し,広域的かつ一元的に四国地域の地盤情報を管理・運営するため
に,四国地盤情報 DB の構築を開始した。構築に際しては,先行事例として関西圏地盤情報 DB3)の構築体制を参照した。
システムは,同様にその構築の基礎となり実績のある DIG システム 4)を採用し,将来的に DB を拡張する段階で見直し
を行うこととした。四国地盤情報 DB 構築の考え方をまとめると,以下のとおりである。
◇ 先行事例を参考にしつつ,既存 DB のストックを活用するなど,効率的かつ早期に四国地盤情報 DB を構築する。
◇ 南海地震対策を念頭に県庁所在地4平野における取り組み(初期構築:約1万本のデータ入力)を先行させるなど,
より実践的にデータベースを構築する。
◇ 地盤研究や防災研究を積極的に展開し,これらの研究成果等を反映させることにより,より利用価値の高いデータ
ベースを構築する。
◇ 国,公団,県およびライフライン事業者等が,関連部署を含めて地盤情報の提供を自ら積極的に行うことにより,
四国の地盤情報を網羅するデータベースを構築する。
Building and Utilizing of Shikoku Geo-informatics Database.
R. YATABE (Ehime University), S., HASEGAWA (Kagawa University), T. MOCHIZUKI (Tokushima University),
M. OKAMURA (Kochi University), T. SHICHIZYO, Y. MATSUYAMA (Shikoku Technical and Engineering Office),
K. YAMAMOTO, T. TAKADA (Geo-Research Institute)
四国地盤情報 DB の構築は,早期に土台となる DB を確立するために,まず 2 年間で県庁所在地の平野部を中心にボ
ーリングデータ約 1 万本の初期構築を行い,以降は毎年 500 本程度の入力を継続することにした。入力作業も効率化す
るため,全資料の調査内容リストを作成して柱状図→土質試験→検層・特殊試験等の順に段階的に入力を行うことにした。
さらに,将来的には様々な社会環境情報(空間情報)とのリンクを模索し,防災・地盤特性等に関する調査研究の成果(地
層同定情報など)も DB に付加して,利用価値を高めることも視野に置いた。また,既存の地盤情報 DB(四国技術事務
所,高松港湾空港調査事務所,香川大学,愛媛大学)も,データフォーマットを変換する形で四国地盤情報 DB に統合し
た。協議会が DB 化したものと既存の地盤情報 DB の集合体を「四国地盤情報 DB」と定義し,協議会が新規入力した
DB は「狭義の四国地盤情報 DB」とした。現在,四国地盤情報 DB は,協議会が設立された平成 16 年度から初期構築
を開始して 1 年間で 9,296 本のデータを集積し,平成 17 年度末時点では約 1 万 5 千本のボーリングデータが集積される
予定である。図-2 に現時点の入力ボーリングの位置を示す。なお,DB の権利(著作権,所有権)は,次のように定めた。
・地盤調査データおよび既存の地盤情報 DB は,データ提供者が所有権を有する。
・四国地盤情報 DB(広義)は協議会が管理する。協議会は狭義の四国地盤情報 DB についてのみ著作権を有する。
・協議会に参加する会員は,会費負担により四国地盤情報 DB を利用する権利を得る。
・協議会が解散等される時には,会員の総意により DB の存続方法を決定する。
4. 四国地盤情報データベースの活用
四国地盤情報活用協議会
四国地盤情報 DB の活用は,これから本格的に展開
されるが,大きくは次の3つを目的としている。
①南海地震等への地震防災対策検討
②四国地域の地盤特性の研究
③公共事業等への地盤情報の再利用
ここで,①,②については,4大学等の研究者を
中心に四国地盤情報 DB を用いて学術的な見地から
調査・研究を行い,新たな情報をとりまとめる。各
機関においては地震防災検討等に同 DB が活用され
る。③については,公共事業主体(国,自治体,公
益を目的とする法人)や,一般の建設・コンサルタ
ント・調査会社等を対象に四国地盤情報 DB の情報
【正会員】
四国地方整備局
日本道路公団
徳島県
香川県
愛媛県
高知県
四国電力
JR 四国
四国ガス
NTT インフラネット
徳島大学
香川大学
愛媛大学
高知大学
四国地盤情報データベース
将来的な活用構想
データ提供
データ活用
地盤 DB
拡張DB構築
(空間情報 GIS 等)
◇初期構築(1万本)
会費
◇維持管理・拡張(500 本/年)
研究利用
研究成果
連携
防災・地盤特性の調査研究
【準会員】
市町村等
【一般会員】
建設関連企業等
調査研究活動
(南海地震研究委員会)
学術的調査研究
地震防災資料・四国地盤図
を提供し,社会基盤整備における建設事業の適正な
施工・高品質化に地盤調査情報を再利用することと
土木学会等の
・地質基準ボーリング
・地下構造調査
・活断層調査 ..
.
図-1 四国地盤情報活用協議会の体制
した。そのため,協議会に参画する会員に一般会員
も含めて CD-ROM 形式で平成 17 年度より四国地盤
情報 DB の頒布を開始した。
5. まとめ
本活動は,南海トラフ長周期地震に対する防災戦略
の一つでもある。この大きな課題に対して短期間で防
災対策に直結する成果を得るためには,四国の産官学
が結集する必要がある。つまり,第1に四国の産官学
の情報と叡智を組み合わせること,第2に他地域の先
行事例の技術を注入すること,そして第3に新たな情
報を付加することである。そして,防災対策の基礎と
なる地震現象・災害事象を究明するために,浅層地盤
情報の量的および質的な向上と,深部地下への拡充に
取り組むことが目指すべき方向である。また,今後の
維持管理の時代において四国地域はさらに厳しい環
図-2 四国地盤情報データベースのボーリング位置
境化に置かれるであろうから,四国の産官学の手によって,この DB を総合的に統合化された地盤情報システムに拡大し,
地域の地盤情報資産として社会づくりの礎となるべく育む必要がある。
参考文献
1)矢田部龍一・木下賢司・山本浩司・ネトラ バンダリー:四国地盤情報 DB の構築と活用,土と基礎,Vol.53,No.6,pp.28-30,2005.
2)国土交通省四国地方整備局:四国地盤情報活用検討委員会資料,2003.
3)山本浩司:関西・大阪湾地盤情報データベースと地
盤情報活用技術,第 37 回地盤工学研究発表会,pp.45-46,2002.
4)山本浩司・岩崎好規・諏訪靖二:地盤情報データベースシス
テムの開発と大阪地域地盤への適用,地盤情報のデータベースに関するシンポジウム,pp.143-150,1991.