代数学入門 参考資料 7 2015 年度後期 工学部・未来科学部 1 年 担当: 原 隆 (未来科学部数学系列・助教) § 合同式 (続) ■フェルマーの小定理 定理 (フェルマーの小定理 Fermat’s little theorem) p を 素数 とし、a を a ̸≡ 0 (mod p) を満たす整数とする*1 。このとき ap−1 ≡ 1 (mod p) が成り立つ。 babababababababababababababababababab p を素数とするとき、a ̸≡ 1 (mod p) を満たす整数 a には 法 p の逆元が存在する。 系 つまり ma ≡ 1 (mod p) を満たす整数 m が存在する。 【証明】 m = ap−2 とおくと、フェルマーの小定理より ma = ap−2 a = ap−1 ≡ 1 (mod p) □ となる。 注: − フェルマーの小定理により、保留にしていた 逆元の存在定理 が 法が 素数 の場合 には証明 出来た。それでは 法が 合成数 の場合 はどうすれば良いであろうか? その場合は、フェル マーの小定理を拡張した オイラーの定理 を用いることで、やはり逆元の存在定理を証明する ことが出来る。詳細は次回以降に扱います。 − この定理は、1640 年に ピエール・ド・フェルマー Pierre de Fermat が友人の ベルナルド・フレニクル・ド・ベシー Bernard Frenicle de Bessy に宛てて出した手紙の中で紹介されたものであるが、実 はフェルマー自身が証明を付けたわけではない。この定理の証明 は、時代を下ってライプニッツやオイラーによって付けられるこ ととなった。「フェルマーの小定理」の呼称は、クルト・ヘンゼル ピエール・ド・フェルマー Kurt Hensel による整数論の教科書である Zahlentheorie (ドイツ Pierre de Fermat 語「で整数論」の意味) の中で始めて用いられたようである。勿論「小定理」とわざわざ冠さ れているからには「フェルマーの大定理」と呼ばれるものもあるわけだが、それは「n が 3 以 上の自然数のとき、xn + y n = z n を満たす (x, y, z) = (0, 0, 0) 以外の整数組は存在しない」 ことを主張する所謂 フェルマーの最終定理 Fermat’s last theorem のことである。 *1 つまり a は p で割り切れない整数 ということ。 babababababababababababababababababab 系 (ウィルソンの定理) p を 0 でない整数とするとき、合同式 (p − 1)! ≡ −1 (mod p) が成り立つための必要十分条件は p が素数であること である。 【証明】 ジョン・ウィルソン John Wilson p が素数のとき (p − 1)! ≡ −1 (mod p) が成り立つことのみ示す。逆側の主張はテキスト 『数の不思議』の p. 152 を参照すること。 先ず f (x) = xp−1 − 1 とおくと、 フェルマーの小定理 より f (1) ≡ 0 (mod p), f (2) ≡ 0 (mod p), f (p − 1) ≡ 0 (mod p) (g(x) は多項式) · · · (∗) ......, が成り立つ。したがって 因数定理の mod p 版*2 より xp−1 − 1 ≡ (x − 1)(x − 2) · · · (x − p + 1)g(x) (mod p) が成り立つが、両辺の xp−1 の係数を比較して g(x) ≡ 1 (mod p) となることが分かる。そこで (∗) に g(x) ≡ 1 (mod p) と x ≡ 0 (mod p) を代入すると −1 ≡ (−1) · (−2) · · · · · · · (−p + 1) (mod p) ≡ (−1)p−1 (p − 1)! (mod p) が得られる。p が奇素数のときは p−1 は偶数なので (−1)p−1 = 1 となり、所望の合同式 (p−1)! ≡ −1 (mod p) が得られる。p = 2 のときは (−1)2−1 = −1 ≡ 1 (mod 2) に注意すれば良い。 □ ■演習問題 問題 7-1. (フェルマーの小定理の証明のアイデア)*3 以下の設問に答えなさい。 (1) mod 3, mod 5, mod 7 で の「 の 表 」を 完 成 さ せ な さ い 。特 に 各 行 、各 列 に は 掛 け 算 1, 2, . . . , p − 1 (p = 3, 5, 7) が 一度ずつ 登場していることを確認しなさい。 (2) 特に「a の段」(1 ≤ a ≤ p − 1) の行の数字を全て掛け合せることで、合同式 {1 · 2 · · · · · (p − 1)}(ap−1 − 1) ≡ 0 (mod p) が成り立つことを示しなさい。 (3) (2) を用いて、p = 3, 5, 7 の場合のフェルマーの小定理 ap−1 ≡ 1 (mod p) を証明しなさい。 ※ 一般の素数 p に対する証明方針も同様です。 問題 7-2. (逆元の計算) 以下の数の逆元を フェルマーの小定理を用いて 計算しなさい。 (1) *2 *3 5 (mod 7) (2) 3 (mod 5) テキスト『数の不思議』定理 20. を参照。 講義でも扱います。 (3) −2 (mod 11) (4) −3 (mod 13) ■参考: フェルマーの小定理の証明 定理 (フェルマーの小定理; 再掲) p を 素数 とし、a を a ̸≡ 0 (mod p) を満たす整数とする。このとき ap−1 ≡ 1 (mod p) が成り立つ。 babababababababababababababababababab 証明の方針 法 p での「掛け算の表」の各行、各列に 1, 2, . . . , p − 1 が 1 度ずつ現われることを示そう ⇝ 講義で説明したやり方で ap−1 ≡ 1 (mod p) が証明出来る。 【証明】 a ̸≡ 0 (mod p) を満たす整数 a を 1 つ固定しておく。 ステップ 1. 整数 x ̸≡ 0 (mod p), y ̸≡ 0 (mod p) に対して x ̸≡ y (mod p) ならば ax ̸≡ ay (mod p) が成り立つ ことを示す*4 *5 。 もし ax ≡ ay (mod p) となっていたとすると、移項して a(x − y) ≡ 0 (mod p) が成り立つ。 つまり a(x − y) が p の倍数ということになる。ここで a と p は 互いに素 なので、(素因数 分解を考えると) x − y が p の倍数になっていなければならない。これは x ≡ y (mod p) が 成り立つことを意味しており、x ̸≡ y (mod p) であったことと矛盾する。したがって背理法 により、 ax ̸≡ ay (mod p) が成り立つ。 ステップ 2. 整数 a · 1, a · 2, a · 3, . . . , a · (p − 1) は法 p で考えると 1, 2, 3, . . . , p − 1 の並べ替えと なっていることを示す*6 。 先ず、全ての整数は法 p で 0, 1, 2, . . . , p − 1 の何れかと合同となることに注意しよう (「p で 割った余り」を考える)。ここで a 及び 1, 2, . . . , p − 1 は何れも p と 互いに素 なので、 a · 1, a · 2, . . . , a · (p − 1) は p の倍数ではないため、法 p で 1, 2, 3, . . . , p − 1 の何れかと合同 となる。さらに ステップ 1. より、a · 1, a · 2, . . . , a · (p − 1) はどの 2 つも法 p で合同ではな いので、a · 1, a · 2, . . . , a · (p − 1) は 1, 2, . . . , p − 1 の並べ替えとなっていなければならない。 ステップ 3. ステップ 2. より (a · 1)(a · 2) · · · (a · (p − 1)) ≡ 1 · 2 · · · · · (p − 1) (mod p) ∴ (1 · 2 · · · · (p − 1))(ap−1 − 1) ≡ 0 (mod p) が成り立つが、p と 1 · 2 · · · (p − 1) は 互いに素 なので、約分して ap−1 − 1 ≡ 0 (mod p) を得る*7 。 □ *4 このステップは、法 p での掛け算の表の「a の段」に登場する数がすべて異なることを示していることに相当する。 *5 抽象数学の用語を用いると、このことは「(Z/pZ)× 上の a 倍写像が 単射 injective である」ことを示していること に他ならない。 このステップは、 「a の段」に 1, 2, . . . , p − 1 が一度ずつ現れることを示していることに相当する。 *7 演習問題 4-1. (1) 参照。 *6 【演習問題解答】 問題 7-1. (1) 以下の通り。 1 2 3 4 5 6 1 2 3 4 1 1 2 3 4 5 6 1 2 1 1 2 3 4 2 2 4 6 1 3 5 1 1 2 2 2 4 1 3 3 3 6 2 5 1 4 2 2 1 3 3 1 4 2 4 4 1 5 2 6 3 4 4 3 2 1 5 5 3 1 6 4 2 6 6 5 4 3 2 1 mod 3 mod 5 mod 7 (2) 例えば mod 7 の表の「3 の段」の横の数を掛け合わせると、 (3 · 1)(3 · 2)(3 · 3)(3 · 4)(3 · 5)(3 · 6) ≡ 3 · 6 · 2 · 5 · 1 · 4 ∴ (mod 7) (1 · 2 · 3 · 4 · 5 · 6)(36 − 1) ≡ 0 (mod 7) となる。どの表の他の行でも同様の計算が出来る (各自色々と計算してみよう!!)。 (3) (2) の例では、1 · 2 · · · · · 6 と法 7 は 互いに素 なので、演習問題 4-1. (1) により 36 − 1 ≡ 0 (mod 7) ∴ 36 ≡ 1 (mod 7) が従う (他の行でも同様)。 問題 7-2. (1) フェルマーの小定理より 56 ≡ 1 (mod 7) が成り立つので、法 7 での 5 の逆元は 5−1 ≡ 55 (mod 7) である。52 = 25 ≡ 4 (mod 7), 53 ≡ 4 · 5 ≡ 20 (mod 7) より、 5−1 ≡ 55 ≡ 52 · 53 ≡ 4 · 20 ≡ 80 ≡ 3 (mod 7) となる。 (実際 5 · 3 = 15 ≡ 1 (mod 7) より、確かに 3 は法 7 での 5 の逆元である) (2) フェルマーの小定理より 34 ≡ 1 (mod 5) が成り立つので、法 5 での 3 の逆元は 3−1 ≡ 33 (mod 5) である。したがって 3−1 ≡ 33 ≡ 27 ≡ 2 (mod 5) となる。 (実際 3 · 2 = 6 ≡ 1 (mod 5) より、確かに 2 は法 5 での 3 の逆元である) (3) フェルマーの小定理より (−2)10 ≡ 1 (mod 11) が成り立つので、法 11 での −2 の逆元は (−2)−1 ≡ (−2)9 (mod 7) である。(−2)3 ≡ −8 ≡ 3 (mod 11) より、 (−2)−1 ≡ (−2)9 ≡ {(−2)3 }3 ≡ 33 ≡ 27 ≡ 5 (mod 11) となる。 (実際 −2 · 5 = −10 ≡ 1 (mod 11) より、確かに 5 は法 11 での −2 の逆元である) (4) フェルマーの小定理より (−3)12 ≡ 1 (mod 13) が成り立つので、法 13 での −2 の逆元は (−3)−1 ≡ (−3)11 (mod 13) である。(−3)2 ≡ 9 (mod 13), (−3)3 ≡ −27 ≡ −1 (mod 13) より、 (−3)−1 ≡ (−3)11 ≡ {(−3)3 }3 · (−3)2 ≡ (−1)3 · 9 ≡ −9 ≡ 4 (mod 13) となる。 (実際 −3 · 4 = −12 ≡ 1 (mod 13) より、確かに 4 は法 13 での −3 の逆元である)
© Copyright 2024 ExpyDoc