統計力学 場合の数を考え、すべての場合は等確立であり、まったくバイアスがかかってないとす る。その場合に、エネルギーごとの場合の数を計算し、どういうエネルギー状態の範囲に、 場合の数が多いかということをみていけば、粒子がエネルギーごとにどういう頻度分布を するかがわかる。そういうことを明らかにするために統計力学が存在する。 この場合の数を調べるために粒子にいろいろな制限を課してやる。そうすれば頻度分布 がとるべき形が明らかになるのである。 3 次元の中の一個の粒子の自由度は6である。つまり 3 次元座標と 3 次元運動量 x, y, z, px, py, pz を決定してやることにより明らかになる。粒子が N 個あるときは、6N 個のこれらの値を決定してやると、全部の粒子の状態が書き表せる。N が莫大な数になっ たら、実際問題本当にこれらを決めてやれるかどうかというとそれは無理であろうが、イ マジネーションの世界ではできる。あるいはできたとして、理論を進めていくしかない。 ここでは、そういうおそろしいことができるとする。N はたとえばアボガドロ数ほどの値 であったりするのである。しかし、こんなに莫大だと、だんだん全体の振る舞いがある法 則に従うようにもなってくるわけで、そこらへんが結局は統計力学のマジックのねらい目 である。 我々は、1 粒子の状態が相空間(μ空間)の所定の微小体積に存在する確立を求めてやるの である。 dxdp = dxdydzdp x dp y dp z 小正準集団 1粒子がμ空間にいるとする。単純に考えるために、1 次元の箱にとじこめる。この相空 間は、 0≤ x≤ L −∞ ≤ p ≤ ∞ ということにする。これを微小の領域に割って、それぞれ dxdp = a という大きさだとする。もしも粒子の個数が N 個となると、この場合の多粒子相空間(Γ 空間)の大きさは aN となる。なぜか?3 個の粒子だったら、 dx1dp1dx2 dp2 dx3 dp3 = a × a × a = a 3 こういうことから類推すると N 個の場合の相空間体積が aN なのもうなづける。 さてここで、相空間に N 個の粒子を与えていく組み合わせを考えていく。ここでは何の 制限も加えないで、N 個の粒子をただ単に、1 番目の細胞、2 番目の細胞、 、と与えていく ときの組み合わせを数えていく。細胞といっているのは、上の aN の積をもつ細胞である。 これらはいろいろなエネルギーを持ちえるのであるが、今は、これらがどういうエネルギ ーをもっているかなどは考慮せず、とりあえず部屋を準備して、N 個の玉をほうりこんで いくときの様子を調べる。 1 番目の細胞に n1 個、2 番目の細胞に n2 個というふうにほうりこんでいくと、N はと りあえずは有限なわけであるから、その組み合わせの場合の数は計算できて、 W= (N − n1 )! (N − n1 − n2 )! ........... N! (N − n1 )!n1! (N − n1 − n2 )!n2 ! (N − n1 − n2 − n3 )!n3! こうなる。意味は、まず N のうちから n1 個を選ぶやりかたを計算している。そのやりかた の中には重複が存在しているので、重複を取り除く割り算も入っている。次に、その n1 個 を除いてしまったそれぞれから n2 個を選ぶやりかたを計算、というようなことを繰り返し ていって、全部を掛け算すれば場合の数になるのである。これは実は莫大だ。この掛け算 をどんどん書いていくと、分子分母で消えてゆくところが続出してきて、結局、 W= N! n1!n2 !n3 !..... との書き方が可能なものとなる。 この式はスターリングの公式を使うと見通しのよい形にしてしまえる。 ln W = ln N !−(ln n1!+ ln n2 !+ ln n3 !..) = ln N !−∑ ln n j ! j = N (ln N − 1) − ∑ n j (ln n j − 1) j = N ln N − N − ∑ n j ln n j + ∑ n j j j = N ln N − N − ∑ n j ln n j + ∑ n j j j = N ln N − N − ∑ n j ln n j + N j = N ln N − ∑ n j ln n j j ここまで作っておいて、これらの場合の数に制限を与えていってみる。まず、粒子数と 全体のエネルギーは変動しないというふうに決める。したがって、 dN = ∑ dn j = 0 j dE = ∑ ε j dn j = 0 j とある細胞の中の粒子数が増えれば、ほかのが減るといった関係があるのである。エネ ルギーもしかり。 ln W = N ln N − ∑ n j ln n j j であったから、 d ln W = −∑ d (n j ln n j ) j = −∑ ln n j dn j − ∑ dn j j j = −∑ ln n j dn j j ここで ∑ dn がゼロであることが用いられている。 j j さてここで、 我々は何をやりたいかというと、nj を計算するための式がほしいのである。 これがあれば、何番目の細胞にどれだけの粒子が入っているかがわかる。Nj を計算するた めのなんらかの関係式を入手したいのである。 この式を作るために、ラグランジュの未定乗数法を用いる。この方法を一口でいうと、 条件 dN = ∑ dn j = 0 j dE = ∑ ε j dn j = 0 j の下で、 ln W を極値にするために、新しい関数 h = d ln W + αdN + β dE をつくり、これがゼロになる条件を調べるものである。 h = −∑ ln n j dn j + α ∑ dn j + β ∑ ε j dn j j j = −∑ (ln n j + α + βε j )dn j = 0 j j この場合、この中身がいつもゼロになるには、 ln n j + α + βε j = 0 でなければならずこの式は、 ln n j + α + βε j = 0 ln n j = −α − βε j n j = exp(− α − βε j ) = e −α e − βε j という形が導かれる。これは、エネルギーと粒子の総数が変わらないという条件の中で、 一番場合の数が多くなるような条件を満たす nj なのである。エネルギーと粒子数を与えれ ばこういう頻度分布をした粒子の集団が現れる。 αが邪魔なので、 N f e −α = として、fを求める計算を考えてみる。N が入ったのは、当然この部分は N に比例してい なくてはならないからである。 n j = e −α e = − βε j N − βε j e f 両辺の総和えをとってみる ∑n j N f = j N= 1= N f 1 f ∑e − βε j j ∑e − βε j j ∑e − βε j j f = ∑e − βε j j ということでうまい具合にfが計算できてしまう。また nj = N ∑e − βε j e − βε j j ということであるから、 N − βε j ε j e ∑j e −βε j n jε j ∑ ∑ E j j = = = N n ∑j j N − βε j ∑j e −βε j e ∑ j ∑ε = j e N ∑e − βε j ∑ε j e − βε j j j N ∑e − βε j ∑e − βε j j j − βε j j ∑e − βε j j となる。 これによりβがまだ未知のものとして残っているが、これを熱力学と比較していく。 少しもどって、またfについて書き換えをやってみる。 f = ∑e − βε j j ということなので、これはβとεの関数のようなものであり、全微分を考えることができ る。ここで都合上 log をとってから全微分を計算していく。 − βε ln f = ln ∑ e j j d ln f = ∂ ln f ∂ ln f dβ + ∑ dε j ∂ε j ∂β j − ∑ε je = − βε j j ∑e − βε j dβ + − β ∑e j =− ∑ε − βε j j ∑e − βε j ∑e − βε j ∑e − βε j dε j j j e − βε j j ∑e j − βε j dβ − β j j dε j E = ∑ n jε j j dE = ∑ ∂ (n j ε j ) ∂n j j dn j + ∑ j ∂ (n j ε j ) ∂ε j dε j = ∑ ε j dn j + ∑ n j dε j j j この式の第2項は、J 番目の細胞の粒子の数にそれぞれのエネルギー変化を掛け算したもの であり、これは外から入ってくるエネルギーに相当するので、 d ′W = ∑ n j dε j = ∑ j = = N f j ∑e − βε j N − βε j e dε j f dε j j N ∑e ∑e − βε j − βε j dε j j j =N ∑e − βε j dε j j ∑e − βε j j またおさらいとして E = N ∑ε e − βε j j j ∑e − βε j j これらにより ∑ε d ln f = − j e − βε j j ∑e − βε j j =− dβ − β ∑e − βε j j ∑e − βε j dε j j E d ′W dβ − β N N これとヘルムホルツの自由エネルギーとの関係を作ってやると見通しが明るくなる。 F = U − TS dF = dU − TdS − SdT = d ′W + TdS − TdS − SdT = d ′W − SdT ところで、ここでいささか人工的であるが、先の事情を考慮して -F/kBT という関数を導入し、これの全微分を計算するなかから、上の性質をいろいろ利用 して変形していってみる。これにより熱力学的な関係があらわになってくるという寸法で ある。この発想は自然には無理なので、ひとまずはこの教科書の場合は丸呑みするのが妥 当である。 F F ∂ − ∂ − k BT k B T F = d − dF + dT ∂F ∂T k BT 1 F dF + =− dT k BT k BT 2 これになぜか上のいろんな性質をもう一回ほうりこんで U と W の式にしていくのである。 F 1 F = − d − dF + dT k BT k BT 2 k BT 1 ) dT (d ′W − SdT ) + (U − TS =− 2 k BT k BT =− 1 1 U TS d ′W + SdT + dT − dT 2 k BT k BT k BT k BT 2 =− 1 1 U S d ′W + SdT + dT − dT 2 k BT k BT k BT k BT =− 1 U d ′W + dT k BT k BT 2 結果をまとめると F 1 U = − d − d ′W + dT k BT k BT 2 k BT これに前の式を並べて示すと、 E d ′W dβ − β N N dN ln f = − Edβ − βd ′W d ln f = − これでこれらを比較することで得られる式が F k BT N ln f = − F = − Nk BT ln f β= 1 k BT U =E したがって εj N − n j = e k BT f というマックスエル-ボルツマン分布となる。こうして粒子がエネルギーεj をとる確率は、 exp(-εj/kBT)に比例する。 エネルギーが連続的な値ε(p、x)であれば、nj は n(p,x)となり、 εj N − n j = e k BT f nj εj 1 − = e k BT N f n(p, x ) 1 − = e N f ε (p, x ) k BT ということになる。 ボルツマンの原理により、エントロピーを場合の数から計算することができる。 ln W = N ln N − ∑ n j ln n j これに j nj = N − βε j e これを使う f N − βε ln W = N ln N − ∑ n j ln e j j f ε k BT j = N ln N − ∑ n j ln N − ln f − ln e j εj = N ln N − ∑ n j ln N − ln f − k T j B εj = N ln N − ∑ n j (ln N − ln f ) + ∑ n j j j k BT 1 = N ln N − ∑ n j (ln N − ln f ) + ∑ n jε j k BT j j = N ln N − ∑ n j ln N + ∑ n j ln f + j j = N ln N − N ln N + N ln f + = N ln f + =− = 1 E k BT 1 E k BT 1 E k BT F U + k BT k BT U − F U − (U − TS ) TS S = = = k BT k BT k BT k B ln W = S kB S = k B ln W ボルツマン定数が微視的状態の数とエントロピーつまり熱の出入りと関係する数を結ん でいる。 S = k B ln W TS = Q = k BT ln W 熱は, 温度のエネルギーと場合の数を掛けたものになっている。
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