【最優秀賞】 - Synapse

【最 優 秀 賞】
氏 名
郭 璐瑶(カク ロヨウ)
国・地域
中国
在日期間
6ヶ月
学 校
鹿児島県立短期大学
タイトル : 日本人と上手に付き合うためのマニュアル
6ヶ月の交換留学が決まり,中国で渡航の準備をしながら,日本に関する情報収集を
していたとき,
「日本人と上手に付き合うためのマニュアル」なるものを,インターネッ
トで発見しました。日本語に訳すと,こんな感じです。
マニュアル1.
日本人は,まじめで几帳面である。めったに冗談を言わないし,冗談を理解しないの
で,むやみに冗談を言って,誤解を招くようなことは避けるべし。
マニュアル2.
日本人は,褒め上手である。ただし,簡単に信じるな。他人を褒めるのは,よく思わ
れたいだけだ。
「日本語が上手ですね。
」と褒められれば,
「日本語が全然だめだ」と思
え。
マニュアル3.
日本人は他人に冷たい。家族同士でもお互いに関心を持たない。挨拶はまめにするが,
深い付き合いは望めない。軽々しく誘ったりするべからず。
へーと思いました。
「備えあれば憂いなし」私は心の準備をしっかりして,昨年の9月
末に鹿児島の土を踏みました。
そこで出会ったのが,みどりさんです。みどりさんは,私が留学している大学の夜間
部の学生です。みどりさんは,よく笑うし,冗談を言って人を笑わせます。この間も,
餃子パーティーで笑わせてくれました。トントントントンとリズミカルに包丁を動かす
彼女を見て,
「ワォー,みどりさん切るのが上手。
」と褒めました。すると彼女は,
「いえ
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いえ,郭さんの野菜の洗い方にはかないませんよ。
」とすかさず返しました。どっと笑い
が起きました。みどりさんは,さっそく「マニュアルその1」を破りました。みどりさ
んは,
「めったに冗談を言わないし,冗談を理解しない」なんてことありません。
鹿児島に来てあっという間に3ヶ月がたち,パソコンの写真を整理しようとして,び
っくりしました。自分が写っている写真がたくさんあったからです。
私は,写真に撮られることが嫌いです。大きな前歯にコンプレックスを持っているか
ら,写真に写りたくなくて,今までとにかくカメラから逃げ回っていました。ところが
鹿児島に来てからの私は,やたらと写真に写っています。しかもどの写真でも,大きな
口を開けて笑っているのです。
いつの間に撮られも平気になったのか。やはり,みどりさんのせいです。みどりさん
は会うたびに,
「いつもきれいだけど,今日の服はまたかわいい。
」やら,
「郭さん,記憶
力が素晴らしい。もう,鹿児島の道を覚えたのね。
」と,私を褒めちぎります。そのうち,
自分でもその気になって,前歯もそんなに気にならなくなり,カメラに撮られるように
なりました。マニュアル2.「日本人の褒め言葉は信じるな」すっかり忘れていました。
1枚1枚写真を見ていくと,桜島,霧島神宮,霧島の花火大会,おはら祭りに指宿の
砂蒸し。きれいな景色の中に,自分の姿を残すのも悪くないと思い始めました。褒めら
れて,前よりも自分に自信が持てるようになったのかもしれません。真心を込めて褒め
てくれているのかどうか。疑いの目で見ていたら,本当の気持ちも見えなくなってしま
うのではないでしょうか。
今,私は,みどりさんと一緒に遊びに出かけたり,食事をしたりして,毎週会わない
と落ち着かないほどです。最初に誘ってくれたのは,みどりさんでした。
「郭さん,食事
に行こう。
」
「郭さん,遊びに行こう。
」と。最初は,行きたいけど,迷惑にならないかな
と断ったりもしていましたが,それでもお誘いは絶えません。ついに,私からも誘うよ
うになりました。マニュアル3.
「軽々しく誘ったりするべからず」も,ついに破られま
した。
もしも,みどりさんに出会わなかったら,日本人の他のお友達も作れないまま,鹿児
島での留学生活を終えてしまっていたかもしれません。振り返ってみると,あのマニュ
アルは,何だったのでしょう。
そこで私は,ふと思いました。もしかしたら,日本にも「中国人と上手に付き合うた
めのマニュアル」が存在するかもしれません。みなさん,もしも,それを目にしたら,
どうかそのマニュアルを破って,まっさらな気持ちで,中国人と付き合ってみてくださ
い。きっと,中国版のみどりさんに出会えるはずです。
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