ヒトは助け合う生き物か? 第1章 はじめに 第2章 研究の展開

ヒトは助け合う生き物か?
所属:生物ゼミ
1年 1 組 27 番
西山
祐平
第1章 はじめに
第1節
テーマ設定の理由
悲しいニュースがある。子どもが海や川で溺れている。助けに行った大人も溺れて亡
くなってしまった。夏になると毎年、このような報道を耳にする。そのときどう対応す
るのが最善であるかは別として、子どもを助けたい一心で行動を起こした大人の気持ち
は痛いほどよく分かる。
一方、別の意味で悲しいニュースもある。詐欺、いじめ、殺人など具体例を挙げるま
でもない、人に危害を加える話題は前者よりも遙かに多く、毎日のように耳にする。
これはどのような心理の違いから生じるのであろうか。それを明らかにすることでこ
うした社会問題解決の糸口を見つけることができるのではないか と考え、テーマを設定
した。
第2節
研究のねらい
助け合いが起こる仕組みを知ることで上記のような社会問題解決に寄与する。
第3節
第1項
研究内容と方法
研究の内容
生物学、人間科学を中心に、経済学の考え方を取り入れながら、助け合いが起こる
仕組みについて調べた。
第2項
研究の方法
主にインターネットを使用し、情報を集めた。
第2章
研究の展開
第1節
共生とは
現在、もともとは生物学の用語であった「共生」という言葉が、日本をはじめ、世界
各国でヒトや生物が共存するための重要な考え方として、環境、政治、国際社会など、
あらゆる場面で使われている。まずは、これについて調べることはレポート作成に有効
ではないかと考えた。「共生」という言葉には次の2つの意味合いが含まれている。
(1)異種の個体が一緒に棲むこと。
つまり、生物間同士の接近度、あるいは結びつきの強さに関するもの。
(2)一方の種の個体の存在が他方の種の個体に利益を及ぼすこと。
つまり、個体間の質に関するもの。
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(1)と(2)の2点をふまえ、二種の生物がどの程度近くに住んでいて、どのよう
な結びつきを持っていれば「共生」といえるのだろか。専門家の意見は様々であるが、
共生関係には主に、次の4つの種類がある。
①片利関係…片方のみが利益を得て、相手には利害が発生しない場合
例)カクレウオがナマコの肛門に寄生する。ナマコはカクレウオを外敵から守るが、
ナマコには、何ら利益がない。
②片害関係…片方のみが害を被り、相手には利害が発生しない場合
例)スギが花粉を飛散させる。当然スギは繁殖が目的なだけで悪気はないが、そのせ
いでヒトが花粉症に悩まされる。
③相利関係…双方の生物種がこの関係で利益を得る場合
例)クマノミがイソギンチャクに棲みつく。イソギンチャクはクマノミを外敵から守
り、クマノミはイソギンチャクの外敵を追い払う。
④寄生関係…片方のみが利益を得て、相手方が害を被る場合
例)ニキビダニがヒトの皮膚に寄生する。ニキビダニは皮脂を栄養にするが、ニキビ
ができる。
このように、具体例を挙げてみると理解しやすい。 自然界には意図せずとも様々な利
害関係が発生しうることが分かる。しかし、面白いことに、これらの関係は深く考えれ
ば考えるほど、かえって複雑になっていく。例えば、④の例で挙げたニキビダニも適度
に繁殖すれば、かえってニキビを防いでくれる。この場合、双方に利益がもたらされる
ため、③の相利関係となる。このように、状況の変化に伴い共生関係ががらりと変わる
ことはよくあるのだ。また、一見利益に見えるものが実は不利益であったり、あるいは
その逆であったりすることもある。
つまり、地球上にヒトを含む生物が、様々な関係の持ちながら、互いに絶滅すること
なく調和を保って共存することが共生であるのだが、その定義は非常に曖昧なのだ。
第2節
囚人のジレンマ
調べ学習を進めていくうちに、 レポート作成に役立ちそうな 面白いものを見つけた。
「囚人のジレンマ」という数理理論である。これは主に経済学における重要な概念の一
つであるが、生物学においても中心的な役割を果たしている そうだ。第一節で共存の複
雑さが窺えたが、生物の行動もそのときの状況に支配されているのではないかと予想し、
この理論ゲームを用いて考察を進めた。概略は下記の通りである。
囚人のジレンマ…「互いに協調する方が裏切り合うよりもよい結果になることが分か
っていても、皆が自身の利益を優先している状況下では、裏切り合ってしまう 」という
ジレンマ。
<問題>
共同で犯罪を行ったと思われる囚人 A、B を自白させるため、警官は 2 人に以下の条
件を伝えた。
・もし、お前らが 2 人とも黙秘したら、2 人とも懲役 2 年だ。
2
・だが、お前らのうち 1 人だけが自白したらそいつはその場で釈放してやろう(つま
り懲役 0 年)。この場合自白しなかった方は懲役 10 年だ。
・ただし、お前らが 2 人とも自白したら、2 人とも懲役 5 年だ
この時、2 人の囚人は共犯者と協調して黙秘すべきか、それとも共犯者を裏切って自
白すべきか、というのが問題である。なお彼ら 2 人は別室に隔離される等しており、2
人の間で強制力のある合意を形成できない状況におかれているとする。(例えば自分だ
けが釈放されるように相方を脅迫したり、二人共黙秘するような契約書をかわしたりす
ることはできないと言うこと)。
囚人 A、B の行動と懲役の関係を表(利得表と呼ばれる)にまとめると、以下のように
なる。表内の(○年、△年)は囚人 A、B の懲役がそれぞれ○年、△年であることを意
味する。たとえば表の右上の欄は A、B がそれぞれ協調・裏切りを選択した場合、A、B
の懲役がそれぞれ 10 年、0 年であることを意味する。
囚人B
協調
囚人B
裏切り
囚人A
協調
(2年、2年)
(10年、0年)
囚人A
裏切り
(0年、10年)
(5年、5年)
<解説>
囚人 2 人にとって、互いに裏切り合って 5 年の刑を受けるよりは互いに協調し合って
2 年の刑を受ける方が得である。しかし囚人達が自分の利益のみを追求している限り、
互いに裏切り合うという結末を迎える。これがジレンマと言われる所以である。
このようなジレンマが起こるのは以下の理由による。まず A の立場で考えると、A は
次のように考えるだろう。
1.B が「協調」を選んだ場合、自分(=A)の懲役は 2 年(「協調」を選んだ場合)か 0
年(「裏切り」を選んだ場合)だ。だから「裏切り」を選んで 0 年の懲役になる方が得だ。
2.B が「裏切り」を選んだ場合、自分(=A)の懲役は 10 年(「協調」を選んだ場合)
か 5 年(「裏切り」を選んだ場合)だ。だからやはり「裏切り」を選んで 5 年の懲役にな
る方が得だ。
以上の議論により、A は B がどのような行動をとるかによらず、B を裏切るのが最適
な選択と言える。よって A は B を裏切ることになる。しかし、それは B にも同じことが
言える(B にも同じ条件が与えられている)ので、B も A と同様の考えにより、A を裏切
ることになる。よって実現する結果は(裏切り, 裏切り)、すなわち両者が 5 年の懲役と
なる。
重要なのは、相手に裏切られるかもしれないという懸念や恐怖から自分が裏切るので
はなく、相手が黙秘しようが裏切ろうが自分は裏切ることになるという点である。この
ため仮に事前に相談できたとしてお互い黙秘をすると約束したとしても、(それに拘束
力が無い限りは)裏切ることになる。
なお、この場合のパレート効率的な組合せは、(協調、協調)、(協調、裏切り)、(裏
切り、協調)の 3 つであり、(裏切り、裏切り) はナッシュ均衡ではあってもパレート効
率的ではない。
(囚人のジレンマ<問題><解説>は Wikipedia より引用)
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上記のように、ゲームを一回しか行わない場合(有限回繰り返し型囚人のジレンマと
いう)は両者が裏切りを選択する。では、囚人たちがゲームの繰り返し回数を知らない、
つまり、ゲームがいつ終わるか分からない場合(無限回繰り返し型囚人のジレンマとい
う)はどうであろうか。
結果は協調を選択するのだ。面白いことに、囚人たちがゲームを繰り返す回数を知っ
ているか、知らないかで全く異なる結果が得られるのである。これは選択が何度も繰り
返される中で、協調性を手入れることが可能であることを示している。
実際、有限回繰り返し型は帰納法を用いて、無限回繰り返し型は期待値を割り出して、
数学的に証明することができるのだが、私には理解できなかったので、これ以上深く掘
り下げないことにした。詳しい説明は割愛する。
しかし、これはよく考えれば理屈を抜きに想像できるのではないか。そんなに単純な
ものではないのかもしれないが、「失敗を繰り返すたびに学習する」という解釈で十分
だろう。
第3節
状況による行動の変化
第2節を踏まえ、状況による行動の変化を簡単にまとめると次のようになる。
(ⅰ)「皆が他者の利益を優先している(自身の利益を優先しない)」
→囚人のジレンマは起こらない。自己犠牲あるいは協調が起こる。
(ⅱ)「皆が自身の利益を優先し、その状況がいずれ終わることを知っている」
→裏切り(囚人のジレンマ)が起こる。
(ⅲ)「皆が自身の利益を優先し、その状況がいつ終わるか分からない」
→協調(囚人のジレンマ)が起こる。
それぞれの場合で具体例を挙げて、考察した。
第1項
最も厳しい生存競争
(ⅰ)の場合
これを説明するにはまず、1859年にダーウィンが唱えた自然選択説について
理解する必要がある。自然選択説とは環境に適応した個体が生き残り、適応しない
個体は消滅し、それが繰り返されることで進化が起きたという説のことだ。具体的
な例でみてみよう。
キリンがいる。キリンは高いところにある木の葉を食べるのを有利にするために
首が長くなった。一方、長い首を支えるには大きな体が必要で、 それ故、多くの食
料も必要になる。また、脳まで血液を送る強靱な心臓と鬱血しないための脚の構造
も必要になるため、首を短くするようにも選択が働く。そうして、キリンは今日の
ような姿になった。
このように、生物は生存に有利なように進化をする。この考えによれば、より多
くの子を残すという行為は自然選択に残りやすいということになる。すると、結果
として親が子(=親からみた他者)を守るという形質が生まれることになるのだ。
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それだけではない。配偶者を守る、子が親を守る場合も同様に言える。具体例を 順
に列挙する。
・チドリなどの鳥類は、天敵が卵や雛のいる巣に近づくと、親がおとりとなり、傷
ついているかのようにその目の前に姿を見せ、遠くへ誘導する。
・雄ヤドカリは、交尾後、他の雄との交尾を阻止するために、雌を持ち運ぶ。
・働きアリ(ハチ)は、女王アリ(ハチ)の世話をし、その子を育てる。
このように自分の種を残すという本能的な思いが自己犠牲や協調に結びついてい
るのである。
しかし、残念ながら、
「他者=それ以外の仲間や親戚」としたとき、それを守る行
為について説明するための資料は今回の調べ学習では十分に集められなかった。現
在、動物行動学や行動生態学の分野では、様々な議論がされているようであるが、
その概念は難しく複雑であるので、私には理解できないと判断し、これ以上深く掘
り下げないことにした。
第2項
現実における囚人のジレンマ
(ⅱ)の場合
ここでは、人間社会での例を挙げて説明する。
同じ商品を売るA社とB社があるとする。両社が価格競争をやめれば儲けが増える
にもかかわらず、自社の利益を優先する限り、両社ともに値下げをし続けてしまう。
これはどちらかが儲かれば、どちらかは儲からないように勝ち負けがはっきりとし
ているので、有限回繰り返しゲームと解釈できるからである。
(ⅲ)の場合
(ⅱ)の状態が続くとどうなるだろう。その商品の値段は一致してくると考えられる。
すると、相手の会社の行動によらず裏切れば、自社の利益が増えるにもかかわらず、
実際には協調し続ける。これは値段が一定になるとそれは半永久的に続く、つまり、
いつ終わるか分からない状況になるので、無限回繰り返しゲームと解釈できるから
である。
第3項
結論
以上のような学説や理論によって、生き物は自身の置かれた状況に影響されやすい
という結論が導かれた。今回挙げた例以外にも私たちの周りには囚人のジレンマをは
じめとした様々なゲームが複雑に存在している。私たちはそれらを日常生活の中で意
識することがないために助け合いも裏切りも起こるのだろう。
第3章
感想
この研究のねらいは冒頭で挙げたような社会問題の解決だったが、果たして今回の調べ
学習はそれに役立つ内容であっただろうか。正直、それができたら苦労はない。そもそも
始めからそれは期待していなかったようにも思える。ただ、今回調べた事柄が私たち に何
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かしらの影響を与えていることは確かだし、結論にも無理はないだろう。様々な資料を集
め、明確な答えの無い問題に自分なりに取り組んだ 一年間の総合学習は充実していたと思
う。
そして、それ以上にもう一つ得られたものがある。
調べ学習を進めていると、ぶち当たる壁がいくつもあった。例えば、難解な数学的な証
明を理解する必要があったり、全く関係のないような学問を融合しないと説 明できなかっ
たりしたことだ。その度に私は、もっと数学を理解する力があれば、異なるデータを綺麗
にまとめる力があれば、と悔やんだのだ。また、研修旅行で東京農工大学と東京海洋大学
を訪ねた際は、そのスケールの大きな話に圧倒された。
正直、私は文系に進む気でいたので、ゼミ選択も生き物が好きだからという単純な理由
で決定したに過ぎず、そこまで本腰を入れるつもりはなかったのだが、今回の総合学習を
通して文系理系に縛られすぎるのは良くないと考えを改めた。
今回、生物ゼミに所属しながら、人間科学の要素が多くなってしまったが、様 々な視点
で考察できたので結果的には良かったと言えよう。答えを断言しにくいテーマであるが故
に発想を膨らませることができる。さらに他の分野からみてみると、また違った面白い結
論が得られるであろう。
第4章
参考文献・参考HP
<参考文献>
・藤田紘太郎
著
『共生の意味論―バイキンを駆逐してヒトは生きられるか?』
講談社
1997年
<参考HP>
・Wikipedia『共生』『囚人のジレンマ』『自然選択説』『利他的行動』
ja.wikipedia.org/
・ライブドアニュース
news.livedoor.com
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