社会の認識 「社会科学的発想・法」 第10回 2009年12月09日 今日の資料=A4・5枚 期末試験:2月3日(水)N2教室 X. 成績評価について(補) 期末試験 N2教室 (←先週の配付資料の記載は誤記!) 中間試験/小テスト (期末試験と異なり)持ち込みは不許可 範囲は今日の内容まで 全体の出来具合により期末試験の内容を調整 まぁお気楽に 2 5. 取引と契約法 5.1 契約法はなぜ必要か 契約法=政府による制裁の予告により、信頼でき るコミットメントを提供 →契約法=政府による制裁の予告以外の形で信 頼できるコミットメントを確保できれば、契約法は 不要 3 (例)“チキンゲーム”の必勝法(笑) 正面衝突するようなコースで2台の車を互いの 車に向かって走らせる →先にハンドルを切ったほうが負け ∵臆病者(=“チキン”) ハンドルを取り外して車の外に放り出してしま え 4 =「ハンドルを切らない」ということにコミットする 携帯で「オレはハンドルを切らないぞ」と言うだけ ではダメ ∵相手から見れば本当にそうするか分からない=「信頼 できる」コミットメントではない 「放り出す」=相手から分かる 相手から分からなければ無意味 →相手としてはハンドルを切るしかない 5 チキンゲーム X、Yの 利得 Y ハンドルを切る 直進 ハンドル を切る 0 0 -1 +1 直進 +1 -1 -5 -5 X 6 〈人質〉の価値 相手Xから〈人質〉甲をとる →もしXが協力的行動をとらなかったら、Yとして は甲を“処分”する →甲を失いたくないXは、協力的行動をとるだろう でも、Yは「Xによる協力的行動」よりも甲を欲 してしまうかも よい〈人質〉:Yにとっては価値は低い(とXは知っ ている)が、Xにとっては価値が高い(とYは知って いる) 7 〈人質〉の例 メーカーが下請け部品業者に、製造機械を貸 し出す もし下請けがちゃんと部品を納品しなかったら、機 械を引き上げる 日本の従来型雇用慣行における、年功序列 型賃金・退職金 〈人質〉をとりあう 8 この囚人のジレンマゲームを繰り返す Y X、Yの 利得 X 履行する 〈協力〉 しない 〈裏切る〉 履行する 〈協力〉 6 6 0 10 しない 〈裏切る〉 10 0 3 3 9 有限回繰り返しゲーム 最終回: 各当事者にとって、〈裏切る〉が支配戦略 支配戦略・優越戦略dominant strategy ∴いずれの当事者も履行しない →最終回1回前 「どうせ次の回、相手は〈裏切る〉んだし」 →各当事者にとって、〈裏切り〉が支配戦略 ∴いずれの当事者も履行しない 10 … →初回 各当事者にとって、〈裏切る〉が支配戦略 ∴いずれの当事者も裏切る 結局、最初からいずれの当事者も〈協力〉しな い ※後ろ向き推論backward induction 11 無限繰り返しゲーム ゲームを無限に繰り返すとすると、〈協力〉行 動が誘発される、ことがある e.g., 初回は〈協力〉、2回目以降は前回の相手の行動を繰り 返す e.g., 《しっぺ返しtit-for-tat》戦略 《トリガー》戦略 初回は〈協力〉、一度でも相手が裏切ったら次回以降 自分もずっと〈裏切る〉 12 第1回(〈協力〉、〈協力〉)、第2回(〈協力〉、 〈協力〉)、… 6+6+6+…+6+6+…=∞!? 第1回( 〈裏切る〉 、 〈裏切る〉 )、第2回( 〈裏 切る〉 、 〈裏切る〉 )、… 3+3+3+…+3+3+…=∞!? そこで: 13 将来価値の現在価値への割り戻し 現在の手持ちのお金m0 →将来はどうなる? →年利(100r)%の複利で運用 →1年後には m1 = m・(1+r) →2年後には m2 = m・(1+r)2 →…n年後には mn = m・(1+r)n 14 逆に: 1年後に得られるm1の現在の価値m0は m0 = m1/(1+r) 2年後に得られるm2の現在の価値m0は m0 = m2/(1+r)2 …n年後に得られるmnの現在の価値m0は m0 = mn/(1+r)n 15 (参考)中間利息の控除 将来の逸失利益等の損害賠償はこのやり方で割 り引く 年5% 民法404条 16 毎年mの収入( m1= m2=…=mn=…=m)が無限に 続く場合の現在価値Mは、δ=1/(1+r)として = m + m・δ + m・δ2 +…+ m・δn +… = m/(1-δ) M 17 《しっぺ返し》戦略同士の対戦 初回は双方〈協力〉、利得は各6 第2回戦は双方〈協力〉、利得は各6 …これがずっと続くとすると、その現在価値は 6/(1-δ)…① 《トリガー》戦略同士の対戦も同様 18 X:《しっぺ返し》、Y:何か Y:《〈協力〉-〈協力〉》 X:〈協力〉-〈協力〉(-〈協力〉) XもYも6+6δ+…+6 δn +…=6/(1-δ)の利得 19 Y:《〈裏切り〉-〈裏切り〉》 X:〈協力〉-〈裏切り〉(-〈裏切り〉) Yの利得:10+3δ+3 δ2 +…+3 δn +…=10+3δ/(1- δ)…② ①>②ならばYも《しっぺ返し》のほうがいい ⇔δ>4/7ならばそうなる 20 Y:《〈裏切り〉-〈協力〉》 X:〈協力〉-〈裏切り〉(-〈協力〉) Yの利得:10+0・δ+10 δ2 +0 ・δ3 + 10δ4 +…+0 ・δn +10 ・δn+1 +…=10/ (1- δ2)…③ ①>③ならばYも《しっぺ返し》のほうがいい ⇔δ>2/3でそうなる 21 Y:《〈協力〉-〈裏切り〉》 X:〈協力〉-〈協力〉(-〈裏切り〉) +10δ3 +0・δ4 +…+0 ・δn +10δn+1 +…=6+10δ/ (1- δ2)…④ ①>④ならばYも《しっぺ返し》のほうがいい Yの利得:6+10δ+0・δ2 ⇔δ>2/3でそうなる 22 X:《トリガー》、Y:何か Yがどこかで〈裏切る〉 例えば、初回で X:〈協力〉-〈裏切る〉(-〈裏切る〉)… Yの利得:10+3δ+3 δ2 +…+3 δn +…=10+3δ/(1- δ)…⑤ ①>⑤ならばYは《トリガー》のほうがいい ⇔ δ>4/7でそうなる 23 双方が《しっぺ返し》戦略(or《トリガー》戦略)を プレイするのは、無限繰り返し囚人のジレンマ ゲームのナッシュ均衡になる =XもYも〈協力〉することが続く δが十分に大きければ ※δの具体的な数字は利得によって違ってくるが 24 割引因子δ(s.t. 0<δ<1)の解釈 大きいほうが、将来の価値を高く見積もる “我慢強い” 小さいほうが、将来の価値を低く見積もる “刹那的” 実際には無限回続かずどこかで終わる が、いつ終わるかは決まっていない Orプレイヤーは知らない 場合の、ゲームが続く確率 25 相手の十分に大きなδ+自分側の報復の可 能性→信憑性のある威嚇credible thread プレイヤーはプレイの経過・歴史を覚えている 完全に覚えておく必要はないが →エゴイスト同士の〈協力〉関係 契約法がなかったとしても! 26 〈協力〉関係を作り出す (〈協力〉、〈協力〉)の利得↑、(〈裏切る〉、〈裏 切る〉)の利得↓ →必要なδのハードルが下がる (次も同じ相手とプレイする確率としての)δを 上げる 長い〈付き合い〉 〈付き合い〉を頻繁にする 〈付き合い〉を分割する 第三者を近づけない 27 《評判》の意味 ここまでの前提:特定のXと特定のY 「Xは(相手が〈裏切〉らない限り)〈協力〉行動 をとるプレイヤーだ」と知られている 知っている人:Y1、Y2、…、 Yn、… Yn:「Y1、Y2、…、 Yn-1とXとのプレイの歴史」 =《評判》→「自分が〈協力〉すればXも〈協力〉 するだろう」と《信頼》可能 28 Xから見てYnが本当に〈協力〉するかは不明 ∴他の手段でYnの〈協力〉を確保する必要 e.g., Ynに先に行動を選ばせる Ynが〈協力〉行動をとったら、Xも〈協力〉行動をと る ここでXが〈裏切る〉と、Xの《評判に傷が付く》から、Xも 〈協力〉する 29 法制度によるサポート 《信頼》の源泉としての、プレイの歴史 前提としての、プレイヤーの識別 相手がXだと思って実はWだった!? 30 →識別のための制度 氏名、戸籍、身分証明書etc. 商法上の商号の保護 商法12条1項 (他の商人と誤認させる名称等の使用の禁止) 何人も、不正の目的をもって、他の商人であると誤認さ れるおそれのある名称又は商号を使用してはならない。 31 不正競争防止法 e.g., 商品等主体混同行為の規制(2条1項1号) 著名表示の不正使用行為の規制(2条1項2号) 商標法上の登録商標制度 32
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