研究課題名:切除不能胆道がんに対する治療法の確立に関する研究 課

研究課題名:切除不能胆道がんに対する治療法の確立に関する研究 課 題 番 号:H22-がん臨床-一般-013 研究代表者:国立がん研究センター中央病院肝胆膵内科長 奥坂 拓志 1. 本年度の研究成果 本研究の主目的は切除不能胆道がんの予後の改善を目指し、S-1 を用いた化学療法の有用
性を、ゲムシタビンを用いた化学療法とのランダム化比較試験にておいて検証することで
ある。 (1)最初に S-1 単独療法と S-1 とゲムシタビンの併用療法(GS 療法)とのランダム化第
II 相試験(JCOG0805)を実施し、より有用性が期待できるレジメンを慎重に選択すること
とした。その結果、主要評価項目である 1 年生存割合において GS 療法(52.9%)の方が S-1
単独療法(40%)よりも良好な成績であり、この結果は本年度 ASCO(Ueno M. et al. J Clin Oncol 30, 2012, ポスターディスカッション)にて報告した。 (2)この結果を受けて生存期間を主要評価項目として、標準治療であるゲムシタビンとシ
スプラチンの併用療法(GC 療法)と今回のランダム化第 II 相試験により選択された試験治
療(GS 療法)とを比較する第 III 相試験の研究計画書作成に着手した。現在 JCOG プロトコ
ール審査委員会にて審査中である。 (3)本研究班での付随研究 1)WT1 タンパクは胆道がんを含め多くのがんで過剰発現しており、切除不能胆道がんに
おける WT1 ペプチドワクチンによる生存期間延長の可能性を探索することを目的として、
GC 療法と GC+ WT1 ペプチドワクチン併用化学免疫療法とを比較する第Ⅰ/Ⅱ相試験を進めて
いる。 2)切除不能胆道がんに対してゲムシタビン+シスプラチン+S-1 の 3 剤併用療法の第 I 相
試験を進めている。 3)我が国で実施された GC 療法とゲムシタビン単独療法のランダム化第 II 相試験の長期
予後を調査し、GC 療法の効果修飾因子を明らかにした(Mizuno M. et al. 論文作成中)。 4)英国のグループと共同して GC 療法とゲムシタビン単独療法との英国・日本の 2 つの
ランダム化比較試験の統合解析を実施し、GC 療法の有用性と人種差との関連について解析
を進めている。 2. 前年度までの研究成果 (1)
「S-1 単独療法と S-1 とゲムシタビンの併用療法とのランダム化第Ⅱ相試験」につい
ては 2009 年 2 月より登録を開始。登録期間 2 年を予定したが、2010 年 4 月に登録を終了し、
その後の追跡を実施した。 (2)WT1 ペプチドワクチンについては、切除不能胆道がん・切除不能膵がんを対象とし
てゲムシタビン+WT1ペプチドワクチン併用化学免疫療法の第 I 相試験を実施した。その後、
胆道がんの標準治療が GC 療法に変わったため、切除不能胆道がんを対象として、GC 療法と
GC+ WT1 ペプチドワクチン併用化学免疫療法の第Ⅰ/Ⅱ相試験を計画。第Ⅰ相パートにおい
て推奨投与量を決定した。 (3)「ゲムシタビン耐性胆道がんに対する S-1 の第Ⅱ相試験」の最終解析を実施し、奏
効率 7.5%(3/40)、無増悪生存期間中央値 2.5 月、生存期間中央値 7.3 月と報告した。 3. 研究成果の意義及び今後の発展性 切除不能胆道がんに対してゲムシタビン単独療法は事実上の標準治療法として位置づけ
られていたが、最近ゲムシタビン単独療法と GC 療法との比較試験の結果が明らかとなり、
GC 療法が標準治療と位置づけられた。一方、S-1 は本邦で開発された新しい抗がん剤であ
り、切除不能胆道がんに対しても第 II 相試験において良好な成績が示されたことから新た
な標準治療薬として寄与することが期待されている。本研究では、最初に S-1 単独療法と
GS 療法とのランダム化第 II 相試験を実施し、1 年生存割合が良好であった GS 療法が有望
なレジメンとして選択されることとなった。標準治療である GC 併用療法と今回選択された
試験治療である GS 療法の第 III 相試験をひき続いて実施し、切除不能胆道がんに対する標
準治療法を確立する。 WT1 タンパクはさまざまな固形がんにおいても過剰発現が認められ、免疫療法の標的とし
て期待されており、WT1 ペプチドワクチンの開発が進められている。胆道がんにおいても約
8 割の例で過剰発現が報告されており、本疾患における WT1 ペプチドワクチン有用性を明ら
かにすることは重要と考えられる。 胆道がんは我が国のがん死亡数の第 6 位をしめている。50%以上の患者が初診時には
すでに切除不能であり、切除可能例もその多くは早期に再発することが知られている。よ
り有効な非切除療法が開発されれば、多くの患者に利益をもたらすことができ、国民の福
祉に大きく貢献すると期待される。 4. 倫理面への配慮 適切な症例選択基準、治療中止基準を設け、個々の症例の安全性を確保し、試験参加に
よる不利益を最小限にした。さらに、「臨床研究に関する倫理指針」およびヘルシンキ宣言
等に従い、研究実施計画書の施設内倫理審査委員会の承認の得られた施設のみ症例登録を
可能とした。患者には説明文書を用いて十分な説明を行い、患者自身による同意を本人よ
り文書で取得した。データの取り扱いに関して、直接個人を識別できる情報を用いず、デ
ータベースのセキュリティを確保し、個人情報の保護を遵守した。 5. 発表論文 1) Furuse J, Ishii H, Okusaka T. The Hepatobiliary and Pancreatic Oncology (HBPO)
Group of the Japan Clinical Oncology Group (JCOG): History and Future Direction.
Jpn J Clin Oncol. In press.
2) Okusaka T, Ueno M, Sato T, Heike Y. Possibility of immunotherapy for biliary
tract cancer: how do we prove efficacy? Introduction to a current ongoing phase I
and randomized phase II study to evaluate the efficacy and safety of adding Wilms
tumor 1 peptide vaccine to gemcitabine and cisplatin for the treatment of advanced
biliary tract cancer (WT-BT trial). J Hepatobiliary Pancreat Sci. 19:314-8, 2012.
3) Kaida M, Morita-Hoshi Y, Soeda A, Wakeda T, Yamaki Y, Kojima Y, Ueno H,
Kondo S, Morizane C, Ikeda M, Okusaka T, Takaue Y, Heike Y. Phase 1 trial of
Wilms tumor 1 (WT1) peptide vaccine and gemcitabine combination therapy in
patients with advanced pancreatic or biliary tract cancer. J Immunother. 34:92-9,
2011.
4) Furuse J, Okusaka T, Bridgewater J, Taketsuna M, Wasan H, Koshiji M, Valle J.
Lessons from the comparison of two randomized clinical trials using gemcitabine
and cisplatin for advanced biliary tract cancer. Crit Rev Oncol Hematol 80:31-9,
2011.
5) Soeda A, Morita-Hoshi Y, Kaida M, Wakeda T, Yamaki Y, Kojima Y, Ueno H,
Kondo S, Morizane C, Ikeda M, Okusaka T, Heike Y. Long-term administration of
Wilms tumor-1 peptide vaccine in combination with gemcitabine causes severe
local skin inflammation at injection sites. Jpn J Clin Oncol 40:1184-8, 2010
6) Takashima A, Morizane C, Ishii H, Nakamura K, Fukuda H, Okusaka T, Furuse J.
Randomized phase II study of gemcitabine plus S-1 combination therapy vs. S-1 in
advanced biliary tract cancer: Japan Clinical Oncology Group Study (JCOG0805).
Jpn J Clin Oncol 40:1189-91, 2010.
7) Okusaka T, Nakachi K, Fukutomi A, Mizuno N, Ohkawa S, Funakoshi A, Nagino
M, Kondo S, Nagaoka S, Funai J, Koshiji M, Nambu Y, Furuse J, Miyazaki M,
Nimura Y. Gemcitabine alone or in combination with cisplatin in patients with
biliary tract cancer: a comparative multicentre study in Japan. Br J Cancer
103:469-74, 2010.
6. 研究組織 ①研究者名 ②分担する研究項目 ③所属研究機関及
④所属研究
び現在の専門 機関におけ
(研究実施場所) る職名 奥坂拓志 切除不能胆道がんに対する治療法 国 立 が ん 研 究 セ ン 肝 胆 膵 内 科
の確立に関する研究(総括) タ ー 中 央 病 院 肝 胆 長 膵内科 宮川宏之 切除不能胆道がんに対する新規抗 札 幌 厚 生 病 院 第 二 第 二 消 化 器
がん剤を含んだ治療法の検討 消化器科 科主任部長 菱沼正一 切除不能胆道がんに対する新規抗がん 栃 木 県 立 が ん セ ン 副病院長 剤を含んだ治療法の検討 ター 消化器外科 佐田尚宏 切除不能胆道がんに対する新規抗がん 自治医科大学 剤を含んだ治療法の検討 消化器・一般外科 山口研成 切除不能胆道がんに対する新規抗がん 埼 玉 県 立 が ん セ ン 副部長 剤を含んだ治療法の検討 ター 消化器内科 山口武人 切除不能胆道がんに対する新規抗がん 千 葉 県 が ん セ ン タ 診療部長 剤を含んだ治療法の検討 ー 池田公史 切除不能胆道がんに対する新規抗がん 国 立 が ん 研 究 セ ン 肝 胆 膵 内 科
剤を含んだ治療法の検討 タ ー 東 病 院 肝 胆 科長 膵内科 石井 浩 切除不能胆道がんに対する新規抗がん が ん 研 究 会 有 明 病 消 化 器 内 科
剤を含んだ治療法の検討 院 ペプチドワ
クチン担当
副部長 古瀬純司 切除不能胆道がんに対する新規抗がん 杏林大学医学部 剤を含んだ治療法の検討 内科学腫瘍内科 大川伸一 切除不能胆道がんに対する新規抗がん 神 奈 川 県 病 院 機 構 消化器内科 剤を含んだ治療法の検討 神 奈 川 立 が ん セ ン 部長 ター消化器内科 田中克明 切除不能胆道がんに対する新規抗がん 横 浜 市 立 大 学 附 属 教授 剤を含んだ治療法の検討 市民総合医療セン
ター 福冨 晃 切除不能胆道がんに対する新規抗がん 静 岡 県 立 静 岡 が ん 消 化 器 内 科
剤を含んだ治療法の検討 セ ン タ ー 消 化 器 医長 内科 教授 教授 山雄健次 切除不能胆道がんに対する新規抗がん 愛 知 県 が ん セ ン タ 部長 剤を含んだ治療法の検討 ー中央病院 消化器内科部 中森正二 切除不能胆道がんに対する新規抗がん 国 立 病 院 機 構 大 阪 統 括 診 療 部
剤を含んだ治療法の検討 医療センター 長 片山和宏 切除不能胆道がんに対する新規抗がん 大 阪 府 立 成 人 病 セ 肝 胆 膵 内 科
剤を含んだ治療法の検討 ンター 主任部長 井口東郎 切除不能胆道がんに対する新規抗がん 国 立 病 院 機 構 四 国 臨 床 研 究 セ
剤を含んだ治療法の検討 が ん セ ン タ ー 臨 床 ンター長 研究センター腫瘍
内科(消化器内科) 杉本理恵 切除不能胆道がんに対する新規抗がん 九 州 が ん セ ン タ ー 医長 剤を含んだ治療法の検討 消化器肝胆膵内科
(肝臓専門) 伊藤鉄英 切除不能胆道がんに対する新規抗がん 九 州 大 学 大 学 院 医 准教授 剤を含んだ治療法の検討 学研究院病態制御
内科