さらなる個別化医療用医薬品の開発に向けて

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2015年9月号 No.169
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さらなる個別化医療用医薬品の開発に向けて
医薬品評価委員会データサイエンス部会
土綿 慎一(推進委員)、山本 英晴(推進委員)、天野 靖浩、杉原 匡周、谷口 隆司、松本 喜彦、吉田 祐樹、淀 康秀
本稿では、これまでに開発された個別化医療に対応した医薬品(個別化医療用医薬品)
に対する調査結果に基づき、タ
スクフォースからの提言を示します。
はじめに
生活習慣病のような患者数が多い疾患領域をターゲットとし、大型新薬(ブロックバスター)を創出する従来の医薬品開発
ビジネスモデルはすでに終焉を迎えつつあります[1]。その背景には、大型新薬が標的とする疾患関連因子が枯渇傾向に
あること、生活習慣病などの治療薬がすでに高い満足度を得ていること、そのために新薬として承認されるハードルが高く
なっていることが考えられます。そこで、従来の患者数が多い疾患を対象とした医薬品の開発から個々人の体質や病態に合
わせた薬剤治療への開発目標の転換と、自社研究所での手探りのシーズの探索から、大学やベンチャー企業をも積極的に
利用した理論に基づいた合理的な創薬への転換が計られています[2]。
近年、有効性、安全性、費用対効果の面からオーダーメイド医療、個別化医療の重要性が医療イノベーション会議など、
さまざまなところで話題となっています。その関心度の高さは、アメリカのオバマ大統領が2015年1月20日の一般教書演説
で“Precision Medicine Initiative”という政策を掲げたことからもうかがえます[3]。個別化医療の目的は、個々の患者に対
する治療効果の最大化と副作用の最小化です。従来の医療では、薬剤の投与後に反応を確認しながら試行錯誤的に個々の
患者に対する治療の最適化をしてきました。しかし、昨今の科学技術の発展により、一部の疾患では特定の治療が有効か
否かをあらかじめ判定することができ得る時代になりつつあります。そのような状況下で製薬企業は遺伝的特性や環境要
因、疾患の状態など、どのような患者に、より効果が高く、安全なのかという情報も含めて医薬品(以下、個別化医療用医
薬品)を開発することで、社会のニーズに対応していく必要があります。
個別化医療用医薬品の開発
個別化医療用医薬品とは表1のような情報に基づき
「適切な患者に、適切なくすりを、適切な用量かつ適切なタイミング
で投与できる医薬品」
と説明されます。通常の医薬品との違いは、そのような個別化を行うための情報が得られているか否
かだけであり、すべての医薬品はそのような情報を得ることで個別化医療用医薬品になり得ます。
[1]創薬におけるオープンイノベーション ー外部連携による研究資源の活用ー 、財団法人ヒューマンサイエンス振興財団(http://www.jhsf.or.jp/paper/report/
report_no78.pdf)
[2] バ イオ 医 薬 品 関 連 政 策 の 視 点 ー 我 が 国 に お ける 創 薬 事 業 の 発 展 に 向 け て ー、 経 済 産 業 省 生 物 化 学 産 業 課(http://www.mhlw.go.jp/stf/
shingi/2r98520000032ord-att/2r98520000032owe_1.pdf)
[3]The Precision Medicine Initiative(https://www.whitehouse.gov/precision-medicine)
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さらなる個 別 化 医 療 用 医 薬 品 の 開 発 に 向 けて
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表1 個別化に用いられる情報
情報
対象
DNA(生殖細胞変異)
SNP、コピー数変異、融合遺伝子、
DNA(体細胞変異)
遺伝子増幅、挿入/欠失/逆位/転座
事例
UGT1A1(イリノテカン)
CYP2C9(ワルファリン)
融合遺伝子
EML4-ALK
(クリゾチニブ、
アレクチニブ)
BRAF(ベムラフェニブ)
KRAS(セツキシマブ、パニツムマブ)
RNA
タンパク質
代謝産物
エピゲノム
mRNA、miRNA、lincRNA、
スプライスバリアント
膜タンパク質
血漿タンパク質
核内タンパク質
代謝産物プロファイル
メチル化、転写因子、
クロマチン
−
CCR4(モガムリズマブ)
HER2(トラスツズマブ)
CD20(リツキシマブ)
−
DNMT(アザシチジン)
HDAC(ボリノスタット)
個別化医療用医薬品を開発するためには、開発段階で個別化するための情報の有用性を示さなければなりません。この
ことが個別化医療用医薬品ではない通常の医薬品の開発と異なる点です。具体的には、何らかの個別化のための情報(予
測因子等)を取得し、それを考慮したうえで薬剤の有効性および安全性を確認しなければなりません。個別化医療用医薬品
の開発は、個別化のための予測因子が開発段階ですでにわかっているケース(オンターゲット由来)
と、開発開始時点では
意図しなかった有効性あるいは安全性への予測因子が臨床試験等の結果から見つかるケース(オフターゲット由来)に分類
できます。
オンターゲット由来の個別化医療用医薬品の例としては、抗体薬など病態固有の特性やそのメカニズムに作用するように
設計された医薬品(Designed Medicine)が挙げられます。これらの医薬品は、疾患の原因に直接、あるいは症状を発生さ
せる下流の伝達系をブロックする作用メカニズムで効果を発揮します。病態固有のターゲット
(表1のDNA、タンパク質、エ
ピゲノム等)を認識する薬剤であるため、従来薬よりも選択性が高く、それらをもつ患者ではより確実にベネフィット
(標的
と薬物との作用メカニズムに裏付けされた高い効果あるいは標的外への反応を抑えることによる副作用軽減、またはその
両方)が期待できます。オンターゲット由来の医薬品開発には2つの注意点があります。1つは、薬剤の標的となっている病
態固有の因子が個別化のため有用な情報であることが既知であったとしても、それを精度よく測定する技術が確立していな
い場合には、検証的な臨床試験の開始前までにその検査法を準備しておかなければならないことです。もう1つは、個別
化のための予測因子が定量値、あるいは複数の因子の組み合わせにより決まる場合、その適切な閾値(治療の対象集団と
対象外集団の適切な切り分けのための基準)を設定しなければならないことです。
オフターゲット由来の個別化医療用医薬品は、臨床開発の開始後に見出された効果、あるいは副作用の予測因子に基づ
き、投薬の可否あるいは投薬レジメンを変更する医薬品です。当初未知であった当該疾患の病態あるいはメカニズムが既
知になることで見出される場合や、メカニズムとの関連性が不明であったが臨床経験のデータから有効性あるいは安全性
への予測因子が導き出される場合はこのタイプの薬剤に該当します。オンターゲット由来の個別化医療用医薬品であっても
臨床的に影響を与える新たな因子が開発中に見つかるケースもこちらに該当します。オフターゲット由来の個別化医療用医
薬品では、効果あるいは副作用の予測因子が当初未知であるため、対象となる疾患の集団をそれらの予測因子で絞るよう
なことはせず、全体集団(All comer)を対象に開発がスタートします。そのため、バイオバンキングなどレトロスペクティブ
な情報収集の手段を用意しておくことで、開発後期に見出された個別化のための情報について、過去に全体集団を対象に
実施された臨床試験についても調査することが可能となり、ターゲット外の集団の有効性および安全性も検討することが可
能となります[3]。オフターゲット由来の個別化医療用医薬品を開発する際の最大の課題は、効果あるいは副作用の予測
因子となり得る候補を見出すことが容易でないことです。この理由としては、莫大な数の遺伝子やバイオマーカーを探索的
に測定・調査しなければならないこと、生物学的な観点から遺伝子ごとの応答への交絡や遺伝子以外の複数の要因による
応答への影響、測定の感度の観点からのノイズ、そして統計的な観点から多重性等の問題が挙げられます。
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オンターゲット由来の個別化医療用医薬品の開発における課題
これまでに国内で承認された個別化医療用医薬品の開発過程を表2にまとめます。
表2 国内で承認された個別化医療用医薬品の開発経緯
薬剤
オンターゲット
セツキシマブ
(アービタックス)
効能・効果
ベムラフェニブ
(ゼルボラフ)
遺伝子変異を有す
BRAF
る根治切除不能な悪性黒
色腫
海外:第1相用量漸増試験はall comer、dose 臨床試験開始前にRoche Diagnostics社によるcobas®
expansionは 遺伝子変異を有する悪性
4800 BRAF V600 Mutation Testをコンパニオン診断薬
BRAF
黒色腫患者を対象として実施。
として開発を開始し、
第2相試験からはこの診断薬を使用し
国内:実施された試験はEnrichment Designの て試験を実施。
なお、
第1相試験ではPCR assay (TaqMan,
み
(2011年承認)
Applied Biosystems)を使用。
モガムリズマブ
(ポテリジオ)
CCR4陽性の成人T細胞白
血病リンパ腫
再発又は難治性のCCR4陽
性の末梢性T細胞リンパ腫
再発又は難治性のCCR4陽
性の皮膚T細胞性リンパ腫
海外:PTCL/CTCLを対象とした第1相試験を 国内第1相試験終了後の機構相談において、有効性・安全
all comerで実施。その後、ATL(all comer)、 性とCCR4の発現との相関を検討する上で、CCR4の検査
PTCL(enrichment)、CTCL(all comer)をそれ 方法を確立することを検討するよう機構より見解を得、子会
社である協和メデックス
(株)
にてCCR4検出キットの開発
ぞれ対象とした治験を実施している。
国内:実施された試験はEnrichment Designの を開始、
同時承認を取得した。
み
(2012年承認)
アレクチニブ
(アレセンサ)
ALK 融合遺伝子陽性の切 第1/2相試験はクリゾチニブ不応となったALK 試験開始時点では ALK 融合遺伝子陽性肺癌の診断を用
除不能な進行行再発の非 陽性でEnrichしたデザインを採用。
第1相パー いることができる体外診断用医薬品は存在していなかった
小細胞肺癌
トでは国内の推奨用量の300mg、
1日2回を初 ため、現在のがん研究会がん研究所で開発されたFISH
回用量として用量を漸増し、
600mg、1日2回が 法、高感度IHC法及び(株)エスアールエルのMultiplex
推奨用量となり、
第2相パートを実施。
RT-PCR 法を用いて実施。その後、FISH 法に基づく
実施された試験はEnrichment Designのみ。
国 「Vysis® ALK Break Apart FISHブローブキット」
が体外
内の臨床開発が海外よりも先行して行われた。 診断用医薬品として国内承認されたことから、
これとがん研
(2014年承認)
究所のFISH法の検査性能が同等であることを確認してい
た。
IHC法については(株)ニチレイバイオサイエンスが体
外診断用医薬品承認申請を行った。
EGFR 陽性の治癒切除不
能な進行・再発の結腸・直
腸癌
個別化医療用医薬品としての開発経緯
単独療法、併用療法ともに第1相から第3相試
験まで海外で実施。
日本で実施し評価資料と
なった試験は第1相(PK)
と第2相(併用療法)
の2試験で、
ともにEnrichment Design
(2008
年承認)
検査薬開発経緯
2007年6月には薬剤の承認に先立って保険償還されてい
たが、
EGFRの検査は地域、病院、主治医ごとにばらばらに
行われていた。
しかし、
長時間ホルマリンに固定・浸漬して
いた検体ではDNA断片化のために検出できなくなるなど
の問題が知られることとなり、
2009年3月に日本肺癌学会
から
「肺癌患者におけるEGFR遺伝子変異検査の手引き」
及び
「肺癌患者におけるEGFR遺伝子変異検査の解説」
が
発行された。
オフターゲット
遺伝子野生型の治
評価資料の3つの第3相試験は海外で実施
(う 検査会社間での 遺伝子変異の測定方法や検体の取
KRAS
パニツムマブ
KRAS
日本臨床腫瘍学
(ベクティビックス) 癒切除不能な進行・再発の ち1つに日本も参加)。単剤療法の後に実施さ り扱いの基準を定めることを目的として、
結腸・直腸癌
れた併用療法の2試験では、単剤療法の試験 会から2008年11月に
「大腸がん患者における 遺伝
KRAS
の事後解析の結果から 野生型に良く効
子変異の測定に関するガイダンス第1版」
が発行され、
これ
KRAS
くことが示唆され、
EMEA/FDAと協議の結果、 を受けて、2009年2月に第2項先進医療(先進医療A)
として
海外第3相試験
(1st line)
では試験実施中に 承認、
2010年4月に保険償還された。
KRAS 野生型を考慮するデザインに変更(目
標症例数も900例から1150例に増加)
、
国際共
同第3相試験(2nd line)
では登録完了後に解
析計画を変更している。
(2010年承認)
クリゾチニブ
(ザーコリ)
ALK 融合遺伝子陽性の切 2006年第1相試験開始。2007年EML4-ALK
除不能な進行・再発の非小 融合遺伝子がNSCLCのドライバー変異である
細胞肺癌
ことが発見される。
以降の臨床試験はEnrichment Designを採用。
第1相から第3相まで国際共同試験。
2011年3
月に日米同時申請、
8月に米国迅速承認、2012
年3月に国内承認
Abbott Molecular社と共同で ALK 融合遺伝子診断の検
査キットを開発。
体外診断用医薬品として世界規模で開発・
製品化を進め、
クリゾチニブの第2相 及び第3相試験で投
与対象患者の選択に使用された。国内では2012年2月に
ALK 阻害剤(クリゾチニブ)の投薬患者を選択することを
目的とした体外診断用医薬品として承認された。
非小細胞
肺癌において既に報告のある 、
、
を含む
EML4 TFG
KIF5B
ALK 融合遺伝子のみならず、未報告の ALK 融合遺伝子
の検出も可能。
オンターゲット由来の個別化医療用医薬品では、国内開発の初期から対象集団を予測因子で限定(Enrich)
してしまう傾向
が見られました。一方、オフターゲット由来の個別化医療用医薬品においても、予測因子が明らかとなった後はEnrichして
開発されています。また、ターゲットの判断基準となるその因子の閾値について、開発段階で詳細に検討している事例は確
認されませんでした。このため、オンターゲット・オフターゲットのいずれの場合もターゲット外の症例における有効性およ
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び安全性の情報が十分に得られていないと考えられます。また、Enrichされた集団では有効性が検証されているものの、試
験対象集団より幅広い集団で有益であるかどうかの検討は十分にできていない可能性も考えられました。もしも治療対象集
団が最適な対象集団よりも狭く設定されてしまっていた場合には、その対象から外れた患者や製薬企業において、その損失
は少なくないと考えます。
近年、規制当局は予測因子(疾患関連遺伝子やバイオマーカー等)が明示的であるオンターゲット由来の個別化医療用医
薬品の開発においても、ターゲット外の症例(この場合、疾患関連遺伝子陰性例あるいはバイオマーカー陰性例)における
有効性および安全性の確認を求めています。治療対象の適正化の取り組みは急務です[4]。
多くの個別化医療用医薬品では定量的な予測因子と有効性・安全性の間には何らかの相関関係があると考えられ、その場
合、予測因子が高値(あるいは、低値)
である集団で、より大きなベネフィットあるいはリスクの軽減が期待できます。また、
これに該当しない症例ではベネフィットが相対的に低い、あるいは高リスクであることも想定されます。このような理由から
現状では、ターゲット外の症例の臨床試験への組み入れは慎重になっていると考えられます。しかし、臨床試験で評価する
対象患者を限定しすぎると予測因子の妥当性を正しく評価することは困難となります。このような対象患者の設定を行うこと
は、一部の陰性患者の治療機会を失くしているかもしれないということも認識しなければなりません。オンターゲット、オフ
ターゲットのどちらであっても早々にEnrichするのではなく、なるべく広い範囲の患者を組み入れて、因子とベネフィットの
関連を十分に検討した上で最終的に最適な治療対象集団を定めるという開発戦略に転換すべきであると考えます。
ターゲットを見出すための課題
現在市販されている個別化医療用医薬品は、オンターゲット由来のものが多く、オフターゲット由来の個別化医療用医薬
品は稀です。この理由として、オフターゲット由来の場合は予測因子を見出すことが困難であることは先に述べましたが、さ
らにそうした臨床的に有益な情報を見出すための技術(図1)がいまだ十分に普及していないことも原因の1つと考えられま
す。
レトロスペクティブな解析により予測因子の探索および評価をするためには、既存の臨床試験の保存試料は重要な情報源
になりますが、保存試料が劣化あるいは消耗してしまった場合には一般に再生することは不可能です。そのため、臨床試験
で得られるバイオマーカー検討に用いる試料については、適切な維持管理を行うことを事前に規定しておく必要があります。
また、レトロスペクティブな解析から抽出した予測因子の候補を検証するためには、別途、プロスペクティブに臨床試験を
実施する必要があります。しかし、新たな臨床試験を実施することは、費用の問題に加え、効果が低い、あるいはリスクが
高いと考えられる対照群の設定が難しいという倫理的な問題が生じる可能性も出てきます。また企業が自ら対象患者を限定
するようなアクションを選択しにくいという点も、オフターゲット薬の予測因子の検討が進まない要因の1つになっているの
かもしれません。
[4]コンパニオン診断薬等及び関連する医薬品の承認申請に係る留意事項 質疑応答集(Q&A)
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図1 今後この分野で活用が期待される技術
バイオバンキング
次世代シーケンサー
ゲノムワイド関連分析
(GWAS)
ヒト生体サンプル(血液、病理組織
等)を将来的な研究のために管理・
保管する手法。
DNAを高速かつ安価に測定する手
法。DNAとタンパク質の相互作用や
DNA塩基の修飾の検出などへの活
用も。
ゲノムに含まれる遺伝子多型から
疾患へのかかりやすさ、薬剤の効き
やすさなどと関係する遺伝子を探
索的に解析する手法。
プロテオーム解析
システムズ・ファーマコロジー
DNAマイクロアレイ
組織中に存在するタンパク質を網
羅的に測定、その変化を定量的に
評価する手法。
体内のさまざまな系をモデル化し、
薬剤がどのように作用して薬理効果
が生じるかを予測、
評価する手法。
多数のDNA断片を基板上に高密度
に配置し、検体に含まれる遺伝子と
その発現量を測定する手法。
(DNAチップ)
タスクフォースからの提言
これまでの調査結果に基づき、タスクフォースより以下の提言を行います。
開発の初期段階で予測因子とその閾値を特定することにより薬剤の開発成功確率が向上することは明らかですが、現状と
しては予測因子の探索が開発段階で十分に行われているとはいえません。そこで、バイオバンキング等のレトロスペクティ
ブ研究のいっそうの拡充はもとより、オンターゲット由来で予測因子が明らかな場合は、開発の初期段階で個別化医療用医
薬品として必要な情報を取得するための臨床試験を企画すべきと考えます。その薬剤のベネフィットを最大限に享受できる
集団を早期に特定することで以下のような利点があり、薬剤の価値を最大限に高めることも可能になると考えられます。
●
不必要な患者への曝露を少なくすることで薬剤のベネフィット・リスクバランスが向上する
(誤って陽性と判定されてしまう
患者への不必要な薬剤曝露の回避、あるいは誤って陰性と判定されてしまう患者への治療機会の損失を小さくすることが
できる)。
●
対照群との治療効果の差が増大し、全体集団で試験を実施するよりも小さなサンプルサイズで試験を成功に導くことが可
能となる。
予測因子の探索が開発の初期段階で十分に行われるようになるためには、有益な治療のための予測因子を見出すための
技術(臨床試験デザインを含む)の開発やその導入の医学的意義を普及させるだけでは不十分であり、より有益な治療のた
めの予測因子を見出した医薬品に対して、その功績に見合うインセンティブが必要と考えられます。具体的には治療対象を
限定せずに承認を取得するよりも、本来望ましくない治療対象を適切に特定し除外した場合にメリットが生じる枠組みが必
要と考えられます。予測因子の測定方法が新規の手法である場合には、臨床での意思決定に必要なタイミングで検査結果
が得られるようなインフラの整備も当該薬物の承認までに必要であり、検査方法の開発が律速となり新薬の承認が遅れるよ
うなことがあってはならないことからも、できるだけ早いステージで予測因子を見出すことが重要です。 一般的にProof of
Conceptが未確認の初期のステージにある開発品はその後のステージへの移行が不確実なため、できるだけ投資を控えよう
とする傾向にあります。しかしながら、開発初期からの個別化医療のためのバイオマーカー探索およびゲノム等の情報収集
が先行投資として見合うようになれば、わが国における個別化医療はいっそうの発展を遂げると確信しております。
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