小テストNo.2

生化学Ⅱ
第2回小テスト
2015.6.23
問題 1.
i) 酵素が触媒する化学反応はミカエリスとメンテンによると以下の化学反応式に従って進む。ただし E は酵
素,S は反応の基質,ES は酵素基質複合体,P は反応の生成物である。
k1
E+S ⇄
k
-1
k2
→
ES
E+P
(k1, k-1, k2 は速度定数)
…化学反応式(A)
以下に,この反応式からミカエリス・メンテンの式を導出する過程を記しました。空欄に適当な式,値,
言葉を入れて文章を完成させて下さい。ただし,各々の分子の濃度を表すときは[ ](ブラケット)を用
いること。
a. 生成物 P が生じる速度を v とおくと,
v=
![!]
!"
=k2[ES]
…式1
と表される。また,酵素基質複合体 ES の濃度が時間に依存して変化する様子は
![!"]
!"
=
…式2
①
で表される。
b. ここで,酵素反応が定常状態にある場合に利用できる近似(
等しくなる。
②
)を用いると式2はゼロに
c. 反応に添加した酵素の総量を定数 [Eo]で表すと,[Eo]は
③
[Eo]=
…式3
と表せる。
d. 式3を変形し,式2=0の方程式にこれを代入して[E]の項を消去すると
④
[ES]=
となり,
⑤
…式4
=KM とおけばこの式は
⑥
[ES]=
…式5
と記載される。
e. 最後に,式5を式1に代入し, Vmax=
v=
⑧
⑦
とおけば,ミカエリス・メンテンの式が導出される。
…ミカエリス・メンテンの式
ii) i)の反応に,酵素 E に結合する「競合阻害剤」I を濃度 [I] になる様に加えた。化学反応式(A) を修正し,
競合阻害剤 I が反応に含まれる時の化学反応式を答えなさい。
iii) ii)の競合阻害剤が添加された結果,i)で導出されたミカエリス・メンテンの式も[I],並びに KI=
! [!]
〔!"]
を含む
式に修正されます。この時,小問 i)の式1,式2,式3のどれかが競合阻害剤の存在を反映して変化します。
どの式が変わりますか?式の番号と,競合阻害剤の存在を織り込んだ新しい式を併せて答えなさい。
iv)競合阻害剤が存在するときのミカエリス・メンテンの式を答えなさい。
v)小問 i)の⑧で求めたミカエリス・メンテンの式,そして小問 iv)で求めた競合阻害剤が含まれるミカエリス・
メンテンの式をそれぞれ Lineweaver・Burk の式変形で一次関数に変形し,解答用紙のグラフ領域に書きな
さい。解答には,どの線がどの式に当てはまるグラフであるかを必ずラベルすること。
<裏に続く>
15Seika2-2
問題 2.下の表は,解糖系の10個の化学反応を触媒する酵素の名前と,心臓の筋肉内における,おのおの
の反応に伴う自由エネルギー変化ΔG (kJ/mol)を記したものである。この表を参考にして以下の小問 i)~vi)に答
えなさい。
反応順
酵素名
ΔG (kJ/mol)
1
ヘキソキナーゼ
-27.2
2
グルコース6−リン酸イソメラーゼ
-1.4
3
6−ホスホフルクト−1−キナーゼ
-25.9
4
アルドラーゼ
-5.9
5
トリオースリン酸イソメラーゼ
+4.4
6
グリセルアルデヒド−3−リン酸デ
ヒドロゲナーゼ
-1.1
7
ホスホグリセリン酸キナーゼ
8
ホスホグリセリン酸ムターゼ
-0.6
9
エノラーゼ
-2.4
10
ピルビン酸キナーゼ
-13.9
i)解糖系はグルコースを出発物質にATPを獲得することを主目的としている。生物の中でこのようにATP
を合成するのが主な目的である代謝を一般に「何代謝」と呼ぶか,答えなさい。
ii)生物では,ATPを生成するための大きな原動力はグルコースなどの有機化合物を「酸化」することで得
る。この特徴は,代謝で酸素を消費する生物(好気性生物)と,消費しない生物(嫌気性生物)に共通の
特徴で,上記の解糖系でもこの酸化がATP合成を推進している様子が見られる。上記表の反応 1∼10 の
うち,有機化合物の「酸化」が起きている酵素反応の番号を答えなさい。また,この酵素反応に関与する
反応の「基質」をすべて答えなさい。
iii)解糖系のような代謝経路は細胞の環境変化に反応して出力(解糖系の場合,合成されるATPの量)が調
節される。この調節は,その経路に含まれるある反応を触媒する酵素の活性を調節することで行われるが,
この時その調節点となる反応がある条件を満たしていなければならない。
一般的に代謝経路の調節点となる反応は,どのような条件を満たさなければならないか,説明しなさい。
また,上記の表を参考にして,解糖系の調節点となっている酵素反応の番号と,その反応を触媒する酵素
が受ける調節の仕組みについて,簡単にまとめなさい。但し,この問題の解答は酵素が「直接」受ける調
節の仕組みについて限定し,例えば下問 iv)にあるような「基質サイクル」に関する説明は含めないこと(小
問 iv)の解答に答えて下さい)。
iv) 小問 iii)の反応とその酵素は「基質サイクル」という解糖系を調節するもう一つの仕組みの一部であるこ
とも知られている。解糖系の「基質サイクル」による調整の仕組みについて,できる限り具体的な酵素名
を上げながら説明しなさい。
v)上記表の反応でATPの合成が実際に起きている反応はどの反応ですか?反応を触媒する酵素の名前で答
えなさい。
vi)解糖系の最終生成物はATPの他に 2 分子のピルビン酸,そして 2 分子の NADH である。お酒造りに使わ
れる酵母は,発酵時にできる限り酸素を消費しないような条件で育てられると,この 2 種類の化合物を酒
(エタノール)の合成に使うようになる。酵母においてピルビン酸と NADH からアルコールが合成される
代謝の仕組み(アルコール発酵)について酵素名を含めて簡単に説明しなさい。また,酵母でなぜこのよ
うな代謝が酸素消費の少ない条件(嫌気条件)で推進されるのか,その理由を説明しなさい。
15Seika2-2
解答用紙
所属
学籍番号
氏名
問題 1.51 点
i)①①〜⑧各 4 点;計 32 点
②
k1[E][S]-k-1[ES]-k2[ES]
④
③
定常状態近似;
! !"
!"
[E]+[ES]
=0
⑤
𝑘!! + 𝑘!
𝑘!
𝐸𝑜 [𝑆]
𝑘!! + 𝑘!
+ [𝑆]
𝑘!
⑥
⑦
𝐸𝑜 [𝑆]
𝐾! + [𝑆]
ii) ⑧
𝑉!"# [𝑆]
𝐾! + [𝑆]
k2[Eo]
E + S ⇄ ES → E + P
+
I
⇅ KI
EI 5 点。個別に部分点有り
iv)5 点;説明の無いαを利用した式は 2 点
𝑉!"# [𝑆]
𝐼
(1+ 𝐾 )𝐾! + [𝑆]
!
iii)2 点 x2=4 点
式 3 [Eo]=[E]+[ES]+[EI]
[Eo]=が無い解答は 1 点減点
v)
1
𝑣
阻害剤有り(破線)
v):グラフ項目(軸ラベル 2 箇所と 2 本の直線)各 1 点
+「グラフが y 軸上で交差」1 点;計 5 点
阻害剤無し(実線)
1
[𝑆]
問題 2.49 点
i)5 点
異化(代謝)
ii)番号 5 点
基質各 1 点;計 3 点。誤答は各 1 点減点
6
グリセルアルデヒド3−リン酸,NAD+,リン酸
iii)条件 5 点
反応前後の自由エネルギー変化が大きな負の値の不可逆反応であること。
番号 5 点
3
調節の仕組み 5 点
6−ホスホフルクト−1−キナーゼは様々なアロステリック調節因子によりその活性が増減する。例えば,AMP
や ADP 等の化合物が結合するとこの酵素は活性を増大させるが,AMP や ADP は共に細胞中のATPが枯
渇すると蓄積する分子で解糖系によるATPの供給が必要であるシグナルとして働く。一方クエン酸,AT
P,長鎖脂肪酸などは6ホスホフルクト−1−キナーゼの活性を抑制する性質を見せる。これらの化合物は細
胞にATPが過剰に存在すると蓄積する性質を持つ分子で,解糖系によるATPの供給が必要ない環境のシ
グナルとして働く。下線部ポイント,アロステリック調節の一般論 3 点,活性アップ,ダウンの例表記で各
1 点。
<裏に続く>
15Seika2-2
iv)6 点
6−ホスホフルクト−1−キナーゼが触媒する不可逆反応(フルクトース6リン酸→フルクトース1,6−ビス
リン酸)の逆反応は「フルクトース1,6−ビスホスファターゼ」という酵素によって触媒される。この逆反
応もまたΔG が大きな負の値の不可逆反応で,この二つの反応が解糖系を調節する基質サイクルを形成する。
解糖系の出力を極力抑えたいときはこの2つの反応をほぼ同じ割合で働かせ,「±ゼロ」の状態を保つが,
いったんATPが必要になると6−ホスホフルクト−1−キナーゼの活性を(AMP)などが活性化し,同時に
フルクトースビスホスファターゼの活性を同じAMPが抑制する。そうすると両者の活性の差に相当する大
きな「流れ」が生じ,瞬間的に解糖系が活性化してATPの供給が始まる。一件無駄のように感じられる「基
質サイクル」は,環境の細かい変化に解糖系が迅速に対応するための大切な仕組みに進化している。
配点は下線部「酵素名」を正しく記載しているか否かで大きく変動する。部分点は両反応が不可逆反応であ
る説明や,通常状態から活動状態への切り替えの説明のある,無し等で個別に評価。
v)反応7番のホスホグリセリン酸キナーゼ,反応10番のピルビン酸キナーゼでそれぞれ2分子ずつATP
が合成される。5 点,1つ正解は 3 点。誤答減点無し。
vi)アルコール発酵の概要 5 点
アルコール発酵はピルビン酸がピルビン酸デカルボキシラーゼによりアセトアルデヒドと二酸化炭素に分解
される反応から始まり,その後アセトアルデヒドがアルコールデヒドロゲナーゼによってエタノールに還元
されるときにNADHが利用され NAD+に変換される。
下線部が解答のポイント。
アルコール発酵が嫌気条件で促される理由 5 点
嫌気条件では,解糖系で生産される NADH を使ってATPの合成ができないので,NADHが蓄積する。
NADHの蓄積が進みすぎると NAD+が逆に枯渇し,解糖系を止めてしまう恐れがあるので,アルコール発
酵は NADH を NAD+に戻すので,解糖系が働き続けることができる。
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