『事例から考えるメンタルヘルス対応③』 有限会社セントラルEAP

『事例から考えるメンタルヘルス対応③』
有限会社セントラルEAPコンサルティング代表取締役
赤塚由見子(精神保健福祉士)
さて、前回・前々回と「事例から考えるメンタルヘルス対応」というテーマで、事例を挙げ
ました。その事例は、Aさん34歳(男性)の悩みで、
「自分は期待に応える仕事ができていな
い。きっと上司や同僚は自分を´期待外れ´と思っているに違いない。結果を出せる仕事の仕
方をしたい。
」というものでした。
前回・前々回はAさんへのアプローチをご紹介しました。今回は、Aさんのような方が職場
にいらっしゃる上司の方に向けて、Aさんへの接し方をご紹介したいと思います。
実はAさんのように、
「上司の期待に応えられない」と思っている人は多いのです。そして、
そんな部下の心のモヤモヤに気づいている上司も、これまた多くいらっしゃいます。それなの
になぜ、Aさんの悩みは解消されないのでしょうか?それは、前回の記事にも載せましたが、
いわゆる「暗黙の了解」という見えない慣習のせいといえます。
皆さんの職場には、業務に関する「目標」が掲げられていると思います。それについて、部
下と話合ったことはありますか?答えは、
「Yes」だと思います。では、目標を達成するために、
こまめに部下と「プロセスのすり合わせ」をしていますか?上司と部下では、圧倒的に上司の
方が仕事ができます。仕事ができるから上司(リーダー)になったわけです。仕事ができる者
から部下や新入社員を見ると、彼らの努力を賞賛する面もあれば、
「何でこんなことができない
のだろう?」と思うこともあるはずです。そこに暗い影を落とすのが「暗黙の了解」なのです。
新入社員にはこと細かに仕事を教えることができますね。なぜなら、お互い「仕事の知識が
ゼロ」であることが分かっているので、抵抗なくずいぶん丁寧な説明をしたり、それを受け入
れたりできるわけです。しかし、入社4~5年目の部下にはどうでしょう?もっと年齢の上が
った中堅社員と呼ばれる人には、抵抗感を覚えずにこと細かに説明できますか?おそらく多く
の方が「No」だと思います。それは「こんなことくらい言わなくても分かっているだろう」と
か、
「今更こんなことを指摘したら傷つくだろう」という気持ちが上司側に働くからです。
もちろん、ある程度経験のある中堅社員に、新入社員のような指導をすることはかえって関
係性を悪くするでしょう。しかし、だからといって全てを「暗黙の了解」的にしてしまうのは
お勧めしません。そこで、ぜひAさんのような部下の存在に気づいたときは、まずは「行き詰
まっているみたいだね」と一声かけていただきたいと思います。そして、新入社員のように扱
うのではなく、①「上司としてAさんにどうなってもらいたいか」を伝えてください。更に②
「Aさんが目標までのプロセスをどうイメージしているか」を聞きましょう。最後に上司から
Aさんが①になるために、しっかり②を実行している、ということを肯定してあげましょう。
上司の想い、Aさんの考えを整理して、再びAさんに返してあげる、それだけでAさんの問題
は驚くほどスッキリものです。暗黙の了解という闇に紛れてしまわず、①と②を改めて明確に
するだけで部下は頑張ってくれますよ!