立体異性体とは 39-1

39-1
立体異性体とは
同じ分子式を持つ二つの構造の関係
同一物
異性体
構造異性体
と
の関係
立体異性体
エナンチオマー
enantiomer
ジアステレオマー
diastereomer
原子の間の繋がり方は同じだが
重ね合わせることができない構造
そのような構造が,物理的性質や反応性に
関係する場合は,その構造の認識が重要となる.
39-2
立体異性が生じる要因による分類
立体配置異性体
(configurational isomer)
ある原子の周りの原子の付き方の
違いに由来するもの.
立体異性体
立体配座異性体
(conformational isomer, conformer)
単結合の周りの回転に伴う構造の
違いに由来するもの
立体配置異性体
40-1
キラリティ(chirality)とは,
ある物とその鏡像を重ね合わせることが
できないという幾何学的な性質
キラリティの語源は,ギリシャ語の (手,掌)
左右の手は,鏡像関係にあり,かつ重ね合わせられない.
(仮に,対応する指の長さが同じで,指紋や手相が同じとしたとき)
chiralityは,William Thomson (後のLord Kelvin)が作った用語
用語の使い方
chiral 「不斉な,キラルな」
achiral 「不斉でない,アキラルな」
中心性キラリティ
40-2
1つの原子の周りに他の原子がどのような空間的な
配置(立体配置)で存在しているかにより生じている
キラリティ
sp3炭素の周りの4つの置換基が
全て異なる場合が代表的な例
このときのsp3炭素を「不斉炭素」と呼ぶ
問題
次の化合物の鏡像体を描け
*印は,不斉炭素
炭素以外の不斉中心
Tröger塩基
立体配置の反転
40-3
41-1
キラリティのある物質の異なる薬理作用
アスパルテーム
甘い
トリプトファン
D-体
甘い
L-体
O
苦い
H2N
OCH3
N
H
HO
O
O
S-体
催奇性有り
サリドマイド
R-体
催奇性無し
苦い
41-2
キラリティのある物質の相互作用
1
右用のグローブ
2
左用のグローブ
L体のアミノ酸でできている
味蕾にある
味センサー
タンパク質
味蕾にある
味センサー
タンパク質
の鏡像体
存在しない
D体のアミノ酸でできている
右手
3
4
左手
トリプトファン
L体
D体
D体
L体
42-1
旋光性
≡
進行方向から見た
光の振動面
光
いろいろな方向の
振動面を持つ光が
混じっている様子
1つの方向に振動する光を取り出すフィルター
の役目をするもの.
目に見えないが,方向性(偏光軸)がある.
偏光板(の模式図)
42-2
光源
偏光板
NaのD線
(589nm) 直線偏光
2枚の
偏光板の
偏光軸が
平行のとき
最も明るい.
偏光面
旋光性の無い物質中
旋光性の有る物質中
偏光面が回転する(旋光性)
2枚の偏光板の偏光軸が
直交するとき,最も暗い
2枚の
偏光板の
偏光軸が
平行のとき
最も明るい.
最も明るく
するには
偏光板を
回転させる
必要がある.
43-1
平面偏光と2つの円偏光
=
右円偏光
左円偏光
=
+
L-体
=
相互作用が異なるため,左右の円偏光の速度に差がでる.
L-体とD体の等量混合物(ラセミ体)の場合は,
相互作用が同じになるため円偏光の速度に差がでず,
結果として旋光性が現れない.
絶対配置のRS表示法
44-1
(手順1)不斉中心の4つの置換基に順位をつける
1.原子番号の大きな原子が優位
孤立電子対は最低順位,同位体は質量数が大きい方が優位
2.二重結合,三重結合は以下のように考える.
(C)や(O)は複製原子といい,
結果的にCやOよりも下位となる.
(置換基が無いため)
3.不斉中心に直結した原子から比較していき,決まらなければ
決まるまで不斉中心から遠ざかりながら順次比較していく.
44-2
(手順2)最低順位の置換基を不斉中心の向こう側に置き
分子を眺めて,置換基の並ぶ方向をみる.
R(rectus, 右)
見る方向
R-配置
見る方向
S-配置
S(sinister, 左)
44-3
RS表示の例
H
H
C
C
H
H
C H
H
不斉炭素に直結した原子が
3つとも同じ場合.1つ遠い
原子で比較する.
不斉炭素に直結した原子が
全て異なる場合.
O
C
H
(O) (C)
=
C
H
O
H
問題
次の化合物の不斉炭素の絶対配置を
RS表示法で示せ。
44-4
C, H, H
同
C, H, H 格
O, C, H
H, H, H
C, H, H
1つ遠い原子で比較する.
C, C, H
C, H, H
不斉炭素
O, C, H
C, C, H
C, H, H
C, 孤立電子対,孤立電子対
H, 孤立電子対,孤立電子対
2
S-配置
3
O, C, H
O, C, H
1
同
格
1
S-配置
C
H
2
3
44-5
44-6
糖やアミノ酸の絶対配置として使われる
DL表示は,D-(+)-グリセルアルデヒドの
絶対配置を基準にしている.
D(dextrorotatory, 右旋性)
L(levorotatory, 左旋性)
D-(+)-グリセルアルデヒド
CHO
実際の旋光性
この場合は,たまたま正の値(右旋性)
D-(‒)-乳酸
D-(+)-グリセリン酸
C
OH
HO
C
H
H
C
OH
H
C
OH
CH2OH
D-グリセルアルデヒド
D-グルコース
R
R
H
H
NH2
COOH
D-アミノ酸
H
COOH
NH2
L-アミノ酸
=
Fischer投影図
45-1
不斉中心があってもアキラルな化合物
メソ体
赤い線は,紙面に垂直な対称面
対称心
180°
鏡映面
回転
鏡映
ある軸 の周りに2π/n 回転して,その軸に直交する面に対して鏡映を
とったとき,もとの形と重なれば回映軸 Sn が存在する.
対称面:S1
対称心:S2 は,その特殊な場合.
回映軸があれば,アキラルになる
45-2
HO
OH
OH
OH
ペンタエリトリトール
l-メントール
旋光度(‒50°)
d-メントール
旋光度(+50°)
S4 回映軸
ペンタエリトリトールに
l-, d-メントールをそれぞれ
2つずつつけたものを
考える.
鏡像を重ね合わせることができるのでアキラルだが,
対称面も対称心も無い.
45-3
不斉中心が2個ある場合の立体異性
(R,R)
(S,S)
2
1
(R,S)
(R,S)
R
S
3
R
4
エナンチオマーの関係
ジアステレオマーの関係
S
45-4
HO
H
(R,R)
1
HOOC
HOOC
HOOC
OH
(R,S)
H
COOH
H
HOOC
COOH
OH
3
(S,S)
OH
2
HO
H
H
HO
COOH
≡
HO
(R,S)
4
H
H
H
OH
COOH
メソ酒石酸
メソ体
対称面
問題
次の化合物の立体異性体のうち
メソ体となるものの構造を描け
46-1
不斉中心を持たないキラル分子
軸性キラリティ
軸方向にみて,手前と奥のそれぞれの
上位の置換基を決める.
3
3
S-体
1
Me
Me
C
手前
H
H
4
(S )-penta-2,3-diene
2
2
R-体
手前
HOOC
3
NO2
C
4
2
1
1
NO2
COOH
R-体
4
(R )-penta-2,3-diene
3
2
1
S-体
4
アトロプ異性(結合軸の周りで回転できないために起こる)
回転できれば,相互変換してラセミ化する.
問題
次の化合物の鏡像体を描け
また,この化合物には不斉炭素があるか?
あるならば*を付けて示せ。
ヘリシティ(らせん性)
C2
C2
P-体
ネジを締める方向
見る方向
黒が手前
M-体
ネジを緩める方向
46-2