博士学位論文 学位 論文 内容の要 旨お よび審査結果の要 旨 氏 名 学 位 の 種 類 生野 聡子 博 士(獣 医学) 学位授与の条件 酪農学 園大学学位規程第3条 第3項 に該 当 学位論 文の題 目 ジ エ チ ル ス チ ル ベ ス トロー ル 投 与 ラ ッ トに お け る副 腎 ス テ ロ イ ド合 成 抑 制 機 序 の 解 明 審 査 委 員 主査 教 授 横田 博(獣 医生化学) 副査 教 授 田村 豊(食 品衛 生学) 副査 教 授 片桐 成 二(動 物生殖学) 学 位 論 文 要 旨 ジ エ チ ル ス チ ル ベ ス ト ロ ー ル 投 与 ラ ッ トに お け る 副 腎 ス テ ロ イ ド合 成 抑 制 機 序 の 解 明 酪 農 学 園 大学 大 学 院 獣 医学 研 究科 獣 医学 専攻 博 士課 程 生野 聡子 内 分 泌 か く乱 物 質 の モ デ ル 物 質 で あ る合 成 エ ス トロゲ ンDiethylstilbestrol(DES)の 毒 性 作 用 機 序 に つ い て 、Estrogen受 容 体 を 介 す る ことは 明 らか で あ るが 、そ の 詳 細 な メ カ ニ ズ ム は 不 明 な 点 が 多 い 。これ ま で 、DESに な く、本 研 究 か ら、DESに よる 副 腎 に 関 す る詳 細 な 報 告 は ほ とん ど よる 副 腎 へ の 影 響 を新 た に 見 出 し、そ の 作 用 機 序 を 明 らか に す る ことを 目 的 とした 。 SpraueDawleyの 雄iラッ トを 用 い 、対 照 群 に は オ リー ブ オ イル の み を 、DES投 オ リー ブ オ イ ル に 溶 解 したDES(0.1mg/mDを1m1胃 単 回 投 与 群 とした 。投 与1時 て い た 。1wお よび2wDES投 間 後 、DESは 内 強 制 投 与 し、2w投 与 群 には 、 与 、1w投 与、 、肝 臓 に 次 い で 副 腎 、下 垂 体 に 多 く分 布 し 与 群 で は 、副 腎 重 量 、副 腎 乾 燥 重 量 、総 蛋 白 質 量 が 増 加 し、副 腎 組 織 の 腫 大 を 見 出 した 。さらに2wDES投 与 副 腎 組 織 中 の 束 状 帯 お よび 網 状 帯 領 域 の 肥 大 が 観 察 され 、束 状 帯 領 域 の 細 胞 内 空 胞 の 小 型 化 が 観 察 され た 。この ことか ら、副 腎 はDESの 主 要 な 標 的 臓 器 とな り、組 織 学 的 な 変 化 か ら副 腎 機 能 へ の 影 響 が 初 め て 示 唆 され た 。 さ らに 質 量 分 析 の 結 果 か ら、lwDES投 与 群 で は 、血 中 及 び 副 腎 内 コル チ コ ステ ロン 濃 度 が 減 少 し、コ ル チ コ ス テ ロン合 成 中 間 生 成 物 量 も減 少 て い ることを 明 らか に した 。一 方 、副 腎 コ ル チ コ ス テ ロ ン 合 成 調 節 に 関 連 す る タン パ ク質(StAR、PBR)の した が 、DES投 発 現 を探 索 与 に よっ て い ず れ も発 現 抑 制 は 受 け て い な か っ た 。ま た 、コ レス テ ロー ル か らス テ ロイ ド合 成 の 前 駆 物 質 で あ る プ レグ ネ ノロン へ 変 換 を 媒 介 す る酵 素P450sccは DES投 与 後 も そ の 酵 素 活 性 は 阻 害 を 受 け て い な か っ た 。一 方 、血 中 か らの コレス テ ロー ル 取 込 み に 関 与 す るLDL受 容 体 やHDL受 容 体 は 、DES投 与 に よっ て 発 現 が 誘 導 さ れ て い た に も 関 わ らず 、副 腎 皮 質 の 脂 質 や コ レス テ ロー ル が 減 少 して い ることが 明 らか と な っ た 。ゆ え に 副 腎 ス テ ロイド合 成 の 抑 制 は 、原 料 とな るコ レス テ ロー ル の 減 少 に 起 因 す る ことが 判 明 した 。 副 腎 に お け る ステ ロイ ド合 成 の た め の コレ ステ ロ ー ル 供 給 は 、血 中 か らの 取 込 み に よ る も の が 多 い 。そ の た め 、血 中 の コ レス テ ロ ー ル を 測 定 した 結 果 、DES単 投 与12時 間 後 か ら血 中HDLコ 回投 与 群 では 、 レ ステ ロー ル が 減 少 し、さらに 、血 清 中 のApoEが 減少 して い た ことが 分 か っ た 。これ らの 結 果 か ら、副 腎 内 コ レス テ ロー ル の 減 少 はHDLコ レス テ ロ ー ル が 減 少 し、血 中 か らの 供 給 不 足 が 原 因 で あ る ことが 分 か っ た 。 血 中 に 存 在 す るApoEの 大 部 分 は 、肝 臓 か らの 分 泌 由 来 す る ことか ら、DES投 の 肝 臓 へ の 影 響 を調 べ た 。そ の 結 果 、肝 臓 内 で のApoEの か し 、肝 灌 流 実 験 か ら、DESラ ット投 与 肝 で はApoEの 与後 減 少 は 認 め られ な か った 。し 分 泌 が 抑 制 され て い るこ とを見 出 した 。 以 上 の 結 果 、本 研 究 か らDES投 1)副 与 に より 腎 で の ス テ ロイド合 成 が 抑 制 され ることを 見 出 し 、そ れ は 血 中HDLコ レステ ロー ル の 低 下 に 因 る ことを 見 出 した 。 2)こ の コレ ステ ロー ル の 低 下 の 原 因 は 、血 中 のApoEが 減 少 す る こと、さら に 、そ れ は月 刊 蔵か らの 分 泌 抑 制 で 因 ることを 見 出 した 。 副 腎 で 産 生 され るス テ ロイ ドは 、胎 児 や 新 生 児 の 成 長 や 発 達 だ け で な く、陣 痛 や 出 産 に も 重 要 な 役 割 を 担 うことか ら、DESに よっ て 引 き起 こされ る慢 性 的 な コル チ コス テ ロン の 低 下 は 、内 分 泌 恒 常 性 を 撹 乱 し 、ス トレス 抵 抗 性 を 減 弱 化 させ る 可 能 性 が あ る 。 ま た 、DES投 与 に よっ て 血 中 で 減 少 して い たHDLコ も抗 ア テ ロー ム 作 用 をも っ 因 子 と知 られ て い る 。DES投 レス テ ロー ル やApoEは 、ど ち ら 与 に よ って この 抗 アテ ロ ー ム 作 用 が 減 弱 され る 可 能 性 が 示 唆 され る。さら に 、肝 臓 か らApoE分 泌 阻 害 は 、DESが コ レステ ロ ー ル 代 謝 の 根 幹 を 担 う肝 臓 へ 影 響 を 及 ぼ して い る 証 拠 で あ る。この よ うに 、DESは 副 腎 毒 性 だ け で な く、そ の 原 因 とな る 脂 質 代 謝 異 常 を 引 き 起 こす こ とが 示 され た 。近 年 、 内 分 泌 撹 乱 物 質 を 原 因 とす る 健 康 被 害 は 生 殖 毒 性 以 外 に 肥 満 との 関 連 が 指 摘 され て きて い る。ま た 、最 近 、合 成 エ ス トロ ゲ ン 剤 に よ る血 栓 症 リス クが 懸 念 され て い る。本 研 究 で 明 らか とな っ たDESに よるコ レス テ ロー ル 代 謝 撹 乱 は 上 記 健 康 被 害 い ず れ とも 関 連 の 深 い もの で あ り、今 後 さらな る メカ ニ ズ ム の 解 明 が 期 待 され る。 論文審査の要 旨お よび結果 本 論 文 の 審 査 は 、研 究 の 目的 が 明確 で あ る か 、材 料 お よび 方 法 が 適 切 であ る か 、 結果 が 明確 で合 理 的 に整 理 され て い る か 、 さ らに科 学 お よび 獣 医学 の発 展 に寄 与す る もの で あ るか につ い て行 っ た。 〈論 文 の概 要 につ い て 〉 本 論 文 は 、 内 分泌 撹 乱 物 質 の 代 表 的 化 学 物 質 で あ る ジ エ チル ス チル ベ ス トロ ール(DES)の ラ ッ ト副 腎へ の影 響 とそ の 作 用機 序 につ い て 明 らか に した もの で あ る。 申請 者 はDES投 与 後 、 ラ ッ ト副 腎 が肥 大 す る こ とを見 出 し、 さ らに コル チ コス テ ロ ン合 成 反 応 が 初 期 段 階 で抑 制 され る こ と を見 出 した。 そ して 、 そ の 原 因 は血 液 中 のHDL/コ レス テ ロー ル が激 減 し、副 腎へ の供 給 が滞 っ た こ とに あ る と分 か っ た。 更 に そ の原 因 は、DESを 血 液 中 でHDL/コ 投 与 した肝臓 で はApoEの 分 泌 が減少 し レステ ロー ル が形 成 され な い こ とに起 因す る こ とが分 か った。 〈本 論 文 の学 問 的意 義 〉 本 論 文 は 、 内 分泌 撹 乱物 質DESの 初 期 毒性 機 序 を明確 に 明 らか に した もので あ る。DESは 流 産 防止 薬 と して妊 婦 に投 与 され 、生 まれ た子 供 に重 篤 な障 害(女 児 に は小 児 膣 癌 、 男 児 に は精 巣形 成 不 全)を 質 の改 善(柔 らか い)の もた ら した。 家 畜 の肥 育 時 に も肉 為 に使 用 され て 来 た 。 そ して 日本 で も最 近 ま で前 立腺 の抗 が ん剤 と して 使 用 され て 来 た 。 強 い 副 作 用 や 残 留 エ ス トロゲ ン活 性 の為 に 使 用 が禁 止 され た が 、 そ の 内分 泌 撹 乱 作 用機 序 につ い て は詳 細 な解 明 は成 され て い な い。 これ ま で 、 内分 泌 撹 乱 作 用機 序 につ い て は 、 内 分泌 器 官 や 生殖 器 へ の影 響 作 用 につ い て調 べ られ て来 た。 申請 者 は 、DESの 内分 泌 調節 に重 要 な副 腎 機 能 へ の毒 性 を 見 出 し、そ の 毒性 は肝 臓 へ の作 用 に起 因す るこ とを明 らか に し、 これ ま で の分 か らな か っ た初 期 作 用 点 を 明確 に証 明 した も ので 、 内分 泌 撹 乱研 究 の 分 野 に大 き な 前進 を もた ら した と云 え る。 さ らに、 最 近 、 エ ス トロ ゲ ン剤 を主 体 と した妊 娠 防 止 薬 を 常用 した 人 の血 栓 症 に よ る死 亡 例 が 報 告 され て い る。 上記 研 究 結 果 は 、 この 例 は 、 エ ス トロ ゲ ン剤 投 与 に よっ て血 中のHDL/コ レステ ロー ル が低 下 し、 血 管 か らの コ レステ ロール の 回 収 が滞 っ た為 の類 推 出来 る。 この分 野 の 医 学/薬 理 学 に お い て も上 記 研 究 は 強 力 な示 唆 を与 え る も ので あ る。 <本 論 文 の獣 医学 的 意 義> 1)エ ス トロゲ ン活 性 を有 す る環 境 化 学 物 質 研 究 へ の貢 献 DES以 外 に多 くの化 学 物 質 が環 境 中や 食 品 中 の存 在 して お り、動 物 は常 時環 境 か ら暴 露 され て い る。 そ の た め 、数 多 くの疾 患 の主 原 因や側 面 的原 因 とな っ て い る。 今 回 の 副 腎 や 肝臓 へ の影 響 の機 序 を解 明 した こ とは 、動 物 の健 康 を守 る上 で 大 き な貢 献 とな る。 2)薬 物 治 療 特 に ステ ロイ ドホ ル モ ン療 法 にお け る肝機 能検 査 の重 要性 炎 症 時 や 臨 床 繁 殖 野 分 野 で ステ ロイ ド剤 を用 い た際 に、 肝臓 障害 が 多 く見 られ る。 今 回 の研 究成 果 は これ らの機 序 や 因果 関係 を 明 らか にす る上 で 重 要 な 示 唆 を与 え る もの で あ る。 3)脂 質 代 謝 に及 ぼす エ ス トロゲ ン作 用 物 質 の影 響 伴 侶 動 物 、 生 産 動 物 、動 物 園 動 物 に多 く見 られ る代 謝 病(メ ン ドロー ム)は タ ボ リック シ 脂 質 代 謝 異 常 が そ の根 本 原 因 とな っ て い る場 合 が多 い。 本 論 文 の成 果 は 、 エ ス トロ ゲ ン活 性 を有 す る環 境 化 学 物 質 や 薬 物 が これ らの代 謝 異 常 を 引 き 起 こす 一 つ の 因子 とな って い る可 能性 を示 唆 して い る。 最 近 、 人 の肥 満 も新 生 時期 の 暴 露 され た エ ス トロ ゲ ン薬 物 が そ の原 因 で有 る と言 う報 告 が多 い。 よっ て 、本 論 文 は人 や 動 物 の 福 祉/健 康 管 理 の た めの 獣 医 学 に 多 くの 示 唆 を与 え る。 以 上 の こ とか ら、本 論 文 は 、科 学 的 に も獣 医 学 的 に も意 義 が大 き い と判 断 で き、博 士(獣 医 学)の 学位 を授 与 す る価 値 を認 め る。 2014年2月19日 主査 教授 横田 副査 教授 田村 副査 教授 片桐 博 豊 二 成 審査員
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