原油安と米エタノール産業への影響

原油安と米エタノール産業への影響
調査レポート
2014 年にトウモロコシ安で好採算を享受したエタノール産業
2015 年 2 月 5 日
経済部 シニアアナリスト
舘 美公子
米国では 2005 年に再生可能燃料基準(RFS)と呼ばれる環境政策が導入され、燃料精製業者にガソリン
へのバイオ燃料(エタノール)混合量が義務付けられている。この政策は、エタノール原料であるトウモ
ロコシ消費に多大な影響を及ぼし、現在ではトウモロコシ収穫高の 4 割をエタノール需要が占めるに至っ
ている。
エタノール生産は、2012 年に米国を襲った大干ばつでトウモロコシ価格が高騰した際に大きく落ち込ん
だが、2014 年は豊作が見込まれたことからトウモロコシ価格が下落し、エタノール生産量、生産マージン
ともに過去最高水準を達した。また、輸出市場におけるライバルであるブラジル産エタノール(サトウキ
ビ由来)に対する競争力も確保し、2014 年のエタノール輸出量は 396 百万リットルと前年比 45%増とな
った。
足元ではガソリン安の影響でエタノール産業の収益性低下
だが、足元では原油安がエタノール生産マージンに影響を及ぼしつつある。2014 年 11 月以降の原油/ガ
ソリン価格の急落に伴い、競合燃料であるエタノールも連れ安となり、2015 年 1 月には 1.30 ドル/ガロン
と 2014 年ピーク時から 64%下落した。この結果、エタノール生産者のマージンが圧迫され、2015 年 1 月
には一時マイナスに転じた(図表 1)
。
エタノール需要は 2015 年も増加が期待される
環境保護庁(EPA)は、毎年ガソリンへのエタノール混合量を決定するが、2014 年、2015 年について
は義務量策定に手間取り、いまだ公表されていない。それでも、2014 年のエタノールの混合量は前年比
2.3%増とガソリン需要増の同 1.1%増を上回る伸びを示した。このことから、2015 年も原油安に伴いガソ
リン需要が喚起されれば、エタノール需要増が期待される。
懸念としては、エタノール価格のガソリンに対するプレミアムが挙げられる。エタノールが割高だと、
ガソリンに混合する経済メリットが低下するため、エタノール混合量が減少する恐れがあるためだ。通常、
エタノールはガソリンより割安だが、好調なエタノール輸出を背景に 2014 年 11 月からプレミアムが逆転
するまれな状況が続いている(図表 2)
。なお、燃料精製業者が RFS に基づくエタノール混合義務量を満
たせなかった場合、再生可能識別番号(RIN)と呼ばれる売買可能なクレジットを購入し、義務量の不足分
を補う仕組みとなっている。RIN 価格は、2014 年 11 月以降上昇しており、燃料精製業者がエタノールプ
レミアムを嫌気し RIN 購入を進めたことがみてとれる。ただし、2014 年末に RIN 価格が高騰したため、
エタノール混合の方が依然として経済性が高い状況となっている。このため、現状のエタノールプレミア
ムは、エタノール需要の減少を悲観するほどの水準にはないといえるが、引き続き価格推移には留意が必
要と考える。
今後の見通し
以上のことから、原油安/ガソリン安はエタノール需要増にはつながるものの、エタノール価格の下落を
招く点で収益性を圧迫するため、エタノール産業にとっては総じて好ましくないといえる。今後のエタノ
ール価格については、原油市場で供給過剰の長期化が見込まれており、ガソリン需要増もガソリン価格を
上昇に転じさせるほどの推進力に至っていないため、当面上値の重い推移になるとみられる。
(IEA、アイオワ大学より住友商事グローバルリサーチ作成)
(Bloomberg より住友商事グローバルリサーチ作成)
以上
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