胃残量の測定は人工呼吸器 関連肺炎に影響するのか

胃残量の測定は人工呼吸器
関連肺炎を減らすのか?!
胃残量測定を行わないことがVAPのリスクに与える影響
筑波大学附属病院 ICU
吉野靖代
背景
・胃残量を測定することは、経管栄養を投与されてい
る患者のVAP(人工呼吸器関連肺炎)を予防するため
に推奨されてきた。
・胃残量が多い時は、消化管運動促進薬の使用や経
管栄養の減量、中止をすることで、誤嚥やVAPを減少
させることができるとされてきた。
しかし、
胃残量測定がVAPのリスクを減少させるかどうかは明
らかになっていない。
さらに、胃残量測定方法に関しても検証されていない。
そこで、今回紹介する論文は2013年1月にJAMAに掲
載されたこちら・・・
胃残量測定を行わないことがVAPのリスクに与える影響
期間と設定
・フランスの9つのICUで行われた。
(3施設は内科系、6施設は内科・外科系;3施設は大
学病院、6施設は大学関連病院)
・期間は2010年5月から2011年3月
・多施設、非盲検、無作為化比較試験(非劣勢試験)
対象患者と除外基準
対象患者
・18歳以上
・48時間以上挿管管理されている
・挿管から36時間以内に経鼻胃管から経管栄養が開始されて
いる
除外基準
・食道、十二指腸、膵臓、胃の腹部手術歴がある
・食道、胃、腸からの出血がある
・消化管運動促進薬投与の禁忌がある
・空腸瘻、胃瘻からの経管栄養が投与されている
・妊婦
・治療に関する制限の意思決定をしている
・人工呼吸器関連肺炎予防、経管栄養耐性に関する試験に参
加している
介入方法
介入群と対照群を無作為に1:1に割り付ける。
介入群
胃残量測定を行わない。嘔吐したら経管栄養忍容性
がないと判断する。
対照群
6時間毎に50mlシリンジを使用して経鼻胃管より胃残
量測定を行う。胃残量が250ml以下の場合は胃に戻
し、250ml以上の場合は経管栄養忍容性がないと判
断する。
VAP診断基準
・胸部レントゲン上、新たに持続するもしくは進行する
浸潤影を認め、以下のうち少なくとも2つを満たす患者
にVAPが疑われた。
白血球数>10000/μL、<4000μL、体温38.5℃以上、
35.5℃以下、気管からの膿性痰が吸引される
・確定診断は気管支洗浄、気管吸引から得られた検
体の細菌培養によって定量的に判断された。
・VAPエピソードは抜管後2日目まで記録された。
・VAPは、盲検化された医師によって診断された。
研究参加者・除外うちわけ
除外基準を満たす患者
452名をランダムに割付
対照群222名
介入群227名
患者属性
基礎データは両群間に差はなかった
結果
VAPの発生頻度は介入群38/227名(16.7%)、対照群
35/222名(15.8%)であり、有意差はなかった。
VAP累積発生率にも有意差はなかった。
VAP累積発生率
日数
結果
嘔吐は介入群に有意に多かったが、経管栄養忍容性がないと判断された患者は
対照群に有意に多かった。消化管運動促進薬の使用も対照群に有意に多かった。
10%の非劣勢試験(対照
群より劣っていないことを
示す試験)のため信頼区
間は90%になっている。
下痢、感染症、人工呼吸器装着期間、ICU滞在期間、在院日数、死亡率に差はなかった。
結果
目標カロリー摂取量に達する患者の割合は、介入群
で有意に多かった。
目標カロリー到達率
日数
結語
人工呼吸器装着中の患者において、胃残量測
定を行わないことは、VAP発生には影響しない。
私見
・胃残量と誤嚥の関連は未だ明らかになっていない点
も多いが、少なくとも、胃残量測定がVAPの発生率を低
下させるとは言えない。
・誤嚥のリスクが少ない患者においては、胃残量測定
が、栄養投与の妨げになる可能性もある。
・臨床的には、経管栄養投与中の体位を30度に保持
することの方がVAP予防には重要かもしれない。
VAP発生には様々な要因があり、複合的な要因をひと
つひとつ考えていくことが重要である。
筑波メディカルセンター病院 救急診療科 阿部智一先生 監修