2015/10/2 穂の形態 食用作物学II (イネについて) イネの穂とは,穂首節より上 部に生じる器官 複総状花序 穂の主軸を穂軸とよぶ 穂軸上には,8-10の節があ り,各節から一本づつ一次枝 梗が,2/5(144度)の開度でつ く 基本構造は茎と同じで,枝 梗は分枝にあたる 1穂は,200個の頴花を形成 する潜在能力があるが,一般 の品種・栽培条件では,通常 80-100個となる. 穂首節 第二回 形態学的視点から 穂軸 作物学研究室 柏木純一 穂首 種籾の形態 穂の形態 頴花(籾) 小穂 (1小穂=3-5小花) 外頴 玄米 小穂 (1小穂=1小花) 二次枝梗 胚 小枝梗 一次枝梗 胚乳 穂首での維管束数は,一 次枝梗数とほぼ一致.維管 束は下位(穂首に近い)の 一次枝梗から順に一本づ つ入っていく 穂軸 花の形態 護頴 内頴 開花の順位 国分牧衛著,食用作物(2010) 松尾孝嶺編,稲学泰大全(1990) 強勢頴果 この頃までに葯は外頴・内頴内で列開 して,花粉を柱頭上に飛散させる 開花は午前9時頃より始まり、午前中に 終了する。 外頴が外側に開頴する直前に、花糸が 伸長して籾内で開葯し、花粉を飛散させる。 一穂の全花が開花し終わるのは、4-10 日、7日、圃場全体では2週間程度を要する。 弱勢頴果 開花は,上部枝梗の先端頴花から順に 下位の頴花へ進む. 同一枝梗内では先端頴花が最も早く開 花し,次いで基部の頴花から求頂的に開 花が進む. これは,幼穂における頴花原基の発達順 序とほぼ一致. 開頴直前に自家受粉するため、他家受 精は1%以下となる。 1 2015/10/2 重複受精 高温障害への対応 精核の一つと受精した胚乳原核(3n)が体細胞分裂 数百の花粉が,柱頭に付着する 受粉後の発芽時間には個体差があり,早い もので1.5分後,遅いものでは1時間以上かか る(多くのものは2-5分) 発芽の最適温度は,31-32℃,最低温度は 10-13℃,最高温度は60℃ 最も早いもので,花粉管は受粉後30分で珠 孔に達する.珠孔を通過できる花粉管は,1つ だけ. イネは,属内で開花時刻に大きな変異が ある.野生種の中には早朝に開花するも のが多数存在することが報告されている (Sheehy et al., 2005) 野生種O. officinalisは開花時間が早朝と いう特性を有している.この特徴をコシヒカ リに導入して,開花時の高温不稔を回避す る育種が行われている(農研機構,作物研 究所) ガラス室のポット試験の結果,早朝開花 性は,不稔率を減少させた→圃場での検 証が必要 花粉形成期の高温障害には利用できな い 松尾孝嶺監修、稲学大全(1990) https://www.ondanka-net.jp/index.php?category=measure&view=detail&article_id=671 Ishimaru T et. al., (2010) Ann. Bot. 106:515-520 胚乳部の構造 穂と収量 ★植物体数(栽植密度):18株/m2 × 分げつ数:30茎/株 = 総茎数:540茎/m2 × 有効茎歩合:80% ★ = 有効茎数(穂数):430茎/m2 一穂当たり総籾(頴花)数:80 × 登熟歩合:85% ★ = 一穂当たり稔実籾数:68 ★1000粒重:22g Q:米一合を得るのにイネが何株必要か? 玄米は,果皮と種皮を有する 胚乳は,極核と受精した精核よ り生じた胚乳原核が分裂を繰り返 して形成されたもの 胚乳細胞は,約10日で分裂を完 了し,腹面から背面に約36層,粒 の縦方向に約150の細胞が並ぶ (胚乳細胞の総計は約15万個) 光合成産物である可溶性炭水 化物は、胚乳細胞へ送られ、デン プンに合成された後に,蓄積され る 糊粉層には、デンプンは蓄積せ ず、タンパク質が多く蓄積される (発芽時の酵素の生成源となる) 果皮、種皮、糊粉層に胚を加え たものが糠(ぬか) 果皮と種皮 米一合:180cc=約150g a) 糊粉層 (aleurone layer) s) デンプン貯蔵組織 松尾孝嶺監修、稲学大全(1990) 胚乳へのデンプン貯蔵 デンプン合成 透過電顕x3400 胚乳 粒 背 側 粒 腹 側 珠心表皮 維 管 束 胚 松尾孝嶺監修、稲学大全(1990) 光合成による可溶性炭水化物(ショ糖)に加えて,葉鞘 や稈(茎葉部)に蓄積されたデンプンを分解して得られた ショ糖が胚乳細胞へ送られる(転流) 胚乳細胞へショ糖を移動させる原動力(シンク活性)は, 胚乳細胞と茎葉部とのショ糖濃度の差→活発なデンプン 合成による胚乳でのショ糖濃度低下(デンプン合成系酵 素の活性up!) 可溶性炭水化物が主体の養水分は,粒背側にある維 管束を通り,胚乳を取り巻く珠心に入って,胚嚢の全表 面から胚乳へ入る(登熟初期).その後,糊粉層が分化 する頃には,流入口は,背側部分からのみとなる 胚乳細胞間のショ糖溶液の移動は原形質連絡 (plasmodesmata)を通じて行われる 水稲茎葉部のデンプン合成を担う酵素・輸送体遺伝子群 (http://www.naro.affrc.go.jp/org/narc/seika/kanto17/14/17_14_13.html) イネに存在する6つのAGPase遺伝子, 10のSS(デンプン合成酵素)遺伝子,3つ のBE(ブランチング酵素)遺伝子のうち, デンプン蓄積期の葉鞘では, AGPase:AGPL1、AGPS1 SS:SSI、SSIIb、SSIIIb、GBSSII BE:BEIIa といった遺伝子の発現レベルが高い. これら遺伝子群はデンプン蓄積期の葉 鞘で発現レベルが高いが,胚乳での遺伝 子発現レベルは低く,これらとは異なる遺 伝子群が強く発現している ➔栄養器官と胚乳とでは,遺伝子レベル で分業してデンプン合成を行っている 2 2015/10/2 デンプン貯蔵組織 イネの貯蔵デンプンは,複粒で小型 (胚乳の内部で40μm,周辺部で1020μm) 胚乳組織の一番内側の細胞からで ん粉粒の蓄積が始まる 細胞質内のプラスチド内でデンプン 小粒が形成される →プラスチドは活発に増殖する →各プラスチド内でデンプン小粒が 次々と形成 →各プラスチドは増殖を停止、それぞ れが楕円体として発達.内部のデンプ ン小粒の数も増加して,数10個にな る:アミロプラスト →アミロプラスト内はデンプン小粒で 満たされ,その数は50-80個程になる. 0.5μ 1μ 2μ 品種による胚乳細胞の変遷 左:坊主1号(1919年),右:ゆめぴりか(2008年). バーは1mm Uchino et. al., (2011) PPS, 14: 96104. 北海道の近代品種は,胚乳細胞密度の数が少 ない 胚乳細胞密度の減少と良食味との間には相関 関係が認められた(意図的な育種成果ではない) ↑ 単年度の結果! メカニズムは不明 松尾孝嶺監修、稲学大全 国分牧衛、食用作物学 うるち(粳)ともち(糯) 「うるち」と「もち」の遺伝 「もち」の母親に「うるち」の花粉がかかったら? 胚乳デンプン アミロース:α-D-グルコースが直鎖状に並んだ もの(ヨウ素反応が強く,青色の呈色) アミロペクチン: α-D-グルコースが分枝状に並 んだもの(ヨウ素反応が弱く,赤紫色の呈色) うるち:優性形質(A) もち:劣性形質(a) うるち米 アミロース合成遺伝子が機能するため,胚乳デンプン はアミロースとアミロペクチンによって構成されている アミロース合成遺伝子は,α-D-グルコースを100%アミ ロース配列にできる訳ではない(コシヒカリで12-17%) 低アミロースが良食味に強く影響している 卵細胞(n):a(もち) × 精核(n):A(うるち) →Aa=うるち この種を収穫して「翌年」播くと,うるち親 の性質を受け継いだ植物体となる もち米 胚乳デンプンは,100%アミロペクチンから構成されて いる アミロース合成遺伝子を持たないためにアミロースを 作ることができない もち米の胚乳は、乾燥すると白色不透明となる(この 現象は「はぜる」と呼ばれ,デンプン貯蔵細胞内に発生 した気泡が、光を散乱するため生じる) 極核(2n):aa(もち) × 精核(n):A(うるち) →Aaa=うるち 「うるち」と「もち」の遺伝 胚 胚乳 もち米の種を播いて,もち米を収穫するはず だったのに,米を収穫して炊飯すると, うるち米となっている 食用米の種類 「もち」の母親に「うるち」の花粉がかかったら? 食用部位=胚乳(+胚) うるちの形質 植物体=茎+葉 もちの形質 玄米:種籾から外頴・内頴(籾)を取り除いたもの 胚芽米:精米して、胚を残してぬか層を極力取り除いたのもの 種子 もちの形質 イネの食用部位は,交配が行われる器 官であるため,その他の器官よりも1つ世代 が進んでいる (精)白米:精米して、ぬか層と胚が取り除かれたもの 3
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