講義テキスト 2-1 酸・塩基

2 章 酸・塩基と
酸・塩基と酸化・還元
2-1 酸(acid)
acid)・塩基(
・塩基(base)
base) 1年無機化学 I 重複ある
1)歴史
年
酸塩基関係
~1599
1646
発見者
年
酸塩基関係
発見者
硫酸、硝酸、 誰かは不明
王水
1853
安息香酸
S.Cannizzaro(イタ)
塩酸
1887
電解質解離、
S.A.Arrhenius(スエ)
J.R.Glauber(独)
水のイオン積
1703
純氷酢酸
1766
酸塩基の当量 H.Cavendish(英)
1769
酒石酸
G.E.Stahl(独)
1888
希釈律
W.Ostwald(独)
1893
水素電極
M.LeBlanc(独)
20 世紀
K.W.Scheele(スエ)
1771-86 フッ化水素酸 〃
1900
緩衝液
A. Fernbach(仏)
S.P.L.Sørensen(デン)
1776
蓚酸
〃
1909
pH
1777
硫化水素
〃
1920
キンヒドロン電極
1779
1784
乳酸
〃
クエン酸
1784-85 硝酸の組成
1923
E.Biilmann(デン)
+
T.M.Lowry(英)
+
酸塩基説 H
〃
〃
酸塩基説 H
J.N.Brønsted(デン)
H.Cavendish(英)
〃
酸塩基説 電子対
G.N.Lewis(米)
1785
リンゴ酸
K.W.Scheele(スエ)
1929
ガラス電極実用化
D.A.McInnes, M.Dole(米)
1786
没食子酸
〃
1958
クラス(a), (b)金属
S.Ahrland(スエ)
J.Chatt, N.R.Davies(英)
19 世紀
1834
次亜塩素酸
1846-52 アミノ酸
A.J.Balard(仏)
1961
A、B 金属
G.Schwarzenbach(スイス)
1963
HSAB
R.G.Pearson(米)
J.Liebig(独)
●J.R.Glauber(独 1604-70):Glauber 塩 Na2SO4•10H2O(芒硝)の発見者 岩塩から塩酸、硝石とミョ
ウバンを加熱蒸留し硝酸を、木材を乾留し木酢(もくさく:主に酢酸、メチルアルコール、アセト
ン、酢酸メチルより成る)を製造
●R.Boyle(1627-91):青色リトマス紙(リトマスは地中海産のコケからとった色素)が酸により赤変
●A.L.Lavoisier(1743-94):O2 を酸素と命名し、酸は酸素を含むと考えた
●J.J.Berzelius(1779-1848):Lavoisier 説を修正 (酸=酸になる元素と酸素の化合物、塩基=金
属と酸素の化合物)
●H.Davy(1778-1829):塩素に酸素が含まれない
●J.L.Gay-Lussac(1778-1850): 青酸(HCN), ヨー化水素酸(HI)の研究
●J.L.Gay-Lussac と P.L.Dulong(1785-1838): 酸には酸素酸と水素酸の2種がある
●J.Liebig(1803-73):酸は水素の化合物、その水素は金属で置き換えられる
●S.A.Arrhenius(1859-1927):1887 年イオン説、酸は水溶液において水素イオンと酸基イオンと
に解離、塩基は水溶液において、水酸化物イオンと金属イオンに解離するものとの説
1
●1888 年 W.Ostwald:酸・塩基の解離平衡に質量作用の法則を適用(希釈律)し、弱酸・弱塩基の強
さを定量的に議論することが可能となった。→水素イオン濃度測定、イオン積に関心が集まる
●1904 年 H.Friedenthal 14の酸塩基指示薬の変色域を観測
緩衝液の重要性に気づく
●1909 年 S.P.L.Sørensen: pH の概念, pH の比色定量法
しかし、水以外の溶媒中での酸塩基の反応性に関して、これら理論は無力であった
●1923 年 T.M.Lowry, J.N.Brønsted 独立に酸塩基(H+が関与する)の定義を発表。さらに
Brønsted はこの理論を発展させた。
“酸は塩基と水素イオンとの結合によって生成する”
共役
|
HA +
=
H2O
酸
|
+ A−
H3O+
塩基
|
酸
|
(2-1)
塩基
共役
共役(conjugate)の酸塩基対
共役
酸
塩基
H3O+
H2O
H2O
OH−
C2H5OH2+
C2H5OH
C2H5OH
C2H5O−
CH3COOH2+
CH3COOH
CH3COOH
CH3COO−
NH4+
NH3
NH3
NH2−
C6H5OH
C6H5O−
酸
H2SO4
HSO4−
H3PO4
H2PO4−
HPO42−
Fe(OH2)63+
Al(OH2)63+
HCl
HClO4
塩基
HSO4−
SO42−
H2PO4−
HPO42−
PO43−
Fe(OH)(OH2)52+
Al(OH)(OH2)52+
Cl−
ClO4−
蓚酸(oxalic
蓚酸(oxalic acid)pKa1=1.04, pKa2=3.82
乳酸(
乳酸(lactic acid)
acid)pKa=3.66
リンゴ酸(
リンゴ酸(malic acid)
没食子酸(gallic
ニンニクは garlic
没食子酸(gallic acid)
O
OH
C
HO
O
C
O
C
O
HO
COOH
H
C
OH
H3C
C
OH
H
O
OH
C
C
HO
O
C
OH
HO
H2
C
OH
C
OH
OH
O
2)酸・塩基の定義(2,3,4が重要)
1.アレニウスの定義
アレニウスの定義(スウエーデン
1859-1927):酸は水中で H+を出す、塩基は水中で OH-を出
アレニウスの定義
す。水に溶けた物のみが酸・塩基である。
HCl(酸) →H+ + Cl−
NaOH(塩基)→Na+ + OH− ・・・・OH−を含む物質をアルカリ
アルカリという
アルカリ
CO2 (酸) + H2O →H2CO3→H+ + HCO3−
NH3 (塩基) + H2O →NH4OH→NH4+ + OH−・・・NH4OH はアルカリ、NH3 はアルカリでない
2.ブレンステッド
ブレンステッドの定義
1879-1947):酸はH+の供与体、塩基はH+の受容体
ブレンステッドの定義(デンマーク
の定義
HA (酸)→ H+ + A− (HA の共役塩基
共役塩基)
共役塩基
B(塩基) + H+ →BH+ (B の共役酸
共役酸)
共役酸
2
−
両性化合物:酸としても塩基としても働くもの(H
両性化合物
2O→H+ + OH , H2O + H+ → H3O+)
3.ルイスの定義
ルイスの定義(アメリカ
1875-1946)
:酸は電子対
電子対の受容体、塩基は電子対の供与体
ルイスの定義
電子対
BF3(酸) + NH3(塩基) →F3B-NH3 両者の間に配位結合
配位結合(共有結合
配位結合 共有結合の一種)ができる。
共有結合
ルイス酸、ルイス塩基
ルイス酸 ルイス塩基
酸
塩基
塩基
酸
共有結合化合物
共有結合化合物
●同一物質が相手しだいで、酸―塩基反応、または、酸化―還元反応を示すことがある
塩基
酸-塩基反応
酸化-還元反応
還元剤
水中 H+
酸
1
OH- 水中
2
供与
H+
塩基
受容
3
受容
電子対
供与
4 . 酸 塩基の硬 さ柔ら かさ ( HSAB:
HSAB Hard and Soft Acid and Base): ピアソン(アメリカ
1919)
●柔らか
柔らか:電子雲が大きく、ひずみ易い
柔らか
イオン半径が大きい、正電荷が小さい(電子雲は広がる)
、
負電荷が大きい(電子数が多く電子雲は広がっている)
●硬い
硬い:電子雲が小さく、ひずみ難い
硬い
イオン半径が小さい、正電荷が大きい(電子雲は縮まる)
、
負電荷が大きい(電子数が少なく電子雲は縮まる)
分子性結合
分子性結合
柔らかい酸
硬い酸
柔らかい塩基
硬い塩基
硬い酸
硬い塩基
硬い酸:H+, BF3, Mg2+
柔らか酸:Cu2+, BH3, I2
柔らかい塩基
柔らかい酸
イオン性結合
イオン性結合
硬い塩基:F-, NH3, H2O
柔らかい塩基:CN-, CO, H2S
3
3) ブレーステッド酸・塩基
3-1)酸・塩基の種類
3-1)酸・塩基の種類
多塩基酸:H
多塩基酸
多酸塩基
2SO4、H2SO3, H2CO3, H3PO4; 多酸塩基:Ca(OH)
2
H+を受け入れる物質はすべて塩基:非共有電子対を持つもの・・n 塩基、パラフィン系炭化水素・・
σ塩基、芳香族炭化水素・・π塩基
●HCl, 酢酸、石炭酸、安息香酸:1塩基酸、1価の酸
NaOH、NH3:1酸塩基、1価の塩基
●H2SO4、蓚酸:2塩基酸、2価の酸
Ca(OH)2, p-フェニレンジアミン:2酸塩基、2価の塩基
●H3PO4: 3塩基酸、3価の酸
formic acid
●p-フェニレンジアミン:外見は白色固体、空気に触れると酸化して暗色に変化する。主にエンジニア
リングプラスチックの原料として用いられるほか、染髪にも利用される。毛髪染料として一般的だった
が、近年は 2,5-ジアミノ(ヒドロキシエチルベンゼン)や 2,5-ジアミノトルエンなどの誘導体が用いられ
るようになっている。
●蓚酸:植物に多く含まれる。漢字の「蓚」はタデ科のスイバを意味する。タデ科(他にギシギシ、イ
タドリなど)
、カタバミ科、アカザ科(アカザ、ホウレンソウなど)の植物には水溶性シュウ酸塩(シ
ュウ酸水素ナトリウムなど)が、サトイモ科(サトイモ、ザゼンソウ、マムシグサなど)には不溶性シ
ュウ酸塩(シュウ酸カルシウムなど)が含まれる。とろろが肌に付くと痒みを生じるのは、シュウ酸カ
ルシウムの針状結晶が肌に刺さって刺激を受ける為である。
●ホルムアルデヒド、蟻酸:メタノールを誤飲すると失明・死亡するが(メタノール飲用毒性(中毒)
)
それはメタノールの酸化により生じるホルムアルデヒドのせいだけではなく、
それがさらに酸化されて
生じるギ酸が、
ミトコンドリアの電子伝達系に関わるシトクロムオキシダーゼを阻害するために視神経
毒性が現れるとする意見もある
4
3-2)酸・塩基の強さ
3-2)酸・塩基の強さ
強酸:電離し易い酸で、
H+を出しやすい・・HCl(hydrogen chloride の水溶液を塩酸 hydrochloric acid
強酸
という), H2SO4(sulfuric acid), HNO3(nitric acid)
弱酸:電離しにくく、H+を出しにくい・・・CH3COOH(acetic acid), H2CO3(carbonic acid、水中での
弱酸
み存在、単離不可), H2SO3 (sulfurous acid, 単離不可), H2C2O4 (oxalic acid 蓚酸), サリシル酸(salicylic
acid , pKa 2.97), C6H5COOH (benzoic acid 安息香酸 pKa 4.21)、C6H5OH (phenol, 石炭酸、フェノー
ル pKa 9.95)
強塩基:電離し易い塩基で、OH―を出しやすい(H+を受容しやすい)
・・KOH(potassium hydroxide) ,
強塩基
NaOH(sodium hydroxide), Ba(OH)2(barium hydroxide), Ca(OH)2(calcium hydroxide, 水酸化カルシウム、
消石灰)
弱塩基:電離しにくく、OH―を出しにくい(H+を受容しにくい)
・・NH3(annmonia), Cu(OH)2,
弱塩基
C6H5NH2(アニリン,aniline)、C5H5N(ピリジン pyridine)、NH4OH
O
○酸素を含む酸をオキソ酸という。
○H3PO4(phosphoric acid, リン酸)・・強酸でも弱酸でもない。
○Cu(OH)2, Fe(OH)3 は水にほとんど溶けないが酸に溶ける:Cu(OH)2
+2HCl →CuCl2 + 2H2O
HO
P
OH
OH
○Al(OH)3, Cr(OH)3, Zn(OH)2 は水にほとんど溶けないが、酸にも強塩基水溶液に溶ける。これら
の水酸化物は酸に対して塩基、塩基に対して酸として作用する(両性水酸化物)
Al(OH)3 + 3HCl → AlCl3
+ 3H2O, Al(OH)3 + NaOH → Na[Al(OH)4]
酸・塩基の強さの定量的表現は pKa, pKb で行う(3-6 節)
アルカリ(OH
を持つ塩基:NaOH, Ca(OH)2)は 塩基の一部。塩基はアルカリの他 NH3 など水
アルカリ
−
中で OH を出す化合物
アル
カリ
塩基
3-3)水素イオン指数(hydrogen ion exponent)、平衡定数(equilibrium constant)
pH = - log10[H+]
(1909 年の提案)
+
[H ]は水素イオンのモル濃度(mol/l)
● 対数:pH が1違うと H+の濃度は 10 倍違う
● -が付いており、pH の大きいほうが H+の濃度は低い
●25℃, 中性で [H+] = [OH-]=10-7 mol/l pH = 7
酸性 < 中性(pH=7) < 塩基性
酸性溶液 [H+] = 酸の規定度(N)×電離度(α),
塩基性溶液 [H+] = (1×10−14)/(塩基の規定度(N)×電離度(α))
5
(2.2)
●[H+][OH−]を水のイオン積
水のイオン積(
水のイオン積(Kw)ionic product という(高温で上昇する)
KW=[H+][OH−]≈1.0✕10−14 (mol/L)2
(2.3)
【例5】 ・・・演習・・・
1)pH3 の溶液の水素イオン濃度(mol/l)は、pH5 の溶液の水素濃度の何倍か?
pH=3 [H+]=10−3 (mol/l), pH=5 [H+]=10−5 mol/l →100:1
2)0.1 規定の塩酸 1.0ml を水で薄めて 100ml としたときのpH は?
薄めた溶液の規定度 x は 0.1×(1.0/1000)=x×100/1000 より x = 0.001(N)
[H+] =0.001(mol/l)→ pH = −log10−3 =3
3)0.1 規定の NaOH 水溶液 1.0ml を水で薄めて 100ml とした溶液のpH は?
薄めた溶液の規定度 x は 0.1×(1.0/1000)=x ×100/1000 より x = 0.001(N)
[OH−] = 0.001(mol/l)→[H+]=10−14/10−3=10−11(mol/l)→pH = 11
4)0.1 規定のアンモニア水の電離度は 25℃において 0.013 である。この水溶液のpH は?
ただし log13=1.11 とする。
[OH−]=Nα=0.1×0.013=1.3×10−3(mol/l)→[H+]=10−14/1.3×10−3=
NH3 + H2O → NH4+ + OH−
10−10/13(mol/l) → pH = −log(10−10/13)=10+log13=10+1.11=11.11
5) 10.0N の塩酸溶液 10.0ml に 0.10N の水酸化ナトリウム溶液 990ml を加えた(1リットル溶液)。
pH は?
塩酸溶液のグラム当量=10.0× 10.0/1000=0.1(グラム当量)、NaOH 溶液のグラム当量=0.10
×990/1000=0.099(グラム当量) → 混合溶液は酸性で規定度 x(N)は
0.1 – 0.099 = x × (10.0 + 990)/1000 → x = 0.001(N) → [H+]=0.001(mol/l)
pH=3
グラム当量=規定度×電離度×容量(mL)/1000mL
0
1
5%
レモ
H2SO4 ン
2
3
4
5
6
ミ
ス
牛
カ
ン
イ
カ
乳
7
8
9
10
11
12
13
14
血
石
灰
4%
液
鹸
水
汁
NaOH
灰汁(アク)
:植物(炭水化物、たんぱく質、糖、繊維など)の燃焼で C,H,O,N の化合物はガスと
なり空気中へ、Na, K は Na2O, K2O として灰に残る→水溶液 NaOH, KOH: アルカリ性
濃度 CA mol/L の強酸の水溶液 [H+]= CA (mol/L)
CB mol/L の強塩基の水溶液 pH=14 + log CB
(2.4)
(2.5)
HOOC
H
OH
C
C
COOH
OH H
酒石酸の一つ
6
3-4
3-4)緩衝溶液(buffer solution)
solution
緩衝液は少量の酸や塩基を加えたり、多少濃度が変化したりしても pH が大きく変化しないようにした
溶液のことである。酢酸緩衝液(酢酸 + 酢酸ナトリウム)
、リン酸緩衝液(リン酸 + リン酸ナトリウ
ム)
、クエン酸緩衝液(クエン酸 + クエン酸ナトリウム)、ホウ酸緩衝液、酒石酸緩衝液、リン酸緩衝
生理食塩水などがある。
(pH = pKa ± 1 で有効)
OH
HOOCH2C
C
CH 2COOH
COOH
クエン酸(citric
acid)は柑橘類などに含まれる有機化合物で、ヒドロキシ酸のひとつである。
クエン酸
漢字では「枸櫞酸」と記される。枸櫞とは中国産のレモン(シトロン)の一種を指す。レモンをはじめ柑橘類に多く含まれているこ
とからこの名がついた。柑橘類の酸味の原因はクエン酸の味に因るものが多い。また、梅干しにも多量に含まれている。カル
ボキシル基を 3 個有する弱酸で、爽やかな酸味を持つことから食品添加物として多用される。水溶液は弱酸性(pKa = 2.87)を
呈する。常温で無色あるいは白色の固体であり、無水物と一水和物の結晶がある。両者とも揮発性は無く無臭である。
純水な水の pH は 25℃で 7 であるが、この水 1 L に1N 塩酸 0.1ml または1N 水酸化ナトリウム
0.1 ml を加えると pH は 4 {[H+]=0.1/1000=10−4 mol/l pH=4}または 10{[OH−]=0.1/1000=10−4 mol/l→
[H] = 10−14/10−4=10−10→pH = 10}となる。pH±3までの変動幅がある。ところが、酢酸と酢酸陰イオ
ンの混合溶液では少量の酸または塩基を加えてもそのpH はあまり変化しない。酢酸は次のよう
にわずかに電離している。CH3COOH ⇄ CH3COO− + H+ 、この液に酢酸ナトリウムを加える
と多量の酢酸陰イオンを生じ、上記の平衡は左の方向に移動する。その結果、プロトンの濃度は減
少し、pH は大きくなる。0.1mol の酢酸と 0.1mol の酢酸陰イオンを 1 L 中に含む水溶液のpH は
ほぼ 4.75 である。この溶液に a mol の塩酸または水酸化ナトリウムをそれぞれ加えたときの水素イ
オンの濃度は、それぞれ[CH3COOH] = (0.1 + a) (mol/l), [CH3COONa]=[CH3COO−]= (0.1 −a) (mol/l)で
電離定数 Ka は, Ka =[CH3COO−][H+]/[CH3COOH] より[H+] = Ka(0.1+a)/(0.1−a)である。a = 0.01 のと
き、pH はそれぞれ、ほぼ 4.66 または 4.86 であり、pH±0.1 程度である。
・・・・・・・・・・・
●pH の測定法 → 概要のみとする
次の電池の起電力
起電力(electromotive
force)を測定する
起電力
Pt,H2(g)|酸溶液|KCl(aq)|AgCl,Ag
参照電極: 通常、甘こう半電池(Hg2Cl2, Hg)
参照電極
塩化カリウムの濃度 通常 3.5M or 飽和(25℃で 4.16M)
起電力 E = E0 − (RT/F) ln [a(Cl−)a(H+)/p1/2] + Ej
(2-6)
−
−
E0: 標準起電力、a(Cl ), a(H+):KCl 溶液の Cl および酸溶液の H+の活量、
p:水素電極の水素の圧、Ej:2 つの溶液の液絡の電位
起電力を 2 つの酸溶液 X と S について水素圧と KCl 濃度を一定にして測定し、
2-6 式中の E0、
p1/2、
a(Cl−)を除く
E(X)= E0 − (RT/F) ln a(H+)[a(Cl−)/p1/2] + Ej → (E(X)−E0−Ej)(F/RT)=−ln a(X の H+)[a(Cl−)/p1/2]
E(S)においても
(E(S)−E0−Ej)(F/RT)=−ln a(S の H+)[a(Cl−)/p1/2]
(F/RT)[E(X)− E(S)] = ln a(X の H+)−ln a(S の H+) = 2.303(pH(X) − 2.303pH(S))
pH(X) − pH(S) =F[E(X)− E(S)]/2.303RT
(2-7)
pH(S)は標準溶液の pH(一覧表が米国 NBS National Bureau of Standards より出ている)
。
これと2液間の起電力差測定値に基づき未知溶液の pH(X)を得る
7
・・・・・
3-5)中和(酸塩基)滴定と指示薬
酸に塩基(または逆)の溶液を序々に混合(滴定 titration)すると pH = pKa ± 1 の pH 領域
で HA から A−(または BH+から B)へのほぼ完全な変化が起きる。終点(中和点
中和点)は、滴定の当
中和点
量点近くでの急激な pH 変化に含まれ、
この pH 近傍に pKa を持つ指示薬(indicator)が実験に適す。
1)強酸+強塩基メチルオレンジ(3.1~4.4 赤-黄)、メチルレッド(4.2~6.3 赤-黄)、フェノールフタ
レイン(8.3~10.0 無-赤)
2)強酸+弱塩基 メチルオレンジ(3.1~4.4), メチレッド(4.2~6.3)
3)弱酸+強塩基 フェノールフタレイン(8.3~10.0 赤-青)
4)リトマス 4.5~8.3、ブロムチモールブルー(6.0~7.6 黄-青)
ブロモチモールブルー
メチルオレンジ
リトマス
フェノールフタレイン
メチルレッド
リトマス(litmus)は、リトマスゴケなどある種の地衣類から得られる紫色の染料。複数の化学物質の
リトマス
混合物である。リトマス試験紙では変色域が広いため、単に酸性かアルカリ性かを判定することしかで
きない。1300 年ごろ、スペインカタルーニャ人の化学者デ・ビラノバが発見した
3-6)平衡定数と
3-6)平衡定数と pKa, pKb
酸は H+を供与する分子(HA→A-+H+)
、塩基は H+を受容する分子(B+H+→BH+)と定義された
(1923 年)
。水中では、H2O が塩基または酸として働く。
溶液中
HA + B ⇌ A- + BH+
酸
Ka ' =
HA
+ H2O ⇌ H3O+ + A-
[H 3O + ][A − ]
[HA][H2 O]
[H 3O + ][A − ]
K a = K a '[H 2 O] =
[HA]
より ,
pKa=-logKa
塩基
+
(2.8)
-
B + H2O ⇌ HB + OH
[HB+ ][OH − ]
Kb ' =
[B][H 2O]
より ,
[BH + ][OH − ]
K b = K b ' [ H 2 O] =
[B]
pKb=-logKb
(2.9)
+
酸 HA に対して、塩基 A を共役塩基、塩基 B に対して酸 BH を共役酸という。
−
共役酸・塩基で
pKa + pKb = 14.0
である。酸と塩基の反応は必ず共役塩基と共役酸を生成する。
8
(2.10)
HA + B ⇌ A- + BH+
この平衡が右に偏っているとき、酸 HA は酸 BH+より強い酸、塩基 B は塩基 A−より強い。
pKa = −logKa: 酸強度
CH4 50
NH3 23
H2O
15
HF
4
H2SO4: pKa1 −5, pKa2 1.99
H2S
7
HCl
−7
HNO3: −1.32
H2Se 4
HBr −9
H2Te 3
HI
H3PO4: pKa1 2.12, pKa2 7.21, pKa3 12.32
−11
H2CO3: pKa1 6.37, pKa2 10.3
CH3COOH pKa=4.76
強 −10
HI
−11
pKa
−8
−6
HBr HCl
−9 −7
−2
−4
H2SO4
−5
0
HNO3
−1.3
4
2
H2PO4−
7.2
6
8 10
H3PO4 CH3CO2H
2.1 4.8
H2CO3
HSO4−
6.4
1.99
pKa=??
pKa=??
HPO42−
12.3
12 14
弱
HCO3−
10.3
pKa=4.62
pKa=5.23
水溶液中の塩基のpKa・・・H2O のpKa が-1.74 であり、これより大きい pKa の化合物は塩基性を
示す(NH3 9.25, CH3NH2 10.64)
。
・・・・・・
酸と塩基の解離定数(授業では概要を説明する)
●水中の酸 HA の解離 HA + H2O → H3O+ + A−
解離定数(dissociation constant): イオンの濃度が大きくなるとイオン間の相互作用が発生しイ
解離定数
オンの実効濃度が変化するため、活量(活動度)係数
活量(活動度)係数γ(activity coefficient)で補正することが必要
となる。この補正をしていない式は古典的熱力学的表現(K=[H3O+][A−]/[HA][H2O])である。
活量係数は十分希薄な溶液で1であり、イオン濃度が増すと1からずれる。従って、濃度cにγを
かけたものが実効濃度であり、活量
活量(
活動度)
活量
(活動度
)a(activity)といわれる。
a = γc
(2-11)
解離定数は
(2-12)
a(H2O):希薄溶液での水の活動度は一定・・・平衡定数 Ka’から除き Ka とする
Ka’ =a(H3O+)a(A−)/a(HA)a(H2O)
Ka =a(H3O+)a(A−)/a(HA)
a(H3O+)を a(H+)で置き換えると
9
Ka = a(H+)a(A−)/a(HA)
pKa = −log Ka
∆G0 = −RT ln K = −2.303RT log Ka = 2.303RT pKa (2-13)
∆G0 = ∆H0 − T∆S0
(2-14)
pKa:酸強度 水溶液中の水素化物の酸強度
CH4 50
NH3 23
●塩基 B の解離
B
他 HNO3 pKa=−1.32
H2O
15
HF
H2S
7
HCl
H2Se
4
HBr −9
H2Te
3
HI
+ H2O
→
BH+
4
−7
−11
H2SO4 pKa1=−5, pKa2=1.99
H3PO4 pKa1=2.12, pKa2=7.21,
pKa3=12.32
CH3CO2H pKa=4.76
H2CO3 pKa1=6.37, pKa2=10.3
+OH−
Kb = a(BH+)a(OH−)/a(B)
pKb = −log Kb aniline pKa=4.62, pyridine pKa=5.23
●解離定数は溶液の伝導度の測定、それぞれの活量係数(γ)を知ったうえで水素イオン濃度 c(H+)を
測定することで得られる。
a(H+) = γ(H+)c(H+) なので
Ka = [c(H+)c(A−)/c(HA)][γ(H+)γ(A−)/γ(HA)]
(2-15)
希薄溶液で HA は電荷を持たないので、電気的相互作用の対象でなく、活量係数は1とできる。
Ka = [c(H+)c(A−)/c(HA)][γ(H+)γ(A−)]
Ostwald の希釈律
解離度(電離度)αの2元電解質 AB、その濃度 c mole/l
AB ⇌ A+ + B−
(1−α)c
αc αc
K = α2c / (1−α)
AB の初期濃度 c が低くなると、解離度αは1に近づく
(2-16)
Ostwald の希釈律を用いると
Ka = [α2c/(1−α)][γ(H+)γ(A−)]
酸と共役塩基で、 KaKb=Ks
Ks:溶媒の解離定数
ex.
(2-16)
(2-17)
酢酸 HAc、共役塩基 Ac−
HAc + H2O → H3O+ + Ac−
Ac− + H2O → OH− + HAc
KaKb =[a(H3O+)a(Ac−)/a(HAc)][a(OH−)a(HAc)/a(Ac−)]=a(H3O+)a(OH−)=Kw(溶媒水の解離定数)
~10−14 → c ~ 10-7 mole/l → pH ~ 7
酸と塩基を混合すると中和
中和(neutralization)が起こる。強酸と強塩基(完全に解離)以外では、
中和
生成物が溶媒と反応することが考えられる。この過程を溶媒化分解、ソルボリシス
ソルボリシス(solvolysis)とい
う。溶媒が水の場合は特に加水分解
加水分解という。
加水分解
・・・・・・・
10
3-7
3-7)超酸
超酸(super
acid): 硫酸より強い酸 FSO3H, CF3SO3H
超酸
●超酸にルイス酸として働く金属ハロゲン化物を溶かし、酸の解離で生じるアニオンを錯体化して
安定にすると、平衡がさらに右に偏り、酸性度が増す
2FSO3H + SbF5 → [FSO3H2]+[SbF5SO3F]−
酸
酸度関数 H0
超酸+ルイス酸
酸度関数 H0
液体 HF
−11.03
FSO3H+ SbF5
−18.94
H2SO4
−11.93
FSO3H+TaF5
−16.7
FSO3H
−14.7~−15
FSO3H+ SbF5+SO3
−19.35
CF3SO3H
−14.5
CF3SO3H+SbF5
−18
C2F5SO3H
−14.0
CF3SO3H+TaF5
−16.5
酸度関数:絶対値が大きいほど強酸
3-8
3-8)酸化物
1) 酸性酸化物(
酸性酸化物(非金属の酸化物)
非金属の酸化物): SO2, SO3, CO2, NO2, P4O10, SiO2
○水と反応して酸を作る(亜硫酸、硫酸、炭酸、硝酸、リン酸となる。SiO2 は水にほとんど溶けない
が強塩基と反応して塩を作る SiO2+2NaOH →Na2SiO3+H2O)
○塩基と反応して塩を作る
○NO, CO は非金属酸化物であるが水にほとんど溶けず、塩基とも反応しないので酸性酸化物でな
い。
酸性酸化物 SOx (ソックス)、NOx (ノックス)
SO2 + H2O → H2SO3,
CO2 + H2O → H2CO3
2)塩基性酸化物
: K2O, Na2O, CaO, BaO, MgO
2)塩基性酸化物(
塩基性酸化物(金属の酸化物)
金属の酸化物)
○水と反応して塩基を作る。酸と反応して塩を作る。
○金属の酸化物でも Cr, Mn の酸化物は酸化数によって次の酸化物を作る
低い酸化数
CrIIO, MnIIO ・・・塩基性酸化物
中間の酸化数
高い酸化数
CrIII2O3, MnIVO2 ・・・両性酸化物
CrVIO3, MnVII2O7 ・・・酸性酸化物
塩基性酸化物 Na2O, K2O, CaO
Na2O + H2O → 2NaOH
CaO + H2O → Ca(OH)2
3)両性酸化物
3)両性酸化物(
両性酸化物(両性元素 Al, Zn, Sn, Pb の酸化物): Al2O3, ZnO, SnO, PbO
○酸及び塩基と反応して塩を作る。 塩基との塩の化学式は特殊なので記憶する
Na[Al(OH)4], Na2[Zn(OH)4]
両性酸化物 Al2O3, BeO
11
Al2O3 + 6HCl → 2AlCl3 + 3H2O
Al2O3 + 2NaOH → 2NaAlO2 + H2O
族
1
2
13
14
15
周
2
Li2O
BeO
B2O3
CO2
N2O5, NO2
期
3
Na2O
MgO
Al2O3
SiO2
P4O10
4
K2O
CaO
族
1
周 1 H
期 2 Li
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
17
SO3, SO2
Cl2O7
14
15
16
17
Be
塩基性酸化物
両性酸化物
Sc
Ti
V
5 Rb Sr
Y
Zr
Nb Mo Tc
6 Cs
Ba
La Hf Ta
7 Fr
Ra
Ac
酸性酸化物
Ca
Cr
W
Mn Fe
Re
Co
Ni
Cu Zn
B
C
N
O
F
Ne
Al
Si
P
S
Cl
Ar
Se
Br
Kr
Ga Ge As
Ru Rh Pd Ag Cd In
Sn Sb
Te
I
Xe
Os Ir
Pb Bi
Po
At
Rn
Pt
Au Hg Tl
3-9
3-9) 中和反応、加水分解と塩
中和反応、加水分解と塩
中和反応:酸と塩基の反応→水+塩
中和反応
中和
酸
中和と塩
+
塩基
逆反応を塩の加水分解
加水分解(
加水分解(hydrolysis)
hydrolysis)という
⇔
加水分解
塩
+
酸
酸性物質+塩基性物質 → 塩 + 水
○酸性物質は、酸、酸性酸化物、両性酸化物、両性水酸化物
○塩基性物質は、 塩基、塩基性酸化物、両性酸化物、両性水酸化物、炭酸塩
1) HCl + NaOH → NaCl + H2O
2) 2HCl + CaO (塩基性酸化物)→ CaCl2 + H2O
3) 2HCl + ZnO (両性酸化物)→ ZnCl2 + H2O
4)
5)
6)
7)
8)
9)
18
He
3 Na Mg
4 K
13
16
3HCl + Al(OH)3 (両性水酸化物)→ AlCl3 + 3H2O
CO2 (酸性酸化物) + Ca(OH)2 → CaCO3 + H2O
ZnO (両性酸化物) + 2NaOH + H2O → Na2[Zn(OH)4]
Al(OH)3 (両性水酸化物)+ NaOH → Na[Al(OH)4]
CO2 (酸性酸化物)+ CaO (塩基性酸化物)→ CaCO3
H2SO4 + 2NH3 → (NH4)2SO4
10) 2HCl + Na2CO3 (炭酸塩) → 2NaCl + CO2↑ + H2O
12
(2.18)
(2.19)
塩は中和反応の他、次の反応によっても生成される。
11) 2Na + Cl2 (金属+非金属)→ 2NaCl
12) 2Al + 2NaOH + 6H2O (金属+塩基)→ 2Na[Al(OH) 4] + 3H2↑
13) Fe + CuSO4 (金属+塩)→ FeSO4 + Cu
14) Cl2 + 2NaOH (非金属+塩基)→ NaCl + NaClO + H2O
15) Cl2 + 2KI (非金属+塩)→ 2KCl + I2
16) BaCl2 + H2SO4 (塩+酸)→ BaSO4 + 2HCl↑
17) FeCl3 + 3NaOH (塩+塩基)→ 3NaCl + Fe(OH)3 ↓
18) AgNO3 + NaCl (塩+塩)→ AgCl↓ + NaNO3
最終反応において
反応において↑
を入れないことが多いが、
ことが多いが、入れると
入れると反応式を考察するうえで極めて便利
最終
反応において
↑、↓を入れない
ことが多いが、
入れると
反応式を考察するうえで極めて便利
塩の分類
正塩:H+や OH-が残っていない塩 NaCl, CaCl2, CuSO4, Ca(NO3) 2
酸性塩:H+が残っている塩(その溶液が酸性を示す塩ではない) NaHCO3, NaHSO4, NaH2PO4
塩基性塩:OH-が残っている塩(その溶液が塩基性を示す塩ではない) CaCl(OH),Cu(OH)Cl,
Mg(OH)Cl
○ 正塩、酸性塩、塩基性塩は単に H+,OH-が残っているか
が残っているか、いないか、
いないか、形式的な分類
(非常に紛らわしい分類なり)
。塩の溶液の液性(酸性か塩基性)とは無関係なり。
複塩:2 種以上の塩が一定の割合で結合した塩で、水溶液中で個々の成分イオンに電離
ミョウバン AlK(SO4) 2·12H2OAl3+ + K+ + 2SO42- + 12 H2O
さらし粉 CaCl(ClO) ·H2O Ca2++Cl- + ClO- + H2O
錯塩:金属イオンと分子、金属イオンと陰イオンが配位結合した錯イオンを含む塩
錯イオン・・・[Ag(NH3) 2]+, [Co(NH3) 6]6+, Cu(H2O) 4]2+, [Ag(S2O3) 2]3-, [Fe(CN) 6]4-
塩の水溶液の液性
塩が水に溶け、生じたイオンが水と反応して弱酸または弱塩基を生じる(加水分解)
。加水分解で
生成する酸と塩基のうち、強い方の性質が出る。
1) 強酸と強塩基の塩:成分イオンは完全に電離しており加水分解をしない
正塩の水溶液は中性、酸性塩の水溶液は酸性(NaHSO4)
2) 強酸と弱塩基の塩:加水分解し、正塩でも塩基正塩でも酸性(NH4Cl、Mg(OH)Cl)
3) 弱酸と強塩基の塩:加水分解し、正塩でも酸性塩でも塩基性(K2CO3, NaHCO3)
4) 弱酸と弱塩基の塩:加水分解するが、中性 (cf 弱酸+弱塩基 反応しない)
13
塩の反応
1) 塩と酸の反応
○弱酸の塩+強酸 → 強酸の塩+弱酸
CaCO3 + 2HCl → CaCl2 + CO2 + H2O
○揮発性酸の塩+不揮発性酸 → 不揮発性酸の塩 + 揮発性酸
NaCl + H2SO4 → NaHSO4 + HCl
○難溶性塩の析出がある場合
BaCl2 + H2SO4 → BaSO4↓ + 2HCl
2) 塩と塩基の反応
○弱塩基の塩+強塩基 → 強塩基の塩+弱塩基
2NH4Cl + Ca(OH) 2 → CaCl2 + 2NH3 + 2H2O
3) 塩と塩の反応
○難溶性塩、複塩、錯塩(非常に安定、難溶のとき)が生じるときに反応が進む
AgNO3 + NaCl → AgCl↓ + NaNO3
Al2(SO4) 3 + K2SO4 + 24H2O → 2[Al·K(SO4)2·12H2O]
FeSO4 + 6KCN → K4[Fe(CN)6] + K2SO4
フェロ
フェロシアン化カリウム
3-10) 酸・塩基の当量と規定度
酸(塩基)の当量 =
分子量(式量)/酸(塩基)の価数
(2.20)
【例】H2SO4 の1グラム当量=98(g)/2=49(g),
NaOH の 1 グラム当量=40(g)/1=40(g)
酸(塩基)の1規定液(1N)・・・酸(塩基)1 グラム当量/l
(2.21)
酸・塩基
価数
1 mol
1 グラム当量
1 モル濃度
1 規定液
HCl
1
36.5g
36.5g
36.5g/l
36.5g/l
HNO3
1
63.0g
63.0g
63.0g/l
63.0g/l
CH3COOH
1
60.0g
60.0g
60.0g/l
60.0g/l
H2SO4
2
98.0g
49.0g
98.0g/l
49.0g/l
CO2
2
44.0g
22.0g
44.0g/l
22.0g/l
H3PO4
3
98.0g
32.7g
98.0g/l
32.7g/l
NaOH
1
40.0g
40.0g
40.0g/l
40.0g/l
KOH
1
56.0g
56.0g
56.0g/l
56.0g/l
Ca(OH)2
2
74.0g
37.0g
74.0g/l
37.0g/l
Ba(OH)2
2
171.3g
85.7g
171.3g/l
85.7g/l
NH3
1
17.0g
17.0g
17.0g/l
17.0g/l
量的計算は必ずグラム当量に換算する
1)wg → w/(酸の当量)、2) 濃度 a %(比重 d)の酸vml→(d × v × a/100)/(酸の当量)
3) N 規定の酸 V ml→N× V/1000, O℃, 1 atm の気体 v l →(v/22.4)/価数
14
中和反応での当量点
酸のグラム当量数=塩基のグラム当量数
【例1】炭酸ナトリウムの中和 2段階 Na2CO3 → NaHCO3 →H2O + CO2
1) Na2CO3 + HCl → NaHCO3 + NaCl
指示薬 フェノールフタレイン(赤→無色)
2) NaHCO3 + HCl → NaCl + H2O + CO2 指示薬メチルバイオレット(黄色→赤)
3-11
3-11) 酸―塩基触媒反応
酸塩基による触媒反応は均一触媒反応として興味あるものが多い:有機化学、生化学
1812 Kirchhoff でんぷん→ブドウ糖
1818 アルカリ溶液中での過酸化水素の分解反応
1850 酸触媒によるショ糖の転化速度
C12H22O11 + H2O +HA → C6H12O6 + C6H12O6 + HA
酵素が酸ー塩基触媒として作用
3-12.内在的酸性度 2 年生には難しいので省略
●気体中での酸性度:内在的酸性度(intrinsic acidity)
次の反応のエンタルピー変化∆H0 または自由エネルギー変化∆G0 で表される
AH → A− + H+
この反応を分解する
AH
→ A• + H•
H•
→ H+ + e
•
A + e → A−
D(A−H) 結合 A−H の解離エネルギー
Ip(H•)
H•のイオン化電位
EA(A•)
A•の電子親和力
吸熱
吸熱
発熱
AH
→ A− + H+
D(A−H) + Ip(H•) − EA(A•) = ∆H0
D(A−H), EA(A•)の実測値は少ないが、酸 AH と塩化水素とのプロトン移動反応の平衡定数から、
D(A−H)−EA(A•)を求める。 ∆H0 または D(A−H)−EA(A•)の値が小さいほど強酸である。
酸
D(A−H)
−EA(A•)
∆H0
酸
D(A−H)
−EA(A•)
∆H0
NH3
376
1690
cyclopentadiene
175
1487
H2O
318
1632
fluorine
164
1478
C6H5CH3
280
1594
H2S
161
1473
CH3OH
263
1575
C6H5OH
151
1464
(CH3)2S=O
255
1567
CH3COOH
145
1458
CH3CN
251
1563
succinimide
133
1445
HF
240
1552
C6H5COOH
103
1415
(CH3)2C=O
235
1547
HCl
84
1396
(CH3)2SO2
221
1533
CH2(CN)2
71
1406
15
N
pyrrole
H H
cyclopentadiene
H H
fluorene
O
N
H
succinimide
O
(C6H5)2CH2
206
1518
HBr
42
1351
pyrrole
192
1503
CF3COOH
38
1350
CH3NO2
184
1496
HI
3
1315
気相中の酸強度は溶液中とは非常に異なる。
1)ハロゲン化水素酸
水中でカルボン酸より強酸
気相 HCl は安息香酸と大差ない。HF は酢酸より弱い. 強さ HI>HBr>HCl>HF
2)メタノール
水中で水より弱い酸
気相で水より強い酸
3)酢酸と安息香酸
水中で同程度の酸
気相で安息香酸が強い酸
4)フェノールと酢酸
水中で酢酸のほうが強酸
気相で同程度
●主な起因 イオンの溶媒和エネルギー
溶媒和エネルギー Born 近似 ∆Gsolv =Z2e2(1 − ε−1)/2r
∆Gsol:溶媒和自由エネルギー、Z:イオンの電荷数、e:電子電荷、ε:溶媒誘電率、r:イオン半径
オン半径が電荷の非局在で大きく変化する
ex.フェノラートアニオン:負電荷はベンゼン環まで広く非局在
非局在しrが大きく溶媒和は小さい
非局在
カルボン酸アニオンの負電荷は CO2−に局在し、溶媒和は大きい
強酸から生じるアニオン(弱い塩基)ほど溶媒和エネルギーは小さい
気相中での弱酸のアニオン(強塩基)は溶液中で強く溶媒和され安定化するので解離度が増加
●置換フェノール、置換安息香酸、置換ピリジンでは気相中と溶液中の酸性度が比例(∆H0 と溶媒
和エネルギーが比例するため)
3-13.Hammett 則
ハメット(L. P. Hammett)のσは、ブレンシュテッドの酸・塩基の強さに対する置換基効果の定
量的取り扱いから得られた置換基の電子吸引や電子供与の能力を示すパラメータであったが、有機
反応や電子物性にまで適用できるとともに、分子設計指針を考えるパラメータの一つとして重要な
ものである。基準とする酸は安息香酸(HA0)で、置換基 X をもつ安息香酸を HA とする。その間
での酸・塩基平衡は HA + A0- ⇌ A- + HA0 で、
CO2H
CO2H
[A][HA 0 ] [A][H] [HA 0 ]
K
KHA-Ao =
=
=
[HA][A 0 ] [HA] [H][A 0 ] K 0
X
HA0
HA
KHA-A0 は酸 HA0 を基準とした酸 HA の強さを示す。
∆G = −RTlnKHA-A0 = ∆H − T∆S
G はギブス自由エネルギーで、生成エンタルピー(∆H)は 結合に関する因
16
子の影響を主に反映、また、生成エントロピー(∆S)は溶媒の種類、反応粒子数、オルト、メタ、パ
ラ置換体などの立体因子の影響を主に反映する。したがって、
1)溶媒を一定とし、立体因子も一定なら ∆S≈0
2)T∆S と∆H が T∆S=p' + q'∆H の関係(芳香族の酸・塩基置換系で成立)なら
∆G = p + q∆H
H+と塩基(A0-, A-)の結合に関する因子(∆H 項)のみを考慮し、∆G の差を KHA-A0 に結
びつけることができる、すると
(2-22)
log KHA-Ao = log K - log K0 = a∆H = σ
+
+
つまり、log KHA-A0 は HA における H と A の結合の切断と、H と A0 との結合の生成エンタルピー
変化に比例する値で、置換基の効果を示す。これをハメットのσという。
σ < 0 水素に比べベンゼン核へ電子密度を増加させる置換基(電子供与基)で、
塩基性↑
酸性↓
HOMO↑(Ip↓)~ドナー性↑
σ > 0 水素に比べベンゼン核の電子を引きつける置換基(電子吸引基)で、
塩基性↓ 酸性↑ LUMO↓(EA↑)~アクセプター性↑
ここで、矢印の↑、↓は各々増加、減少を示す。
●電気陰性度(electronegativity)の大きい原子、置換基をつけると酸性度は増加
電気陰性度
F > Cl > Br > I
・・・・・・・・・・
4) ルイスの酸ルイスの酸-塩基
●ブレンシュテッドの酸・塩基の提案と同じ 1923 年に、八偶説(オクテット則)を提唱したルイ
スが提案
●酸は共有結合を形成するため他の物質から一対の電子対を奪い(電子対受容体、ルイス酸)
、塩
基(電子対供与体、ルイス塩基)は電子対を与え、ともに希ガス型電子配置をとる。
4-1)
-1)電子式
-1)電子式
【例】 K, L 殻電子の元素 s 軌道、p軌道を考えず、元素記号の周囲に8電子までを記す。一個
の丸は不対電子を示し、2 個揃うと電子対を形成したとする(孤立電子対、非共有電子対、N, O,
F 原子の赤丸2個で示す)
。一方、B 原子には青四角で示す電子対のない軌道(空軌道)がある。
H
He
O
F
Ne
Be
B
C
N
【例1】
Li
+
H2O の非共有電子対に H の空軌道が配位し(配位結合)
、ヒドロニウムイオン H3O+を形成。
(H2O はルイス塩基、H+はルイス酸)
H
O
2H
H
H O H
17
HO H
(2.23)
【例2】
NH3 の非共有電子対に H+の空軌道が配位し、アンモニウムイオン NH4+を形成。
(NH3 はルイス塩基、H+はルイス酸)
(2.24)
【例3】BF3 + :NR3 ⇌ F3B:NR3 を八偶説に沿って図示
価電子、B3個、F7個、N5個、 R1個、
価結合
:正常共有原子価結合、
非共有電子対
空軌道
xx
x
x
xx
x
x
x
F
B
F
xx
xx
x
x
3
NH3(sp )
:配位共有原子
x
x
F
xx
x
x
BF3
xx
x
x
xx
x
x
x
F
B
F
xx
xx
x
x
x
x
x
x
F
xx
●オクテット則を満たさない第 13 族元素(B, Al)の共有結合化合物は、空の軌道(空軌道(vacant
orbital), 非占有軌道(unoccupied orbital)を持つので強いルイス酸で、配位結合により錯体を形成
する。
18
●遷移金属元素の多くは共有結合に利用される価電子の他に空のd軌道などを持ち(空軌道)ルイ
ス酸となり、多くの種類の金属錯体が配位結合により形成される。
4-2. ルイス酸の分類
ルイス酸の分類
A + :B ⇌ A:B
A が金属なら :B は配位子(ligand)
A は求電子試薬 :B は求核試薬
Brønsted の酸塩基と異なり Lewis の酸塩基はその強度を単一の尺度であらわせない欠点がある。
ルイスの酸塩基では、相手によって強度の順列が異なる場合がある。
H+に対して OH− > NH3 > ピリジン > CH3COO− > Cl− > Br− > I−
Ag+に対して I− > Br− > NH3 > Cl− > ピリジン > OH− > CH3COO−
1958 年 J.Chatt, S.Ahrland, N.R.Davies は周期表の各族の最初の原子(N,O,F など)と最も安定
な錯体を形成する金属をクラス
クラス(a)
(a)金属
金属、各族の2番目以降の原子(P,S,Cl など)と最も安定な錯
クラス
(a)
金属
体を形成する金属をクラス
クラス(b)
(b)金属
金属とした。
クラス
(b)
金属
主に 2 種の金属がある
1)周期表の小さい軌道の非金属元素(第2,3周期元素)と結合し易い金属
各属の最初の非金属元素と最も安定な化合物を形成する
N>>P>As>Sb, O>>S>Se>Te, F>Cl>Br>I
これらをクラス
クラス a 金属と分類→硬い酸
金属
逆に
2)周期表の大きい軌道の非金属元素(第5、4周期元素)と結合し易い金属
各属の後ろの非金属元素と最も安定な化合物を形成する
N<<P<As<Sb, O<<S~Se~Te, F<Cl<Br<I
これらをクラス b 金属と分類→軟らかい酸
ルイス塩基の親和力
クラス(a)
クラス(a)金属に対し
(a)金属に対し
N >>P>As>Sb
O>>S>Se>Te
F>Cl>Br>I
クラス(b)
クラス(b)金属に対し
(b)金属に対し
N<<P<As<Sb
O<<S~Se~Te
F<Cl<Br<I
次項のピアソンは
クラス(a)の金属(非金属も)
:硬い酸、硬い酸と反応しやすい N,O,F などを硬い塩基
クラス(b)の金属(非金属も)
:軟らかい酸、軟らかい酸と反応しやすい P,S,I などを軟らかい塩基
とした。
19
5)ピアソンの酸ピアソンの酸-塩基:
塩基 Hard and Soft AcidAcid-Base(HSAB
Base(HSAB)
HSAB)
ピアソン(R. G. Pearson)は、1963 年に硬さと軟らかさで酸・塩基を分類した。この硬さ・軟ら
かさは電子雲の性質と考えればよい。最外殻の電子軌道が電場にたいして分極し難い物質が硬い
酸・塩基であり、外電場に大きく分極する物質が軟らかな酸・塩基である。硬さ・軟らかのパラメ
ータとして原子分極率や分子分極率があるが、イオン化した化学種の分極率を測定するのは困難で
あり、良い定量化の方法がない。無機錯塩化学の分野に関しては、金属イオンの軟らかさの目安と
して、
M(g) → Mn+(aq) + ne-
式の反応の∆H0/n つまり(M のイオン化エネルギーと Mn+の水和エネルギー)/n が利用され、正で
大きな値であるほど軟らかく、負で大きいほど硬い金属イオンとする。一方、塩基の軟らかさとし
て、
L(g) + ne- → Ln-(aq)
式の∆H0/n つまり(L の電子親和力と Ln-の水和エネルギー)/n が用いられる。これらは負の値であ
り、零に近いほど軟らかく、より負になると硬くなる。
負
硬い
軟らか
正
酸
(M のイオン化エネルギーと Mn+の水和エネルギー)/n
塩基
負
硬い
軟らか
0
n-
(L の電子親和力と L の水和エネルギー)/n
●硬い酸塩基:最外殻電子雲が電場に対して分極し難い物質で、硬い酸は硬い塩基とイオン結晶を
形成し易い
●軟らかい酸塩基は電場に対して分極し易い物質で、軟らかい酸は軟らかい塩基と共有結合性結晶
を形成し易い
硬いおよび軟らかい酸・塩基は、
硬い塩基:分極し難い、EA が大きい
酸:体積小さい、高い正電荷をもつ、Ip が小さい
軟らかい塩基:分極し易い、EA が小さい
酸:体積大きい、低い正電荷、Ip が大きい
イオン性結晶を与えやす
共有結合性結晶を与えやすい
硬い酸:硬い塩基と安定なイオン性化合物を作る酸: H+, Li+, Na+, K+, Be2+, Mg2+, Ca2+, Sr2+,
Mn2+, Al3+, N3+, As3+, Cr3+, Co3+, Fe3+, Si4+, Sn4+, BF3, AlCl3, CO2
中間の酸:Fe2+, Co2+, Ni2+, Cu2+, Zn2+, Pb2+, Sn2+, Sb3+, Bi3+, Rh3+, Ir3+, B(CH3)3, SO2, NO+, Ru2+,
Os2+, R3C+, C6H5+, GaH3
軟らかい酸:軟らかい塩基と共役結合性化合物・分子性化合物を形成する酸: Ag+, Cu+,
Au+,Tl+,Hg+,Pd2+, Cd2+,Pt2+, Hg2+,Pt4+,Tl3+,RS+, I+, HO+, I2, Br2, ICN, 有機アクセプター分子
硬い塩基(分極し難い)
:H2O, OH-,F-,SO42-,PO43-,CH3CO2-,RO-,Cl-,ClO4-,NO3-,ROH,
NH3, RNH2,
中間の塩基:C6H5NH2, C5H5N, N3-, Br-, NO2-, SO32-, N2
軟らかい塩基(分極し易い)
:R2S, RSH, RS-, I-, SCN-, R3P, CN-, RCN, CO, C2H4, C6H6, H-,
R-,有機ドナー分子
20
この概念は無機化合物や無機錯塩の結合、構造、反応、物性の解釈に大いに貢献した。また、無
機錯塩に限らず有機物の物性にも適用可能と考えられるが、有機化合物の酸・塩基としての軟らか
さを、微細に目盛る尺度に欠けている(M, L を有機分子とした場合の溶媒和エネルギー、電子親
和力の実験値が少ない)
。元素に関しては図 2-1 を参照のこと。
SCN 基は[S(軟らかい部分)CN(硬い部分)]より成り、硬い酸である金属とは N 原子で配位し、
イソチオシアナート錯体を与える;例、MnII(NCS)42-, MnII(NCS)64-, FeII(NCS)42-, FeIII(NCS)63- [ただ
イソチオシアナート錯体
し、Mn, Fe は中間の酸]。また、軟らかい酸である金属イオンとは S 原子で配位しチオシアナート
チオシアナート
II
2-
IV
2-
III
II
2-
+
-
錯体を与える;例、Pt (SCN)4 , Pt (SCN)6 , Au (SCN)4 , Hg (SCN)4 。Cu は S および N に配位
錯体
できる。Co3+は中間の酸に分類され、SCN-が2つの Co3+を架橋した塩がある[(NH3)5CoⅢNCSCoⅢ
(CN)5, (NH3)5CoⅢSCNCoⅢ(CN)5]。AgSCN は共有結合性で、(-Ag-NCS-)∞のジグザグ鎖からなる。
イオン伝導の一つの設計指針として、
「硬い酸を柔らかな塩基構造体の中(欠陥)を動かすまた
イオン伝導
はその逆の組み合わせ」がある。例として、有機物二次電池:Li+(硬い酸)と有機ポリアセン-
(軟らかい塩基)の二次電池がある。前述したように、ピアソンの分類では、有機物は酸としても
塩基としても一括して軟らかなものとして分類されているが、その軟硬の順序や程度が明確になる
と、有機物イオン電池の性能向上に有効であろう。
各元素の酸としての硬さ、軟らかさ
H
Li
Be
B
C
N
O
Na
Mg
Al
Si
P
S
Cl
K
Ca
Sc
Ti
V
Cr
Mn
Fe
Co
Ni
Cu
Zn
Ga
Ge
As
Se
Br
Rb
Sr
Y
Zr
Nb
Mo
Tc
Ru
Rh
Pd
Ag
Cd
Sn
Sb
Te
I
Cs
Ba
La
Hf
Ta
W
Re
Os
Ir
Pt
Au
Hg
Pb
Bi
Po
At
Fr
Ra
Ac
Th
Pa
U
硬い酸
中間の酸
Tl
軟らかい酸
6) 化学反応式
化学反応式をしっかりと覚えるために・・・
化学反応式をしっかりと覚えるために・・・多種多様な反応式を見る
・・・多種多様な反応式を見る
●化学反応式(化学式を用いて化学変化を書いた式
→や=で反応系と生成系を結ぶ)
、
化学反応式
イオン反応式(水溶液での反応で、関与する分子、イオンのみを含む、→で結ぶ)
●イオン反応式
○化学反応式:同種元素は左辺と右辺で等しい。反応に無関係な化合物を入れない。
○イオン反応式:水に溶けない物質、沈殿、気体、水、弱電解質は化学式のまま。強電解質を陽イ
オン、陰イオンで書く。左右の原子数は等しい。左右の総電荷数は等しい。
化学量論的係数は連立方程式(未定係数法)で得る(簡単なものは目算で)
例 化学反応式
1)化合
化合 A + B →AB
1)
H2 + Cl2 → 2HCl, 4Na + O2 → 2Na2O
21
2)分解
分解 AB →B + C
2KClO3 → 2KCl + 3O2↑ 2NaHCO3 → Na2CO3 + CO2↑+ H2O
3)置換
置換 A + BC → AC + B
Zn + H2SO4 (金属と酸の反応)→ ZnSO4 + H2↑
Zn + 2NaOH + 2H2O (金属と塩基の反応)→ Na2[Zn(OH)4] + H2↑
Fe + CuSO4 (金属と塩の反応)→ FeSO4 + Cu
Cl2 + 2KI (非金属と塩の反応)→ 2KCl + I2 (ヨウ素は leaving group)
group)
4)複分解
4)
複分解 AB + CD → AD + CB
H2SO4 + 2NaOH (酸と塩基)→ Na2SO4 + 2H2O
CaCO3 + 2HCl (酸と塩基)→ CaCl2 + CO2↑ + H2O (単純な複分解+分解)
Fe(NO3)3 + 3NaOH (塩と塩基)→ Fe(OH)3 + 3NaNO3
AgNO3 + NaCl (塩と塩)→ AgCl + NaNO3
係数のつけ方を以下の反応で試すこと
MnO2 + 4HCl →MnCl2 + Cl2 + 2H2O,
2C2H6 + 7O2 → 4CO2 + 6H2O,
4FeS2 + 11O2 → 2Fe2O3 + 8SO2
イオン反応式 (酸化還元反応での量的関係の考察に便利)
Ag+ + Cl- → AgCl, Ba2+ + SO42- → BaSO4 (化学反応式は BaCl2 + H2SO4 → BaSO4 + 2HCl)
MnO4- + 8H+ + 5Fe2+ → Mn2+ + 5Fe3+ + 4H2O
(化学反応式は 2KMnO4 + 8H2SO4 + 10FeSO4 → K2SO4 + 2MnSO4 + 5Fe2(SO4)3 + 8H2O)
主な酸化・還元反応は3章で紹介する。
22
以下 重複する部分あり(複数の学年の講義に用いているため)
7)化学式 の名称(1)
F フッ化~, Cl 塩化~, Br 臭化~, I ヨウ化~, OH 水酸化~, CN シアン化~, O 酸化~, S 硫化~, C
炭化~, N 窒化~ NO3 硝酸~, MnO4 過マンガン酸~, CH3COO 酢酸~, SiO3 ケイ酸~, Al(OH) 4
or AlO2 アルミン酸~、C2O4 蓚酸~
塩素酸類
ClO 次亜塩素酸~, ClO2 亜塩素酸~、ClO3 塩素酸~, ClO4 過塩素酸~
燐酸類
H2PO4 リン酸二水素~, HPO4 リン酸一水素~, PO4 リン酸~
硫酸類
SO3 亜硫酸~, HSO4 硫酸水素~, SO4 硫酸~, S2O3 チオ硫酸~
炭酸類
HCO3 炭酸水素~, CO3 炭酸~
クロム酸類
CrO4 クロム酸~, Cr2O7 二クロム酸(重クロム酸)~
ヘキサシアノ Fe(III)(CN)6 ヘキサシアノ鉄(III)酸~, Fe(II)(CN)6 ヘキサシアノ鉄(II)酸~
鉄酸類
化学式 の名称(2
の名称(2)
原子価が2つ以上ある金属の化合物
○金属元素の後ろに原子価をローマ数字で( )内にいれる ・・この名称の方が良い
○金属元素名の前に第一、第二と原子価の小さいほうからつける
FeSO4:硫酸鉄(II), 硫酸第一鉄、 Fe2(SO4)3:硫酸鉄(III)、硫酸第二鉄
元素
例
Cu
+1, +2
Cu2O 酸化銅(I), CuSO4 硫酸銅(II)
Hg
+1, +2
Hg2Cl2(塩化第一水銀)
Fe
+2, +3
FeSO4, FeCl3(塩化第二鉄)
Sn
+2, +4
SnCl2(塩化第一スズ) , SnCl4(塩化第二スズ)
Mn
+2, +4, +7
MnCl2(塩化マンガン(II) ), MnO2 (二酸化マンガン、酸化マンガン
(IV)) , KMnO4(過マンガン酸カリ)
Cr
+3, +6
CrCl3(塩化クロム(III)), K2CrO4(クロム酸カリウム), K2Cr2O7(重
HgCl2(塩化第二水銀)
クロム酸カリウム)
S
−2, +4, +6
H2S(硫化水素), SO2(二酸化硫黄、亜硫酸ガス), H2SO4(硫酸)
Cl
-1,+1,+3,+4,+5,+7
NaCl, NaClO2, KClO3(塩素酸カリウム), Cl2O7(七酸化二塩素)他
さらし粉 CaCl(ClO)・H2O または Ca(ClO)2 :水酸化カルシウム(消石灰, Ca(OH)2 に Cl2 を作用さ
せる
化学式 の名称(3
の名称(3) 慣用名 例
化学式
Hg2Cl2
HgCl2
CaO
化学名
塩化水銀(II), 塩化第一水銀
塩化水銀(III)
、塩化第二水銀
酸化カルシウム
慣用名
甘こう、カロメル
昇コウ
生石灰
23
Ca(OH)2
NaOH
KOH
(NH4)2SO4
CaSO4·2H2O
NaCl
Na2CO3
NaHCO3
KNO3
NaNO3
Al2O3
CaC2
SO3
SO2
CO2
Na2SO4
K4[Fe(CN)6]
K3[Fe(CN)6]
CaCl(ClO)・H2O ま
たは Ca(ClO)2
KCN
NaCN
SiO2
TiO2
水酸化カルシウム
水酸化ナトリウム
水酸化カリウム
硫酸アンモニウム
硫酸カルシウム・2水和物
塩化ナトリウム
炭酸ナトリウム
炭酸水素ナトリウム
硝酸カリウム
硝酸ナトリウム
酸化アルミニウム
炭化カルシウム
三酸化硫黄
二酸化硫黄
二酸化炭素
硫酸ナトリウム
ヘキサシアニド鉄(II)酸カリウム
ヘキサシアニド鉄(III)酸カリウム
次亜塩素酸カルシウム
消石灰
カセイソーダ
カセイカリ
硫安
食塩、岩塩
炭酸ソーダ、ソーダ灰
重曹
硝石
チリ硝石
アルミナ
カーバイド
無水硫酸
亜硫酸ガス
炭酸ガス
芒硝、グローバー塩 10 水和物
フェロシン化カリウム、黄血塩
フェリシン化カリウム、赤血塩
さらし粉
シアン化カリウム
シアン化ナトリウム
二酸化ケイ素
二酸化チタン
青酸カリ
青酸ソーダ
シリカ、石英、水晶
チタニア
化合物の豆知識
17族元素:ハロゲン元素(halogen) 分子間相互作用はファンデルワールス力
非金属:フッ素、塩素、臭素、ヨウ素
非金属と金属の中間か?・・・アスタチン(不明元素)
●フッ素(F
フッ素
2, F, fluorine) 淡黄緑色の気体、反応性極めて高い、猛毒、電気陰性度最大の元素
フッ化水素酸 HF:腐食性強い、 ガラスのエッチング
フロン:炭素との化合物、沸点が高くエアコン冷媒
・・・・オゾン層の破壊(オゾンホール)
テフロン:フッ素樹脂 耐熱性、耐薬品性、摩擦係数低い
●塩素(Cl
、漂
塩素
2, Cl, chlorine) 黄緑色の気体、反応性極めて高い、猛毒、不快臭、殺菌(プール、浄水場)
白作用(さらし粉 Ca(ClO)2, CaCl(ClO)・H2O)
、
次亜塩素酸ナトリウム NaClO(次亜塩素酸ソーダとも呼ばれる。強アルカリ性である。希釈された水溶
液はアンチホルミンとも呼ばれる)
2NaOH + Cl2 → NaCl + NaClO + H2O
特異な臭気(いわゆるプールの臭いや漂白剤の臭いと言われる臭い)を有し、酸化作用、漂白作用、殺菌作
用がある。
○家庭用の製品の「混ぜるな危険」などの注意書きにもあるように、漂白剤や殺菌剤といった次亜塩素酸ナ
トリウム水溶液を塩酸などの強酸性物質(トイレ用の洗剤など)と混合すると、黄緑色の有毒な塩素ガスが
発生する。浴室で洗剤をまぜたことによる死者も出ているので取り扱いには注意が必要である。
+ 2HCl → NaCl + H2O + Cl2
○有機塩素化合物 DDT, BHC, PCB, ダイオキシン・・・人体に有害
24
NaClO
○ポリ塩化ビニル(塩ビ)
●臭素(Br
・・・取扱に注意(ドラフト使
臭素
2, Br, bromine) 赤褐色、重い液体(全元素中 Hg と Br2 のみ液体)
用)ピペットから落ちる・・蒸発しやすい・・赤色気体・・吸引しないこと、猛毒、刺激臭、性欲減、皮膚
に臭素が触れると腐食を引き起こす。臭化銀(AgBr)
銀板写真の原料
●ヨウ素(I
ヨウ素 2, I, iodine)黒紫色固体、高い昇華性、毒物、でんぷんの検出:ヨウ素でんぷん反応、
○消毒薬:ヨウ素のアルコール溶液がヨードチンキ、ヨウ素とヨウ化カリウムのグリセリン溶液がルゴール
液
●放射能汚染が起きた場合、放射性でないヨウ素の大量摂取により、あらかじめ甲状腺をヨウ素で飽和させ
る防護策が必要である。
HgCl2 昇汞(しょうこう)と呼ばれる。水溶性の無色または白色の針状結晶である。水にやや溶けやすい
昇汞
(常温で水 1kg に約 60g 溶ける)
。アルコールやエーテルにも溶ける。蛋白質を変性させる作用が強い猛毒
である。また、昇華しやすい。
Hg2Cl2 甘汞(かんこう)
、カロメル
カロメルとも言う。水銀原子同士が共有結合により結合しているため
HgCl と
甘汞
カロメル
は表記しない(Cl-Hg-Hg-Cl)
。光に当たると HgCl2 と金属水銀に分解する。毒性は HgCl2 よりは弱い。
Na2SiO3: 濃水溶液は水ガラス
水ガラスと言い、
無臭だが酸味が強く刺激性を有する。粘膜を侵し糜爛性があるため、
水ガラス
誤飲に注意する必要がある。東日本大震災によって深刻な事態に陥った福島第一原子力発電所の 2 号機では、
きわめて高い濃度の放射性物質を含む水が海に直接流出していたが、周辺に水ガラスを注入したことで流出
を弱めることができた。
Ca3(PO4)2 : 骨の約 70%はこの化合物の一種であるヒドロキシアパタイト
ヒドロキシアパタイトからできている。
ヒドロキシアパタイト
CaSO4 石膏の主成分
石膏
Na2S2O3 「チオ硫酸
チオ硫酸」という呼称は、硫酸が持つ酸素が
1 つ硫黄に置き換わっていることを示す。水道水中
チオ硫酸
の塩素などハロゲンの単体を除く作用があるので、金魚、熱帯魚など水生生物の飼育において、換水に際し
て塩素消毒の施された新鮮な水道水を水槽に入れざるを得ないときに、あらかじめ少量添加して使用される。
AgI:
結晶構造が氷に似ているため、水が結晶する際の種となりやすい。そのため、AgI の粒子を大気中
に散布すると、それを核にして雲が発生する。そのため、人工降雨
人工降雨の用途に使われている。AgI
には毒性が
人工降雨
あるが、人工降雨に使用される量は非常に微量であり異常摂取でもしない限り人体に影響を与えるほどでは
ない。
Ba(OH)2: バリタ (baryta) とも呼ばれ、飽和水溶液(バリタ水
バリタ水)は水酸化カルシウム同様に二酸化炭素を吹
バリタ水
き込むと炭酸バリウムが析出し、白く濁る。毒性が強く劇物。
フェリシアン化カリウム、
酸カリウム、
フェリシアン化カリウム、ヘキサシアニド鉄(III)酸カリウム
ヘキサシアニド鉄
酸カリウム 赤血塩:
赤血塩:錯塩の一種。組成式は K3[Fe(CN)6]。
赤色の結晶または粉末である。水に良く溶け、水溶液は黄緑色の蛍光をいくぶん示す。フェロシアン化カリ
ウムの溶液に塩素ガスを通じると得られる。
フェロシアン化カリウム、ヘキサシアニド鉄
フェロシアン化カリウム、ヘキサシアニド鉄(II)酸カリウム
、ヘキサシアニド鉄 酸カリウム、黄血塩
酸カリウム 黄血塩:
黄血塩:錯塩の一種。組成式は K4[Fe(CN)6]。
通常は三水和物の形で存在し、黄色の結晶または粉末である。水に可溶で、水溶液は淡黄色を示す。 シア
ン化ナトリウムに硫酸鉄(II)と塩化カリウムを加えると得られる。試薬 - 鉄イオンの検出などに用いる。2
価の鉄イオンを含む溶液に加えると青白色沈殿を生じ、3 価の鉄イオンの溶液に加えると濃青色沈澱(プル
プル
シアンブルー、ベルリンブルー)を生じる。鉄、銅、銀の安定化試薬として用いられる。
シアンブルー
酸化銅(II):
酸化銅 :黒色の粉末。天然では黒銅鉱として産出する。釉薬の着色剤として利用される。陶磁器に酸化
銅(II)を添加した釉薬をかけて焼成すると、酸化焼成では青色-緑色に、還元焼成では赤色に発色する。還元
25
焼成で現れる赤色はかつては釉薬中の酸化銅(II)が金属銅に還元されて発色したものと考えられたが、今日
では酸化銅(II)が酸化銅(I)に還元されて赤く発色すると考えられている。
硝酸銀
硝酸銀(I): 強電解質であり水によく溶けるが、非極性溶媒には溶けにくい。手につくと還元されて銀の微粒
子が沈着し黒色に染まりしばらく取れない。また酸化作用による腐食性を有する。銀鏡反応の試薬としてめ
銀鏡反応
っきに用いられることがある。硝酸銀(I)は液体アンモニア(液安
液安)またはアンモニア水と反応して徐々に雷
雷
液安
銀(Ag3N と AgNH2 の混合物)と呼ばれる黒色の結晶を生成することがある。これは非常に敏感な化合物
であり、水溶液中でも少しの摩擦・熱でも爆発する。またナトリウムイオンの存在下でこの化合物の生成が
促進されるので、これらの化合物を誤って作った場合、硝酸銀(I)とアンモニアを混合した廃液、銀鏡反応を
行ったあとの廃液は食塩水または塩酸で分解してから処分する必要がある。
硫酸ナトリウム:
硫酸ナトリウム:飽和水溶液から常温で結晶すると 10 水和物が得られる。普通この状態で存在することが
多い。10 水和物は俗に芒硝
芒硝あるいはグラウバー塩
グラウバー塩とよばれる無色の結晶。
無水物はガラスの製造、乾燥剤、
芒硝
グラウバー塩
十水和物は下剤にしたり、漢方薬などに配合される。また、温泉の含有物質として代表的である。硫酸ナト
リウムなど、アルカリ金属・アルカリ土類金属の硫酸塩を含む温泉は総じて硫酸泉・硫酸塩泉と呼ぶ。人体
に対する安全性の高い物質の 1 つであり、家庭用の入浴剤の主成分として炭酸水素ナトリウムとともに用い
られている。これらの説明書には「風呂釜を傷める硫黄分は含まれていない」という記述がなされている。
これは硫黄泉の成分を模した入浴剤(湯の花・ムトウ六一〇ハップ™等)とは異なり単体硫黄を成分に含ま
単体硫黄を成分に含ま
ないという意味であり、硫酸ナトリウム自体は硫黄化合物の
1 つである。
ない
酢酸鉛:甘味があり、歴史的に砂糖の代替物として用いられていた。古代ローマにおいては、蜂蜜以外に手
酢酸鉛
に入る甘味料は少なかったため、完熟させたブドウの果汁(ムスト)を鉛でコーティングされた青銅器で煮
ることによって得られるサパ (sapa) と呼ばれるシロップが甘味料として好んで作られていた。このシロッ
プは殺菌効果もあったことから、当時ワインの甘み付けや果物の保存に一般的に使われていた。しかしこれ
には製造の過程で青銅器にコーティングされた酢酸鉛などの鉛化合物が、加熱によって溶解される事に加え
て焦げ付き防止のために掻き混ぜる際擦れて溶け出し含まれてしまうため、大量の鉛が溶け出したシロップ
を添加したワインを好んで飲んだ者が鉛中毒となっていた可能性が否定できず、多くの皇帝など古代ローマ
の記録に残る有名な人物の発狂や死の原因ともなったと考える研究者がいる。作曲家ベートーヴェンが、そ
の晩年ほぼ耳が聴こえなくなった原因として、ベートーヴェンの毛髪から通常の 100 倍近い大量の鉛が検出
されたことから、近年の研究では鉛中毒が有力説とされている。彼は生前年代を指定して飲むほどワインを
愛飲しており、当時のヨーロッパでは、ワインの醸造過程で甘味料として酢酸鉛を含むサパなどの鉛化合物
類が頻繁に加えられていた事から、鉛入りのワインを大量摂取する形となり鉛中毒を引き起こしたとされ
る 。
復習
ブレーンステッド酸と塩基、ルイス酸と塩基の完全理解のために
ブレーンステッド酸と塩基
●1)強酸は H2O に完全に H+を与えるので、水素イオン濃度は強酸の濃度 CA mol/l に等しい
[H+] = CA (mol/l), pH = −log CA
(1)
−
●2)強塩基は OH より強い塩基で、H2O から完全に H+を奪うので、水酸化物イオン濃度は強塩
基の濃度 CB mol/l に等しい
[H+] = 10−14/CB, pH = 14 + log CB
(2)
26
●3)共役な酸と塩基の混合
酸 HA → A− + H+ (HA + H2O → A− + H3O+),
共役塩基の Na 塩 NaA →Na+ + A− ・・・→
A− + H2O → HA + OH−
なので HA ⇌ A− + H+
→ KA = [H+][A−]/[HA]
(3)
−
−
また、H2O ⇌ H+ + OH
KW = [H+][OH ]
(4)
の両式を用いて、共役な酸と塩基の水溶液の[H+]を求める。
HA の濃度 C mol/l、NaA の濃度 C’ mol/l とし、平衡状態では C + C’ = [HA] + [A−] (5)
また水溶液は全体として中性なので [陽イオンの濃度] = [陰イオンの濃度]より
[Na+] + [H+] =
5,6式より
[A−] + [OH−] → [A−] = [Na+] + [H+] − [OH−] = C’ + [H+] − [OH−] (6)
[HA] = C + C’ − [A−] = C − [H+] + [OH−]
(7)
6,7式を3式に入れると
KA = [H+][A−]/[HA] = [H+](C’ + [H+] − [OH−])/(C − [H+] + [OH−])
変形すると
[H+] = KA × (C − [H+] + [OH−])/ (C’ + [H+] − [OH−])
(8)
−
ここで関係式4を用い、[OH ]を消去すると[H+]の3次式で厳密に解くのは困難
[H+]3 + (C’+KA)[H+]2 − (KAC + KW)[H+] − KAKW=0
8 式は次の弱酸、弱塩基のpH を求めるのに便利な式
●弱酸、弱塩基の水溶液
◎4)弱酸水溶液 8式で C’ = 0, また [H+]>>[OH−]とする
[H+] = KA(C − [H+])/[H+] さらに C >>[H+] (活量係数が1より小さい、濃度の濃い系)
とすれば 濃度 C mol/l の弱酸水溶液で、
pH = (pKA − log C)/2
[H+] = KAC/[H+] → [H+] = (CKA)1/2
−
◎5)弱塩基水溶液 8式で C = 0、
「OH 」>> [H+]とする
(9)
[H+] = KA × [OH−]/ (C’ − [OH−]) さらに C ‘>>[OH−] (活量係数が1より小さい、濃度の濃い系)
とすれば 濃度 C’ mol/l の弱塩基水溶液で、
KW= [H+][OH−] → [H+] = (KAKW/C’)1/2 pH = 7 +(pKA + log C’)/2 (10)
[H+] = KA[OH−]/C’
●6)緩衝溶液
弱酸 HA とその共役塩基 A−の混合水溶液では、余分な酸や塩基を加えても水
溶液のpH は大きく変化しない(buffer solution)
8 式 [H+] = KA × (C − [H+] + [OH−])/ (C’ + [H+] − [OH−]) で、C, C’ >> [H+], [OH−]とすれば
[H+] = KA C /C’
pH = pKA + log C’/C
(11)
血液のpH: CO2 水溶液+炭酸水素塩の緩衝作用で 約 pH = 7.4
細胞液のpH: リン酸二水素塩+リン酸水素塩の緩衝作用で 約 pH = 6.9
H2PO4− ⇌ H+ + HPO42−
●7)弱酸と弱塩基の混合水溶液
弱酸 HA と弱塩基 BOH で生成する塩 AB の水溶液のpH
AB は水溶液中で完全に電離し、A−と B+を生じ、それぞれの共役酸、共役塩基と平衡状態にあ
る
AB+H2O → A− + B+ + H2O ⇌ AH + BOH
KA1= [A−][H+]/[AH]
27
KA2= [BOH][H+]/[B+][H2O]=[BOH][H+]/[B+]
生じた平衡状態での右辺 AH、BOH の濃度は等しく([AH]=[BOH])
、また左辺の A−と B+の濃度
も等しい [A−]=[B+]。KA1KA2 = [A−][H+]/[AH] × [BOH][H+]/[B+] = [A−][H+][BOH][H+]/[AH][B+] =
[H+]2
[H+] = (KA1KA2)1/2,
pH = (pKA1 + pKA2)
(12)
例)酢酸アンモニウム水溶液
CH3COONH4 →CH3COO−+NM4+
CH3COO−+NH4+ ⇌CH3COOH + NH3
KA1=[CH3COO−][H+]/[CH3COOH], KA2=[NH3][H+]/[NH4+]
[CH3COO−]=[NH4+], [CH3COOH]=[NH3]なので 12 式が成立
ルイス酸と塩基
酸:電子対を奪う A と 塩基:電子対を与える B:
・・・ A+:B →
A が金属の場合、
:B は配位子、A は求電子試薬、
:B は求核試薬
非共有電子対、空軌道を図形的に覚えること
強度を示す尺度がない・・・定性的・・・定性的分類に
クラス(a)、クラス(b)金属:
各族の最初の原子(N,O,F など)と安定錯体形成→クラス a
各族の 2 番目以降の原子(P,S,Cl など)と安定錯体→クラスb
HSAB 分類ではクラス(a)金属は硬い酸、クラス(b)金属は柔らかい酸
硬い+硬い→イオン結晶、 柔らか+柔らか→分子性結晶
28
A:B
以下 酸・塩基の練習
酸・塩基の練習問題
練習問題
名前
学生番号
A) 反応中の酸、塩基はどれか名称(化学式、日本語)を記す
a) NH4+ + H2O ⇌
b) CO32− + H2O ⇌
c) PO43− + H2O ⇌
反応
NH3 + H3O+
HCO3− + OH−
HPO42− + OH−
酸
塩基
a
b
c
B)反応式を記述せよ
a) 希硫酸に水酸化ナトリウム水溶液を加える
b) 希塩酸に水酸化バリウム水溶液を加える
c) 水酸化ナトリウム水溶液に炭酸ガス(二酸化炭素)を吸収させる
d) 炭酸カルシウムに希塩酸を十分に加えると、気体を発生して溶ける
e) 石灰水(水酸化カルシウム水溶液)に炭酸ガスを通じると、水溶液が白濁する
f) 上記の白濁水溶液にさらに炭酸ガスを通じると、無色水溶液となる
a
b
c
d
e
f
C) 次の塩の種類(正塩、酸性塩、塩基正塩、複塩、錯塩)およびその水溶液は何性(酸性、塩基性、
中性)か
化学式
NaCl
BaCl2
Na2CO3
NH4NO3
Ca(NO3)2
種類
液性
29
NaHSO4
酸・塩基の練習問題 (2)
名前
学生番号
D)次の反応は水溶液中で右に偏った酸塩基反応である
a) H2O + NaOH ⇌ Na+(H2O) + OH−, b) HCl + H2O ⇌ H3O+ + Cl−
c) H3O+ + HCO3− ⇌ H2CO3 + H2O, d) HCO3− + OH− ⇌ H2O + CO32−
e) H2CO3 + CO32− ⇌ HCO3− + HCO3−
① . 酸と塩基はどれか,
反応
酸
塩基
a
b
c
d
e
②. それらを強いものから順に並べよ
a)酸の強さ
b) 塩基の強さ
E)次の反応で得られる塩の構造と種類(酸性塩、塩基性塩、正塩)を記す
a) H2SO4 + NaOH →, b) H3PO4 + 3KOH →, c) HNO3 + NH3 →, d) HCl + Ca(OH)2→,
e) CH3COOH + NaOH →, f) H2SO4 + Ca(OH)2→, g) H2CO3 + NaOH →, h)H2CO3 + 2NaOH→
反応
構造式
種類
a
b
c
d
e
f
g
h
F) 次の化学反応式を記す(酸塩基反応では、強酸、強塩基が反応して弱酸、弱塩基を生成する。
従って、弱酸と弱塩基を混合しても反応は生じないことに注意)
a)炭酸カルシウムに希塩酸を十分に加えると、気体を発生して溶ける
b)亜硫酸水素ナトリウム(NaHSO3)水溶液に希硫酸を加えると気体が発生する
c)炭酸水素ナトリウム水溶液に酢酸をくわえた
d)酢酸ナトリウム水溶液に塩化アンモニウムを加えた
化学反応式
a
b
c
d
30
酸・塩基の計算問題(1)
名前
学生番号
A)中和の量的関係
a) 0.12 mol/l の希硫酸 15.0 ml を 0.25 mol/l の水酸化ナトリウム水溶液で中和するには、何 ml
の水酸化ナトリウム水溶液が必要か
b) 0.18 mol/l の希塩酸 5.0 ml を中和するのに、
濃度が未知である水酸化バリウム水溶液を 4.5 ml
必要であった。水酸化バリウム水溶液の濃度は
a
b
B) 中和滴定、pH
a) 水は電離して[H+], [OH−]となり、その濃度の積を水の[A]KW といい(用語)
、
Kw= [H+][OH−] =10−14 (mol/l)2
b)純水では[H+]=[OH−]= [B]である(数値を)
。
c)[H+] = [OH−]の状態を中性といい、濃度[H+]は 酸性で[C],塩基性で[D]である(不等式)
。
d)水素イオン指数pH の定義式は[E] (数式)
e)中性水溶液の pH = [F], 酸で[G], 塩基で[H]である。
(数値及び不等式)
f) pH=4 の溶液と pH=6 の溶液でどちらの溶液の酸性が強く[I]、[H+]の濃度は何倍か[J](言葉と数値)
g) 酸 HA の電離平衡式は HA ⇌ H+ + A− で、解離定数(平衡定数)Ka を表示せよ[K](式)
h) pKa の定義式は[L](式)
i) 共役酸塩基での pKa と pKb はどういう関係で示されるか[M](式)
j)1 モル濃度(mol/l)の塩酸水溶液の pH(数値)[N]
k) 1 モル濃度の NaOH 水溶液の pH(数値)[O]
l) 0.010 モル濃度の塩酸水溶液のpH(数値)[P] ただし log2 = 0.3 とする
m)0.010 モル濃度の水酸化バリウム水溶液のpH[Q]
A
B
C
D
E
F
G
H
I
J
K
L
M
N
O
P
Q
31
酸・塩基の計算問題(2)
名前
学生番号
A)濃度未知のアンモニア水の 5.0mL を水で 100mL に希釈し、
その希釈溶液 10.0mL を 0.10 規定の塩酸 50.0mL
に加え混合した。反応溶液中に残っている塩酸を 0.10 規定の NaOH 水溶液でてきていしたら、12.5mL を要し
た。初めのアンモニア水の濃度は何規定か
B)0.1 規定のアンモニア水の電離度は 25ºC において 0.013 である。この水溶液の pH はいくらか[小数点以下第
2位まで]。ただし、log 13 = 1.11 とする。
C) ある塩基(1価)の水溶液の水素イオン指数を x とし、この溶液の規定度を求めよ(電離度α)
D) 酢 酸 0.150
mol 、 酢 酸 ナ ト リ ウ ム 0.300mol を 溶 か し た 水 溶 液 500ml で 、 [CH3COOH] = 0.300
−
mol/l,[CH3COO ]=0.600 mol/l とする。log2=0.301, log3=0.477 である。
1)この混合水溶液の水素イオン濃度とpH を求めよ。ただし酢酸水溶液の電離定数=1.80×10−5
2)この混合水溶液に標準状態の塩化水素ガス 1.12 L を通じて完全に吸収させた。加えた塩化水素により生じ
たオキソニウムイオンは、下記反応で中和される。
CH3COO− + H3O+ → CH3COOH + H2O
この時, CH3COOH, CH3COO− の濃度, 水素イオン濃度, pH を求めよ。有効数字3けた
1
2
32