論 文 審 査 の 要 旨

別紙1
論 文 審 査 の 要 旨
報告番号
甲 第 2796 号
論文審査担当者
氏 名
主査
教授
美島
健二
副査
教授
山本
松男
副査
教授
高見
正道
福西
美弥
( 論 文 審査 の 要旨 )
学 位 申請 論 文「 A PMMA-based acrylic dental resin surface bound with photoreactive MPC
polymer inhibits accumulation of bacterial plaque」 につ い て , 上 記の 主 査 1名 , 副査 2 名
が 個 別 に審 査 を行 っ た .
【 目 的 】poly(MPC- co - n -butyl methacrylate- co -2-metahcryloyloxyethyloxy- p - azidobenzeoate )
(PMBPAz)で 処 理し た 義 歯床 用 レ ジン( PMMA)表面に お け る S.mutans の バイ オ フ ィル ム 付着 能 に 対
す る 抑 制効 果 とそ の 機 械的 ・ 化 学的 耐 久性 の 評 価を 行 う こと を 目的 と し た.
【 材 料 と方 法】PMMA 基板 を PMBPAz 処 理後 , 基板 表 面 の静 的 接触 角 ,表面 元 素 分析 ( XPS 解 析)に
よ り 基 板 表 面 性 状 を 評 価 し た . さ ら に , バ イ オ フ ィ ル ム 付 着 抑 制 能 ( S. mutans ), 機 械 的 ( 水 流
下 で 基 板を 1 週間 静 置 )
・化学 的 耐久 性( NaOH,SDS,HCl 溶液 に 1 晩 浸 漬 )を SEM およ び XPS 解 析 に
て 評 価 した .
【 結 果 と考 察 】 PMBPAz 処 理 後 の基 板 表面 は 接 触角 試 験 によ り 疎水 性 か ら親 水 性 に変 化 する こ とが
わ か っ た. XPS 解 析 では PMBPAz 表 面 での み MPC ユ ニ ッ トに 存 在す る 窒 素・ リ ン の両 元 素の ピ ー ク
が 確 認 でき た .バ イオ フィ ル ム 付着 量 は PMBPAz で 処 理 した 基 板表 面 に おい て 有 意に 抑 制さ れ ,機
械 的 耐 久性 試 験 で も 良 好な 結 果 が得 ら れた .一方, 化 学 的耐 久 性 試 験 では NaOH に浸 し た基 板 上で
の み 窒 素と リ ンの 両 元 素の ピ ー クに 減 少傾 向 が 確認 さ れ た.以 上の 結 果より PMBPAz コ ー トに よ り
比 較 的 長期 に わた り デ ンチ ャ ー プラ ー クの 付 着 が抑 制 さ れ , 臨 床応 用 へ の可 能 性 が示 唆 され た .
本 論 文 の審 査 に あ た り 多く の 質 問が あ り , そ の 一部 と そ れら に 対す る 回 答を 以 下 に示 す .
副査
山本 委 員の 質 問 とそ れ ら に対 す る回 答 :
・ 至 適 pH の 幅 につ い て , 口 腔 内 環境 で 想定 さ れる pH 変 化に 対 して 考 察せ よ .
食 事 によ る pH の 変化は pH2の レ モン か ら pH12 の こ んに ゃ くな ど があり , そ の他 入 れ歯 洗 浄 剤
な ど , さま ざ まな pH に曝 露 さ れる 環 境が 想 定 され る .一方 , 今回 の 実験項 目 と して あ げた HCl と
NaOH は それ ぞ れ,pH1 と pH13 で 生理 的 環境 か ら逸 脱 し てお り 今後 , よ り生 理 的 な条 件 下で の 耐 久
性 試 験 を実 施 する 予 定 であ る .
・ S. mutans の 培養 条 件の 変 化 がこ の 研究 に 与 える 影 響 につ い て考 察 せ よ.
今 回 の S.mutans の 培養 条 件 は 5%シ ョ糖 含 有と い う ,ショ 糖 の濃 度 が高 い 設 定で 行 って い る .
( 主 査 が記 載 )
これは,基礎実験系において強いバイオフィルムを作り,より多くのバイオフィルムを形成させ
ようとするためである.その強く多いバイオフィルムを抑制することが可能であれば,他の菌の
付 着 も 抑制 で きる の で はな い か と仮 定 して い る .
副査
高見 委 員の 質 問 とそ れ ら に対 す る回 答 :
・ PMBPAz ポ リ マー の コー テ ィ ング に より 親 水 性の 物 質 (糖 ) が強 力 に 付着 し , 口腔 内 を汚 染 する
原 因 に はな ら ない の か .
今 回 , S.mutnas を培養 す る 際に 5%ショ 糖 含有 の 培 地を 使 用し ,強 いバ イ オ フィ ル ムを 形 成 する
実 験 系 とな っ てい る . この 実 験 系に お い て PMBPAz ポ リ マ ーに て 処理 した PMMA 表 面で は バイ オフ
ィルム付着を抑制していることからも多糖の付着は抑制することができるのではないかと考え
る.
・ X 線 光電 子 分光 分 析法( XPS) によ り リン と 窒素 を 検 出す る 原理 と そ の生 体 材 料へ の 応用 例 に つ
い て 説 明せ よ .
XPS は,超 高 真空 下 で試 料 表 面に X 線を 照 射 し,試 料 表面 か ら放 出 される 光 電 子の 運 動エ ネ ル ギ
ーを計測することで,試料表面を構成する元素の組成,化学結合状態を分析する手法である.今
回 , 光 電子 の 励起 源 は Mg-Ka を用 い ,表 層 よ り数 nm に 位 置す る 場 所の元 素 を 測定 し , MPC ユニッ
トの特有元素であるリンと窒素の存在を確認した.リンと窒素の存在を明らかにすることで,
PMBPAz ポ リマ ー の PMMA へ の 表 面処 理 が成 功 し たか を 評 価す る こと が で きる . ま た, こ の PMBPAz
ポ リ マ ーコ ー ティ ン グの PMMA への 応 用に つ いて は 基 礎研 究 の論 文 は 存在 す る が( K. Fukazawa et
al., 2013), 実際 に 臨 床応 用 し てい る 論文 は な く, 本 研 究が 初 めて で あ る.
主査
美島 委 員の 質 問 とそ れ ら に対 す る回 答 :
・ 商 品 化を は かる 場 合 に考 え ら れる 適 用方 法 は .
商品化に向けて,歯科医師がコーティングするか患者がコーティングするかで応用方法を考え
たい.歯科医師がコーティングをする場合は歯科医院で行うように,歯科医院どこにでもあるブ
ラ シ を 用い コ ーテ ィ ン グし , UV 照 射 器 にて こ の研 究 と 同じ よ うに 義 歯 への コ ー ティ ン グを 行 う.
ま た , チェ ア サイ ド に ある 治 療 用の 光 照射 器 を 用い る よ う に MPC ポ リ マー を 改 良す る 方法 も 視野
にいれている.患者がコーティングする場合の適応は歯科医師がコーティングするより簡易的で
あ り , コス ト を減 ら す 必要 が あ る. そ の場 合 , スプ レ ー で MPC ポリ マ ーを コ ー ティ ン グし , 光照
射 は 市 販さ れ てい る UV や LED 光照 射 器を 用 い コー テ ィ ング を する 方 法 を考 え て いる .汚れ な い義
歯の開発は高齢者社会にとってとてもインパクトのある課題であるため,思考を重ね商品化を実
現 さ せ たい と 思う .
主 査 の 美島 委 員は , 両 副査 の 質 問に 対 する 回 答 の妥 当 性 を確 認 する と と もに , 本 論文 の 主張 を
さ ら に 確認 す るた め に 上記 の 質 問を し たと こ ろ , 明 確 か つ適 切 な回 答 が 得ら れ た .
以 上 の審 査 結果 か ら , 本 論 文 を博 士 (歯 学 ) の学 位 授 与に 値 する も の と判 断 し た .
(主査が記載)